新任担当者のための会社法実務講座 第462条 剰余金の配当等に関する責任 |
Ø 剰余金の配当等に関する責任(462条) @前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合には、当該行為により金銭等の交付を受けた者並びに当該行為に関する職務を行った業務執行者(業務執行取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役。以下この項において同じ。)その他当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者として法務省令で定めるものをいう。以下この節において同じ。)及び当該行為が次の各号に掲げるものである場合における当該各号に定める者は、当該株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う。 一 前条第1項第2号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 第156条第1項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第2号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役(当該株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。) ロ 第156条第1項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の金銭等の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役(当該取締役会に議案を提案した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、取締役又は執行役)として法務省令で定めるものをいう。以下この項において同じ。) 二 前条第1項第3号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 第157条第1項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第三号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役 ロ 第157条第1項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第3号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役 三 前条第1項第4号に掲げる行為 第171条第1項の株主総会(当該株主総会の決議によって定められた同項第1号に規定する取得対価の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合における当該株主総会に限る。)に係る総会議案提案取締役 四 前条第1項第6号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 第197条第3項後段の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第二号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役 ロ 第197条第3項後段の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた同項第2号の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役 五 前条第1項第7号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 第234条第4項後段(第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた第234条第4項第2号(第235条第2項において準用する場合を含む。)の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役 ロ 第234条第4項後段(第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた第234条第4項第2号(第235条第2項において準用する場合を含む。)の総額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役 六 前条第1項第8号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 第454条第1項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該株主総会に係る総会議案提案取締役 ロ 第454条第1項の規定による決定に係る取締役会の決議があった場合(当該決議によって定められた配当財産の帳簿価額が当該決議の日における分配可能額を超える場合に限る。)における当該取締役会に係る取締役会議案提案取締役 A前項の規定にかかわらず、業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない。 B第1項の規定により業務執行者及び同項各号に定める者の負う義務は、免除することができない。ただし、前条第1項各号に掲げる行為の時における分配可能額を限度として当該義務を免除することについて総株主の同意がある場合は、この限りでない。
461条1項の財源規制に違反して会社が剰余金の配当等を行った場合に、それにより会社財産の払戻しを受けた株主、配当等に関する職務を行った業務執行者、及び議案提案取締役に、連帯して、株主が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を会社に支払う義務を負わせる規定です。財源規制の違反を抑止し、違反があった場合に責任の履行を通じて会社財産を確保し、債権者の保護を図ろうとする規定です(462条)。 会社法は、財源規制に違反する剰余金の配当等に基づく取締役の責任規定を、取締役の会社に対する責任規定(423条)から分離し、462条の取締役の責任が任務懈怠責任と異なることを明らかにしています。 財源規制違反があった場合に株主・取締役らが支払うべき金額は、株主が交付を受けた額ではなく、交付を受けた金銭等の帳簿価額です。帳簿価額とは、交付された財産に分配時に付された帳簿価額をいい、当該財産の時価とは違います。交付時の帳簿価額に相当する金額を支払わせれば債権者保護の目的を達成することができからです。また、支払うべき金額は、分配可能額を超過する部分に相当する額のみではなく、交付を受けた金銭等の帳簿価額の全額です。 ü
責任を負う者 ・株主 財源規制に違反する行為により金銭等の交付を受けた株主は、他の者と連帯して、会社に対して、交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負います(462条1項)。条文では「当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭」と規定しているのは、それぞれの株主が支払うべき金額は、自己が交付を受けた分に限定されることを明らかにするためです。 ・業務執行者 財源規制に違反する461条1項各号の行為に関する職務を怠った業務執行者は、他の者と連帯して、株主が交付を受けた金銭等の眺望価額に相当する金銭を支払う義務を負います(462条1項)。業務執行者とは、業務執行取締役で、会社計算規則159条において、461条1項各号の行為ごとに、@金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役、A株主総会において剰余金の配当等に関する事項について説明した取締役・執行役、B剰余金の配当等に関し取締役会の決議に賛成した取締役、C分配可能額の計算に関する報告を監査役・会計監査人に対して行った取締役・執行役、が列挙されています。 ・株主総会議案提案取締役 自己株式の取得や剰余金の配当が株主総会の決議に基づいて行われる場合には、株主総会に議案を提案した取締役として法務省令(会社計算規則160条)で定める者が、金銭支払義務を負います(462条1項)。会社計算規則160条では、株主総会に議案を提案した取締役のほか、議案の決定に同意した取締役会非設置会社の取締役、議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われた場合の取締役会決議に賛成した取締役が該当するとしています。議案提案しても決議をするのは株主総会ですが、議案提案取締役が責任主体とされるのは、会社提案であれば株主総会で承認される蓋然性が高く、財源規制違反の分配がなされることについて議案提案取締役の寄与度が高いと考えられるからです。 株主総会議案提案取締役が責任を負う場合は、次の分配行為について決定する株主総会に分配可能額を超える剰余金の配当等に係る議案を提出し、それが可決された場合です(462条1項括弧書)。具体的には次の事項です。 @)子会社からの自己株式の取得、市場取引または公開買付けの方法による自己株式の取得(462条1項1号イ、461条1項2号、156条1項、163条、165条1項) A)株主に株式譲渡の機会を提供する方法による自己株式の取得(462条1項2号イ、461条1項3号、157条1項) B)全部取得条項付種類株式の取得(462条1項3号、461条1項4号、173条1項) C)所在不明株主の株式の買取(462条1項4号イ、461条1項6号、197条3項) D)会社の行為によって生ずる端数の買取(462条1項5号イ、461条1項7号、234条4項) E)剰余金の配当(461条1項6号イ、461条1項8号) ・取締役会議案提案取締役 取締役会設置会社において、自己株式の取得や剰余金の配当を取締役会の決議に基づいて行うことができる場合や、株主総会決議による授権に基づいて取締役会決議により取得価額などを決定して自己株式の取得を行うには、取締役会に議案を提案した取締役として法務省令(会社計算規則161条)で定める者も、金銭支払義務を負います(462条1項)。 取締役会議案提案取締役が責任を負う場合は、次の分配行為について決定する取締役会に分配可能額を超える剰余金の配当等に係る議案を提出し、それが可決された場合です(462条1項括弧書)。具体的には前項の株主総会議案提案取締役の場合と同じです。 株主総会議案提案取締役が責任を負う場合は、次の分配行為について決定する株主総会に分配可能額を超える剰余金の配当等に係る議案を提出し、それが可決された場合です(462条1項括弧書)。具体的には次の事項です。 ü
責任の態様 ・株主の責任 財源規制に違反する行為により金銭等の交付を受けた株主が負う金銭支払義務については、462条2項のような定めがないので、無過失責任と解されています。この場合の過失の有無は、株主が金銭等の交付を得た時点において、交付を受けた額が分配可能額を超えていたことを知っていたか否かにより判断されます。 会社法では、財源規制の違反であることを知らない善意の株主であっても会社債権者よりも保護される理由はないことや463条1項の内容から、責任を負うのが適当であると解されています。 ・取締役及び執行役の責任 業務執行者、株主総会議案提案取締役、取締役会議案提案取締役は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、462条1項の金銭支払義務を免れることができます(462条2項)。 取締役及び執行役が負うべき注意義務の程度は、それぞれの地位・職務及びその者に期待される能力によって異なります。分配可能額を超える分配は、計算書類に粉飾を施して、分配可能額の範囲内で剰余金の配当等を行なうように見せかけて提案されることが多いので、計算書類の作成に関与しなかった取締役が粉飾を見破ることは難しいと言えます。例えば、代表取締役が経理担当者に指示して巧妙な粉飾決算を行わせたことについて、非常勤の取締役及び監査役が粉飾を発見することは極めて困難だったとして、その任務懈怠責任を否定した判例(浦和地裁判決平成8年11月20日)があります。このように、取締役及び執行役の責任は過失責任です。ただし、この条文の趣旨は財源規制違反抑止するために取締役注意を払わせることにあることから、取締役は無過失つまり注意を怠らなかったことを立証した場合にのみ免責されるという意味での過失責任と言えます。 この責任の主体は連帯して会社に対する支払義務を負います。 この場合の取締役及び執行役の責任は株主代表訴訟の対象になります(847条)。一方、債権者が債権者代位権を行使して取締役及び執行役の責任を追及することもできます(463条2項)。 ・責任の免除 財源規制に違反して分配行為が行われた場合の業務執行者、株主総会議案提案取締役、取締役会議案提案取締役の義務を会社が免除することはできません(462条3項)ただし、総株主の同意により、分配可能額を限度として支払義務を免除することは認められます(462条3項但書)。任務懈怠責任の場合(424条)に比べて、業務執行者等の免責要件を厳格にする規定です。 ただし、株主全員の同意により取締役及び執行役の責任を免除する決議が行われたとしても、免責の効果は分配可能額の範囲に限定されます。分配可能額を超える分配であることを株主が知った上で、分配を決定する株主総会決議が全員一致でなされた場合には、責任免除の決議があったと見なされる。 他方、反対解釈により、会社は株主の金銭支払義務を免除することができます。善意の株主も462条1項の義務を負うと解する場合に、善意の株主の義務のみを免除することはできません。 Ø
関連する会社計算規則 ²
剰余金の配当等に関して責任をとるべき取締役等(会社計算規則159条) 法第462条第1項各号列記以外の部分に規定する法務省令で定めるものは、次の各号に掲げる行為の区分に応じ、当該各号に定める者とする。 一 法第461条第1項第1号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の買取りによる金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第140条第2項の株主総会において株式の買取りに関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 分配可能額の計算に関する報告を監査役(監査等委員会及び監査委員会を含む。以下この条において同じ。)又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 二 法第461条第1項第2号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第156条第1項の規定による決定に係る株主総会において株式の取得に関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 法第156条第1項の規定による決定に係る取締役会において株式の取得に賛成した取締役 ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 三 法第461条第1項第3号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第157条第1項の規定による決定に係る株主総会において株式の取得に関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 法第157条第1項の規定による決定に係る取締役会において株式の取得に賛成した取締役 ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 四 法第461条第1項第4号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第171条第1項の株主総会において株式の取得に関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 五 法第461条第1項第5号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の買取りによる金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第175条第1項の株主総会において株式の買取りに関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 六 法第461条第1項第6号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の買取りによる金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第197条第3項後段の規定による決定に係る株主総会において株式の買取りに関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 法第197条第3項後段の規定による決定に係る取締役会において株式の買取りに賛成した取締役 ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 七 法第461条第1項第7号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の買取りによる金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第234条第4項後段(法第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る株主総会において株式の買取りに関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 法第234条第4項後段(法第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による決定に係る取締役会において株式の買取りに賛成した取締役 ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 八 法第461条第1項第8号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 剰余金の配当による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第454条第1項の規定による決定に係る株主総会において剰余金の配当に関する事項について説明をした取締役及び執行役 ハ 法第454条第1項の規定による決定に係る取締役会において剰余金の配当に賛成した取締役 ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役 九 法第116条第1項各号の行為に係る同項の規定による請求に応じてする株式の取得 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び次のイからニまでに掲げる行為の区分に応じ、当該イからニまでに定める者 イ その発行する全部の株式の内容として法第107条第1項第1号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更 次に掲げる者 (1) 株主総会に当該定款の変更に関する議案を提案した取締役 (2) (1)の議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) (3) (1)の議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 ロ ある種類の株式の内容として法第108条第1項第4号又は第7号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更 次に掲げる者 (1) 株主総会に当該定款の変更に関する議案を提案した取締役 (2) (1)の議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) (3) (1)の議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 ハ 法第116条第1項第3号に規定する場合における同号イからハまで及びヘに掲げる行為 次に掲げる者 (1) 当該行為が株主総会の決議に基づいて行われたときは、当該株主総会に当該行為に関する議案を提案した取締役 (2) (1)の議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) (3) (1)の議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 (4) 当該行為が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会において当該行為に賛成した取締役 ニ 法第116条第1項第3号に規定する場合における同号ニ及びホに掲げる行為 次に掲げる者 (1) 当該行為に関する職務を行った取締役及び執行役 (2) 当該行為が株主総会の決議に基づいて行われたときは、当該株主総会に当該行為に関する議案を提案した取締役 (3) (2)の議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) (4) (2)の議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 (5) 当該行為が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 十 法第182条の4第1項の規定による請求に応じてする株式の取得 次に掲げる者 イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役 ロ 法第180条第2項の株主総会に株式の併合に関する議案を提案した取締役 ハ ロの議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) ニ ロの議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 十一 法第465条第1項第4号に掲げる行為 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 十二 法第465条第1項第5号に掲げる行為 次に掲げる者 イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役 ロ 法第107条第2項第3号イの事由が株主総会の決議に基づいて生じたときは、当該株主総会に当該行為に関する議案を提案した取締役 ハ ロの議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) ニ ロの議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 ホ 法第107条第2項第3号イの事由が取締役会の決議に基づいて生じたときは、当該取締役会の決議に賛成した取締役 この条文は、剰余金の配当等に関する責任を負う者(462条1項)、買取請求に応じて株式を取得した場合に責任を負う者(464条1項)、欠損が生じた場合に責任を負う者(465条1項)の範囲を定めるものです。この条文は、462条1項柱書の「法務省令で定めるもの」を受けて、そこでいう業務執行者のうち、業務執行取締役の行う業務の執行に職務上関与した者を定めるものですが、職務上関与した者は業務執行者として463条から465条の業務執行者を定めるものとなっています。 1)462条1項の責任を負う者 ・金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役(会社計算規則159条1号イ、2号イ、3号イ、4号イ、5号イ、6号イ、7号イ、8号イ) 461条1項各号に列挙された行為について、金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役は、462条1項の金銭支払義務を負います(会社計算規則159条1号イ、2号イ、3号イ、4号イ、5号イ、6号イ、7号イ、8号イ)。この規定は、剰余金の配当等に関して金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役が支払義務を負うことを明確にしたものです。 剰余金の配当等の決定に関与した者以外に、交付の職務に関与した者に責任を負わせるのは、交付財産が分配行為時の分配可能額を超えないことを財源規制が求めていることとの関係で、分配行為が効力を生ずる日に違反がないことについて職務に関与した者に注意を払わせるためです。したがって、交付の職務に関与する者は、金銭等の交付時に461条1項の違反がないことを確認する必要があり、その確認を怠った場合には過失が認められます。 ・株主総会において剰余金の配当等に関する事項について説明した取締役・執行役(会社計算規則159条1号ロ、2号ロ、3号ロ、4号ロ、5号ロ、6号ロ、7号ロ、8号ロ) 461条1項各号に列挙された行為について、株主総会決議による決定が必要とされる事項について説明した取締役・執行役は、462条1項の金銭支払義務を負います(会社計算規則159条1号ロ、2号ロ、3号ロ、4号ロ、5号ロ、6号ロ、7号ロ、8号ロ)。 株主総会で説明した取締役・執行役は、株主総会が461条1項違反の決議をすることに大きく寄与している評価することができ、他方で。責任が過失責任化されたため、これらの者を責任主体に含めても過酷ではないと考えられたためです。説明をした取締役・執行役が支払義務を免れるために果たすべき注意義務の程度は、その者の属性によって変わると考えられますが、一般的には、議案の内容が461条1項に違反していることを知り、または知ることができた者は職務を行うにつき注意を怠らなかったとは言えないでしょう。 ・取締役会において剰余金の配当等に賛成した取締役(会社計算規則159条2号ハ、3号ハ、6号ハ、7号ハ、8号ハ) 取締役会設置会社において、自己株式の取得や剰余金の配当を取締役会の決議に基づいて行うことができる場合や、株主総会決議による授権に基づいて取締役会決議により取得価格等を決定して自己株式の取得等を行う場合に、決議に賛成した取締役が462条1項の責任主体に含められています(会社計算規則159条2号ハ、3号ハ、6号ハ、7号ハ、8号ハ)。対象となる取締役会決議は、取締役会議案提案取締役が462条1項の責任を負う場合と同じです。 決議参加した取締役に責任を負わせるのは、取締役会での金銭等の分配に関する事項を決定する際に、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額が分配行為が効力を生ずる日の分配可能額を超えないように注意を払わせるためです。 ・分配可能額の計算に関する報告を監査役・監査等委員会・監査委員会・会計監査人に対して行った取締役・執行役(会社計算規則159条1号ハ、2号ニ、3号ニ、4号ハ、5号ハ、6号ニ、7号ニ、8号ニ) 461条1項各号に列挙された行為について、監査役・監査等委員会・監査委員会又は会計監査人による求めに応じて分配可能額の計算に関する報告を行った取締役・執行役は、462条1項の金銭支払義務を負います(会社計算規則159条1号ハ、2号ニ、3号ニ、4号ハ、5号ハ、6号ニ、7号ニ、8号ニ)。 剰余金の配当等が株主総会決議に基づいて行われる場合には、監査役は株主総会提出議案を調査し、法令・定款違反または著しく不当な事項があれば総会に報告しなければなりません(384条)。監査等委員会・監査委員会には株主総会提案議案を調査する一般的な権限はありませんが、監査役と同様に違法行為の差止請求権を付与されています。会計監査人は、取締役・執行役の職務執行上の不正を発見したときは、監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会に報告しなければなりません(397条)。また、株主総会に提出された計算書類等について会計監査人と監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の意見が異なるときは、会計監査人は定時株主総会で意見を述べることができます(398条)。さらに、分配可能額は監査を受けた計算書類を基礎に算定されるものであるので、計算書類に対する監査自体が分配可能額の操作に対する牽制として機能します。そして、このようなチェック機能を果たすために、監査役、監査等委員、監査委員及び会計監査人には、取締役・執行役から報告を受ける権限が認められています。それに対して配当可能額に関する虚偽の報告がなされたのではチェック機能が働かなくなるため、報告した取締役・執行役を背は任主体に含め、故意または過失によって監査役らに虚偽の報告をしないように確保しようとしたものです。したがって、事実と異なる報告をした取締役・執行役のみが責任主体となります。 2)464条1項の責任を負う者 ・金銭等の交付に関する職務を行った取締役(会社計算規則159条9号柱書) 116条1項各号の行為について、金銭等の交付に関する職務を行った取締役は、464条1項の超過額支払義務を負います(会社計算規則159条9号柱書)。この者が支払義務者とされているのは、買取請求をした株主に対して支払う金銭の額が、その支払いの日における分配可能額を超えないように注意を払うべきだからです。分配可能額を超える配当等の場合とは異なり、会社は116条1項各号に基づく買取請求には応じなければならないから、そもそも、金銭等の交付に関する職務を行った取締役に464条1項の責任を負わせるべきでないという見解もあります。しかし、交付の職務に関与する者は、金銭等の交付時に株主への支払が分配可能額を超えないことを確認する必要があり、その確認を怠った場合に責任を負わせることになると考えられます。 ・株主総会議案提案取締役(会社計算規則159条9号イ(1)、ロ(1)、ハ(1)、ニ(2)) 116条1項各号の行為が株主総会の決議に基づいて行われる場合には、株主総会に定款変更や各種行為に関する議案を提案した取締役は、464条1項の超過額支払義務を負います(会社計算規則159条9号イ(1)、ロ(1)、ハ(1)、ニ(2))。株主総会議案提案取締役が゜責任主体とされるのは、会社提案であれば株主総会で承認される蓋然性が高く、分配可能額を超える支払がなされることについて議案提案取締役の寄与度が高いと考えられるからです。 ・取締役会決議に賛成した取締役等(会社計算規則159条9号イ(3)、ロ(3)、ハ(3)、ニ(4)) 116条1項各号の行為を行う株主総会議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われる場合には、取締役会決議に賛成した取締役は、464条1項の超過額支払義務を負います(会社計算規則159条9号イ(3)、ロ(3)、ハ(3)、ニ(4))。会社提案が株主総会で承認される蓋然性が高いことから、取締役会決議に際して、各取締役に分配可能額を超える支払がなされないように注意を払わせるためです。 取締役会非設置会社では、株主総会議案の提案は取締役の過半数によって決定されるため、株主総会の議案に賛成した取締役が責任主体に含められます(会社計算規則159条9号イ(2)、ロ(2)、ハ(2)、ニ(3))。 116条1項3号の行為は、株主総会の決議を要せず取締役会の決議に基づいて行うことができる場合もあるので、その場合には、取締役会決議に賛成した取締役が責任主体となります(会社計算規則159条9号ハ(4)、ニ(5))。 ・募集株式発行または募集新株予約権発行に関与した取締役。執行役(会社計算規則159条9号ニ(4)) 116条1項各号の行為のうち、株主割当ての方法による募集株式の発行(116条1項3号ニ)及び株主割当ての方法による新株予約権の発行(116条1項3号ホ)は、議案の提案や決議への賛成のほかにその行為に関する職務を行なった者を観念できます。そこで、これらの場合には、株主総会議案を提案した取締役、株主総会議案の提案に同意した取締役、取締役会の決議に賛成した取締役のほか、その行為に関する職務を行なった取締役・執行役も、464条1項の超過額支払義務を負うとされています(会社計算規則159条9号ニ(4))。 3)465条1項の責任を負う者 ・461条1項各号に掲げる行為について職務上関与した取締役・執行役(会社計算規則159条1〜8号) 財源規制に服する分配行為として461条1項各号に掲げる行為はすべて、465条1項各号に掲げられているので、これらの分配行為について業務執行取締役・執行役の業務の執行に職務上関与した者として会社計算規則159条1号から8号に掲げられている者は、465条1項の欠損填補義務を負います(会社計算規則159条1〜8号)。具体的には、@金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役、A株主総会において剰余金の配当等に関する事項について説明した取締役・執行役、B取締役会において剰余金の配当等に賛成した取締役、及びC分配可能額の計算に関する報告を監査役・会計監査人に対して行った取締役・執行役が、これに当たります。 ・取得請求権付株式・取得条項付株式の取得に関与した取締役・執行役(会社計算規則159条10〜11号) 取得請求権付株式の取得または取得条項付株式の取得には財源規制が適用されませんが欠損填補義務は適用されるため、これらの行為に関与した者が会社計算規則159条10号及び11号で指定されています。 取得請求権付株式の取得(465条1項4号)については、株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役が、欠損填補義務を負います(会社計算規則159条10号)。また、取得条項付株式の取得(465条1項5号)については、@金銭等の交付に関する職務を行った取締役・執行役、A取得事由が株主総会決議により生じた場合の株主総会議案提案取締役、BAの提案に同意した取締役、CAの提案に関する取締役会決議に賛成した取締役、及びD取得事由が取締役会決議により生じた場合の取締役会決議に賛成した取締役が、欠損填補義務を負います(会社計算規則159条11号)。 ²
剰余金の配当等に関して責任をとるべき取締役等(会社計算規則160条) 法第462条第1項第1号イに規定する法務省令で定めるものは、次に掲げる者とする。 一 株主総会に議案を提案した取締役 二 前号の議案の提案の決定に同意した取締役(取締役会設置会社の取締役を除く。) 三 第1号の議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは、当該取締役会において当該取締役会の決議に賛成した取締役 この条文は、財源規制に違反する剰余金の配当等について462条1項の責任を負うべき株主総会議案提案取締役の範囲を定めています。 財源規制(461条1項)に違反する自己株式の取得や剰余金の配当が株主総会の決議に基づいて行われる場合は、株主総会に議案を提案した取締役として法務省令で定める者(株主総会議案提案取締役)が、交付した金銭等の帳簿価額に相当する金銭を会社に支払う義務を負います(462条1項1号イ)。会社計算規則160条は、@株主総会に議案を提案した取締役、A取締役会非設置会社において@の議案の提案決定に同意した取締役、及びB取締役会において@の提案を決議する取締役会決議に賛成した取締役が、株主総会議案提案取締役に該当すると定めています。株主総会議案提案取締役は、462条1項各号の行為について責任を負うとされているところから、@〜Bの者はそれらの行為について金銭支払義務の主体となります。 @の者が責任主体とされているのは、会社提案であれば株主総会で承認される蓋然性が高く、分売可能額を超える支払がなされることについて@の者の寄与度が高いと考えられるからです。ABの者は、総会議案の提案を阻止し得る機会を有する取締役に注意を払わせて、財源規制違反の分配行為が行われないようにする、責任主体に含められています。 ²
剰余金の配当等に関して責任をとるべき取締役等(会社計算規則161条) 法第462条第1項第1号ロに規定する法務省令で定めるものは、取締役会に議案を提案した取締役及び執行役とする。 この条文は、財源規制に違反する剰余金の配当等について462条1項の責任を負うべき取締役会議案提案取締役の範囲を定めています。 財源規制(461条1項)に違反する自己株式の取得や剰余金の配当が取締役会の決議に基づいて行われる場合は、取締役会に議案を提案した取締役として法務省令で定める者(取締役会議案提案取締役)が、交付した金銭等の帳簿価額に相当する金銭を会社に支払う義務を負います(462条1項1号ロ)。会社計算規則161条は、取締役会に議案を提案した取締役・執行役がこれに当たると定めています。取締役会議案提案取締役は、462条1項各号の行為について責任を負うとされているところから、取締役会議案提案取締役はそれらの行為について金銭支払義務の主体となります。
関連条文 会計の原則(431条) 金銭分配請求権の行使(455条) 基準株式数を定めた場合の処理(456条)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条)
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