新任担当者のための会社法実務講座 第465条 欠損が生じた場合の責任 |
Ø 欠損が生じた場合の責任(465条) @株式会社が次の各号に掲げる行為をした場合において、当該行為をした日の属する事業年度(その事業年度の直前の事業年度が最終事業年度でないときは、その事業年度の直前の事業年度)に係る計算書類につき第438条第2項の承認(第439条前段に規定する場合にあっては、第436条第3項の承認)を受けた時における第461条第2項第3号、第4号及び第6号に掲げる額の合計額が同項第1号に掲げる額を超えるときは、当該各号に掲げる行為に関する職務を行った業務執行者は、当該株式会社に対し、連帯して、その超過額(当該超過額が当該各号に定める額を超える場合にあっては、当該各号に定める額)を支払う義務を負う。ただし、当該業務執行者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。 一 第138条第1号ハ又は第2号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 二 第156条第1項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第163条に規定する場合又は第165条第1項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。) 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 三 第157条第1項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 四 第167条第1項の規定による当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 五 第170条第1項の規定による当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 六 第173条第1項の規定による当該株式会社の株式の取得 当該株式の取得により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 七 第176条第1項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 八 第197条第3項の規定による当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 九 次のイ又はロに掲げる規定による当該株式会社の株式の買取り 当該株式の買取りにより当該イ又はロに定める者に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額 イ 第234条第4項 同条第1項各号に定める者 ロ 第235条第2項において準用する第234条第4項 株主 十 剰余金の配当(次のイからハまでに掲げるものを除く。) 当該剰余金の配当についての第446条第6号イからハまでに掲げる額の合計額 イ 定時株主総会(第439条前段に規定する場合にあっては、定時株主総会又は第436条第3項の取締役会)において第454条第1項各号に掲げる事項を定める場合における剰余金の配当 ロ 第447条第1項各号に掲げる事項を定めるための株主総会において第454条第1項各号に掲げる事項を定める場合(同項第1号の額(第456条の規定により基準未満株式の株主に支払う金銭があるときは、その額を合算した額)が第447条第1項第1号の額を超えない場合であって、同項第2号に掲げる事項についての定めがない場合に限る。)における剰余金の配当 ハ 第448条第1項各号に掲げる事項を定めるための株主総会において第454条第1項各号に掲げる事項を定める場合(同項第1号の額(第456条の規定により基準未満株式の株主に支払う金銭があるときは、その額を合算した額)が第448条第1項第1号の額を超えない場合であって、同項第2号に掲げる事項についての定めがない場合に限る。)における剰余金の配当 A前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。 株主に対する会社財産の払戻しを行った事業年度の計算書類の確定時も分配可能額がマイナスになった場合に、業務執行取締役等一定の者に、分配可能額のマイナスと分配額のいずれか少ない額を会社に対して支払うことを義務付けています(465条)。これを欠損填補責任と呼びます。 ü
適用対象 欠損填補責任の対象となる会社の行為は、財源規制の適用対象とほぼ同じであり、それらは自己株式の取得と剰余金の配当に大別されます。 ・自己株式の取得 財源規制(461条1項)が適用される自己株式の取得は、すべて欠損填補責任の対象となります。これらの自己株式の取得は、取得の対価として交付した金銭等の帳簿価額が取得時の分配可能額を超えていると否とにかかわらず、欠損填補責任の対象となります。 ・剰余金の配当 剰余金の配当は、次の例外の場合を除いて、欠損填補責任の適用対象となります(465条1項10号)。この場合の剰余金の配当とは、財源規制の場合のそれと同じで、446条1項の剰余金を分配することに限らず、会社が株主に対して会社財産を交付する場合のうち、自己株式の取得と引換えに交付する以外のすべての場合を指します。 @)定時株主総会決議による剰余金の配当です(465条1項10号イ)。これを填補責任の対象外としたのは、事業年度ごとの剰余金の分配について欠損填補責任を及ぼすと、次期に分配可能額が生じないことをおそれて経営者が過度に保守的に配当政策を採り、かえって株主の利益にならないと考えられるからです。 臨時決算を行って臨時株主総会の決議に基づいて剰余金を配当する場合には、臨時決算手続きを経ますが、465条1項10号の要件を充たすわけではないので、欠損填補責任が適用されます。 定時株主総会の決議に基づく剰余金の配当が、配当時の分配可能額を超える違法なものであっても、462条1項の責任は別として465条に基づく欠損填補責任は生じません。定時株主総会の基準日時点の株主、とくにそのうち定時株主総会の時点で株主でない者は、定時株主総会において、できるだけ多くの配当が得られるように議決権を行使する動機があるので、多額の剰余金を配当する株主提案が可決される可能性があります。しかし、定時株主総会決議に基づく剰余金の配当であれば、株主提案によるものであっても、欠損填補責任の対象とはなりません。 A)資本金または準備金の減少分を原資とする剰余金の配当です。具体的には、株主総会において同時に資本金を減少するとともに剰余金の配当を行う場合のうち、減少する資本金の額を準備金としない場合には、欠損填補責任は適用されません(465条1項10号イ)。同様に、準備金を減少させ、減少する剰余金の額を超えない範囲で剰余金の配当を行う場合であって、減少する剰余金の額を超えない範囲で剰余金の配当を行う場合であって、減少する準備金の額を資本金としない場合にも、欠損填補責任は適用されません(465条1項10号ロ)。配当財産が金銭以外の財産である場合に、基準株式数を定めて、基準未満株式に対して金銭を支払うときは、配当財産の帳簿価額にその金額の額を合算して要件を適用することになります。 ü
欠損填補責任の要件及び効果 ・欠損が生じた時 填補責任が生じるのは、欠損が生じた時です(465条1項)。具体的には、適用対象行為の属する事業年度に係る計算書類を株主総会で承認する際に、自己株式の帳簿価額や事業年度末日後に自己株式を処分した場合の対価の額の合計額が剰余金の額を超える場合です。あるいは、法務省令で定める額の合計額が剰余金の額をを超える場合です。欠損が生じたとは、計算書類の確定時に、分配可能額がマイナスになり事業年度の決算に基づいた分配を株主にすることができなくなったことを意味します。 会社法では、欠損が生じたか否かの判定時期を事業年度末ではなく決算確定時とし、かつ填補責任が適用される会社行為を決算の確定時から次の決算の確定時までに行われるものとしています(465条1項柱書)。したがって、欠損の有無は、事業年度の末日ではなく事業年度に係る計算書類の確定時に、分配可能額がマイナスになったか否かにより決定されます。事業年度の末日において分配可能額がマイナスでなくても、計算書類の確定時に分配可能額がマイナスになったときは、欠損填補責任が生じます。反対に、事業年度の末日の分配可能額がマイナスであっても、計算書類の確定時にマイナスでない時は欠損填補責任は生じません。 ・責任を負う者 欠損填補責任を負うのは、465条1項各号に掲げる行為に関する職務を行った業務執行者です(465条1項柱書)。ここにいう業務執行者には、業務執行取締役と、その業務執行取締役のに職務上関与したものとして法務省令で定めるものが含まれます。 これらの者が責任主体とれているのは、計算書類の確定時に分配可能額がマイナスにならないように注意を払って、自己株式の取得または剰余金の配当を阻止できる立場にあるからです。 ・支払い義務を負う額 株主に対する会社財産の払い戻しを行った事業年度に係る計算書類の確定時に、分配可能額がマイナスになった場合、業務執行者は、分配可能額のマイナス分(欠損の額)と会社から払い出された財産の額のいずれか少ない額を会社に対して支払わなければなりません(465条1項)。欠損填補責任は、会社財産を下回る場合は払戻額を、払戻額が欠損額を上回る場合は欠損額を支払わせれば足りるからです。 ・責任の態様 責任を負うべき業務執行者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、支払い義務を負いません(465条1項但書)。欠損填補責任を過失責任とすることによって、業務執者が分配行為をする際に、決算確定時に欠損が生ずるか否かの予測を立てる義務を負わせる趣旨の規定です。 業務執行者が注意を払うべき職務とは、決算確定時に欠損が生じないように予測をして分配行為を行わせるという465条の趣旨、および分配行為に関与した者が責任主体に列挙されていることから、職務とは分配行為自体を意味し、分配後欠損確定時までの会社の業務を指すのではない。、会社の分配行為後にそれと無関係の事由により会社に損失が発生し、その結果、欠損が生じた場合には、注意を怠らなかったものと判断されます。ただし、欠損の原因が会社の分配行為以外のことであるとしても、それによって欠損の生じることが会社の分配行為時に予測しうるものであったのなら、責任を負うと考えられます。会社の業績が悪化することが予測される場合には、将来の株主が配当を得られるように、十分な内部留保を確保して経営を行わせるように取締役に確保させるのが、この制度の趣旨だからです。したがって、分配行為時に株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超過していないことを確認しただけでは、当然には注意を怠らなかったことにはならないということになります。 業務執行者である取締役等が負うべき注意義務の程度が、それぞれの地位・職務およびその者に期待される能力によって異なることは、財源規制違反の責任の場合と同様です。 この責任の主体は連帯して会社に対する支払い義務を負います。ここにいう連帯とは、いわゆる不真正連帯であると一般に解されており、これによると、会社が一部の主体に対して行った責任の免除は他の主体の責任額に影響を及ぼさないことになります。 分配行為が財源規制、かつ、決算の確定時に欠損が生じた時は、462条1項の支払義務と465条の支払義務が生じます。財源規制違反の支払義務と欠損を填補するたの465条の支払義務は別個独立の義務であり、その趣旨・目的も異なります。しかし、一方の義務を履行することにより義務者が支払うべき全額を会社に支払った後は、会社にそれ以上の金額をそれ以上の金額を得させる理由がないから、他方の義務は消滅すると解されます。 ü
責任の免除 業務執行者である取締役等の欠損填補義務は、総株主の同意がなければ免除することはできません(465条2項)。この条文を債権者保護のための規定と捉える立場からは、会社債権者の同意なしに免除を認めることが疑問視されています。しかし、欠損填補義務は、債権者保護のための義務ではなく株主保護のための義務であるから、総株主の同意による免除を認めて差し支えない。他方で、欠損填補義務については、株主総会の特別決議による責任の一部免除、定款の定めに基づく取締役会決議等による責任の一部免除、社外役員に対する責任限定契約は認められず、任務懈怠責任よりも免責要件が厳しく設定されています。欠損填補義務を株主に対する義務を整理する以上、任務懈怠責任と同種の免責制度を設けることも選択肢の一つと考えられます。
関連条文 会計の原則(431条) 金銭分配請求権の行使(455条) 基準株式数を定めた場合の処理(456条)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条)
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