新任担当者のための会社法実務講座 第432条 会計帳簿の作成及び保存 |
Ø 会計帳簿の作成及び保存(432条) @株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。 A株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない。 ü
会計帳簿 「会計帳簿」とは、公正妥当と認められる企業会計の敢行に従ってた(431条)会計に基づく、会社計算規則59条3項にいう「会計帳簿」のこと、すなわち計算書類及びその附属明細書の作成の基礎となる帳簿(日記帳、仕訳帳、総勘定元帳及び各種の補助簿、例えば現金出納帳、手形小切手元帳等)をいいます。すなわち、事業上で生ずる一切の取引を継続的かつ組織的に記録する帳簿です。 ・日記帳:日々の取引を網羅的に記録した帳簿 ・仕訳帳:日記帳に記載された日々の取引を借方と貸方にわけて記載した帳簿 ・総勘定元帳:仕分けされた会計上の事実を資産・負債・純資産、あるいは費用・収益に分類し、それまでの感情を集合したもの また「その事業に関する重要な資料」とは432条1項の「(会計帳簿又は)これに関する資料」とほぼ一致すると考えられますが、これは会計帳簿作成の材料となった資料(伝票、受取証、契約書、信書等)を言います。会計帳簿は、後日の紛争時に裁判所は証拠資料として提出を命ずる対象ですが、その他事業に関する重要な資料は、その対象とはされていません(434条)。また、会計帳簿のような閲覧謄写の請求の対象にもなりません。 ü
会計帳簿の作成(432条1項) 株式会社は毎事業年度の終了後に計算書類等を作成しなければなりません(435条1項)が、その作成のベースとなるのが会計帳簿です(435条2項、会社計算規則59条3項)。従って会計帳簿は会社計算規則4〜56条出定めるところにより、適時に正確に作成されなければなりません(431条1項)。旧商法では、成立の時及び毎決算期における営業上の財産及びその価値、並びに取引その他営業上の財産に影響を及ぼすべき事項を、整然かつ明瞭に記載することを要すると規定されていました。 ・適時 適時とは、取引事実と記帳との間の時間的間隔について、通常の時間内であることをいいます。日々の徒の引きや売上総額を確認するには、日々の記帳は当然の前提のことです。しかし、会計実の場、とくに中小企業の中には税務申告時にまとめて記帳するなど適時性を欠くことが少なくないといいます。 ・正確 正確とは、会計帳簿に記載すべき事項が漏れなく記載され、かつその内容が事実に反していないことをいいます。 適時性、正確性は、あまりにも当然のことですが、その重要性を考慮して、あえて会社法に明文に規定されている(431条)と考えられます。適時性や正確性を欠く会計帳簿の作成は、会社法上の法令違反ということに慣れます。 ü
会計帳簿の保存(432条2項) 会計帳簿の保存については、通常会計期間(例4月から翌年3月)を1期間として保存期間を考えます。会社法では10年間と規定されていますが、会計年度の10年で考えます。つまり、会計年度の1年分をまとめて保存します。それに従い、保存期間の開始は次の会計期間の始まりとなります。条文の「会計帳簿の閉鎖の時」は、その会計年度の決算で締め切った日をいいます。 ・会計帳簿の閉鎖 会計帳簿の閉鎖とは、各事業年度の計算書類等を作成するに当たって、事業年度の末日を基準時点として、事業年度の会計帳簿における各勘定科目等の合計額を算出すること(決算の締め切り)をいいます。会計帳簿が書面により作成されているときは、帳簿それ自体の閉鎖(次の帳簿への切り替えと)と理解されているところもあります。いずれにせよ、その基準時点が「閉鎖の時」です。逆に言えば、その会計帳簿の閉鎖によって、各事業年度末日における資産・負債・純資産、費用・収益を算出するための金額が確定し、その数値を基礎にして各事業年度の貸借対照表等の計算書類とその附属明細書が作成されることになります。 ※税務上の保存期間 会社の経理部署における実務上の会計帳簿などの経理資料の保存期間については、税法では7年間の保存期間としています。会計帳簿については会社法と税法とで求められている保存期間が食い違っているので、実務では、より長い会社法の10年間の保存期間を適用して、税法上の対象であって会社法の対象とならない証憑類、たとえば領収書などは7年間の保存として使い分けて法定の最低基準をクリアしています。実際のところは、社内規則でまとめて10年間保管したり、処分しないで半永久に保管し続けているところもあります。
関連条文 会計の原則(431条) |