新任担当者のための会社法実務講座 第442条 計算書類の備置き及び閲覧等 |
Ø 計算書類の備置き及び閲覧等(442条) @株式会社は、次の各号に掲げるもの(以下この条において「計算書類等」という。)を、当該各号に定める期間、その本店に備え置かなければならない。 一 各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第436条第1項又は第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日(第319条第1項の場合にあっては、同項の提案があった日)から5年間 二 臨時計算書類(前条第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 臨時計算書類を作成した日から5年間 A株式会社は、次の各号に掲げる計算書類等の写しを、当該各号に定める期間、その支店に備え置かなければならない。ただし、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合であって、支店における次項第3号及び第4号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。 一 前項第1号に掲げる計算書類等 定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日(第319条第1項の場合にあっては、同項の提案があった日)から3年間 二 前項第2号に掲げる計算書類等 同号の臨時計算書類を作成した日から3年間 B株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。 一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求 二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求 三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求 四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求 C株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について前項各号に掲げる請求をすることができる。ただし、同項第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。 ü
計算書類などの備置(442条1項、2項) 取締役会設置会社は、計算書類・事業報告及びそれらの附属明細書を、定時株主総会の日の二週間前の日から、本店には5年間、支店にはその写しを3年間備え置かなければなりません。またも、取締役会設置会社以外の株式会社は、同じ書類を、定時株主総会の日の1週間前の日から本店には5年間、支店にはその写しを3年間備え置かなければなりません(442条1項、2項)。 臨時計算書類については、作成した日から、本店に5年間、支店に3年間備え置かなければなりません(442条1項2号)。 計算書類等の備置が要求されているのは、株主、会社債権者及び裁判所の許可を得た親会社株主に対する企業内容の開示のためであり、株主等による閲覧等の請求の実効性を確保するために備置義務が会社法で定められています。したがって、備置義務とは、単に会社が計算書類等またはその写しを本店または支店に保存する義務にとどまらず、計算書類等を株主等の請求があれば容易に閲覧させまたは謄本等を交付することが可能な状態で保管する義務を意味しています。 ü
備え置くべき書類 この備置義務の対象となる書類は、各事業年度にかかる計算書類、事業報告及びこれらの附属明細書、臨時計算書類を作成した場合には臨時計算書類、かなびに監査報告(会計監査人のものと監査役等によるもの)です。計算書類等は、株主、会社債権者及び親会社株主が会社の財産及び損益の状況を知るという観点から意義を有するため、備え置いて、株主等の閲覧等に供することが求められています。なお、連結計算書類の備え置きが義務づけられていないのは、有価証券報告書提出会社にのみ連結計算書類の作成が義務づけられているところ、連結計算書類と同レベルかそれ以上に詳細な連結財務諸表を含む有価証券報告書が公衆の縦覧に供されているので、会社に備え置かせる必要がないからです。 備置機関の始期においては、計算書類等の承認に関する特例(439条、441条)の適用がない場合であっても、備え置かれる各事業年度にかかる計算書類、事業報告及びこれらの附属明細書並びに臨時計算書類を作成した場合には、臨時計算書類は株主総会の承認を得たものではなく、取締役会設置会社において、取締役会の承認を受けたものであることを要しない(437条、438条1項)と解されています。しかし、事業年度に係る計算書類、事業報告及びこれらの附属明細書については取締役会の承認を受けたものであることが求められると解されています。 これらに対して、監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会の監査報告、及び会計監査人の監査報告も備置義務の対象となっています。このことから、備え置かれる計算書類等は監査を受けたものであるべきと解されています。 ü
備置期間 各事業年度に係る計算書類、事業報告オヨ語これらの附属明細書ならびに監査報告の備え置きの始期は、定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社では2週間)前の日と、取締役または株主が各事業年度にかかる計算書類、事業報告を承認する旨の提案をした場合に、その提案があった日(442条1項)とされています。また、臨時計算書類の備え置きの始期は臨時計算書類を作成した日されています(442条3項)。この場合の、臨時計算書を作成した日とは、取締役が臨時計算書の作成を完了した日のことで、取締役会による承認の日や監査報告の作成日より以前でなければなりません。 備置期間は、これらの始期から5年間、写しは3年間備え置かなければなりません。 備え置きの終期は、始期の日を起算点として算定されるのではなく、定時株主総会の1週間前(取締役会設置会社の場合は2週間前)というように画一的に定められています。したがって、現実の備え置き開始が遅れても、それ自体が、格別備置期間の終期に影響を与えないこととなりました。 ü
備置場所 備置場所として指定されている本店及び支店とは、本店または支店として登記された場所(911条3項)と解されています。なお、会社が登記された場所と異なる場所で本店または支店として事業を行っている場合には、定款上の本店や登記上の本店で開示をすればたりると解されています。 ü
電磁的記録の備置きに関する特則(442条2項) 計算書類等は、本店に備え置くのみならず、その写しを支店ににも備え置かねばならないのが原則です(442条2項)。しかし、支店における「電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求」および「電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって」株式会社「の定めたものにより提供することの請求またはその事項を記載した書面の交付の請求」に応ずることを可能とするための措置をとっている場合には、写しを支店に備え置くことを要しない(442条2項但書)ものとされています。これは電磁的記録の記憶媒体が備え置かれているだけでは、株主等が、その内容を知ることができないため、そのような記憶媒体の備置き自体を問題とするのは適当ではなく、電磁的記録に記録された情報の、株主等による閲覧等の請求に対応することができるような態勢が支店において整えられていれば十分だからです。 これを受けて、会社法施行規則227条は、「請求に応ずることを可能とするための措置」を具体的に定めています。すなわち、「請求に応ずることを可能とするための措置」として「会社の使用に係る電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法であって、当該電子計算機に備えられたファイルに記録された情報の内容を電気通信回線を通じて会社の本店または支店において使用される電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録する方法」が指定されています。これは、電磁的記録が記録されている記憶媒体は支店とは異なる場所に物理的には所在していても、本店または支店の電子計算機上に、当該電磁的記録に記録された情報をダウンロードできる状態にあることを求めていると言えます。 ü
計算書類などの閲覧等(442条3項) 株主および会社債権者は、会社の営業時間内は、いつでも上記書類の閲覧を求め、または、会社の定めた費用を支払ってそり謄本・抄本の交付または電磁的記録に記録された情報の提供等を求めることができます。親会社社員が、自己の権利を行使するため必要ある場合であって、裁判所の許可を得たときも同様です。 ※連結計算書類は、計算書類等とはちがって、備置や閲覧に関して一切規定されていません。 ü
閲覧等の請求権者 計算書類等の閲覧等を請求できるのは、株主及び会社債権者のほか、裁判所の許可を得た親会社社員です。親会社社員について裁判所の許可が条件とされているのは、親子か関係があるとはいえ、別法人に対する閲覧等の請求であるため、親会社社員の権利行使のために必要であることが要件とされていて、その要件の存否を裁判所の判断に委ねるのが適当と考えられていることのためです。 単元未満株主も閲覧等の請求ができるのが原則です(189条1項)が、定款の定めにより、閲覧等を請求する権利を有しないとすることも可能です(189条2項)。 また、会社債権者には社債権者も含まれるのはもちろんのこと、新株予約権者も含まれると解されています。 なお、株主等は自己が株主等であった期間に計算書類等のみならず、閲覧等を請求した時点なおいて、会社が備置義務を負っているすべての計算書類等の閲覧等を請求することができます。 ü
閲覧等の請求権の行使 株主、会社債権者そして裁判所の許可を得た親会社社員またはそれらの者の代理人は、会社に対して閲覧等の請求の意思表示を行うことによって請求をすることができます。請求の意思表示にいては方式が法定されていないので、原則として口頭でも書面でもよいことになります。一方、会社は、この方式について合理的な定めを設けることができると考えられていて、実際に、閲覧等の請求の申請書を会社独自で揃えているところもあります。 閲覧等の請求は会社の営業時間内であればいつなされてもよく(442条3項)、会社がこれを制限することはできません。 会社が定めた費用の支払なしになされた計算書類等が書面を持って作成されているときの謄本または抄本の交付の請求、または電磁的記録であるときに書面として交付の請求に対して、会社は拒絶することができます(442条3項但書)。なお、会計帳簿の閲覧等の請求に対して、会社は正当な事由により拒絶することができましたが、計算書類等の場合には、それはありません。 ü
閲覧等の請求の効果 ・損害賠償責任 故意また過失により、計算書類等の備置きをしなかった場合、つまり、会社が備置義務を怠った場合、あるいは株主等の閲覧等の請求に応じなかった場合には、会社はそれによって損害を被った者に対して不法行為に基づき損害賠償責任を負います(350条、民法715条)。また、正当な事由なく閲覧等の請求を拒絶した場合には一種の債務不履行責任を株主等に負うかのうせいもあります。したがって、取締役・執行役は皆朱に対して任務懈怠に基づく損害賠償責任(423条)を負う可能性もあります。 ・過料 計算書類等の備置きをしなかった場合、つまり、会社が備置義務を怠った場合、または、正当な事由なく閲覧等の請求を拒絶した場合には、取締役・執行役は100万円以下の過料に処せられます。 ・株主総会決議の取消原因 計算書類等の備置きは定時株主総会の招集手続の一環として定められたものであるとして、備置義務違反は決議取消原因になり得るという考え方が有力で、下級審の判例(宮崎地裁平成13年3月2日)もあります。 また、正当な事由なく閲覧等の請求を拒絶したことについても、備置義務違反の場合と同様に決議取消原因となり得るという考え方が有力です。 もっとも、取締役会設置会社においては、各事業年度に係る計算書類及び事業報告は定時株主総会の招集に際して株主に提供されるべきことされている(437条)ので、それらの書類が株主に提供されている場合には、決議取消原因とはならないと考えられます。 ü
実際に計算書類の閲覧等の請求を受けた場合の実務 実際に、株主等から計算書類の閲覧等の請求を受けた場合の会社の対応の手順を簡単にまとめておきます。 @本人確認 まず、会計帳簿の閲覧等の請求をしてきた者が請求権者であるかを確認します。つまり、請求者が株主本人かどうか、代理人であれば本人からの正当な授権があるかの確認です。なお、多くの会社では定款で代理人を株主に限定しているので、代理人も株主であるかの確認も必要となります。 本人確認の方法について株式取扱規程などで規定されていて、その規定に従って行われます。多くの会社が参考にしている全株懇モデルの規定例を参考としてあげておきます。 〔参考〕全株懇モデルの株式取扱規程 第3章株主確認 (株主確認) 第10条 株主(個別株主通知を行った株主を含む。)が請求その他株主権行使(以下「請求等」という。)をする場合、当該請求等を本人が行ったことを証するもの(以下「証明資料等」という。)を添付し、または提供するものとする。ただし、当会社において本人からの請求等であることが確認できる場合はこの限りでない。 2当会社に対する株主からの請求等が、証券会社等および機構を通じてなされた場合は、株主本人からの請求等とみなし、証明資料等は要しない。 3代理人により請求等をする場合は、前2項の手続きのほか、株主が署名または記名押印した委任状を添付するものとする。委任状には、受任者の氏名または名称および住所の記載を要するものとする。 4代理人についても第1項および第2項を準用する。 上記の規定に基づいて、実際には次の手順で本人確認を行います。 ア.計算書類閲覧等の少数株主権行使の請求書(署名または記名押印のあるもの)および株主本人確認資料の提出を受ける。 ※計算書類の閲覧等といった少数株主権行使の請求書を会社であらかじめ作成しておいて、請求者には、その請求書に記入して提出を求めるようにしている会社が多いと思います。 請求書の書式はこちらを参考として下さい。 イ.個別株主通知にて通知される株主の氏名または名称および住所と株主本人確認資料上の氏名または名称および住所の一致を確認する(少数株主権等の内容によっては、個別株主通知が発行されるまでの4営業日間は、個別株主通知の請求時に交付される受付票で、その権利行使を即座に認めることも考えられる)。 ウ.対面での権利行使において、株主本人確認資料に顔写真が貼付されている場合は顔写真と対面している株主が同一人物かどうか確認する。 エ.株主本人確認資料が請求書への押印と当該印鑑にかかる印鑑登録証明書の場合には、印鑑照合を行い確認する。 オ.法人株主が行う場合であって、対面で権利行使の場合には、対面者についても本人確認を行う。 ・法人株主に対しては、委任状や職務代行通知書に以下の本人確認書類のBのaまたはbの本人確認書類の提示を求める以外にも、社員証や名刺の提示を受け、法人株主への電話等による権限確認をもって権利行使を認めることも考えられる。 この本人確認のための確認資料として次のものが挙げられます。 A.計算書類閲覧等の少数株主権行使請求書への印鑑の押印と当該印鑑にかかる印鑑登録証明書 B.対象株主が個人の場合((4)の外国人を除く) a.マイナンバー・カード、運転免許証(運転経歴証明書を含む)、各種健康保険証※1、国民年金手帳※2、身体障害者手帳※2、母子健康手帳、在留カード、特別永住者証明書、住民基本台帳カード、旅券等 (非対面の場合は写しでも可) ※1 「国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療もしくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合もしくは地方公務員共済組合員証または私立学校教職員共済制度の加入者証」が含まれる。 ※2 「国民年金法第13条第1項に規定する国民年金手帳、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保険福祉手帳、療育手帳または戦傷病者手帳」が含まれる。 b.aのほか、官公庁発行書類等で氏名、住所の記載があり、顔写真が貼付されているもの。 C.対象株主が法人の場合((4)の外国法人を除く) a.登記事項証明書 b.aほか、官公庁発行書類等で法人の名称および本店または主たる事務所の記載があるもの。 D.本邦に在留していない外国人および外国に本店または主たる事務所を有する法人 上記(1)、(2)、(3)のほか、日本国政府の承認した外国政府または国際機関の発行した書類等であって、本人特定事項の記載のあるもの。 E.上記の他、株主本人であることを確認できる他の書類を用いることができる。 ・<全株懇株式取扱規程モデル>第10条第1項ただし書では、「当会社において本人からの請求等であることが確認できる場合はこの限りでない」とされている。具体的には、株主と面識のある場合は、特に株主本人確認の資料を求めず、株主が社員である場合には社員証、株主が取引先であれば取引印鑑の少数株主権等の請求書への押印をもって株主本人確認とすることが考えられる。 A閲覧等拒絶事由がないかどうかの確認 請求者の本人確認が完了したら、少数株主権行使の請求書に会計帳簿の閲覧等を請求する理由が記載されているかを確認します。この理由の記載内容を吟味し、権利濫用等の拒否事由に該当するかいなかを確認します。 B計算書類の閲覧等 請求者が本人であることを確認し、請求が拒絶事由に該当しないことが確認できたら、請求に応じることとなります。この場合、社内手続きでしかるべき責任者の承認等を得ることは言うまでもありません。 C閲覧等の手数料 株主名簿の閲覧等に応じた場合の手数料については、各会社が独自に株式取扱規程等で定めているので、それに従います。請求者がこの費用を支払わない場合は、会社は請求を拒否することができます。 会社によっては、手数料をとらなかったり、コピー機を使用した場合は実費を請求したりしています。
関連条文 会計の原則(431条) |