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第439条 会計監査人設置会社の特則
 

 

Ø 会計監査人設置会社の特則(439条)

会計監査人設置会社については、第436条第3項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、前条第2項の規定は、適用しない。この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。

 

ü 会計監査人設置会社の特則

会計監査人設置会社は、計算書類が法令・定款に従い会社の財産及び損益の状態を正しく表示しているものとして法務省令で定める次の要件に該当している場合には、取締役会の承認を受けて定時株主総会に提出された計算書類については、取締役が定時株主総会でその内容を報告すれば足り、総会の承認を求めることを要しないとされています(439条、会社計算規則135条)。

ア.会計監査報告の内容に「無限定適正意見」が含まれいること

イ.会計監査報告に係る監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の監査報告の内容として会計監査人の監査の方法または結果が相当でないと認める意見がないこと

ウ.当該計算関係書類について監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会の監査報告の内容の通知が期限内にされないことにより監査を受けたものとみなされた場合でないこと

エ.取締役会を設置していること

このような特則で認められている理由は、会計監査の専門家である会計監査人が適法意見を表明し、監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会がそれに同意見であれば、会計監査人も監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会株主総会で選任され、法律上重い責任を負わされていること、会計監査人の監査により内容の適法性が担保されていること、会計監査人設置会社の計算書類の内容は複雑であり、株主総会で決定するのに原則として適さないからと解されています。

※各会計監査人又は各監査役・監査等委員・監査委員の中の誰かの適法意見がない場合には、計算書類は確定しません。したがって、その場合には、取締役は438条2項に則り、計算書類について株主総会の承認を受けなければなりません。

連結計算書類については、取締役が定時株主総会に提出して、その内容及び監査の結果を報告しなければなりません(444条7項)。連結計算書類に対する会計監査人・監査役・監査等委員会・監査委員会の監査の結果は、株主に提供されていない場合があるからです(会社計算規則134条2項)。

※旧商法では、当初は営業報告書を含むすべての計算書類について定時株主総会の決議による承認を義務付けられていました。それが昭和56年の改正で、貸借対照表、損益計算書及び利益処分(損失処理)案のみが承認の対象となりました。とくに会計監査人の監査を受ける大会社では、会計監査人が計算書類について適法意見を表明し、かつ監査役がいずれも会計監査人の監査を相当であるとした場合には、定時株主総会による計算書類の承認を不要となりました。これは、株主総会で選任された会計監査人と監査役とが、計算書類を監査し、その内容が適法である旨について意見が一致しているときに、株主総会があらためて計算書類を審査して承認することは不要であるし、所有と経営が分離している大会社の株主総会で審査する能力がないと考えられたためです。新たに制定された会社法では、その趣旨を引継ぎ、会計監査人の設置が義務付けられた大会社の特則が条文として加えられました。

ü 定時株主総会での承認の省略

・省略の条件

計算書類についての定時株主総会の承認決議を省略できるのは、計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件すべてに該当する場合です。その条件は以下の通りです。

1)会計監査人の監査報告に無限定適正意見が示されていること

2)監査役、監査役会、監査委員会または監査等委員会の監査報告、及び監査役会、監査委員会または監査等委員会の監査報告への個々の監査役、監査委員または監査等委員の付記事項に会計監査人の監査の方法または結果が相当でない旨の記載がないこと

3)監査役、監査委員会または監査等委員会が通知期限までに監査結果を通知しないために、監査をうけたものとみなされたものではないこと

4)取締役会設置会社であること

一方、以下のような場合は、原則に則り、定時株主総会で計算書類の承認を求めなければなりません。

.会計監査人が計算書類について限定付適正意見もしくは不適正意見を表明している場合

イ.会計監査人が計算書類について意見を表明していない場合

ウ.監査役、監査役会、監査委員会、監査等委員会または監査役会を構成する監査役のいずれかもしくは監査委員、監査等委員のいずれかが会計監査人の監査の方法または結果が相当でない旨の意見を述べている場合

・計算書類の確定

上記の条件を充たした場合には、計算書類の内容を定時株主総会で報告することで足り、その承認を求める必要はありません。この結果、会計監査人、監査役、監査委員会または監査等委員会の監査報告を受けて計算書類が取締役会の承認を受けた(436条3項)時点で、計算書類は確定することとなります。

 

Ø 関連する会社計算規則

² 計算書類等の承認の特則に関する要件(会社計算規則135条)

法第439条及び第441条第4項(以下この条において「承認特則規定」という。)に規定する法務省令で定める要件は、次の各号(監査役設置会社であって監査役会設置会社でない株式会社にあっては、第3号を除く。)のいずれにも該当することとする。

1 承認特則規定に規定する計算関係書類についての会計監査報告の内容に第126条第1項第2号イに定める事項(当該計算関係書類が臨時計算書類である場合にあっては、当該事項に相当する事項を含む。)が含まれていること。

2 前号の会計監査報告に係る監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会の監査報告(監査役会設置会社にあっては、第128条第1項の規定により作成した監査役会の監査報告に限る。)の内容として会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認める意見がないこと。

3 第128条第2項後段、第128条の2第1項後段又は第129条第1項後段の規定により第1号の会計監査報告に係る監査役会、監査等委員会又は監査委員会の監査報告に付記された内容が前号の意見でないこと。

4 承認特則規定に規定する計算関係書類が第132条第3項の規定により監査を受けたものとみなされたものでないこと。

5 取締役会を設置していること。

 

会社法439条で会計監査人設置会社で、法定の監査をうけ取締役会の承認を得た計算書類については、定時株主総会での承認を省略し、報告で足りると規定していますが、その場合の取締役会の承認により計算書類を確定させるための要件を定めています。

まず、その前提として取締役会設置会社であること(会社計算規則135条5号)て、これは、所有と経営の分離が確立し、株主総会の決議事項が法律に定める事項に限定されるからです。

要件の第1点は、計算書類に関する会計監査人の監査報告に、無限定適正意見(会社計算規則126条1項)が内容として含まれていることです(会社計算規則135条1号)。

第2点は、会計監査報告に関する監査役、監査役会、監査委員会または監査等委員会の監査に会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認める意見がないこと(会社計算規則135条4号)、さらに、この監査報告の付記事項として会計監査人の監査の方法または監査を相当でないと認める意見がないこと(会社計算規則135条2〜3号)です。

 

 

関連条文  

会計の原則(431条)   

会計帳簿の作成および保存(432条)    

会計帳簿の閲覧等の請求(433条)     

会計帳簿の提出命令(434条)    

計算書類等の作成及び保存(435条)   

計算書類等の監査等(436条)    

計算書類等の株主への提供(437条)  

計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)    

会計監査人設置会社の特則(439条)   

計算書類の公告(440条)    

臨時計算書類(441条)    

計算書類の備置き及び閲覧等(442条)    

計算書類等の提出命令(443条)    

連結計算書類(444条)    

資本金の額及び準備金の額(445条)    

剰余金の額(446条)    

資本金の額の減少(447条)   

準備金の額の減少(448条)    

債権者の異議(449条)    

資本金の額の増加(450条)    

準備金の額の増加(451条)    

剰余金についてのその他の処分(452条)    

 

 
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