新任担当者のための会社法実務講座 第449条 債権者の異義 |
Ø 債権者の異義(449条) @株式会社が資本金又は準備金(以下この条において「資本金等」という。)の額を減少する場合(減少する準備金の額の全部を資本金とする場合を除く。)には、当該株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができる。ただし、準備金の額のみを減少する場合であって、次のいずれにも該当するときは、この限りでない。 一 定時株主総会において前条第1項各号に掲げる事項を定めること。 二 前条第1項第1号の額が前号の定時株主総会の日(第439条前段に規定する場合にあっては、第436条第3項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。 A前項の規定により株式会社の債権者が異議を述べることができる場合には、当該株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第3号の期間は、1箇月を下ることができない。 一 当該資本金等の額の減少の内容 二 当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの 三 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨 B前項の規定にかかわらず、株式会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第939条第1項の規定による定款の定めに従い、同項第2号又は第3号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。 C債権者が第2項第3号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該資本金等の額の減少について承認をしたものとみなす。 D債権者が第2項第3号の期間内に異議を述べたときは、株式会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等(信託会社及び信託業務を営む金融機関(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和18年法律第43号)第1条第1項の認可を受けた金融機関をいう。)をいう。以下同じ。)に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該資本金等の額の減少をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。 E次の各号に掲げるものは、当該各号に定める日にその効力を生ずる。ただし、第2項から前項までの規定による手続が終了していないときは、この限りでない。 一 資本金の額の減少 第447条第1項第3号の日 二 準備金の額の減少 前条第1項第3号の日 F株式会社は、前項各号に定める日前は、いつでも当該日を変更することができる。 ü
債権者の異議手続 資本金の減少は、従来不可能だった株主への財産分配が以後可能となり会社財産の社外流出が容易となるので、会社債権者にとっては不利益となります。そこで、会社は資本金の額の減少に際して、会社債権者の保護のために債権者の異議手続をとらねばならないとされています。 これに対して、準備金の全部を資本に組み入れる場合には、債権者保護手続きを要しない(449条1項但書)とされています。準備金の額を減少して、その分資本金の額が増加するため、それだけ会社債権者にとって、会社に拘束される財産が増加することとなって、不利益にならないためです。さらに、準備金の額のみの減少であって、定時株主総会で額が定められ、その額が法務省令で定める方法(会社計算規則151条)により算定された欠損額を超えない場合には、債権者保護要しないと解されています。この場合は、準備金を欠損の填補のために使用するものであって、会社からの財産は流出しないし、会社債権者も準備金額が欠損填補のために減少するのを覚悟すべきだからです。 ・会社債権者に対する公告・催告 会社は以下の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には各別にそれを催告しなければなりません(449条2項)。しかし、公告を、官報に加えて、定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙または電子公告によってするときは、その催告は免除されます(449条3項)。 @)資本金の額の減少の内容(447条1項) A)計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの(会社計算規則152条) 具体的には次の事項です。 ア.会社が最終事業年度に係る貸借対象表を公告等している場合にはその検索方法 イ.特例有限会社であるため当該公告等を要しない場合には、その旨 ウ.最終事業年度がない場合にはその旨 エ.それ以外の場合には最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容 B)債権者が一定の期間内に資本金の額の減少について異議を述べることができる旨 一定期間は、1ヶ月以上であることを要するとされています。 ※知れている債権者とは、債権者が誰であり、その債権がいかなる原因に基づくいかなる内容のものかの大体を会社が知っている債権者をいいます。具体的には、金銭債権者には限られませんが、弁済・担保提供・財産の信託の方法により保護し得る債権を有する者に限られます。実務では、少額の債権者には催告を省略し、その債権者が異議を述べた場合には弁済することで片づけてしまう例が少なくありません。 ・公告・催告の効果 会社債権者が一定の期間内に異議を述べなかったときは、その人は資本金の額の減少を承認したものと見なされます(449条4項)。しかし、異議を述べたときは、会社は資本金の額の減少をしてもその債権者を害するおそれがないときを除き、弁済するか、相当の担保を提供するか、またはその債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(449条5項)。 ü
知れている債権者に対する各別の催告 会社は官報による公告に加えて、知れている債権者に対して各別に、異議を述べるよう催告しなければなりません。従来、このような個別の催告については事務的な負担が大きく、実際にも遵守されていない実態があること、諸外国にも例がないことなどの理由で批判が少なくなかったものです。そこで、減資の場合も合併の場合と同様に、官報に加えて、定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙または電子公告によってするときは、個別の催告を要しないと改正して手続の合理化が図られました。 ・「知れている債権者」の範囲 旧商法で「知レタル債権者」については、債権者が誰であり、その債権がいかなる原因に基づき、いかなる内容のものかの大体を会社が知っている債権者をいうと解し、会社がその債権の存否を争っている場合であっても、知レタル債権ではないということはできないという判例(大審院判決昭和7年4月30日)が、学説でも支持されていました。つまり、「知レタル債権者」かどうかは、債権が真に存在するかどうかではなく、会社がその存在を知るのが当然と認められるような事情の有無によって決まるものでした。 会社法の「知れている債権者」も同様に解されています。 ・非金銭債権者 異議を述べることができる債権者には非金銭債権者も含まれますが、知れている債権者に含まれるかどうかは議論が分かれています。会社法では、「知れている債権者」については金銭債権者に限るわけではないが、弁済・担保提供等の方法によって保護される債権を有する者に限られると解されています。この解釈に従えば、将来の労働契約上の債権や継続的供給契約上の将来の債権の債権者は含まれないことになります。 ・少額債権者 個々の債権額が少額の債権者も保護手続きの対象となるかについては議論が分かれています。条文の文言の上からは債権者の範囲に制限が設けられていないので債権額が少額だからと言って保護手続きの対象から外すことはできないと解されるのですが、実際の実務負担を考えると、個別の催告は煩瑣な手続きであり、それを怠った場合に重大な影響を与えるという効果との不均衡から軽微な債権者まで対象とするのは不適切だという考え方もあります。しかし、現行の会社法では官報に加えて、定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙または電子公告によってするときは、個別の催告を要しないと改正して手続の合理化が図られたので、このような議論は解消しました。したがって、少額債権者について債権者保護手続きの必要性は乏しいものの、これを知れている債権者から外す理由はないということになります。 ü
債権者が異議を述べた場合 ・原則─債権の弁済等 会社が催告のために定めた一定期間内に、債権者が異議を述べたときは、会社は原則として、弁済期の到来している債権については弁済し、弁済期未到来の債権については、期限の利益を放棄してあるいは債権者の同意を得て弁済するか、もしくは債権者に相当の担保を提供するか、または債権者に弁済を受けさせることを目的として信託銀行などに相当の財産を信託すること等をしなければなりません(249条5項)。 債権者が異議を述べたにもかかわらず、会社が弁済等の措置を講じなかったときは過料の制裁があります(970条)。したがって、債権者から見れば、自分の意に反して資本金額等の減少がなされようとするときは自己の債権の満足を得るか、または確実に満足を得られることの保障が与えられることとなり、保護されることになります。 ・例外─債権者を害するおそれがないとき このような原則にもかかわらず、資本金額の減少をしても、その債権者を害するおそれがないときは、会社は債権者に対する弁済などの措置を取らなくてもよいとされています(449条5項但書)。債権者を害するおそれがないかどうかは、その債権額、弁済期等を考慮して判断されます。例えば、異議を述べた債権者には十分な担保がすでに提供されていた場合、あるいは合併の相手方会社の財産状況から債権の弁済が確実である場合などです。 債権者が異議を述べたにもかかわらず、会社が債権者を害するおそれがないと判断し、組織再編行為を進めた結果、資本減少等の登記がなされたときは、異議を述べた債権者であって、このような会社の措置に不満のある者は、資本金の額の減少無効の訴え(828条)を提起して救済を求めることができます。 ü
資本金等の額の減少の効力発生と債権者保護手続 会社は、資本金・準備金の額の減少を決議する株主総会において、その資本金・準備金の額の減少の効力が発生する日を定めなければなりません(447条1項、448条1項)。この効力発生日までに債権者保護手続きが終了していないときは、資本金などの額の減少の効力は生じないものとされています(449条6項但書)。 したがって、例えば、会社は効力発生日として定めた日から逆算して、債権者に対する手続きを開始することとなりますが、資本金等の額の減少を決議する株主総会以前から手続きを進めることは可能で、それゆえ株主総会決議と同じ日を効力発生日とすることも可能と解されています。他方で、手続きに予想外の時間がかかり、株主総会で効力発生日とした日より前に終了しないことが判明した場合、事前に定めた効力発生日を変更しなければなりません。そのため、会社法は、あらかじめ定めて効力発生日を迎える前に、会社がその効力発生日を変更することは可能としています(449条7項)。この変更をする機関については、とくに定めがないので、株主総会の決議を経ずに、業務執行者が決定することもできると解されています。 ü
資本金等の額の減少無効の訴えとの関係 資本金の額の減少について債権者保護手続きに違背があれば、債権者は、資本金の額の減少無効の訴えを提起することができます(828条1項5号)。この訴えは、資本金の額の減少の効果が生じた日から6か月以内に提起されなければなりません。資本金の額の減少は、会社があらかじめ株主総会決議で定めた効力発生日(447条1項3号)、または、それから変更した効力発生日にその効力を生ずることとされているので、その日が訴えの提訴期間の起算点となります。 Ø
関連する会社計算規則 ²
欠損の額(会社計算規則151条) 法第449条第1項第2号に規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる額のうちいずれか高い額をもって欠損の額とする方法とする。 1 零 2 零から分配可能額を減じて得た額 会社が準備金の額を減少するときは債権者異議手続きを要するのが原則ですが、定時株主総会において準備金の減少を決議し、その減少する準備金の額が法務省令で定める方法により算出された額を超えない場合には、会社債権者は異議を述べることはできない(449条1項2号)、と会社法で規定されています。ここでは、その法務省令で定める算定方法を規定しています。 会社計算規則151条1号の「零」より2号の「零から分配可能額を減じて得た額」が高い額となる場合は、分配可能額がマイナスの値となる場合で、逆に2号の「零から分配可能額を減じて得た額」より第1項の「零」が高い額となる場合は、分配可能額がプラスの値をとる場合で、債権者保護の必要のないことを示しています。の場合には欠損填補の必要がなく、449条1項但書の運用はないから、欠損の値は零であると解することになります。 ²
計算書類に関する事項(会社計算規則152条) 法第449条第2項第2号に規定する法務省令で定めるものは、同項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日における次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。 1 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき公告対象会社(法第449条第2項第2号の株式会社をいう。以下この条において同じ。)が法第440条第1項又は第2項の規定により公告をしている場合 次に掲げるもの イ 官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁 ロ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁 ハ 電子公告により公告をしているときは、法第911条第3項第28号イに掲げる事項 2 最終事業年度に係る貸借対照表につき公告対象会社が法第440条第3項に規定する措置をとっている場合 法第911条第3項第26号に掲げる事項 3 公告対象会社が法第440条第4項に規定する株式会社である場合において、当該株式会社が金融商品取引法第24条第1項の規定により最終事業年度に係る有価証券報告書を提出している場合 その旨 4 公告対象会社が会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成17年法律第87号)第28条の規定により法第440条の規定が適用されないものである場合 その旨 5 公告対象会社につき最終事業年度がない場合 その旨 6 前各号に掲げる場合以外の場合 前編第2章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容 株式会社が資本金又は準備金の額を減少する場合、会社債権者は異議を述べることができます(449条1項)。この場合、会社は、原則として、その資本金等の額の減少の内容、「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」及び債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨を官報に公表し、かつ催告しなければならない(449条2項)と会社法できていされていますが、その「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」をこの会社計算規則152条で定めています。 ・公告または催告の基準となる日 「当該株式会社の計算書類に関する事項」として公告し、または催告すべき事項は、公告の日と催告の日のいずれか早い日を基準として決定されます。これは、公告の内容と催告の内容との間に差異があることは想定されていないため、先に行われたものの内容に、後で行われたものが合わせなければならないと考えられているからです。 ・公告または催告に含められるもの 1)最終事業年度に係る貸借対照表またはその要旨につき会社が公告している場合(会社計算規則152条1号) 以下の3通りが「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」です。ここで最終の貸借対照表自体を公告・通知させるのではなく、最終の貸借対照表に関する事項を公告・通知させることとしたのは、会社の事務負担を考慮したものです。 イ.官報で公告しているときは、当該官報の日付および当該公告が掲載されている頁 ロ.時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告しているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁 ハ.電子公告により公告しているときは、電子公告を行っているウェブサイトのアドレス 2)最終事業年度に係る貸借対照表につき、会社が貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結後5年を経過するまでの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとっている場合(会社計算規則152条2号) 不特定多数の者が実際に閲覧できるウェブサイトのアドレス(911条3項29号)が、「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」です。 3)会社が金融商品取引法24条1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない会社においては、その会社が最終事業年度に係る有価証券報告書を提出している場合(会社計算規則152条3号) 最終事業年度に係る有価証券報告書を提出している旨を公告または通知の内容とすれば足りるとされています。これは金融商品取引法に基づく有価証券報告書などの開示書類に関する電子開示システム(EDNET)を通じて、有価証券報告書の内容を閲覧することができることを考慮してのものです。 4)会社が特例有限会社である場合(会社計算規則152条4号) 特例有限会社は貸借対照表等の公告等を要しないので、会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律28条により、440条の規定が適用されない旨を、「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」として公告または催告に含めれば足りる。 5)会社につき最終事業年度がない場合(会社計算規則152条5号) 会社につき最終事業年度がない旨を、「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」として公告または催告に含めれば足りる。最終事業年度がない以上、最終事業年度に係る貸借対照表が存在しないからです。 6)会社が上記1)から5)のいずれにも該当しない場合(会社計算基礎152条6号) 会社計算規則第6編第2章(計算書類の要旨の公告)の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容を、「当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの」として公告または催告に含めれば足りる。 関連条文 会計の原則(431条) |