@監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。
A会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。
一 前条第2項の計算書類及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては、監査委員会)及び会計監査人
二 前条第2項の事業報告及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては、監査委員会)
B取締役会設置会社においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第1項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第1項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。
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計算書類等の監査(436条1項、2項)
監査役を置く会社では、計算関係書類、事業報告及びその附属明細書は監査役の監査を受けなければなりません。同じ書類について、監査等委員会設置会社であれば監査等委員会、指名委員会等設置会社であれば監査委員会の監査を受けなければなりません(436条1項)。
会計監査人設置会社では、計算関係書類及びその附属明細書は会計監査人の監査を受けなければなりません(436条2項)。
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計算書類等の監査の日程等
会計監査人設置会社か否かにより監査報告の作成に関する日程等が以下のように異なります。
・会計監査人設置会社以外の場合
会計監査人設置会社以外の会社の場合、監査役または監査役会は計算関係書類を、それを作成した取締役から受領したときは、下のいずれか遅い日までに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則124条1項)。
ア.計算関係書類(附属明細書を除く)の全部を受領した日から4週間を経過した日
イ.その附属明細書を受領した日から1週間を経過した日
ウ.特定取締役との間で合意により定めた日
事業報告及びその附属明細書を受領した時も同様です(会社法施行規則132条1項)。
・会計監査人設置会社の場合
会計監査人設置会社において、監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会が取締役(執行役)から事業報告及びその附属明細書を受領した場合の監査報告の内容の通知期限は、会計監査人設置会社以外の会社の場合と同じです(会社法施行規則132条1項)。
計算関係書類について、それを作成した取締役が監査のためにそれを会計監査人に対して提供しようとする時は、各監査役(監査等委員会、監査委員会)に対しても提供しなければなりません(会社計算規則125条)。
計算書類については、会計監査人が事業年度の計算関係書類及びその附属明細書については下のいずれか遅い日までに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則130条)。
ア.計算関係書類(附属明細書を除く)の全部を受領した日から4週間を経過した日
イ.その附属明細書を受領した日から1週間を経過した日
ウ.特定取締役との間で合意により定めた日
また、連結計算書類については、会計監査人が事業年度の連結計算書類の全部を受領した日から4週間を経過したまでに監査報告の内容を通知しなければなりません(会社計算規則130条)。
監査役・監査役会。監査等委員会・監査委員会は、会計監査人から会計監査報告を受領した日から1週間以内に、計算関係書類についての監査報告の内容を取締役会及び会計監査人に通知しなければなりません(会社計算規則132条)。その際、各監査役は、必要があれば、会計監査人に対しその会計監査報告に関する報告や説明を求めることができます(397条)。すなわち、会計監査人設置会社の監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会は、主に業務監査を担当するので、会計に関する監査報告は、基本的には、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときに、その旨及びその理由が記載されれば足りることとされています(会社計算規則127〜129条)。
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計算書類等の監査報告の内容
会計監査人設置会社か否かにより計算書類等に関する監査報告の内容が以下のように異なります。
・会計監査人設置会社以外の場合
会計監査人設置会社以外の監査報告のうち、監査役の監査報告の内容は以下のようになります(会社計算規則122条)。
ア.監査の方法及びその内容(会社計算規則122条1項1号)
監査が適当な方法で十分になされたかどうかを判断させる資料を提供するための事項です。例えば、取締役会への出席、取締役等に対する報告の徴求及び業務・財産の調査、子会社の調査等について記載します。
イ.計算関係書類が会社の財産・損益の状況をすべての重要な点において適切に表示しているかどうかについての意見(会社計算規則122条1項2号)
計算書類が法令・定款に違反し、会社の財産及び損益の状況を正しく示さないものであるときは、その旨を記載します。従っても正しく記載されている場合には記載する必要がない項目です。
ウ.監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則122条1項3号)
監査役には、監査ために各種の権限が与えられていますが、会社側がその権限行使を妨害し、または監査に協力しないとか、監査に要する費用を支出しないなどの理由で、監査のための必要な調査ができない場合等に、その旨及び理由を記載します。
エ.追記情報(会社計算規則122条1項4号)
追記情報は、会計方針の変更、重要な偶発事象、主要な後発事象、その他の事項のうち、監査役の判断に関して説明を付す必要がある事項または計算関係書類のうち強調する必要がある事項とされています(会社計算規則122条2項)。
オ.監査報告を作成した日(会社計算規則122条1項5号)
監査役会の監査報告では、監査役の監査報告の上記の内容に以下の内容が加わります(会社計算規則123条)。
カ.監査役及び監査役会の監査の方法及びその内容(会社計算規則123条1項2号)
キ.監査役会監査報告を作成した日(会社計算規則123条1項3号)
監査役会は一回以上会議を開催する方法または情報の送受信により同時に意見を交換することができる方法により、その内容を審議しなければなりません(会社計算規則123条3項)。監査報告の内容は多数決で決定されます(393条1項)が、ある事項に関する監査役会監査報告の内容と自己の監査報告の内容とが異なる場合には、各監査役は、監査役会監査報告に自己の監査役監査報告の内容を付記することができます(会社計算規則123条2項)。
・会計監査人設置会社の場合
会計監査人設置会社における会計監査人の会計監査報告は次のような内容となります(会社計算規則126条)。
ア.会計監査人の監査の方法及びその内容(会社計算規則126条1項1号)
イ.計算関係書類が会社の財産・損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかに関する意見(会社計算規則126条1項2号)
ウ.上記イ.の意見がないときはその旨及びその理由(会社計算規則126条1項3号)
エ.追記情報(会社計算規則126条1項4号)
オ.会計監査報告を作成した日(会社計算規則126条1項5号)
会計監査人設置会社における監査役の監査報告は次のような内容となります(会社計算規則127条)。
ア.監査役の監査の方法及びその内容(会社計算規則127条1項1号)
イ.監査報告を作成した日(会社計算規則127条1項6号)
ウ.会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨およびその理由(会社計算規則127条1項2号)
エ.重要な後発事象(会社計算規則127条1項3号)
オ.会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項(会社計算規則127条1項4号)
カ.監査のために必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則127条1項5号)
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取締役会の承認(436条3項)
取締役会設置会社においては、計算関係書類及び事業報告並びにその附属明細書は、436条1項及び2項の監査を受けた後、取締役会の承認を受けなければなりません(436条3項、444条)。
旧商法下の平成17年以前の委員会設置会社以外の株式会社では計算書類及びその附属明細書について取締役会の承認を受けた後、計算書類等の監査を受けていました。株主総会において、取締役と監査役は対等の機関として選任されます。そして、監査役は取締役の業務執行および取締役会の業務の決定を監査するという趣旨に則ったやり方といえます。むしろ、現行の会社法の取締役会の承認が監査役の監査した計算書類を、事後に取締役会が承認するというのは、監査後に修正される余地を残すことになり、監査役の監査の趣旨に反することになると考えることもできます。しかし、実務の実態をみれば、代表取締役や担当取締役以外の取締役にとってみれば、会計監査人や監査役等による監査報告が付されていない計算書類を取締役会で審査し、承認することには無理があるでしょう。会社法の下では、違法な計算書類に基づきなされた違法な剰余金処分について、その剰余金処分案の株主総会への上程あるいは剰余金処分を決定する取締役会決議に賛成した取締役も、各自がその職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明しないと、違法配当についての責任を負うことになります(462条2項)。計算書類の作成を担当しない取締役や社外取締役の立場からは、取締役会での承認に際して、監査報告を参照したことは、その任務を果たしたことの有力な根拠事実となります。
なお、このような会社法の下でも、計算書類等を監査役等や会計監査人に提供する段階で、取締役会で承認または報告をしている会社は少なくありません。しかし、この場合の承認には法的な意義はありません。
※決算短信の開示
事業年度終了後、上場会社は金融商品取引所を通じて「決算短信」の形で報道期間等に対して決算発表を行いますが、それは、通常、計算書類などについてこの取締役会の承認があった段階で行われます。
従来、決算短信は、期末後45日以内、早い会社であれば30日以内に開示されます。そうなると、株主総会での報告、承認を前提とした監査報告の日程とはズレが生じます。そのため、決算短信の公表は、取締役会による計算書類の正式の承認の前に行なうか、仮に承認が間に合う場合には株主総会の招集を決定する取締役会とは別に行われることになります。すなわち、会計監査人等の監査結果のおおよその見通しが立った段階で決算短信の公表を行い、正式に計算書類の承認をする取締役会は、決算短信の公表の後で、株主総会の招集の決議と同時に行なうというパターンです。
Ø
関連する会社計算規則
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監査の通則(会社計算規則121条)
@法第436条第1項及び第2項、第441条第2項並びに第444条第4項の規定による監査(計算関係書類(成立の日における貸借対照表を除く。以下この編において同じ。)に係るものに限る。以下この編において同じ。)については、この編の定めるところによる。
A前項に規定する監査には、公認会計士法(昭和23年法律第103号)第2条第1項に規定する監査のほか、計算関係書類に表示された情報と計算関係書類に表示すべき情報との合致の程度を確かめ、かつ、その結果を利害関係者に伝達するための手続を含むものとする。
・会計監査とは
会計監査人設置会社以外の株式会社では、計算書類の監査は監査役のみによって行われます。この場合の監査役は、資格として会計または監査の専門知識を要求されていないため、計算書類や臨時計算書類の監査は、会計専門職以外の者が実質することはありえることになります。そのため、会社計算規則121条2項で、「監査」とは、公認会計士法2条1項に定める、公認会計士ないしは監査法人が監査する監査以外に、「計算関係書類に表示された情報と計算関係書類に表示すべき情報との合致の程度を確かめ、かつ、その結果を利害関係者に伝達するための」一定の手続も含まれるとしています。
※公認会計士法2条1項に規定する監査とは
公認会計士法の監査は、職業的専門家である公認会計士ないし監査法人が、会社の経営者がその責任において作成した計算書類が、会社の財政状態や経営成績を適正に表示しているかどうかについて、経営者とは独立した立場から意見を表明するに至る一連の手続を言います。財務諸表ないし計算書類が適正に表示されているという意見の表明は、財務諸表ないし計算書類には全体として重要な虚偽の表示がないことの合理的な保証を得た監査人の判断が含まれている(企業会計審議会「監査基準」)ということです。そして、意見の表明を基礎づけるために監査人がなすべき監査の手続を、企業会計審議会が制定する監査基準に、さらにその監査基準を前提として、より具体的な事項について公認会計士協会が定める一連の指針に規定されています。
※「計算関係書類に表示された情報と計算関係書類に表示すべき情報との合致の程度を確かめ、かつ、その結果を利害関係者に伝達するための」一定の手続とは
会計監査人の設置されない株式会社の計算書類については、企業会計審議会や企業会計基準委員会の会計基準等が、当然に「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」となるわけではありません。では、何を基準とすればいいのか、それが明確ではないのです。従って、会計監査人による監査を受けない株式会社による監査役の監査は、計算書類が著しく真実に反するものではないことを何らかの合理的根拠をもって確認するもので足りると考えられます。だし、このような株式会社の計算書類でも明らかに真実に反するような資産や利益が計上されていた場合には、虚偽の記載のある計算書類となり、このような計算書類の表示が適正である旨の意見を表明した監査役は、その行為について注意を怠らなかったことを証明しない限り、虚偽の計算書類によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うことになります(429条2項)。
²
監査役の監査報告の内容(会社計算規則122条)
@監査役(会計監査人設置会社の監査役を除く。以下この章において同じ。)は、計算関係書類を受領したときは、次に掲げる事項(監査役会設置会社の監査役の監査報告にあっては、第1号から第4号までに掲げる事項)を内容とする監査報告を作成しなければならない。
1 監査役の監査の方法及びその内容
2 計算関係書類が当該株式会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見
3 監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由
4 追記情報
5 監査報告を作成した日
A前項第四号に規定する「追記情報」とは、次に掲げる事項その他の事項のうち、監査役の判断に関して説明を付す必要がある事項又は計算関係書類の内容のうち強調する必要がある事項とする。
1 会計方針の変更
2 重要な偶発事象
3 重要な後発事象
会計監査人を設置しない株式会社における監査役の計算関係書類に対する監査報告の内容を規定しています。これに対して、会計監査人設置会社の監査役の監査報告については会社計算規則127条で規定しています。業務監査権限を有する監査役は、計算関係書類以外に事業報告についての監査報告を作成することも求められますが、その内容については会社法施行規則129条に規定されています。実務上は、計算関係書類に係る監査報告とあわせて1通の監査報告が作成されています。
監査役が複数選任されている場合は、原則として各監査役が監査報告を作成しますが、内容が同一である場合は、独立して各監査役が監査報告を差作成することも、また1通の監査報告を連名で提供することも可能です(会社計算規則133条)。また、監査役会設置会社の場合は、各監査役の監査報告が監査役会に提出された後に、これらに基づき監査役会の監査報告が作成されます(会社法施行規則130条1項、会社計算規則123条1項)。
・監査報告の内容
@監査の方法およびその内容(会社計算規則122条1項1号)
監査の方法およびその内容の記載は、監査の信頼性を判断し得るように、行った監査の内容や具体的な監査方法、監査スケジュール等、具体的な監査の内容が明らかにされる必要があると考えられています。
監査役は、いつでも取締役、会計参与、支配人その他の使用人から事業について報告を受け、また自ら会社の業務及び財産の状況を調査することができます(381条2項)。必要な場合には、子会社に対しても事業について報告を求め、また子会社の業務及び財産を自ら調査することができます(381条3項)。さらに、監査役は、取締役会にも出席し、意見を述べることができます(383条1項)。取締役会以外に会社の意思決定に重要な会議がある場合も、一般的な調査権限に従って会議に出席することができます。また、内部統制機構を整備できる会社では、取締役・使用人からの報告体制が整っているはずです(362条)。その権限が監査に関するものに限定されている監査役も、会計帳簿またはこれに関する資料を閲覧し、また取締役や使用人から会計に関する報告を求めることができます(389条4項)。
これらの権限を駆使し、監査役が実際に行った監査活動や監査の日程等が明らかにされる必要があります。また、この報告は、監査役が、その果たすべき職務を遂行したことを明らかにする機能もあります。
会計監査人を設置しない株式会社てでは、監査役が計算関係書類を主体的に監査します。会計監査人による計算書類の監査とは異なり、監査役による会計監査には明確な手続が定められているわけではありません。それゆえに、計算関係書類に表示された情報と計算関係書類に表示すべき情報との合致の程度をたしかめるために何がなされたのかを示す必要があります。
実際の監査報告では、日本監査役協会が作成する監査報告のひな型に従った記載が多いようです。
A計算関係書類の表示の適正に関する意見(会社計算規則122条1項2号)
会社法では、会計監査人設置会社では計算関係書類に表示の適正に関する意見は、金融商品取引法上の監査証明に付される意見に準拠する形式で、会計監査人によって表明されます(会社計算規則126章1項2号)。なお、会計監査人を設置しない会社では監査役によって示されます。
表明すべき監査意見は、計算関係書類が当該株式会社の財産及び収益の状況をすべて重要な点において適正に表示しているかどうかです。評価の基準は、会社法等の計算に関する規定、及び一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行(431条)です。
計算関係書類の表示が重要な点において適正でない場合には、その旨及び不適正な事項の内容が指摘されます。会社法の会計監査人設置会社における会計監査人の監査意見では、除外事項を付した限定付適正意見と、計算書類全体の表示を不適正とする不適正意見とに分かれます。
B監査のために必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則122条1項3号)
監査役は、その権限を駆使して、計算書類に関する意見を表明するに必要な基礎を得る必要があります。何らかの理由により。必要な監査がなし得なかった場合には、監査報告書にその旨と、調査がなし得なかった理由を記載します(会社計算規則122条1項3号)。
調査がなし得なかった理由としては、取締役等役員の協力が得られない場合、また子会社により報告や調査を拒まれた場合、あるいは後発事象や偶発事象について時間的制約あるいは内容の不確定性ゆえに調査をなし得ない場合が考えられます。
監査役は、その権限を駆使して必要な調査を行う義務を負うのであり、正当な理由なく必要な調査を行わなかった場合には、監査役としての善管注意義務に反することになります。この記載事項は必要な調査をなし得なかった理由が監査役の責任に帰するものでないことを明かにして、監査役を免責させる機能を果たすものとなっています。
一方、取締役等役員の非協力により調査がなし得なかった場合には、取締役の監査役への協力義務を怠っているということで法令違反(会社法施行規則129条)を指摘できます。
C追記情報(会社計算規則122条1項4号)
D監査報告を作成した日(会社計算規則122条1項5号)
計算関係書類に関する監査報告は、書類を受領した日から会社計算規則124条1項に定める日までに作成し、定められた取締役ないし計算関係書類の作成に関する職務を行った取締役に対し、その内容を通知しなければなりません。この期限の遵守を確認するために、監査報告にその作成した日を記載することが求められています(会社計算規則122条1項5号)。監査役会設置会社では、期日までに取締役会に通知することを要するのは、監査役会の監査報告に限るので、監査役会の監査報告の作成日を記載すれば足り、個別の監査役の監査報告には作成日の記載は要しないとされています。
・追記情報(会社計算規則122条2項)
監査役の監査報告に記載すべき追記情報(会社計算規則122条1項4号)とは、@会計方針の変更、A重要な偶発事情、B重要な後発事象、その他の事項のうち、監査役の判断に関して説明を付する必要のある事項または計算関係書類の内容のうち、監査役の判断に関して説明を付す必要がある事項または計算関係書類のうち強調する必要がある事項です(会社計算規則122条2項)。
これらの追記情報は、各事項が注記事項としてすでに開示されていることを前提に(会計方針の変更については会社計算規則101条2項、偶発事象については会社計算規則103条5号、後発事象については会社計算規則114条)、とくに重要な事項について監査役の判断に関して説明を付すため、また計算関係書類の内容について、とくに注意を促すために記載されます。注記表に必要な記載゛ない場合に、追記情報の記載ではなく、計算関係書類が重要な事項について適正な表示を欠いている旨の記載がされることになります。
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監査役会の監査報告の内容等(会社計算規則123条)
@監査役会(会計監査人設置会社の監査役会を除く。以下この章において同じ。)は、前条第1項の規定により監査役が作成した監査報告(以下この条において「監査役監査報告」という。)に基づき、監査役会の監査報告(以下この条において「監査役会監査報告」という。)を作成しなければならない。
A監査役会監査報告は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。この場合において、監査役は、当該事項に係る監査役会監査報告の内容が当該事項に係る監査役の監査役監査報告の内容と異なる場合には、当該事項に係る各監査役の監査役監査報告の内容を監査役会監査報告に付記することができる。
1 前条第1項第2号から第4号までに掲げる事項
2 監査役及び監査役会の監査の方法及びその内容
3 監査役会監査報告を作成した日
B監査役会が監査役会監査報告を作成する場合には、監査役会は、1回以上、会議を開催する方法又は情報の送受信により同時に意見の交換をすることができる方法により、監査役会監査報告の内容(前項後段の規定による付記を除く。)を審議しなければならない。
・監査役会の監査報告の作成(会社計算規則123条1項)
会計監査人を設置しない株式会社における監査役会の計算関係書類に対する監査報告の内容を規定しています。これに対して、会計監査人設置会社の監査役会の監査報告については会社計算規則128条で規定しています。また、監査役会の事業報告に関する監査報告については、会社法施行規則130条に規定されています。
監査役会の監査報告は、各監査役の監査報告を機械的に集めるのではなく、各監査役の監査報告を前提に、監査役全員が意見を交換し、監査役会としての監査意見を決定します。もっとも、監査役会としての見解の統一は、期末監査の段階ではじめてなされるのではなく、各監査役の活動の結果は、日常的に監査役会に報告されているはずです。とくに常勤監査役から非常勤の監査役ないし社外監査役に対して、監査活動の結果について報告され、会社の状況についての認識を監査役会全体で一致させることが重要となります。成立した監査役会の監査報告の内容が、監査役の監査報告の内容と異なるときには、監査役は、自己の監査報告の内容を監査役会の監査報告に付記させることができます。
・監査役会の監査報告の内容(会社計算規則123条1項)
@監査役及び監査役会の監査の方法およびその内容(会社計算規則123条2項2号)
監査の方法およびその内容の記載は、監査の信頼性を判断し得るように、行った監査の内容や具体的な監査方法、監査スケジュール等、具体的な監査の内容が明らかにされる必要があると考えられています。
監査役は、いつでも取締役、会計参与、支配人その他の使用人から事業について報告を受け、また自ら会社の業務及び財産の状況を調査することができます(381条2項)。必要な場合には、子会社に対しても事業について報告を求め、また子会社の業務及び財産を自ら調査することができます(381条3項)。さらに、監査役は、取締役会にも出席し、意見を述べることができます(383条1項)。取締役会以外に会社の意思決定に重要な会議がある場合も、一般的な調査権限に従って会議に出席することができます。また、内部統制機構を整備できる会社では、取締役・使用人からの報告体制が整っているはずです(362条)。その権限が監査に関するものに限定されている監査役も、会計帳簿またはこれに関する資料を閲覧し、また取締役や使用人から会計に関する報告を求めることができます(389条4項)。
これらの権限を駆使し、監査役が実際に行った監査活動や監査の日程等が明らかにされる必要があります。また、この報告は、監査役が、その果たすべき職務を遂行したことを明らかにする機能もあります。
監査役会は、監査の方針や業務及び財産の調査の方法などの監査計画、また各監査役の職務の執行について決定する(390条2項)。監査役会の監査報告では、このような決定により監査計画のの策定および監査の職務の分担を行った旨、及び各監査役が監査役会の決めた分担に従って実施した監査の内容について報告します。さらに、監査役会全体で、代表取締役その他の取締役から、会社の業務の状況、とくに、内部統制の整備運用の状況について説明を受けることが想定されています。
A監査役及び監査役会の監査の方法およびその内容(会社計算規則123条2項2号)
@)計算関係書類の表示の適正に関する意見(会社計算規則122条1項2号)
会社法では、会計監査人設置会社では計算関係書類に表示の適正に関する意見は、金融商品取引法上の監査証明に付される意見に準拠する形式で、会計監査人によって表明されます(会社計算規則126章1項2号)。なお、会計監査人を設置しない会社では監査役によって示されます。
表明すべき監査意見は、計算関係書類が当該株式会社の財産及び収益の状況をすべて重要な点において適正に表示しているかどうかです。評価の基準は、会社法等の計算に関する規定、及び一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行(431条)です。
計算関係書類の表示が重要な点において適正でない場合には、その旨及び不適正な事項の内容が指摘されます。会社法の会計監査人設置会社における会計監査人の監査意見では、除外事項を付した限定付適正意見と、計算書類全体の表示を不適正とする不適正意見とに分かれます。
A)監査のために必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則122条1項3号)
監査役は、その権限を駆使して、計算書類に関する意見を表明するに必要な基礎を得る必要があります。何らかの理由により。必要な監査がなし得なかった場合には、監査報告書にその旨と、調査がなし得なかった理由を記載します(会社計算規則122条1項3号)。
調査がなし得なかった理由としては、取締役等役員の協力が得られない場合、また子会社により報告や調査を拒まれた場合、あるいは後発事象や偶発事象について時間的制約あるいは内容の不確定性ゆえに調査をなし得ない場合が考えられます。
監査役は、その権限を駆使して必要な調査を行う義務を負うのであり、正当な理由なく必要な調査を行わなかった場合には、監査役としての善管注意義務に反することになります。この記載事項は必要な調査をなし得なかった理由が監査役の責任に帰するものでないことを明かにして、監査役を免責させる機能を果たすものとなっています。
一方、取締役等役員の非協力により調査がなし得なかった場合には、取締役の監査役への協力義務を怠っているということで法令違反(会社法施行規則129条)を指摘できます。
B)追記情報(会社計算規則122条1項4号)
監査役の監査報告に記載すべき追記情報(会社計算規則122条1項4号)とは、@会計方針の変更、A重要な偶発事情、B重要な後発事象、その他の事項のうち、監査役の判断に関して説明を付する必要のある事項または計算関係書類の内容のうち、監査役の判断に関して説明を付す必要がある事項または計算関係書類のうち強調する必要がある事項です(会社計算規則122条2項)。
これらの追記情報は、各事項が注記事項としてすでに開示されていることを前提に(会計方針の変更については会社計算規則101条2項、偶発事象については会社計算規則103条5号、後発事象については会社計算規則114条)、とくに重要な事項について監査役の判断に関して説明を付すため、また計算関係書類の内容について、とくに注意を促すために記載されます。注記表に必要な記載゛ない場合に、追記情報の記載ではなく、計算関係書類が重要な事項について適正な表示を欠いている旨の記載がされることになります。
B監査報告を作成した日(会社計算規則123条2項3号)
監査役会設置会社では、計算関係書類に関する監査役会の監査報告の内容を、書類を受領した日から会社計算規則124条に定めた日までに、定められた取締役等に対し、通知しなければなりません(会社計算規則124条1項)。この期限の遵守を確認するために、監査役会監査報告に、その作成した日を記載することが求められています。
※監査役の署名
旧商法では、監査役会の監査報告書に各監査役が署名捺印することを求めていました。これに対して、現在の会社法では、監査役の署名については規定されていません。しかし、実務上は各監査役の署名が付されている会社が少なくありません。
²
監査報告の通知期限等(会社計算規則124条)
@特定監査役は、次の各号に掲げる監査報告(監査役会設置会社にあっては、前条第1項の規定により作成された監査役会の監査報告に限る。以下この条において同じ。)の区分に応じ、当該各号に定める日までに、特定取締役に対し、当該監査報告の内容を通知しなければならない。
1 各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書についての監査報告 次に掲げる日のいずれか遅い日
イ 当該計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日
ロ 当該計算書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日
ハ 特定取締役及び特定監査役が合意により定めた日があるときは、その日
2 臨時計算書類についての監査報告 次に掲げる日のいずれか遅い日
イ 当該臨時計算書類の全部を受領した日から四週間を経過した日
ロ 特定取締役及び特定監査役が合意により定めた日があるときは、その日
A計算関係書類については、特定取締役が前項の規定による監査報告の内容の通知を受けた日に、監査役の監査を受けたものとする。
B前項の規定にかかわらず、特定監査役が第1項の規定により通知をすべき日までに同項の規定による監査報告の内容の通知をしない場合には、当該通知をすべき日に、計算関係書類については、監査役の監査を受けたものとみなす。
C第1項及び第2項に規定する「特定取締役」とは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者(当該株式会社が会計参与設置会社である場合にあっては、当該各号に定める者及び会計参与)をいう。
1 第1項の規定による通知を受ける者を定めた場合 当該通知を受ける者として定められた者
2 前号に掲げる場合以外の場合 監査を受けるべき計算関係書類の作成に関する職務を行った取締役
D第1項及び第3項に規定する「特定監査役」とは、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者とする。
1 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。) 次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める者
イ 2以上の監査役が存する場合において、第1項の規定による監査報告の内容の通知をすべき監査役を定めたとき 当該通知をすべき監査役として定められた監査役
ロ 2以上の監査役が存する場合において、第1項の規定による監査報告の内容の通知をすべき監査役を定めていないとき 全ての監査役
ハ イ又はロに掲げる場合以外の場合 監査役
2 監査役会設置会社(会計監査人設置会社を除く。) 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 監査役会が第1項の規定による監査報告の内容の通知をすべき監査役を定めた場合 当該通知をすべき監査役として定められた監査役
ロ イに掲げる場合以外の場合 全ての監査役
会計監査人を設置しない株式会社における監査役または監査役会の計算関係書類に対する監査報告の日程を規定しています。事業報告の監査報告の日程については会社法施行規則132条に規定されています。実務上は、計算関係書類に係る監査報告とあわせて1通の監査報告が作成されるように一体の日程調整がなされます。また、会計監査人設置会社においては、会計監査人の監査報告の日程と、その監査報告を受領した後の監査役会等の監査報告の日程について会社計算規則130条及び132条で規定しています。
・監査報告の通知期限(会社計算規則124条1項)
各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書についての監査報告の通知期限は、原則として計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、または消さん書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日のいずれか遅い日です。また合意によりこれより遅い日を定めた場合には、その日が通知期限となります(会社計算規則124条1項1号)。
臨時計算書類についての監査報告も、臨時計算書の全部を受領した日から4週間を経過した日、またはこれより遅い日を合意により定めた場合には、その日が通知期限となります(会社計算規則124条1項2号)
なお、合意による通知期限については、原則的な通知期限を取締役と監査役との合意により延長することはできますが、短縮することはできません。
監査役による会計監査は、計算書類を受領してからの4週間のうちのみ行われるわけではありません。会計監査人を設置しない株式会社では、監査役は計算書類の表示の適性について、自ら監視意見を表明するのであり、監査の権限を制約されていない監査役であれ、監査の範囲を会計監査に限定されている監査役であれ、期中において、会社の内部会計統制の整備や運用の状況を確認し、また会社の事業活動の内容や、会社の事業環境を掌握して、重要な虚偽記載が生じる危険について、理解をすすめているはずです。期末の会計監査は、これらのような期中の監査活動を前提にして、とくに危険性の高い分野について重点を置いて実施されるわけです。
・監査の内容の通知方法(会社計算規則124条2項)
計算書類及び臨時計算書類は、取締役会の承認を受ける前提として、法で定められた監査を受けなければなりません(436条3項、441条3項)。特定監査役が特定取締役に監査報告の内容を通知した日に、計算書類等について監査を受けたものとして扱うと規定しています(会社計算規則124条2項)。
旧商法では通知の方法を書面を原則としていましたが、現行の会社法では、計算関係書類の提出方法を規制していません、各会社の状況により、適宜の方法で行えばいいということになりました。
・通知がない場合(会社計算規則124条3項)
監査役が前項の通知期限までに監査報告の内容を通知しない場合には、その通知期限に監査役の監査を受けたものとみなして、手続(取締役会における計算書類の承認及び定時株主総会での承認)を進めることを認めています(会社計算規則124条3項)。定時株主総会の招集の通知に際しては、監査役の監査報告に代えて監査を受けたものとみなす(437条、会社計算規則133条1項)。
会計監査人の設置されない株式会社では、計算書類は定時株主総会の承認決議事項です。たとえ監査役が計算書類の表示について不適正である旨の監査意見を表明しても、定時株主総会において計算書類の承認を受けることは可能です。この規定は、会社の内紛などによって監査役が監査報告の提出そのものを拒否した場合に、会社の決算手続が麻痺することを防ぐという、実務的には合理的な必要性から生じた規定です。
・特定取締役・特定監査役(会社計算規則124条4項、5項)
会社計算規則では、監査報告書を受領する取締役を特定取締役、監査報告の内容を通知する監査役を特定監査役と定めています(会社計算規則124条)。特定取締役及び特定監査役は、監査報告の通知期限について、合意により伸長する権限を有しています。
@)特定取締役(会社計算規則124条4項)
特別の指定のない限り、監査を受けるべき計算関係書類の作成に関する職務を行った取締役が特定取締役となります。会社は特定取締役を別に指定することもできます。指定の方法は、必ずしも取締役会の悪決議の必要はなく、適宜の方法で指定すれば足りると解されています。
A)特定監査役(会社計算規則124条5項)
監査役会設置会社以外で、複数の監査役を設置している場合には、監査役同士の互選で、特定監査役を定めることができます。指定がないときは、監査役全員で、監査報告を通知します。
監査役会設置会社では、監査役会の決議で特定監査役を定めることができます。
² 計算関係書類の提供(会社計算規則125条)
計算関係書類を作成した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役)は、会計監査人に対して計算関係書類を提供しようとするときは、監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会の指定した監査等委員、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会の指定した監査委員)に対しても計算関係書類を提供しなければならない。
監査役会、監査等委員会あるいは監査委員会は、取締役・執行役より会計監査人に計算関係書類が提供されるときには、同時に計算関係書類を受領します。会計監査人の監査報告を受領する前に、自ら計算関係書類等の内容を確認し、会計監査人の監査の結果と自己の判断を比較することになります。
なお、旧商法では計算書類の提供の方法を指定していましたが、現行の会社法では規制していません。各会社の状況により、適宜の方法で行うことになっています。
² 会計監査報告の内容(会社計算規則126条)
@会計監査人は、計算関係書類を受領したときは、次に掲げる事項を内容とする会計監査報告を作成しなければならない。
1 会計監査人の監査の方法及びその内容
2 計算関係書類が当該株式会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見があるときは、その意見(当該意見が次のイからハまでに掲げる意見である場合にあっては、それぞれ当該イからハまでに定める事項)
イ 無限定適正意見 監査の対象となった計算関係書類が一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して、当該計算関係書類に係る期間の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示していると認められる旨
ロ 除外事項を付した限定付適正意見 監査の対象となった計算関係書類が除外事項を除き一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して、当該計算関係書類に係る期間の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示していると認められる旨並びに除外事項
ハ 不適正意見 監査の対象となった計算関係書類が不適正である旨及びその理由
3 前号の意見がないときは、その旨及びその理由
4 追記情報
5 会計監査報告を作成した日
A前項第4号に規定する「追記情報」とは、次に掲げる事項その他の事項のうち、会計監査人の判断に関して説明を付す必要がある事項又は計算関係書類の内容のうち強調する必要がある事項とする。
1 継続企業の前提に関する注記に係る事項
2 会計方針の変更
3 重要な偶発事象
4 重要な後発事象
・会計監査人の会計監査報告の作成(会社計算規則126条1項)
会計監査人設置会社における会計監査人の監査報告の内容を規定しています。会計監査人は、会計監査人設置会社において、各事業年度に係る計算書類およひその附属明細書、あるいは連結計算書類、そのほか臨時計算書類を監査します(436条2項、441条2項、444条4項)。会計監査人設置会社では、監査役は、監査等委員会または監査委員会も、計算関係書類を監査しますが、その意見の表明は、会計監査人の監査の方法または結果を相当と認めるかどうかにとどまっています。事業報告及びその附属明細書については、監査役、監査等委員会または監査委員会のみが監査報告書を作成し、会計監査人の監査対象とはなっていません(436条2項)。金融商品取引法に規定する各種開示書類に含まれる財務計算に関する書類ついては、独立した監査人の監査証明を受けることが求められています(金商法193条の2)。そこで示されている監査証明の内容については、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令に定められています。会社法上の監査及び金商法上の監査は、いずれも会計専門職が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して行います。
・監査報告の内容(会社計算規則126条1項)
@会計監査人の監査の方法およびその内容(会社計算規則126条1項1号)
経営者の責任には、財務諸表等の作成と、財務諸表に重要な虚偽の表示がないように内部統制を整備・運用することが含まれています。
監査人の責任には、上記の経営者の責任で作成された財務諸表等について独立の立場から意見を表明するところにあります。監査人の記載としてはさらに、監査が一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して行われたこと、監査の基準は監査人に財務諸表に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的な保証をを得ることを求めていること、監査は財務諸表項目に関する監査証拠を得るための手続を含むこと、監査は経営者が採用した会計方針及びその適用方法ならびに経営者によって行われた見積りの評価も含め全体としての財務諸表の表示を検討していること、監査手続の選択及び適用は監査人の判断によること、財務諸表監査の目的は、内部統制の有効性について意見を表明するためのものではないこと、監査の結果として入手した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切なものであることを内容とします。会社法に基づく会計監査人の監査報告による監査の方法およびその内容の記載も、このような内容を踏まえたものとなります。
会計監査人の監査報告における監査の方法及び内容の記載も、監査役の監査報告における記載(会社計算規則122条1項)と同じく、監査報告の受領者が監査の信頼性を判断することを可能にすることを目的とします。監査役の監査報告では、この目的を達成するために、監査役が実施した監査活動が具体的に明らかになるような記載が求められており、これと比較すれば、会計監査人の監査報告にも期待性が求められていると考えられます。
実際の会計監査人による監査の内容は、監査基準や公認会計士協会の指針など、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠してなされています。そして、監査報告では、その旨が示されることによって、会計監査の内容はある程度明らかになり、その信頼性を確保することができるのであって、限られたスペースの監査報告書において、あえて監査の手続を具体的に記す必要性は乏しいという意見があります。
A計算関係書類が当該株式会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見があるときは、その意見
イ)無限定適正意見(会社計算規則126条1項2号イ)
監査の対象となった計算関係書類が一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して、その計算書類が対象期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示していると認める判断を指します
会計監査人の、この判断は絶対的なものではなく、計算書類に重要な虚偽の表示がないかどうかの合理的な保証を得たことを意味します。この合理的な保証を得たというのは、監査が対象とする財務諸表の性格的な特徴や監査の特性等の条件がある中で、職業的専門家としての監査人が一般に公正妥当と認められる監査の基準に従って監査を実施して、絶対的ではないが相当程度の心証を得たことを意味します。
計算書類の適正性の判断においては、監査基準によれば、形式的に経営者が採用した会計方針が、企業会計の基準に準拠して継続的に適用されているかどうかのみならず、その選択終え予備適用方法が会計事情や取引を適切に反映するものであるとかどうか並びに財務諸表の表示方法が適切であるかも評価するという実質的な判断が求められると考えられています。
ロ)除外事項を付した限定付監査意見(会社計算規則126条1項2号ロ)
監査の対象となった計算関係書類が、除外事項を除き、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に準拠して、その計算関係書類の対象期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているという判断を指します。
この場合の除外事項には、監査範囲の制約、すなわち、後発事象や不確定の事項等、一定の事項について、重要な監査手続を実施できないために、その事項について意見を表明するに足りる合理的な木曽が得られない場合と、計算書類の表示の不適正、すなわち、計算書類の特定の項目について、会計方針の適用やその変更が適切でない、あるいは計算書類の表示方法が適切でないと判断される場合とがあります。
除外事項がある場合には、監査範囲の制約については、実施できなかった監査手続と、監査範囲の制約の事実が影響する事項について説明し、不適正な事項については、除外した不適正な事項およびその事項が計算関係書類に与える影響を具体的に説明することが求められると考えられます。
ハ)不適正意見(会社計算規則126条1項2号ハ)
監査の対象となった計算関係書類において、経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、計算書類の表示方法に関して著しく不適切なものがあり、計算書類が全体として虚偽の表示に当たると判断したことを意味します。
意見の中で、不適正事項の内容及び不適正と考える理由を示し、その事項が計算書類に与える影響の重要性にかんがみ、計算書類が会社の財産及び損益の状況を適正に表示していない旨を表明します。
B前号の意見がないときは、その旨及びその理由(会社計算規則126条1項3号)
重要な監査手続が実施できないために、計算書類についての意見表明のための合理的な基礎を得られないときには、会計監査人は監査意見を表明しません。その場合、会計監査人は、監査意見を表明しない旨と、その理由を記さなくてはなりません。
意見不表明となるのは、例えば偶発事象や後発事象、または決算期日経過後に明らかになった過年度の決算修正について、時間的な制約、子会社や経営陣の協力が得られないなどの理由によって十分な監査証拠が得られない場合です。継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象または状況が存在している場合において、経営者がその疑義を解消させるための合理的な経営計画等を提示しない場合も、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じて、監査範囲の制約を理由として除外事項を付した限定付適正意見を表明するか、意見を表明しないかをします。
継続企業の前提に重要な疑義が生じている場合で、経営者が対応策を実施してもなお企業の継続性に重大な不確実性が残るときや、重要な後発事象が生じている場合は、その旨を注記表に示さなければならないことになっています(会社計算規則98条1項)。注記表の記載がないか、記載が適切でないと認められるときは、計算書類の不適切な表示を理由に限定付適正意見を表明するか、無限定適正意見を表明した上で継続企業の前提に関する注記に係る事項や偶発事象について追記します。
なお、監査意見を表明しないという結論も、監査の結論の一種です。その内容を含む監査報告の通知によって、会計監査人による監査報告の内容の通知がなされたことになります。
C追記情報(会社計算規則126条1項4号、2項)
@)継続企業の前提に関する注記に係る事項(会社計算規則126条2項1号)
会計監査人設置会社では、債務超過などの財務指標の悪化、重要な債務の不履行の可能性など、会社が将来にわたって事業を継続することの前提に重要な疑義を抱かせる事象または状況が存在する場合であって、その事象または状況を解消し、または改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときには、@当該事象または状況が存在する旨及びその内容、A経営者の対応策、Bなお重要な不確実性が認められる旨及びその理由、C重要な不確実性の影響を計算書類に反映しているか否かを注記することが求められています(会社計算規則98条1項、100条)。
会計監査人は、継続企業の前提に関する注記が適切になされ、無限定適正意見を表明することを前提に、なお計算書類の内容のうち強調する必要がある事項として、継続企業の前提に関する注記について追記を行います。注記が適切になされていないときには、不適切な開示事項が存在することを理由に限定付適正意見または不適正意見が表示され、会社が適切な経営改善策等の対応を示さないときには、監査範囲の制約を理由として限定付適正意見の表明または監査意見の表明がなされないことは、上記の通りです。
この場合、監査人の責任は、企業の事業継続能力そのものを認定し、企業の存続を保証することにはなく、継続企業の前提に関する適切な開示が行なわれているかどうかの評価にあります。
A)会計方針の変更(会社計算規則126条2項2号)
企業会計原則は、「企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」旨を定めています。これが継続性の原則です。会計方針の変更が、その継続性の原則に反すると認められる場合、例えば不適切な理由で変更させられる場合には不適正意見を付すことになります。
B)重要な偶発事象(会社計算規則126条2項3号)
偶発事象は、利益または損失の発生する可能性が不確実な状況が決算期日現在すでに存在しており、その不確実性が将来事象の発生することまたは発生しないことによって最終的に確定するものをいいます。発生の可能性が高く、各金額の見積りが可能な偶発債務については、負債の部に引当金が設定されます(会社計算規則6条2項)。会社計算規則は、保証債務、係争事件に係る損害賠償債務および手形遡求義務を注記すべき偶発債務として例示しています(会社計算規則103条)。会計監査人は、適切な注記がなされており、無限定適正意見を表明することを前提に、なお重要な偶発事象について、追記情報で示すことになります。
C)重要な後発事象(会社計算規則126条2項4号)
監査の対象となる後発事象とは、株式会社の最終の決算日の翌日から監査報告書作成日までの間に発生した会社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす会計事象を言います。
会社法の下では、会計監査人の監査、監査役、監査等委員会あるいは監査委員会の監査手続のすべてを終えた後に、計算書類について取締役会の承認を受けることになっています(436条3項)。したがって会計監査人による監査が終了するまでに発生した重要な後発事象は、すべて計算書類に反映されているか、注記されているはずです。このような扱いがされていない重要な後発事象が存在する場合には、限定付適正意見または不適正意見が表明されることになります。
後発事象には、決算日後に生じた会計事象だが、その実質的な原因は決算日前にすでに存在し、決算日現在の会計上の判断ないし見積もりをする上で、追加的ないしより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない事象があります。このような事象が生じた場合には、計算書類の修正が求められます。偶発債務として認識されていた係争中の損害賠償債務について、若いが成立ないし裁判が確定したため、その債務が確定債務となる場合や、決算日後取引先の経営破綻が明らかになったため、決算日現在のその取引先に対する売掛金について貸倒引当金の設定ないしは増額が必要となる場合等が該当します。会計監査人は、このような後発事象が発生しているときには、適切な計算書類の修正がなされているかどうかを確認し、適切な修正がなされていないときは、限定付適正意見ないしは不適正意見の表明を検討することになります。
後発事象によっては、継続企業の前提に疑義を生じさせることもあります。会計監査人が、後発事象の計算書類に与える影響、あるいは継続企業の前提に与える影響について、十分な監査証拠が得られない場合には、監査範囲の制約を根拠に限定付適正意見を表明するか、監査意見を表明しないこともあります。
D会計監査報告を作成した日(会社計算規則126条1項5号)
監査報告書の日付は、後発事象の範囲を含め監査人の責任を確定する意味を持つものです。また、会社法上の会計監査人の監査報告では、監査報告書の日付は、会計監査人が会社計算期間に定められた通知期限日までに会計監査報告の内容を通知したことを確認する意味をも有しています。
実務上、監査報告の日付は、会社法上の計算関係書類の監査報告については、上記通知期限日内の特定の日を作成日としています。
※その他記載事項
@)会計監査人の署名
会社計算規則に規定はありませんが、監査証明府令には、金融商品取引法上の財務諸表等に付する監査証明に歯、監査を行った公認会計士が署名すること、監査人が監査法人の場合はその代表者及び監査業務を担当した社員が署名をすることを求めています。
A)会計監査人の独立性
公認会計士法は、公認会計士または監査法人が財務諸表や計算関係書類について証明する場合に、被監査会社その他のものとの利害関係の有無を監査報告書に明示することを求められています。会社計算規則には規定はありませんが、会社法に基づき作成される会計監査人の監査報告にも、会計監査人の独立性についての説明が記されています。
² 会計監査人設置会社の監査役の監査報告の内容(会社計算規則127条)
会計監査人設置会社の監査役は、計算関係書類及び会計監査報告(第百三十条第三項に規定する場合にあっては、計算関係書類)を受領したときは、次に掲げる事項(監査役会設置会社の監査役の監査報告にあっては、第一号から第五号までに掲げる事項)を内容とする監査報告を作成しなければならない。
1 監査役の監査の方法及びその内容
2 会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨及びその理由(第百三十条第三項に規定する場合にあっては、会計監査報告を受領していない旨)
3 重要な後発事象(会計監査報告の内容となっているものを除く。)
4 会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項
5 監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由
6 監査報告を作成した日
・会計監査人設置会社の監査役の監査報告の作成(会社計算規則127条)
大会社は必ず会計監査人を設置することが求められ、さらに公開会社である場合には、監査役会設置が求められています(328条1項)。この場合、この会社計算規則127条による監査役の監査報告は、監査役会に提出され、監査役会が各監査役の監査報告に基づいて監査役会の監査報告を作成する(会社計算規則128条1項)ことになります。
監査報告が対象とする計算関係書類は、株式会社の事業年度に係る計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類及び連結計算書類です。会計監査人設置会社の監査役は、必ず業務監査権を有しています(381条1項、389条1項)。なお、取締役の業務監査の結果を含めた事業報告及びその附属明細書に係る監査報告の内容については会社法施行規則129条に規定されています。ちなみに日本監査役協会によるひな型は、そのふたつを一緒にして1通の書類にまとめて作成することを基本としています。
監査役会設置会社における監査役会監査報告は、本条及び会社法施行規則129条により作成される各監査役の監査報告に基づいて作成されます(会社法施行規則130条、会社計算規則128条1項)。法の趣旨からみれば、監査役の監査報告と、監査役会の監査報告は原則として別個に作成されるべきであるのですが、物理的には、各監査役の監査報告と監査役会の監査報告とを一体としてまとめた1通の監査報告をまとめた1通の監査報告を作成することも認められています(法務省令95頁)。各監査役と監査役会のそれがまったく同一であれば、複数の監査役の監査報告として1通の監査報告を備え置くことや、監査役会の監査報告をもって各監査役のそれぞの監査報告として作成・代用することも可能であると解されています。
定時株主総会の招集に際して株主に提供されるのは、監査役会の監査報告のみです(会社計算規則133条1項)が、監査役の監査報告は、監査役会の監査報告とともに、株主や債権者の閲覧の供されます(442条)。
・監査報告の内容(会社計算規則127条)
@監査役の監査の方法およびその内容(会社計算規則127条1号)
各監査役が実際に行った監査活動に即して記載されるべき子とは、会計監査人を設置しない会社の監査役の監査報告(会社計算規則122条)と同様です。
監査役会を設置会社では、監査役会によって、監査の計画、各監査役の監査業務の分担が決定されます(390条2項)ことになります。会計監査人設置会社では、計算書類の表示の適正についてま意見は、会計監査人が述べ、監査役は会計監査人の監査の方法または結果について意見を述べます。このことは、監査役が計算書類の表示が適正であるか自らの検証を実施しないという意味ではなく、監査役は、取締役や使用人から報告を求め、あるいは調査することによって、会社の財産及び損益の状況について、自らの判断を形成し、自己の判断と会計監査人の評価との間で重要な齟齬がないかを確認することになります。
監査役の取締役等からの報告聴取や調査は、計算書類の監査として独自に行われるというよりは、監査役の監査業務と一体として行われるのが実際でしょう。すなわち、監査役は、会計監査人と同様の専門的な監査手続を繰り返すことが求められているわけではなく、むしろ業務監査によって得た会社の業務に関する知見をもって、会社の財産および損益の状況に関する自己の判断を形成することができます。とくに債権の回収可能性の評価、あるいは繰延税金資産の計上の根拠となる将来の企業利益の獲得の可能性等、経営者の見積もりを前提とする会計処理の適正さの評価では、監査役が会社の業務について精通していることが、重要な意味を有するはずです。
また、取締役の業務に関する監査を含む事業報告の監査報告は、計算書類の監査報告と1通にまとめられることが多いのですが、監査活動としても、業務監査のための監査と計算書類の監査とは渾然としているのが実際で、監査の方法及び内容の説明において両者を区分する必要はないと考えられています。
大会社では、いわゆる内部統制の体制について決定をすることがもとめられ(348条4項、362条5項)、内部統制の整備及び運用状況に関する監査は監査役の業務監査事項として整理されています(会社法施行規則129条1項、118条1項)。
監査役は会計監査人の監査の方法または結果の相当性を判断するために、会計監査人からその監査について説明を受けます(397条)。会計監査人から監査計画を受領してその監査について説明を受け、期中においても、会計監査人による内部統制の評定を含めて、会計監査人が実施した監査の内容および結果について、定期的に報告を受けることが想定されています。加えて、会計監査人から、監査人の独立性に関する事項その他会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項について報告を受け(会社計算規則131条)、この体制についてとくに指摘すべき事項があれば、これを監査報告に記載します(会社計算規則127条1項4号)。
A会計監査人の監査の方法または結果の相当性(会社計算規則127条2号)
会社計算規則では、会計監査人の監査の方法またはその結果を相当でないと認めたときのみに、その旨及び理由について記載することになっていますが、指摘すべき事項がないときには、「会計監査人の監査の方法および結果は相当である」と記載するのが普通です。
監査役による会計監査人の監査の方法及び結果の評価は、内部統制に対する監査を含み、監査役の業務監査によって得られた会社の財産及び収益の状況に関する監査役自身の判断、会計監査人より報告を受け、会計監査人の監査の内容及び、監査の適正を確保する体制についての説明についてなされることになります。具体的には、次のようなことから判断されることになると考えられます。
@)会計監査人から説明を受けた、会計監査職務遂行の適正性確保の体制が監査品質管理基準に従って整備されている旨の説明を受けているか
A)会計監査人の監査計画が、自社及びその属する企業集団のリスクの評価等に対応した適切なものとなっており、かつ監査が計画どおり実施されているか。
B)監査役が掌握している経営実態についての認識及び監査役が実施した計算関係書類の監査結果と会計監査人の監査の結果との間で評価の異なる重大な問題はないか。
一連の評価の結果、会計監査人の監査の方法または結果が相当でないと判断した場合には、監査役は、その旨及び相当でない理由、ならびに監査役か行った監査の方法の概要または結果を報告します。報告を受けた監査役は、そのメンバーの審議によって、監査役会としての判断を確定します。会計監査人が会社計算規則130条1項に定める期限までに、会計監査報告の内容を通知しなかった場合には、会社は会計監査人から通知すべき日に計算関係書類の監査を受けたものとして、決算手続を進めることができます(会社計算規則130条3項)。なお、この場合、監査役の監査報告には、会計監査人から会計監査報告を受領していない旨を記載します。
B重要な後発事象(会社計算規則127条3号)
最終の決算期日後に生じた重要な後発事象について、会計監査人は、計算書類に反映されるか、適切な注記がなされていることを確認したうえで、とくに重要な後発事象として強調する必要があると判断される事項については、会計監査人の監査報告に追記情報として記載します・重要な後発事象について、適切な注記が名されていない場合には、会計監査人の監査報告において、限定付適正意見または不適正意見が表明され、後発事象について説明がなされることになります。
監査役の監査報告では、会計監査人の会計報告に記載されていない重要な後発事象を記載します。典型的なものとしては、会計監査人が監査報告の内容を監査役等に通知し、それが取締役に通知するまでの間に生じた後発事象です。このような後発事象が極めて重大で、先に通知された会計監査人の監査報告の内容が意義を失ったと判断される場合には、注記事項の追加その他計算書類の修正を行い、会計監査人監査をやり直すこともありえます。
C会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項(会社計算規則127条4号)
監査役は、次の事項について会計監査人から通知を受け(会社計算規則131条)、場合によっては適宜説明を求め、会計監査人か会計監査を適正に行うために、「監査に関する品質管理基準」及び同基準に関する実務指針を遵守しているかどうかを確認します。
@)独立性に関する事項その他監査に関する法令および規程の遵守に関する事項
A)監査、監査に準ずる業務及びこれらに関する業務の契約にの受任及び継続の方法に関する事項
B)会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制に関するその他の事項
監査役は、確認の結果、会計監査人の職務の遂行を適正に実施されることを確保するための体制に何らかの欠陥があると判断される場合、その他とくに強調すべき事項または明かにしておくことが適切であると考えられる事項があれば、その監査報告でその事項について報告します。
監査の結果、会計監査人の監査業務における品質管理に重大な欠陥があると認められる場合には、原則として、会計監査人の監査の方法または結果が相当でない旨を記載することになります。
D監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由(会社計算規則127条5号)
監査のために必要な調査がなし得なかった場合には、その旨及び理由を記載します。
必要な調査をなし得なかった場合に、会計監査人の監査の方法または監査の結果の相当性についての判断の基礎を得られないことも考えられます。必要な調査を行った上で、会計監査人の監査の方法または結果は相当でないと認める事由がないと判断されたわけではないので、監査役の監査報告においては、本条第2号の評価がなし得なかった旨を銘記することになります。
E監査報告を作成した日(会社計算規則127条6号)
監査役会を設置しない会社ではも会計監査人の監査報告を受領した日から、1週間を経過した日までに、取締役及び会計監査人に監査役の監査報告を通知しなければなりません(会社計算規則130条)。このような通知期限の履行を確認するために、監査役の監査報告の作成日を記載します。
監査役会設置会社では、会計監査人の監査報告を受領してから期日までに取締役及び会計監査人に通知を求められるのは、監査役会の監査報告に限られるので、個々の監査役の監査報告について、その作成日の記載は奉呈されていません。
² 会計監査人設置会社の監査役会の監査報告の内容等(会社計算規則128条)
@会計監査人設置会社の監査役会は、前条の規定により監査役が作成した監査報告(以下この条において「監査役監査報告」という。)に基づき、監査役会の監査報告(以下この条において「監査役会監査報告」という。)を作成しなければならない。
A監査役会監査報告は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。この場合において、監査役は、当該事項に係る監査役会監査報告の内容が当該事項に係る監査役の監査役監査報告の内容と異なる場合には、当該事項に係る各監査役の監査役監査報告の内容を監査役会監査報告に付記することができる。
1 監査役及び監査役会の監査の方法及びその内容
2 前条第二号から第五号までに掲げる事項
3 監査役会監査報告を作成した日
B会計監査人設置会社の監査役会が監査役会監査報告を作成する場合には、監査役会は、一回以上、会議を開催する方法又は情報の送受信により同時に意見の交換をすることができる方法により、監査役会監査報告の内容(前項後段の規定による付記を除く。)を審議しなければならない。
・会計監査人設置会社の監査役会の監査報告の作成(会社計算規則128条)
大会社が公開会社であるときは、会計監査人と監査役会の設置が求められます(328条)。
監査役会の監査報告は、各監査役の監査報告に基づき、これらを集約して作成されます(皆朱計算規則128条1項)。監査役の監査報告を機械的に集めるのではなく、各監査役の監査報告を前提に、監査役全員が意見を交換し、監査役会としての監査意見を決定します(会社計算規則128条3項)。なお、各監査役の監査報告と、監査役会の監査報告を一体として作成することも可能です。成立した監査役会の監査報告の内容が、監査役の監査報告の内容と異なるときには、監査役は、自己の監査報告の内容を監査役会の監査報告に付記させることができます(会社計算規則128条2項)。
連結計算書類を作成する会社では、監査役会は、各事業年度の決算ごとに、計算書類、連結計算書類、事業報告それぞれについて監査報告を作成することになります。各監査報告については、監査役会としての審議が必要です。このことを考えて、実務上は、監査報告の通知期限の調整などを通じて、3つの監査報告をまとめて1通にするのが普通です。
・監査報告の内容(会社計算規則128条2項)
@監査役及び監査役会の監査の方法およびその内容(会社計算規則128条2項1号)
監査役会は、監査の方針や業務及び財産の調査の方法などの監査計画、また各監査役の職務の分担について決定します(390条2項)。監査役会の監査報告では、このような監査計画の策定及び監査の職務の分担を行った旨、ならびに各監査役が監査役会のために定めた分担に従って実施した監査の内容について報告します。
さらに、監査役会全体で、代表取締役その他の取締役から、会社の業務の状況、とくに、内部統制の整備運用の状況について説明を受け、あるいは会計監査人から監査の結果についての報告、および会計監査人の職務の遂行の適正化を確保するための体制について説明を受けることなどが考えられます。
Aその他の記載事項(会社計算規則128条2項2号)
条文では、前条第二号から第五号までに掲げる事項と記されています。すなわち、次の事項です。
A)会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨及びその理由
B)重要な後発事象(会計監査報告の内容となっているものを除く。)
C)会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項
D)監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由
これらの記載内容については127条の説明を参照願います。
※意見の付記
監査役会の見解は、監査役会の多数決で決定されます(393条1項)。監査役会の監査報告の内容が、各監査役が作成した監査報告の内容と異なる場合には、監査役は、自己の監査報告の内容を監査役会監査報告に付記させることができます。意見の付記は、監査役会による組織的監査を志向しながらも、監査役の独任制を維持させたことの反映であると考えられています。逆に、各監査役の監査報告において意見の隔たりがあっても、監査役会における審議の結果、監査役全員の見解が一致した場合には、意見の付記が不要になる事はいうまだもありません。
会社の計算関係書類について、会計監査人の無限定適正意見が示され、監査役会監査報告の多数意見が、監査の方法または結果を相当でないと認めるものであるときは、計算関係書類は会社の財産及び収益の状況を正しく表示しているものとは認めることができません。
B監査役会監査報告の作成の日(会社計算規則128条2項3号)
監査役会監査報告は、会計監査人の監査報告を受領した後、会社計算規則で定める通知期限までに、その内容を取締役及び会計監査人に通知することが必要です。
・監査役会監査報告の内容の審議(会社計算規則128条3項)
監査役会監査報告を作成する場合には、監査役会は、1回以上会議を開催して、監査役快感さ報告の内容を審議しなければなりません。監査報告の内容の最終的な決定について、持ち回り決議などよることは妨げられないが、1回は現実に協議する場を設けることが求められます。その場合、監査役全員が同じ場所に集合することは必要でなく、情報の送受信により同時に意見の交換をするような、例えばテレビ会議などの方法で実際に双方向性が確保された協議を実施することで足りる。但し、メールのやり取りのような逐一送信と受信をくり返す方法は認められないと考えられています。
² 監査委員会役の監査報告の内容(会社計算規則129条)
@監査委員会は、計算関係書類及び会計監査報告(次条第3項に規定する場合にあっては、計算関係書類)を受領したときは、次に掲げる事項を内容とする監査報告を作成しなければならない。この場合において、監査委員は、当該事項に係る監査報告の内容が当該監査委員の意見と異なる場合には、その意見を監査報告に付記することができる。
1 監査委員会の監査の方法及びその内容
2 第127条第2号から第5号までに掲げる事項
3 監査報告を作成した日
A前項に規定する監査報告の内容(同項後段の規定による付記を除く。)は、監査委員会の決議をもって定めなければならない。
・監査委員会の監査報告の作成(会社計算規則129条)
指名委員会等設置会社では、監査委員会が、執行役および取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成します(404条2項)。ただし、監査役会と異なり、監査委員会では常勤の委員を置くことが義務づけられていません。監査委員には、監査役と同様に、会社の執行役や使用人に対する報告聴取権限、あるいは会社及び子会社に対する調査権限が与えられています(405条)が、監査委員が自ら調査を行うというよりも、内部組織、とくに内部監査部門を利用しながら、必要な調査を行うことが想定されています。
また、監査委員の調査は、調査の方針についての監査委員会の決議に従うことが求められ(405条4項)、監査役会のように独任制は認められていません。このように個別の監査役の監査活動を当然には想定していないので、監査委員会では、各監査委員による監査報告がありません。
監査委員会による業務監査の監査報告を含む、事業報告およびその附属明細書に関する監査報告については、実務上は計算書類に関する監査報告と監査日程を調整しながら一体として作成しているのが普通です。
・監査報告の内容(会社計算規則128条)
@監査委員会の監査の方法およびその内容(会社計算規則129条1項1号)
監査の信頼性を性格に判断できるように、監査委員会が実際に行った監査の方法について明瞭かつ簡潔に記載すべきことは、監査役監査報告および監査役会監査報告の場合と同じです。監査委員会では、監査委員会独自の監査活動が想定されていないため、監査委員会としての監査活動がのみが報告され、各監査委員の監査の内容を報告することは求められていません。
監査委員会においても、計算関係書類の表示の適正性については、会計監査人が意見を表明し、監査委員会は会計監査人の監査の方法または結果の相当性について意見を述べます。監査委員会は、会社の内部統制組織等を通じて、また監査委員会が選定した監査委員の調査を通じて、会社の内部統制、とくに財務報告に係る内部統制の整備、運用の状況や、会社の業務および財産の状況を確認し、さらに監査委員会が選定した委員が会計監査人より定期的に監査に関する報告を求め、また会計監査人の職務の遂行に関する体制の報告を受けて、会計監査人の監査の方法または結果の相当性についての意見の基礎を形成します。
Aその他の記載事項(会社計算規則129条1項2号)
条文では、前条第二号から第五号までに掲げる事項と記されています。すなわち、次の事項です。
A)会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときは、その旨及びその理由
B)重要な後発事象(会計監査報告の内容となっているものを除く。)
C)会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項
D)監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由
これらの記載内容については127条の説明を参照願います。
※意見の付記
監査委員会の見解は、監査委員会の決議で決定されます。監査委員会の監査報告の内容が、各監査委員の意見と異なる場合には、監査委員は、自己の意見の内容を監査委員会の監査報告に付記させることができます。
会社の計算関係書類について、会計監査人の無限定適正意見が示され、監査委員会の監査報告の多数意見が、監査の方法または結果を相当でないと認めるものであるときは、計算関係書類は会社の財産及び収益の状況を正しく表示しているものとは認めることができません。
・監査報告の内容の決定(会社計算規則129条2項)
監査委員会の監査報告の内容の決定は、監査委員会の決議によります。監査委員会の決議は、原則として議決に加わることのできる監査委員の過半数が出席して、その過半数の決議で決定されます(412条1項)。監査役会による監査報告の審議と同様に、双方向性が確保されたテレビ会議や電話会議によって、遠隔地から委員会に出席するすることは認められています。
【監査等委員会】
監査等委員会設置会社の監査等委員会による監査報告については会社計算規則128条の2が新たに加えられましたが、ほぼ同じ内容です。
² 監査等委員会役の監査報告の内容(会社計算規則128条の2)
@監査等委員会は、計算関係書類及び会計監査報告(第130条第3項に規定する場合にあっては、計算関係書類)を受領したときは、次に掲げる事項を内容とする監査報告を作成しなければならない。この場合において、監査等委員は、当該事項に係る監査報告の内容が当該監査等委員の意見と異なる場合には、その意見を監査報告に付記することができる。
1 監査等委員会の監査の方法及びその内容
2 第127条第2号から第5号までに掲げる事項
3 監査報告を作成した日
A前項に規定する監査報告の内容(同項後段の規定による付記を除く。)は、監査等委員会の決議をもって定めなければならない。
² 会計監査報告の通知期限等(会社計算規則130条)
@会計監査人は、次の各号に掲げる会計監査報告の区分に応じ、当該各号に定める日までに、特定監査役及び特定取締役に対し、当該会計監査報告の内容を通知しなければならない。
1 各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書についての会計監査報告 次に掲げる日のいずれか遅い日
イ 当該計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日
ロ 当該計算書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日
ハ 特定取締役、特定監査役及び会計監査人の間で合意により定めた日があるときは、その日
2 臨時計算書類についての会計監査報告 次に掲げる日のいずれか遅い日
イ 当該臨時計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日
ロ 特定取締役、特定監査役及び会計監査人の間で合意により定めた日があるときは、その日
3 連結計算書類についての会計監査報告 当該連結計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日(特定取締役、特定監査役及び会計監査人の間で合意により定めた日がある場合にあっては、その日)
A計算関係書類については、特定監査役及び特定取締役が前項の規定による会計監査報告の内容の通知を受けた日に、会計監査人の監査を受けたものとする。
B前項の規定にかかわらず、会計監査人が第1項の規定により通知をすべき日までに同項の規定による会計監査報告の内容の通知をしない場合には、当該通知をすべき日に、計算関係書類については、会計監査人の監査を受けたものとみなす。
C第1項及び第2項に規定する「特定取締役」とは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者(当該株式会社が会計参与設置会社である場合にあっては、当該各号に定める者及び会計参与)をいう(第132条において同じ。)。
1 第1項の規定による通知を受ける者を定めた場合 当該通知を受ける者として定められた者
2 前号に掲げる場合以外の場合 監査を受けるべき計算関係書類の作成に関する職務を行った取締役及び執行役
D第1項及び第2項に規定する「特定監査役」とは、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者とする(以下この章において同じ。)。
1 監査役設置会社(監査役会設置会社を除く。) 次のイからハまでに掲げる場合の区分に応じ、当該イからハまでに定める者
イ 2以上の監査役が存する場合において、第1項の規定による会計監査報告の内容の通知を受ける監査役を定めたとき 当該通知を受ける監査役として定められた監査役
ロ 2以上の監査役が存する場合において、第1項の規定による会計監査報告の内容の通知を受ける監査役を定めていないとき 全ての監査役
ハ イ又はロに掲げる場合以外の場合 監査役
2 監査役会設置会社 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 監査役会が第1項の規定による会計監査報告の内容の通知を受ける監査役を定めた場合 当該通知を受ける監査役として定められた監査役
ロ イに掲げる場合以外の場合 全ての監査役
3 監査等委員会設置会社 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 監査等委員会が第1項の規定による会計監査報告の内容の通知を受ける監査等委員を定めた場合 当該通知を受ける監査等委員として定められた監査等委員
ロ イに掲げる場合以外の場合 監査等委員のうちいずれかの者
4 指名委員会等設置会社 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める者
イ 監査委員会が第1項の規定による会計監査報告の内容の通知を受ける監査委員を定めた場合 当該通知を受ける監査委員として定められた監査委員
ロ イに掲げる場合以外の場合 監査委員のうちいずれかの者
会計監査人による計算関係書類の監査日程の規定です。会計監査人の監査報告を通じて受領した後の、監査役会等の監査報告の日程については会社計算規則132条に規定があります。また、会計監査人を設置しない会社の監査役等の監査報告の日程については、会社計算規則124条に規定されています。
監査日程について、旧商法では、定時株主総会の会日の8週間前までに、会社は会計監査人ないし監査役に計算書類を提出します。会計監査人は、計算書類を受領してから4週間以内に監査報告書を取締役に提出します。一方、連結計算書類については、会社は定時株主総会の会日の6週間前までに監査役ないし会計監査人に提出し、会計監査人は連結計算書類を受領してから4週間以内に監査報告書を提出することとされていました。
・通知期限(会社計算規則130条1項)
各事業年度に係る計算書類およびその附属明細書についての会計監査報告は、計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、または計算書類の附属明細書を受領した日から1週間を経過した日のいずれか遅い日を原則的な通知期限としています。
臨時計算書類については、臨時計算書の全部を受領した日から4週間を経過した日を原則的な通知期限としています。
連結計算書類についての会計監査報告は、連結計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日を原則的な通知期限としています。
連結計算書類は、個別計算書類を木曽として作成されるため、連結計算書類の会計監査人及び監査役等に対する提供は、個別計算書類の提供よりも遅れることが想定されます。この結果、連結計算書類に対する会計監査人の監査報告の通知も、個別計算書類の監査報告の通知より遅れることが想定されるため、会社法では、連結計算書類を、定時株主総会の招集通知の際に株主に提供することを義務づけてはいません(444条4項、437条)。
もっとも、実務上は、過半数の会社で、個別計算書類と連結計算書類を同時に会計監査人・監査役等に提供しています。
※通知期限の合意
各事業年度に係る計算書類およびその附属明細書についての会計監査報告の通知期限は、取締役、監査役及び会計監査人の合意により、原則的な通知期限より遅い日を通知期限とすることができます。ただし、早い日を期限とすることはできません。これは、十分な監査期間を確保するためと考えられています。
これに対して、連結計算書類の監査日程については取締役、監査役及び会計監査人の合意により、原則とは異なった通知期限とすることが認められています。つまり、遅くなっても早くなってもいいのです。というのも、連結計算書類の作成については、作成にかなりの期間を要し、法の要求する期限に間に合わない会社があることが予想される一方で、連結計算書類の作成体制や内部統制が整備されている会社は通知期限を早めることが可能で、定時株主総会の招集通知とともに連結計算書類を早期に株主に提供することを想定できるからです。
・通知の方法(会社計算規則130条2項)
会計監査人は、会計監査報告の内容を期限までに通知しなければなりません。取締役及び監査役が内容の通知を受けた時点で、会社は会計監査人の監査を受けたことになります。
なお、監査報告の通知方法については、ときに規制はなく、適宜の方法で行えばよいとされています。
・通知がない場合(会社計算規則130条3項)
会計監査人が通知をなすべき日までに監査報告の内容を通知しない場合には、会社は通知をなすべき日に監査報告の通知があったものとみなして、手続を進めることができます(会社計算規則124条4項)。監査役等の監査報告では、会計監査人の監査の方法または結果の相当性について意見を表明することができないので、会計監査報告を受領していない旨のみを示すことになります(会社計算規則127条)。定時株主総会の招集に際しては、会計監査人の監査報告に代えて監査を受けたものとみなされることを示すことになります(437条、会社計算規則133条1項)。
計算関係書類の内容の適正性について、取締役等と会計監査人との間に見解の相違が生じたときには、両者の合意のもとで監査報告の通知期限を延長することにより、見解の相違の解消に努めることが求められます(法務省令)。最終的な通知期限までに解消できなかった場合には、会計監査人は専門職業人としての判断に基づき監査意見の表明を差し控えるか、除外事項を付した限定付適正意見または手適正意見を内容とする監査報告を提供することになります。
この条文によって、監査報告の通知があったとみなされる場合には、無限定適正意見の表明があったと認められず、取締役会の承認による計算書類の確定や取締役会の決議による剰余金の配当の前提が認められていないことになります(会社計算規則135条、155条)。
・特定取締役(会社計算規則130条4項)
会計監査人の監査報告、及び監査役等の監査報告の内容の通知を受領する取締役ないし執行役を特定取締役といいます。特別の指定のない限り、監査を受けるべき計算関係書類の作成に関する職務を行った取締役ないし執行役が特定取締役となります。会社は特定取締役を特別に指名することもできます。指名の方法に規制はなく適宜の方法で指名すれば足りると解されています。
なお、監査報告の宛先は必ずしも特定取締役する必要はなく、計算書類等の最終的な責任を負う代表取締役や代表執行役でもいいし、取締役会とすることも可能で、それぞれの会社の実情に応じた記載で足りると解されています。
・特定監査役(会社計算規則130条5項)
会計監査人の監査報告、及び監査役等の監査報告の内容の通知を受領し監査役会等のように複数の監査役を設置している場合は、監査役同士の互選で定めることができます。指名がないときは、監査役全員で監査報告氏を受領します。指名がないときは監査役全員で監査報告を受領します。
² 会計監査人の職務の遂行に関する事項(会社計算規則131条)
会計監査人は、前条第1項の規定による特定監査役に対する会計監査報告の内容の通知に際して、当該会計監査人についての次に掲げる事項(当該事項に係る定めがない場合にあっては、当該事項を定めていない旨)を通知しなければならない。ただし、全ての監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)が既に当該事項を知っている場合は、この限りでない。
1 独立性に関する事項その他監査に関する法令及び規程の遵守に関する事項
2 監査、監査に準ずる業務及びこれらに関する業務の契約の受任及び継続の方針に関する事項
3 会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制に関するその他の事項
監査役等が会計監査人の監査の方法または結果の相当性について判断する前提として、「会計監査人の監査の方法または結果の相当性について確保する体制」について評価することを可能とするために、会計監査人が自己の所属する監査法人または会計事務所の体制について通知することを求めています。
監査事務所なよる報告の前提として、監査事務所が、監査業務を行うに際して、監査の品質を維持するための方針と手続をまとめた「監査に関する品質管理基準」が企業会計審議会によって制定されています、会計監査人は、この基準に従った体制が整備され、その体制下で監査が行われていることを説明します。
・通知の内容
@独立性に関する事項その他監査に関する法令及び規程の遵守に関する事項(会社計算規則131条1号)
「監査に関する品質管理基準」では、品質管理のシステムとして以下の点に関する方針及び手続を定めることを規定しています。
ア.品質管理に関する責任
イ.職業倫理及び独立性
ウ.監査契約の新奇の締結及び更新
エ.監査実施者の採用、教育・訓練
オ.業務の実施
カ.品質管理のシステムの監視
会計監査人が監査役等に通知する体制も、これらの基準に準拠したものになります。
会計監査人は、その就任に当たり、法令に反するような利害関係がないことを確認することはもちろん、会計監査の実施に関して、監査の責任者やその他の従事者が、法令などに規定する独立性に対する脅威を生じさせる状況その他の関係が生じていないかどうかを絶えず確認し、これらの状況や関係が生じている場合には、ただちにこれを除去するようにしなければならない。このために、会計監査人となった監査事務所は、監査事務所及び監査実施者が倫理規則その他の指針で定める独立性の規定を遵守することを合理的に確保するために、独立性が適切に確保されるための方針及び手続を定めなければなりません。
大会社の監査では、独立性を強化する観点から被監査会社に非監査業務の提供が制限されでおり、監査業務では会計監査に当たる者のローテーション制度により7年間連続して同一の会社を会計監査を担当できないようになっています。
A監査、監査に準ずる業務及びこれらに関する業務の契約の受任及び継続の方針に関する事項(会社計算規則131条2号)
監査事務所は、監査契約の新規の締結及び更新判断に関する手続において、監査事務所の規模及び組織、監査業務に適した能力及び経験を有する監査実施者の確保の状況、その他監査契約の新奇の締結及び更新の判断に重要な影響を及ぼす事項等を勘案し、適切な監査業務を実施することができるかを判断しなければなりません。
監査契約の新規の締結及び更新の判断に重要な影響を及ぼす事項には、相手方会社の主要株主、経営はゃ、監査役等の経歴と事業上の評判、会計基準の解釈や統制環境に対する姿勢、監査業務の範囲に対する不適切な制限の兆候などです。
B会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制に関するその他の事項独立項(会社計算規則131条1号)
監査の品質管理のシステムの整備及び運用に当たっては、監査業務の質を重視する風土を監査事務所内に醸成できるように、方針及び手続を定めることが求められます。監査事務所の経営責任者は、監査業務の質が優先されるという姿勢を明瞭に一貫して伝達し、営業や業績上の考慮事項が監査業務の運営方針を監査業務の質を優先する姿勢と整合するように、整備しなければなりません。
実際には、監査事務所の採用、教育・訓練、評価及び選任に関する方針及び手続を定め、監査業務を実施するために必要な能力、経験及び職業倫理をを備えた監査実施者を確保し、監査業務に十分な時間を確保できる監査実施者の選任体制を確立することが必要です。
そして、監査事務所は、監査業務の質を合理的に確保するために、、監査業務の実施に関する品質管理の方針及び手続を定め、監査に必要な情報及び技法を蓄積し、監査実施者に適時かつ明確な情報を伝達するとともに、適切な指示及び指導を行う体制を整えなければなりません。
・会計監査人の職務の遂行に関する事項の通知
会社計算規則は、会計監査報告の内容の通知に関して、上記の事項を通知することを求めています。しかし、実際には、上記のような事項は、会計監査人を選任し、監査契約を締結する際や更新の際に、会計監査人から説明されることになります。
会計監査報告の内容通知の時点ですべての監査役等が通知すべき事項について知っている場合には、あらためて通知する必要はない。監査役等は職務遂行の体制について、変更があった場合には、あらためてその内容について会計監査人から説明を受けなければなりません。
² 会計監査人設置会社の監査役等の監査報告の通知期限(会社計算規則132条)
@会計監査人設置会社の特定監査役は、次の各号に掲げる監査報告の区分に応じ、当該各号に定める日までに、特定取締役及び会計監査人に対し、監査報告(監査役会設置会社にあっては、第128条第1項の規定により作成した監査役会の監査報告に限る。以下この条において同じ。)の内容を通知しなければならない。
1 連結計算書類以外の計算関係書類についての監査報告 次に掲げる日のいずれか遅い日
イ 会計監査報告を受領した日(第130条第3項に規定する場合にあっては、同項の規定により監査を受けたものとみなされた日。次号において同じ。)から一週間を経過した日
ロ 特定取締役及び特定監査役の間で合意により定めた日があるときは、その日
2 連結計算書類についての監査報告 会計監査報告を受領した日から一週間を経過した日(特定取締役及び特定監査役の間で合意により定めた日がある場合にあっては、その日)
A計算関係書類については、特定取締役及び会計監査人が前項の規定による監査報告の内容の通知を受けた日に、監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)の監査を受けたものとする。
B前項の規定にかかわらず、特定監査役が第1項の規定により通知をすべき日までに同項の規定による監査報告の内容の通知をしない場合には、当該通知をすべき日に、計算関係書類については、監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)の監査を受けたものとみなす。
会計監査人設置会社における監査役、監査役会、監査等委員会あるいは監査委員会の計算関係書類についての監査報告の日程を規定しています。事業年度に係る計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類または連結計算書類が対象となります。事業報告の監査報告の日程については会社法施行規則132条に規定されています。実務上は、計算関係書類に係る監査報告とあわせて1通の監査報告が作成されるように一体の日程調整がなされます。
・監査報告の通知期限(会社計算規則132条1項)
@計算関係書類に関する監査報告の通知期限
監査報告の取締役及び会計監査人への通知期限は、事業年度に係る計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類については、会計監査人の監査報告を受領した日から1週間を経過した日を原則とします。取締役・執行役と監査役等との合意で、より遅い日を通知期限とすることはできますが、合意によっても監査期間の短縮はできません。
連結計算書類についての監査報告も、会計監査人より監査報告を受領してから1週間を経過した日を原則とします。ただし、他の計算関係書類の場合とは異なり、連結計算書類の場合は、取締役・執行役と監査役等との合意により、通知期間を延長することも短縮することもできます。
監査役、監査等委員あるいは監査委員は、会計監査人から監査報告の内容の通知を受けてから原則として1週間以内に、会計監査人の監査の方法または結果の相当性に関する意見、その他の監査意見の内容を確定しなければなりません。とくに監査役会設置会社では、各監査役が計算関係書類及び会計監査人の監査報告を受領し、各自が監査役監査報告を作成して監査役会に提供し、監査役会がこれらの監査役監査報告を受けて監査役会監査報告の内容について審議をした上で、監査役会監査報告を作成し、会計監査人及び取締役に提供します。
実務上は、計算関係書類及び会計監査人の監査報告を受けてから監査報告作成のために監査役会を開催する時期は、法定の期限よりさらに短いのが通常のようです。期中における会計監査人との定期的な協議ないし監査委員の期中における監査報告を前提とすることはいうまでもありません。
A事業報告に関する監査報告との関係
会計監査人の監査報告は、計算書類を会計監査人が受領してから原則として4週間以内に提出されるので、監査役等の監査報告の提出期限を加えると、計算書類が会計監査人及び監査役等に提供されてから、監査役等の監査報告書の提出の期限は5週間となります。これに対して、事業報告の監査役等に提出されてから4週間以内に通知することが求められるので、計算書類の監査報告と事業報告の監査報告とを一体として作成する場合には、事業報告の監査報告と提出期限を合意により延長する、あるいは事業報告の監査役等への提供を1週間遅らせるなどの調整が必要となると考えられます。
・通知の方法(会社計算規則132条2項)
監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会の計算関係書類に関する監査報告は、取締役及び会計監査人に対して通知期限まで通知されなければなりません。それぞれが通知を受けた日に、計算書類について監査内容の通知を受けたものとみなされます。その通知方法については、とくに規制はなく、適宜の方法でおこなえばいいのです、
・通知がない場合(会社計算規則132条3項)
監査役等が通知をなすべき日までに監査報告の内容を通知しない場合には、会社は通知をなすべき日に監査報告通知があったものとみなして、手続を進めることができます(会社計算規則124条)。定時株主総会の招集通知に際しては、監査報告に代えて監査を受けたものとみなされることを示しています。
この場合、取締役会の承認による計算書類の確定や剰余金の配当はできなくなります。