新任担当者のための会社法実務講座
第447条 資本金の額の減少
 

 

Ø 資本金の額の減少(447条)

@株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

一 減少する資本金の額

二 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額

三 資本金の額の減少がその効力を生ずる日

A前項第1号の額は、同項第3号の日における資本金の額を超えてはならない。

B株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第1項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。

 

資本の減少とは、文字通り、資本の額を減少することです。資本は、会社財産を減少することです。資本は、会社財産を確保するための基準となる一定の数値で有、それを容易に減少することは許されませんが、絶対に許されないのではなく、一定の厳重な手続きを踏んだばあいにのみ、許されます(資本不変の原則)。

資本の減少の目的については、とくに制約があるわけではありません。資本の減少は、@事業の縮小によって不要となった財産を株主に返還する目的のためにも行われることはありますが、Aしばしば行われるのは、損失を蒙って窮境に陥った会社が再建をするための手段としてです。例えば、資本の欠損のある会社の場合、純資産額が資本の額よりも小さく、したがって、資本の決算の補填のために準備金を使用しても、まだ資本の欠損の状態で、このような窮境に陥った会社を再建するためには、新たに資金を導入して施設を改善し、あるいは経営陣を交替させるさせることが必要ですが、そのためには、資本を減少させることが不可欠となります。というのは、資本の欠損が存在したままでは、あらたに出資をして株主になっても、当分配当を受けられないこととなるから、出資しにくいことです。この場合に、資本を減少して欠損を解消すれば、配当が受けやすくなります。

ü 株主総会の決議(447条1項)

株式会社が資本金の額を減少する場合には、次の内容について株主総会で特別決議をしなければなりません(447条1項)。

・減少する資本金の額

・減少する資本金の額の全部または一部を準備金とする時は、その旨及び準備金とする額

・資本金の減少がその効力を生ずる日

なお、上記の資本金の減少額は、その効力が発生する日の資本金の額を超えることはできません。これには二つの意味があり、ひとつは資本金の額は0までは減少させることはできるが、マイナスとすることはできないということ、もうひとつは基準日が株主総会の日ではなく効力発生日であることです(447条2項)。

このような株主総会の特別決議を要する理由は、基本的に株主の払込財産から成っている資本金を株主に対する分配が可能なその他資本剰余金に振り替えることは、事業規模の縮小など、会社の基礎に関わる事態が生じていることが多いからです。資本金の額の減少を決議する株主総会において、この資本金の減少によって生ずる分配可能額を利用した剰余金の配当をなくす旨の決議をすることは可能ですが、その剰余金の配当の効力発生日は、債権者の異議手続の終了後に設定しなければなりません(449条6項)。

※資本金減少の特別決議の例外として、次の二つのケースがあります。

・欠損の填補目的の場合

定時株主総会において、その総会日における欠損の額を超えない範囲で資本金の額を減少する旨を決議する場合には、普通決議で足りるということです(309条2項9号)。それは、新たに分配可能額を生じさせない資本金の額の減少には、会社の一部清算という性格が乏しいからです。

・株式の発行により減少額以上の資本金の額の増加がある場合

会社が資本金の額の減少と同時に株式の発行を行う結果、資本金の減少の効力発生日後の資本金の額が効力発生日前の資本金の額を下回らないときは、資本金の額の減少に株主総会決議は不要で、取締役会の決定で足りるということです(447条3項)。

ü 資本金の額の減少の効力の発生(449条)

資本金の額の減少は株主総会で決議した効力発生日にその効力を生ずることになります。ただし、債権者の異議手続が終了していないときは、その終了まで効力を生じないこととなります(449条6項)。

資本金の額の減少は、登記事項であるから、その効力発生後2週間以内に本店の所在地において登記しなければなりません(911条3項5号、915条1項)。

ü 資本金の額の減少の限度(447条2項)

減少する資本金の額は、効力発生日における資本金の額を超えることはできません(447条2項)。減少後の資本金の額がマイナスとなるような資本金減少は認められないという趣旨です。ただし、減少後の資本金の額がゼロとなる場合は差し支えないと解されています。

ü 資本金減少差益

資本金の減少額で、準備金としない額については、欠損(マイナスの分配可能額)の填補に当てられるが、その結果残額があれば、それ(資本金減少差益)はその他資本剰余金となります(会社計算規則27条1項)。

ü 債権者の異議手続

資本金の減少は、従来不可能だった株主への財産分配が以後可能となり会社財産の社外流出が容易となるので、会社債権者にとっては不利益となります。そこで、課医者は資本金の額の減少に際して、会社債権者の保護のために債権者の異議手続をとらねばならないとされています。

・会社債権者に対する公告・催告

会社は以下の事項を官報に公告し、かつ知れている債権者には各別にそれを催告しなければなりません(449条2項)。しかし、公告を、官報に加えて、定款に定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙または電子公告によってするときは、その催告は免除されます(449条3項)。

@)資本金の額の減少の内容(447条1項)

A)計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの(会社計算規則152条)

具体的には次の事項です。

.会社が最終事業年度に係る貸借対象表を公告等している場合にはその検索方法

イ.特例有限会社であるため当該公告等を要しない場合には、その旨

ウ.最終事業年度がない場合にはその旨

エ.それ以外の場合には最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容

B)債権者が一定の期間内に資本金の額の減少について異議を述べることができる旨

一定期間は、1ヶ月以上であることを要するとされています。

※知れている債権者とは、債権者が誰であり、その債権がいかなる原因に基づくいかなる内容のものかの大体を会社が知っている債権者をいいます。具体的には、金銭債権者には限られませんが、弁済・担保提供・財産の信託の方法により保護し得る債権を有する者に限られます。実務では、少額の債権者には催告を省略し、その債権者が異議を述べた場合には弁済することで片づけてしまう例が少なくありません。

・公告・催告の効果

会社債権者が一定の期間内に異議を述べなかったときは、その人は資本金の額の減少を承認したものと見なされます(449条4項)。しかし、異議を述べたときは、会社は資本金の額の減少をしてもその債権者を害するおそれがないときを除き、弁済するか、相当の担保を提供するか、またはその債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければなりません(449条5項)。

ü 資本金の額の減少の無効

資本金の額の減少手続に瑕疵がある場合には無効となりますが、それは無効の訴えを裁判所に提起することで生じます(828条1項)。この訴えは、株主、取締役、監査役、清算人、破産管財人または資本金の額の減少を承認しなかった債権者が、この訴えを、資本金の額の減少の効力発生日から6か月以内に限り提起すことができます(828条1項)。

この無効となる自由は手続の瑕疵ですが、具体的には次のものとなります。

A.株主総会決議に無効原因・取消原因がある

B.債権者の異議手続が履行されない

資本金の額の減少を無効とする判決が確定すると、その判決は第三者にも効力を有し(838条)、当該資本金の額の減少は将来に向かって効力を失います(839条)。

 

関連条文  

会計の原則(431条)   

会計帳簿の作成および保存(432条)    

会計帳簿の閲覧等の請求(433条)     

会計帳簿の提出命令(434条)    

計算書類等の作成及び保存(435条)   

計算書類等の監査等(436条)    

計算書類等の株主への提供(437条)   

計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)    

会計監査人設置会社の特則(439条)    

計算書類の公告(440条)    

臨時計算書類(441条)   

計算書類の備置き及び閲覧等(442条)    

計算書類等の提出命令(443条)   

連結計算書類(444条)   

資本金の額及び準備金の額(445条)    

剰余金の額(446条)   

資本金の額の減少(447条)    

準備金の額の減少(448条)    

債権者の異議(449条)    

資本金の額の増加(450条)    

準備金の額の増加(451条)    

剰余金についてのその他の処分(452条)   

 

 
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