新任担当者のための会社法実務講座 第455条 金銭分配請求権の行使 |
Ø金銭分配請求権の行使(455条) @前条第4項第1号に規定する場合には、株式会社は、同号の期間の末日の20日前までに、株主に対し、同号に掲げる事項を通知しなければならない。 A株式会社は、金銭分配請求権を行使した株主に対し、当該株主が割当てを受けた配当財産に代えて、当該配当財産の価額に相当する金銭を支払わなければならない。この場合においては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額をもって当該配当財産の価額とする。 一 当該配当財産が市場価格のある財産である場合当該配当財産の市場価格として法務省令で定める方法により算定される額 二 前号に掲げる場合以外の場合株式会社の申立てにより裁判所が定める額株い。 株式会社が現物配当を行う場合に、株主が現物の配当財産に代えて金銭を交付することを会社に対して請求することができる権利を金銭分配請求権と言います。 ü
株主への通知(455条1項) 会社が金銭分配請求権の行使の機会を与え、かつ、金銭分配請求権を行使するか否かを熟慮するための期間を与えるため、株式会社が現物配当を行う場合に、株主に対して金銭分配請求権を与えるときには、金銭分配請求権を行使することができる期間の末日の20日前までに、株主に対し、株主に対して金銭分配請求権を与える旨及び金銭分配請求権を行使することができる期間を通知しなければなりません(455条1項)。この期間の末日の20日前までという時期の設定は、残余財産の現物分配を行う場合の金銭分配請求権(505条2項)と同じ期間設定で、株式買取請求権(469条3項)、組織変更(776条2項、777条3項)および吸収合併・吸収分割・株式交換(783条5項、785条3項、787条3項、797条3項)の際に要求される通知・公告の時期と平仄をとったものです。ただし、金銭分配請求権の場合は広告ではなく通知のみとされているのは、株主に金銭分配請求権の行使の機会を保障するためです。通知は金銭分配請求権を行使することができる期間の末日の20日前までに、株主に到達することが必要です。ただし、通知は株主名簿上の株主の住所に宛てて発すれば足り(126条1項)、その通知が通常到達すべきであったときに、到達したものとみなされます(126条2項)。 ü
配当財産の価額(455条2項) 株式会社は、金銭分配請求権を行使した株主に対し、株主が割当てを受けた配当財産に代えて、配当財産の価額に相当する金銭を支払わなければなりませんが、配当財産が市場価格のある財産である場合には配当財産の市場価格として法務省令(会社計算規則154条)で定める方法により算定される額が、配当財産が市場価格のある財産でない場合には株式会社の申立てにより裁判所が定める額が、それぞれ配当財産の価額とされます(455条2項1号)。これは、金銭分配請求権が行使された場合に支払うべき金額の算定基礎となる配当財産の価額を画一的に定めることによって、会社にとっての事務処理の便宜を図っているものです。市場価格のある財産には、金融商品取引所などの市場で取引されている財産が典型的です。この場合の市場価格は会社計算規則154条に定められています。 そして、配当財産が市場価格のある財産でない場合(455条2項2号)には、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に配当財産の価額の決定を申し立てることになります(868条1項)。裁判所は、配当財産の価額を定める裁判をする場合には、金銭分配請求権を行使した株主の陳述を効かなければならず(870条8号)、木伊藤財産の価額を定める裁判には、理由を付さなければなりません(871条)。申立人および金銭分配請求権を行使した株主は、配当財産の価額を定める裁判に対して即時抗告をすることができ、ひの即時抗告には執行停止の効力が認められます。 Ø
関連する会社計算規則 ²
剰余金の配当に際しての金銭分配請求権(会社計算規則154条) 法第455条第2項第1号に規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる額のうちいずれか高い額をもって配当財産の価格とする方法とする。 一 法第454条第4項第1号の期間の末日(以下この条において「行使期限日」という。)における当該配当財産を取引する市場における最終の価格(当該行使期限日に売買取引がない場合又は当該行使期限日が当該市場の休業日に当たる場合にあっては、その後最初になされた売買取引の成立価格) 二 行使期限日において当該配当財産が公開買付け等の対象であるときは、当該行使期限日における当該公開買付け等に係る契約における当該配当財産の価格 金銭以外の財産を配当財産とする剰余金に対して、株主が金銭分配請求権を行使した場合、会社は配当財産の価額に相当する金銭を支払わなければなりません。その場合の金額、配当財産が市場価格のある財産である場合には法務省令で定める方法によって算定される額となります(454条2項)。 会社計算規則154条1号で行使期限日における配当財産を取引する市場における最終の価格と定めているのは、株主としては、市場価格を前提として、金銭分配請求権を行使するか否かを決定すると考えられるからです。 ただし、行使期限日に売買取引がない場合または行使期限日には市場が休みだった場合には、その後最初になされた売買取引の成立価格(会社計算規則154条1号括弧書)とされています。これは、行使期限日の前日の終値と期限日の最初の取引額のどちらを基準とするのかを考えると、前者には、最終の売買取引終了後に、配当財産の価格に重要な影響を与える事象が発生する可能性があるため、後者となったと考えられています。 行使期限日において配当財産が公開買付け等の対象であるときは、その日における公開買付けの契約における配当財産の価格と、行使期限日における配当財産を取引する市場における最終の価格のいずれか高い額を配当財産の価格とするとしているのは、配当財産が公開買い付けの対象となっている場合は、通常、買取価格が市場価格より高く設定されますが、公開買い付けに応ずることによって、その価格で配当財産を処分できる可能性があるためと推測されるからです。なお、ここでいう公開買付けとは、金融商品取引法27条の2第6項に規定する公開買付け及びこれに相当する外国の法令に基づく制度を言います。 関連条文 会計の原則(431条) 剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条) 株主の権利の制限(460条) |