新任担当者のための会社法実務講座 第424条 株式会社に対する損害賠償免除 |
Ø 株式会社に対する損害賠償免除(424条) 前条第1項の責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
前条について説明してきた、取締役の会社に対する賠償責任については、会社法の当初から総株主の同意による責任の免除のみが認められていました。役員等の株式会社に対する任務懈怠責任は損害賠償責任の一種ということで、会社は役員等に対して債務(責任)を免除することができるけれど、そのような免除は株主の利益を害するおそれが大きいので総株主の同意を要することになります。株主は単独で株主代表訴訟を提起することによって役員等の責任を追及することができるので、もし総株主の同意要しないことにすると、役員等の責任追及がさまたげられることになるからです。 それが、平成13年に株主代表訴訟の増加を契機に、一部免除制度が導入されました。 ü
適用範囲 以下の取締役の責任を免除するには総株主の同意が必要です(424条、120条5項、462条3項、464条2項、465条2項)。 これらのうち、ウ.における分配可能額超過分の弁償義務(462条3項)については、債権者保護の趣旨から、総株主の同意をもってしても免除することはできません。しかし、エ.とオ.については類似した事象でありながら総株主の同意をもって免除することができます。これについてバランスを欠いているという意見もあります。 株主代表訴訟において和解をする場合には、総株主の同意は不要てす(850条4項)。ただし、上述の分配可能額超過分の弁償義務の分配可能額を超える部分について和解することはできません。 ア.取締役の会社に対する損害賠償責任(423条1項) イ.違法な利益供与の弁証義務(120条4項) ウ.分配可能額を超えて剰余金分配したときの弁証債務のうち分配可能額相当分(462条1項、3項) エ.分配可能額を超えて自己株式買取に応じた場合の責任(464条1項) オ.期末の欠損填補責任(465条1項) ※取締役の責任の免責に総株主の同意が必要なのは、取締役の責任を追及する株主の責任追及等の訴えの提起権が単独株主権であること(847条1項)とのバランスをとっていると考えられます。そのため、定款で単元未満株主の訴権を制限した場合には、当該株主は総株主には含められません。 役員等の任務懈怠の捉え方によって適用範囲が異なってくる場合があります。取締役が会社との取引によって負担することになった債務について会社に対して忠実に履行すべき義務を負うという解釈を前提として、株主代表訴訟の対象となる取締役の責任には、取締役の地位に基づく責任の他、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれる、という判例(最高裁判決平成21年3月10日)の解釈があります。この解釈に従えば、取締役の取引債務を会社が免除する場合には、この424条が適用されることになります。 もし、役員等の会社に対する取引債務は取締役の忠実義務・善管注意義務の対象ではないと考えると、取引債務の免除について、この424条はの適用範囲ではなくなる。そこで、会社は株主総会で総株主の同意を取りつける必要がなくなるわげす。 ü
要件・効果 責任免除の要件である総株主の同意は、株主全員一致による株主総会決議を要求するものではなく、各株主の個別の同意を集めたものであってもよいと解されています。この場合、株主には議決権を有しない株主も含まれます。ただし、株主代表訴訟提起権とのバランスを考慮し、定款で単元未満株主の訴権を制限した場合には、単元未満株主は総株主に含まれないと解されています。実際のところ、総株主の同意を得るということは少数の株主しかいない非公開会社以外では不可能です。 裁判例では、責任免除には総株主の同意と会社の免除の意思表示の2個の要件の具備が必要であるとしています(東京地裁判決平成20年7月18日)。この裁判では1人株主であった取締役の会社に対する責任が株式譲渡後に問われたというもので、取締役の任務懈怠行為自体を取締役の責任を免除する黙示の意思表示と解する余地もあったのですが、判決はそれを認めませんでした。それは1人株主である取締役が損害賠償を一切負担しないこととなって、取締役の善管注意義務・忠実義務の強行法規性に反することを危惧したためです。 総株主に同意により役員等の会社に対する責任を免除できるとすると、債権者の利益を害するおそれがあります。しかし、その場合には責任免除の意思表示が詐害行為取消の対象になると解することによって対応すると解されています。
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