新任担当者のための会社法実務講座
第445条 資本金の額及び準備金の額
 

 

Ø資本金余の額及び準備金の額(445条)

@株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。

A前項の払込み又は給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上しないことができる。

B前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。

C剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。

D合併、吸収分割、新設分割、株式交換又は株式移転に際して資本金又は準備金として計上すべき額については、法務省令で定める。

 

ü 資本金とは

「資本金は、株式会社において、会社債権者保護のため、株主の出資を一定金額以上財産として保有させる仕組みです。すなわち、有限会社の結果、会社債権者は、会社に債務の弁済に必要な財産を維持させる必要がありますが、不法行為債権者のように、債権取得時に個別交渉で会社にそれを義務付けることができない会社債権者もいます。そこで法律上、貸借対照表上の純資産額、資本金、準備金等の総額を上回る場合でなければ、会社は株主に対して剰余金の配当等財産分与をしてはならないという形で、一定金額以上の会社財産の維持を義務づけています。これを資本維持の原則と言います。」

これが学説上の通説(江頭)と言えるでしょう。しかし、会社法では直接無限責任社員の存在する持分会社でも「資本金」は存在することになっているので、上の通説は持分会社を含めた文脈では説明しきれなくなっています。(ただし、持分会社を除いた株式会社のみに当てはめる場合には有効です)そこで原則にもどりますもともと資本金というのは、株主が会社に出資した財産の総額を記録した数値で、出資時点から、現時点までの間、どの程度その財産が増減したかを把握するために考えられた会計上の工夫と言えます。

 たとえば、A株式会社に100万円を出資した場合、資本金として「100万円」とメモします。その後,A株式会社が事業により、10年後に純資産(=資産−負債)が300万円になったとき、10年前の「資本金 100万円」というメモをみれば、A株式会社は10年間事業を続けて、200万円(300万円−100万円)も利益を出したと分かります。

このように資本金は、実際のところ、過去に出資した財産の価額を記した「メモ」に過ぎないというわけです。したがって、次のことが言えます。

1)資本金は,「現在」いくら会社に財産が残っているかということは,何も表していない。

2)資本金という制度だけでは,債権者の保護には何の役にも立たない。

3)資本金は,社員が出資した財産の価額をベースに決められるものなので,社員の権利義務と密接な関連がある。

もっとも、この「資本金」というメモ自体は、株式会社と持分会社に共通の概念ですが、株式会社の世界では株式会社に特有の政策目的を達成するために、資本金というメモを利用して。特殊なルールを採用しています。それが資本の三原則と呼ばれるものです。

旧商法の制定時は以下の三つの原則でした

ア.資本確定の原則

イ.資本充実・維持の原則

ウ.資本不変の原則

しかし、その後の法改正により、定款で資本の額を定めるという規定が廃止されたため、資本確定の原則が廃止され、以下のようなものとなりました。

ア.資本充実の原則

イ.資本維持の原則

ウ.資本不変の原則

ü 資本確定の原則

資本確定の原則は法改正により廃止となったものですが、少し説明していきましょう。

資本確定の原則というのは、定款で資本金の額を決める制度のことです。なぜ,定款で資本金を決めていたかというと、その理由は次の2つの政策目的を実現するためです。

A.無理な設立をして,出資が無駄になることを防止する(健全な設立)

例えば、自動車メーカーを立ち上げるのに最低100億円の資金が必要であるにもかかわらず、出資金が1億円しか集まらなかったのならば、どうしたらよいでしょうか。会社の立ち上げに必要な出資金が集まらなければ、無理に設立をしても、すぐに会社が潰れて、出資金が無駄になってしまいます。そうだとすれば、設立に必要な出資金が集まるまで設立をすることがでいないようにした方が、出資者の保護に役立ちます。

 そこで、資本確定の原則のもとで、発起人が定款を作るときに予め会社をスタートするのに必要な「資本金」の額を定款に記載させ、その額に見合うだけの出資金の拠出者が決まるまでは,設立することができないようにしていたのです。

B.既存株主の持株比率を保護する(持株比率維持)

株主が会社に対する影響力を確保することを認めるということです。資本確定の原則が採用されていた時代は資本金と株式の数が連動していた(資本金が増えれば株式の数が増え、資本金が減れば株式の数は減る)時代でしたから、資本金を定款で決めるということは「株式の数」も定款で決めるということであり、さらにいえば、新株を発行して個々の株主の持株比率を変えるためには、定款を変更しなければならないということを意味していました。

持分会社のように社員全員の同意まではいらないものの、株主総会の特別決議で定款の変更をしなければ新株発行ができないとしておけば、多数派株主が新株発行によって少数派株主に転落することはありません。こうした会社に対する支配権の維持という政策目的を、「資本金を定款に記載する」という手段によって実現していたわけです。

以上のように,資本確定の原則で実現しようとした政策目的は株主の保護を目的としたものであり、この政策目的自体は決して不当なものではありません。

しかし,この資本確定の原則のもとでは新株発行による資金調達をしようとするたび、定款変更が必要となるので、資金調達がやりにくいという不都合がありました。つまり,政策目的の実現手段として、資本金を利用したことが裏目に出たわけです。

そこで、このような不都合を修正するために

@)資本金を定款の記載事項から除き,定款変更をしなくても,新株発行ができるようにし(資本確定の原則の放棄)

A)新株発行を,出資者の集まりである株主総会ではなく,経営の専門家である取締役会で決めることができるようにする(授権資本制度・新株発行の権限を株主総会)

という内容の法改正が行われて、簡単に資金調達ができるようにされました。ただし、健全な設立の政策目的については、会社法においても定款で「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)を定めなければならないとすることで実現されていますし、もう一つの持株比率の維持の政策目的についても、取締役会の新株発行権限に制限をかけないと、経営者が自分の仲間だけに株式を発行して会社を乗っ取ったりするおそれがあるので、定款で発行可能株式総数(37条)を定めなければならないことして、持株比率を極端に希薄化することはできないような工夫がされています。

つまり、かつて「資本確定の原則」で実現していた政策目的を、定款の記載事項を工夫することにより、別の形で実現しているのです。

ü 資本充実の原則

資本充実の原則とは、資本の額に相当する財産が現実に会社に拠出されなければならないという原則です。会社設立によって資本が定められ、あるいはその後に資本が増加する場合に、その額に相当する財産が拠出されていないというのでは、資本を定めた意味がなくなってしまうからです。

会社法では445条で、この原則が反映され、次の点を規定しています。

・設立時であろうが新株発行時であろうが、現実の拠出をしない限り絶対に株主になれない。

・資本金の額は発行価額ではなく、「現実に拠出された財産の価額」をベースに定める。

ü 資本維持の原則

資本維持の原則とは、資本の額に相当する財産が現実に会社に保有されなければならないという原則です。これは実際には、資本金の額に相当する財産が現実に会社に保有されていない場合には、剰余金の配当等をすることができないという原則なのです。このために株式会社では,出資の払戻しが禁止されていますが,その払戻し禁止の手段として

・出資金の額を資本金としてメモする。

・純資産が資本金以下のときは,配当をしたり,株主から自己株式を取得してその対価を支払うことができないようにする

という方法が取られており、これを「資本維持の原則」と呼んでいるのです。

この原則について、株式会社には資本金に相当する財産が必ず存在するのだから債権者が害されることはない、と誤解する人が少なくありません会社に資本の欠損が生じたり,会社が債務超過になったりすることはありますが,経営を失敗して,そうなったのなら仕方ありません。

 また,会社法は,資本の欠損や債務超過が生じたからといって、株主に資本の欠損分や債務超過のマイナス額について追加出資義務を負わせているわけでもないし、会社を強制的に解散させるわけでもありません。つまり、会社法は、資本金に相当する財産を現実に維持し続けなければならない義務を課しているわけではなく、単に出資金の払戻しを禁止しているだけなのです(461条)。

ただし、

分配可能額による配当等の制限(461条)=資本維持の原則

とはいえなくて、分配可能額による配当等の制限は資本維持の原則を含んではいますが、その他の理由による制限も含まれています。例えば、分配可能額の算出には、資本維持の原則とは無関係な利益準備金や自己株式の価額なども計算されるからです。

ü 資本不変の原則

「不変」というと,増加と減少のどちらも禁止されているように見えますが、資本が増加することは、会社財産を確保するための規準となる金額が増加することであって、会社債権者にとって有利なことですから、増加が禁止されているわけではありません。これに対して、資本を減少させることは、会社債権者に不利なことであって、資本不変の原則は、会社が勝手に資本を減少させることを禁止する原則です。この資本不変の原則は、債権者の知らないうちに資本金の減少により、その他資本剰余金が増えてしまうと、資本充実・維持の原則を採用した意味がないので、採用されているものです。

会社法では、債権者保護手続を含む資本金の減少手続を取れば、資本金の減少が許されます(449条)。

ü 資本金の額(445条1項)

資本金の額は、原則として設立または株式の発行に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した財産の全額です(445条1項)。

※設立に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した額(会社計算規則43条1項)

設立に際して株主となる者が会社に対して払込んた額から会社の負担に帰す設立費用や決められた準備金等を控除した額となります

※株式の発行に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した額(会社計算規則14条)

原則として、設立に際して株主となる者が会社に対して払込み・給付した場合と同じように計上します。

しかし、その例外として、払込み・給付に係る額の2分の1を超えない額は、資本金として計上せずに、資本準備金とすることができます(445条2項、3項)。いずれにせよ、最低でも払込み・給付に係る額の2分の1以上は資本金に計上しなければいけないわけです。

株式会社では、資本金の額は、定款の記載事項ではありませんが、登記事項になります(911条3項)。

ü 準備金とは

準備金は、法律の規定により貸借対照表の純資産の部に計上することを要する計算上の金額です。準備金という金銭が実際に蓄えられているわけではなく、たんに貸借対照表上で金額が計上されているにすぎないものです。純資産額が資本金と準備金の合計額を上回らなければ配当はできないことになります。準備金には資本準備金と利益準備金があります。

・資本準備金:いわゆる資本取引から生ずるもので、準備金として積み立てが要求されるもの、将来会社の経営が悪化し欠損が生じた際に取り崩して補填にあてることとができるように積み立てられるもの。以下のものが資本準備金となります

.設立又は株式の発行に際して株主なる者が会社に対して払込み・給付した財産のうち資本金として計上されなかった額

イ.その他資本剰余金を原資とする剰余金の配当をする場合に積み立てが要求される額

ウ.合併等の組織再編行為の際に生ずる合併差益等のうち、合併契約等により資本準備金とする旨を定めた額

エ.資本金または資本剰余金を減少した際に資本準備金に繰り入れる旨を定めた額

・利益準備金:将来会社の経営が悪化した場合に取り崩して欠損の補填に当てることができるよう、会社がその他利益剰余金を原資とする剰余金の配当を行う際にその他利益剰余金の一部を割いて積み立てることが要求される準備金で、資本準備金の額とあわせて準備金が資本金の4分の1に達するまで、その他利益剰余金を原資とする配当額の10分の1を積み立てなければならないものです(445条4項)。それは一定の準備金がないと、ある事業年度に当期純損失が生じた場合に直ちに純資産額が資本金の額を下回りかねないからです。

 

 

関連条文  

会計の原則(431条)   

会計帳簿の作成および保存(432条)    

会計帳簿の閲覧等の請求(433条)     

会計帳簿の提出命令(434条)    

計算書類等の作成及び保存(435条)   

計算書類等の監査等(436条)    

計算書類等の株主への提供(437条)   

計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)    

会計監査人設置会社の特則(439条)    

計算書類の公告(440条)    

臨時計算書類(441条)    

計算書類の備置き及び閲覧等(442条)    

計算書類等の提出命令(443条)    

連結計算書類(444条)     

剰余金の額(446条)    

資本金の額の減少(447条)    

準備金の額の減少(448条)    

債権者の異議(449条)    

資本金の額の増加(450条)    

準備金の額の増加(451条)    

剰余金についてのその他の処分(452条)    

   株主に対する剰余金の配当(453条)

剰余金の配当に関する事項の決定(454条)

金銭分配請求権の行使(455条)

基準株式数を定めた場合の処理(456条)

配当財産の交付の方法等(457条)

適用除外(458条)

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る