新任担当者のための会社法実務講座
第458条 適用除外
 

 

Ø適用除外(458条)

第453条から前条までの規定は、株式会社の純資産額が3百万円を下回る場合には、適用しない。

 

株式会社が剰余金の配当をするには、純資産額が300万円以上であることが必要です(458条)。ただし、株式分割において、分割会社が、効力発生日に、分割の対価である承継会社株式を全部取得条項付種類株式の取得の対価として、または剰余金の配当として、株主に交付する場合には、適用されません。

ü 剰余金の配当に対する純資産規制

この規制は、もともと最低資本金制度の配当規制の機能を引き継ぐものでありましたが、配当前に純資産額が300万円以上であることを要求するだけなので、これだけでは最低資本金の機能に維持には不十分と言えます。

以前の旧商法の下での資本及び資本準備金・利益準備金の額は、配当可能利益を算出するに当たり、純資産額から控除される額でしたが、これにより、配当可能利益の範囲内で配当される限り、純資産額が最低資本金以上であるべき資本の額を下回らないように手当されていました。これに対して、会社法でも、剰余金を基礎に算出される分配可能額の範囲内で配当額が決定されれば、配当後の純資産額は資本金及び準備金の額を下回らない点は同じです。しかし、最低資本金制度の廃止により、資本金の額も、資本金・準備金の合計額も300万円を下回ることがあり得ます。そこで、これらの額の合計額が300万円に満たない場合には、あらためて分配可能利益の算出過程でその差額が控除されます(461条2項6号、会社計算規則158条6号)。これにより、分配可能額の範囲内で配当がなされる限り、基本的には配当後も純資産が300万円を下回らないように手当されています。

また、従前では、資本の額が最低資本金を上回ることが要請されていましたが、会社法では、資本金・準備金、新株予約権および評価換算差額等の差益の合計額が300万円に達していれば、分配可能額が会社計算規則158条6号により減額されないという意味において、配当の純資産額規制には抵触しないことになります。

会社計算規則158条6号は、評価・換算差額等が0未満である場合(マイナスとなる場合)に、その額を考慮する必要がないとしています。これは、同条2号及び3号でその他有価証券評価差額金及び土地再評価差額金の差損額が減額されるからです。

ü 違反の効果

旧商法の下では、配当可能利益がないにもかかわらずなされた配当(いわゆる蛸配当)は、無効とされていました。会社法においても、458条に違反し、純資産額が300万円未満でなされた配当は、同じように無効となります。同様に、その配当を決定した決議も無効となります。配当の違法性は、株主総会決議の無効確認の訴えによることなく主張し得ると解されています。

 

 

関連条文  

会計の原則(431条)   

会計帳簿の作成および保存(432条)    

会計帳簿の閲覧等の請求(433条)     

会計帳簿の提出命令(434条)    

計算書類等の作成及び保存(435条)   

計算書類等の監査等(436条)    

計算書類等の株主への提供(437条)   

計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)    

会計監査人設置会社の特則(439条)    

計算書類の公告(440条)    

臨時計算書類(441条)    

計算書類の備置き及び閲覧等(442条)    

計算書類等の提出命令(443条)    

連結計算書類(444条)    

資本金の額及び準備金の額(445条)    

剰余金の額(446条)    

資本金の額の減少(447条)    

準備金の額の減少(448条)    

債権者の異議(449条)    

資本金の額の増加(450条)    

準備金の額の増加(451条)    

剰余金についてのその他の処分(452条)    

   株主に対する剰余金の配当(453条)

剰余金の配当に関する事項の決定(454条)

金銭分配請求権の行使(455条)

基準株式数を定めた場合の処理(456条)

配当財産の交付の方法等(457条)

剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条)

株主の権利の制限(460条)

 
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