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第398条 定時株主総会における 会計監査人の意見の陳述 |
Ø 定時株主総会における会計監査人の意見の陳述(398条) @第396条第1項に規定する書類が法令又は定款に適合するかどうかについて会計監査人が監査役と意見を異にするときは、会計監査人(会計監査人が監査法人である場合にあっては、その職務を行うべき社員。次項において同じ。)は、定時株主総会に出席して意見を述べることができる。 A定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があったときは、会計監査人は、定時株主総会に出席して意見を述べなければならない。 B監査役会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会又は監査役」とする。 C監査等委員会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査等委員会又は監査等委員」とする。 D指名委員会等設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査委員会又はその委員」とする。 ü
会計監査人の意見陳述 計算書類の監査について会計監査人が監査役等と意見を異にする場合は、両者の間で意見の調整が行われるのが普通のが通常の場合ですが、意見の調整がつかないときは、株主総会で計算書類の承認が必要となり、株主総会の判断に委ねられることになります。その場合、監査役等は、会計監査人の監査の結果を相当でないと認める意見を内容とする監査報告書を作成し、株主総会で株主から説明を求められた事項について必要な説明をする権限と責任があります。これに対して、会計監査人は、会計監査報告を作成する職務・権限を有するものの、監査役等と違って、当然に株主総会に出席して意見を述べる権限がありません。そこで、会社法398条1項は、計算書類の法令・定款適合性について会計監査人が監査役等と意見を異にする場合に、監査役等に対する詳細な反論の機会を与え、会計監査人の独立性を確保するとともに、会計監査人の詳細な意見を株主総会の審議に反映させるため、会計監査人に定時株主総会における意見陳述権を認めています。 また、株主総会は、その審議にあたり、会計監査人の意見を参考にしたいと考えることがあり得ます。そこで398条2項は、定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があった場合に、会計監査人に定時株主総会における意見陳述義務を課しています。 ü
会計監査人の意見陳述権現(1項) @会計監査人と監査役等との意見の相違 会計監査人が定時株主総会で意見陳述権限を有するのは、計算書類の法令・定款適合性について、会計監査人が監査役等と意見を異にする場合です(398条1項)。会計監査人が監査役等と意見を異にするが否かは会計監査報告及び監査報告によって判断されます。監査役会設置会社(監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社)では、会計監査人と監査役会等と意見が異なる場合だけでなく、会計監査人と意見を異にする監査役等の意見が監査報告に付記されている場合も、この規定の「意見を異にする」場合に当たります。 また、監査の方法について会計監査人と監査役等の意見が異なる場合であっても、監査の結果については意見が異ならない場合には、この規定の「意見を異にする」場合に当たりません。計算関係書類について、会計監査人と監査役等が適法と違法に意見が分かれたときだけでなく、双方が違法としても、その理由や数額等について意見が異なる場合にも、この規定の「意見を異にする」場合に当たります。 A定時株主総会での意見陳述 計算関係書類の法令・定款適合性について会計監査人が監査役等と意見を異にする場合には、定時株主総会における意見陳述の機会を会計監査人に確保するために、会社は会計監査人に対して定時株主総会の日時・場所を知らせなければなりません。会計監査人が398条1項の規定に基づいて定時株主総会で意見陳述を求めたにもかかわらず、計算書類の承認が決議されたときは、決議取消の訴えの対象となります。 原則として、定時株主総会における会計監査人の意見陳述についての規定ですが、臨時計算書類の承認については臨時株主総会の議題とされることもあり得るため、この場合には、規定が類推適用されると解されています。 ü
会計監査人の意見陳述義務(2項) @定時株主総会の決議 会計監査人が定時株主総会で意見陳述義務を負うのは、定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があった場合です(398条2項)。計算関係書類の法令・定款適合性について会計監査人が監査役等と意見を異にしない場合であっても、定時株主総会は会計監査人の出席を求める決議をすることができます。取締役会設置会社において定時株主総会の招集通知に議題として記載または記録されていなくても、総会の議事の場での動議に基づいて会計監査人の出席を求める決議をすることができます。この場合は、普通決議の決議要件を満たせば成立します。 A定時株主総会での意見陳述 定時株主総会において会計監査人の出席を求める決議があった場合には、会計監査人は、定時株主総会に出席して意見を述べなければならず、その意見について株主から質問があったときは、それに答えなければなりません。会計監査人は、このような場合(2項に基づく決議)に備えて、定時株主総会の当日は、会場ましはその付近に待機していることが求められます。定時株主総会に会計監査人が出席できず、補助者等が代わりに出席して意見を述べた場合、または、会計監査人の意見が代読された場合には、その限りで会計監査人の出席を求める決議は変更されたものと解されます。定時株主総会がそのような措置を認めないときは、定時株主総会続行の決議(317条)を行い、継続会において改めて会計監査人の意見を聴取することになります。会計監査人の出席を確保する努力がなされたにもかかわらず、会計監査人の出席が得られないで、定時株主総会において計算書類の承認が決議されたときは、その決議は適法であると解されています。一方、定時株主総会の決議で出席を求められた会計監査人が、正当な理由なく出席及び意見陳述を拒んだ場合には、会計監査人の任務懈怠となります。 ü
会計監査人の意見陳述と守秘義務 会計監査人が定時株主総会で意見を述べる場合には、それが会計監査人の業務上取り扱ったことについて知り得た秘密に関するときであっても、会計監査人は守秘義務(会計士法27条)違反の責任を問われることはないと解されています。その理由として、会計監査人は守秘義務により陳述する意見を制限されることによって、株思想会の場で苦境に立たされることになること、会計監査人と監査役等との間に意見不一致が存在し、その調整がつかないというような異常な場合には、株主総会の場ですべてを明かにして株主の最終判断を待つほかはなく、会計監査人の守秘義務の存在の余地がないこと、株主総会が会計監査人の出席を求める決議をしたということは会社の最高決議機関がその限りにおいて会計監査人の守秘義務を免除したと言えること、などがあげられています。 会計監査人が定時株主総会において意見を述べる際に、株主総会に対して虚偽の申述を行い事実を隠蔽したときは、過料に処せられます(976条)。
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