新任担当者のための会社法実務講座 第450条 資本金の額の増加 |
Ø 資本金の額の増加(450条) @株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。 一 減少する剰余の額 二 資本金の額の増加がその効力を生ずる日 A前項各号に掲げる事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。 B第1項第1号の額は、同項第2号の日における剰余金の額を超えてはならない。 ü 組入決議(450条1項、2項) 組入れは株主総会決議によりなされ(450条2項)、その場合、@減少する剰余金の額、A資本金の額の増加が効力を生じる日を定める(450条1項)。この組入れ株主総会決議は普通決議によりなされる(309条1項)。 ※組入決議の沿革 1)旧商法下では組入れは特別決議 株式配当として規定されていたので、現金配当の原則の例外であるとして、株主の利害に大きくかかわるので特別決議が求められていました。 2)昭和56年の商法改正で普通決議にあらためられた 改定理由は次の3点 ・株式配当であることから、上場会社の場合には、現金配当よりも株主にとって有利なこともあるので、株式配当をしやすくなるという点 ・商法特例法の大会社では取締役会の決議により決算を確定できることになったが、その中には、引当金や繰延資産の計上額など配当可能利益額に影響を与える額について取締役会の裁量が認められることになります。このように実質的に配当可能利益を取締役会で決められるのであれば、その利益を株式配当という形で処分することについて、株主総会の特別決議を要することとなっていると、バランスを欠いたことになってしまう点 ・当時は、法定準備金の組み入れは取締役会に一任されていたので、資本の4分の1まで利益準備金を積み立てていた会社は、それを資本に組み込んでしまえば、次期以降は積立を強制されることになって配当可能利益の額を左右させることになります。このように、利益準備金の積み立てとその資本組み入れという間接的方法によって配当可能利益の資本組み入れと同じ効果を生じさせることができることになります。したがって、株主配当について株主総会の特別決議を求めるのはバランスを欠くことになるという点 3)平成2年の商法改正で株式配当の規定は利益の資本組入れの規定に変わる 準備金の資本組入れが株主総会の決議によることとされました。つまり、利益の資本組入れは、利益処分のひとつの方法であることから定時株主総会で利益処分案のひとつとして決議されるわけです。 4)会社法では利益処分案がなくなった その他利益剰余金・その他資本剰余金をそれぞれ利益準備金・資本準備金に株主総会の普通決議で組み入れることが可能で、準備金の資本組入れも同様に株主総会の普通決議で足りることとされました。 ü
組み入ることができる剰余金(450条3項) 組み入れることができるのは取り崩した剰余金の額で、その剰余金は446条により算定された金額ということになります。条文で規定されているのは株主資本の区分での計数の変動なので、剰余金のうち、法定準備金である資本準備金と利益準備金を除いた剰余金はその他資本剰余金とその他利益剰余金です(会社計算規則76条2、4、5項96条2、3項)から、組み入れることができるのは、これらの剰余金の額です。ただし、条文手剰余金の額とされていることは、剰余金を減少させて資本金または法定準備金の額を増加させる場合に、減少させる額の限度としての意味を持つことになり、剰余金の額の範囲内でのみ組み入れが認められます。したがって、例えば、剰余金の額がその他資本剰余金の額を下回る場合には、剰余金の額の範囲内でのみその他資本剰余金の組み入れが認められることになります。 ü
組入限度額の基準日(450条3項) 組入れ額は剰余金の範囲内ということになり、その剰余金の額は組入れの効力が発生する日のものです(450条3項)。これは、会社法では組入れの効力が決議により直ちに発生するわけではないので、決議後、組み入れの効力が発生するまでに剰余金の変動が生ずることがあることによるものです。 ü
組み入れの効力の発生(450条1項) 従来、利益の資本組入れは、株主総会の資本組入れの決議があったときに効力を生ずるとの前提で議論されていましたが、会社法では、株主総会で効力を発生する日を定めるものとしています。この点はその他の計数の変動においても同様です(447条、448条、451条)。したがって、組み入れの効力はこの株主総会が定めた日に発生します。 ü
開示 この変動は株主資本の区分内での変動であり、株主資本等変動計算書、連結株主資本等変動計算書において開示されます。 関連条文 会計の原則(431条) |