新任担当者のための会社法実務講座
第440条 計算書類の公告
 

 

Ø 計算書類の公告(440条)

@株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。

A前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第1号又は第2号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。

B前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第1項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前2項の規定は、適用しない。

C金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前3項の規定は、適用しない。

一般に決算公告と呼ばれるものです。

株式会社は定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければなりません。ただし、大会社は貸借対照表に加えて損益計算書も公告しなければなりません(440条1項)。その際に、公告の方法を官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞への掲載のいずれかとしている場合には、費用等の関係から、公告する貸借対照表については全文ではなくて要旨で足りる(440条2項)。この要旨の記載方法は会社計算規則137〜142条に定められています。

このような貸借対照表の要旨の記載で足るのは官報または時事に関する事項を掲載する日刊新聞への掲載としている場合のみで、電子公告を、その方法している場合は全文を掲載しなければならないことになります。ただし、貸借対照表の電子公告については調査機関の調査を求めることは要しないとされています(941条)。貸借対象表の公告は、開示のみを目的とし、公告に法的効果が伴うものではないので、調査を要求するまでの必要性は乏しいとされているからです。なお、電子公告の方法による場合の貸借対照表の公告期間は、定時株主総会の終結の日後5年です(940条1項1号)。

また、電子公告を公告の方法としない会社は、公告に代えて、法務省令で定めるところにより、貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、インターネット上のウェブサイトに貸借対照表を表示する方法で不特定多数の者が提供を受けられる状態に置く措置を取ることができます(440条3項)。この場合、貸借対照表を公開するウェブサイトのアドレスを登記することが必要です(911条3項27号、会社法施行規則220条1項1号)。

金融商品取引法に基づき有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社は、上記の公告をしなくてもよいとされています(440条4項)。会社法に基づく公告で開示される情報より詳細な情報がEDINETを通じて開示されるからです。

〔参考〕法定公告について

参考として、公告による開示について全般的な説明をしておきましょう。

法定広告とは

株式会社、とりわけ上場会社において重要な意思決定を社外に周知する場合、通常は金商法上の開示や取引所の適時開示制度にしたがった開示といった、公告以外の方法による開示を使用することが一般的です。しかし、会社法その他の法律によって定められた一定の事項に関しては、各会社が定款に定める公告方法により行うことが義務付けられています。これが法定広告です。会社法で定められている法定広告は、電子公告、日刊新聞紙及び官報の三つです(939条)。ただし、会社法で必ず官報公告を行なわなければならないものも存在しているので留意が必要です。以下で、三つの法定広告について簡単に紹介しましょう。

@)電子公告

電子公告とは、電磁的方法により不特定多数のものが公告すべき内容である情報の提供を受けることができる状態に置く措置をとる方法を言います(2条34号)。具体的には送信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された情報の内容を電気通信回線を通じて情報の提供を受ける者の閲覧に供し、当該情報の提供を受ける者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録する方法のうち、インターネットに接続された自動公衆送信装置を使用するものによる措置とする(会社法施行規則222条1項1号ロ、223条)ものです。すなわち、公告しようとする情報をインターネット上の自社ホームページに掲載し、不特定多数の者がアクセスして閲覧できるようにしておくことで、公告とするものです。

なお、会社が電子公告を行うことを可能とするためには、定款において公告方法電子広告とする旨を規定しておく必要があります。また、公告に使用するホームページのアドレスについては、アドレス変更時に機動的に対処する局面が多いであろう事を考慮してホームページのアドレスについては、取締役会決議等での意思決定で足りるとされています。ただし、各会社のホームページアドレスを容易に調査できるようにする観点からアドレスは登記の対象となっています(電子公告規則2条10号)。

また、電子公告の場合、事故その他やむを得ぬ事由によって電子公告による公告ができなくなる場合に備えて、官報または日刊新聞紙を予備的な公告の方法として定めることができる(939条3項)ので、実務上は、不慮の事故に備えて、電子公告を採用している殆どの会社で、予備的な公告を定款に規定しています。

※株懇モデルによる電子公告とした場合の定款の条文

(公告方法)

第5条 当会社の公告方法は、電子公告とする。ただし、事故その他やむを得ない事由らよって電子公告による公告をすることができない場合は、○○新聞に掲載して行う。

A)日刊新聞紙

時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙とは、法令上明確な定めは存在しませんが、一般的には、全国規模の日刊新聞、実際のところは読売・朝日・毎日・産経・日経の各新聞ということになります。通常の定款の規定では、この5社のうちいずれかに定めています。その紙面に公告として掲載するものです。

B)官報

官報は、法律、政令、条約等の公布をはじめとして、国の機関としての諸報告や資料、さらには法令の規定に基づきく各種の公告を掲載する等、国が発行する機関紙です。

通常の法定公告の場合であれば、これまでに紹介した三つの公告の方法のいずれかを選択し広告を行うことになりますが、以下の事項に関しては官報による掲示が義務付けられている法定公告とされています。これらは官報による公告を行わなければ、有効な公告を行ったものとはされないので注意が必要です。

a.債権者異議申立申述公告(779条2項、789条2項、799条2項、810条2項、449条 

b.休眠会社のみなし解散(472条)

c.特別清算(885条)

なお、会社が定款で公告の方法を規定していない場合には、官報による公告を行うことになります。

・電子公告の実務

公告方法として電子公告を使用する場合、公告文そのものは各社で作成し、電子ファイル(PDFファイルを使用するのが一般的です)にした上で、ホームページに掲載することとなります。また、公告内容のデータが期間中継続して、不特定多数の者が提供を受ける状態になっているかどうかを検証・証明する必要があります。そこで、法務大臣の登録を受けた電子公告調査機関の調査を受けなければならないこととされています(941条)。以下で手順について、簡単に記していきたい思います。

ア.調査機関への調査委託

電子公告によって公告を行う会社は、公告期間開始の遅くとも4日前までに、調査機関に対して、以下の事項を示して公告の調査を委託します(電子公告規則3条1項、2項)。

a.商号

b.本店所在地

c.代表者の氏名

d.登記アドレス

e.公告アドレス

f.公告期間

g.公告しようとする内容である情報(公告するPDFファイル)

h.公告すべき内容を規定した法令の条項

イ.公告開始(調査開始)

調査機関は、調査の依頼を受け、公告の開始2日前までに法務大臣に対し、調査委託者の商号・本店・代表者氏名・公告アドレス・公告期間及び公告内容の根拠法令条項についての報告を行うとされています(電子公告規則6条2項)。

調査機関の調査は、公告についての情報の有無、内容を確認するために6時間に1回以上の頻度で公告掲載ホームページのサーバーから自動的に受信し、受信したPDFファイルとあらかじめ受け取っているPDFファイルとが同一であるかどうかを電子的に判定し、記録します。

ウ.調査完了後の結果報告

調査機関は、調査の後地位なく、調査結果を委託者に通知します(946条4項)。通知する項目は、上記a〜hの他、次の事項です(電子公告規則7条)。

公告情報内容(追加公告情報内容)

j.受信情報を受信した日時、情報入手作業の際に電子計算機に入力した公告アドレス

k.判定の結果が、受信情報と公告情報とが同一である旨の結果であった場合は、当該結果および当該判定の日時、規定する結果でなかった場合には、判定の結果及びその日時、手動操作による調査を行った場合、作業者の調査機関職員の指名

l.情報入手作業をしたにもかかわらず、公告サーバーから情報を受信することができなかった場合には、その旨、その日時及び当該情報入手作業の際に電子計算機に入力した公告アドレス

m.調査結果通知に、受信情報内容が公告情報内容と相違する旨の記載もしくは記録、推計されることになる広告の中断が生じた可能性のある時間の合計

n.情報入手作業をすることができなかった場合には、その旨、その時期及びその理由

この調査結果を記載した報告書は、登記の際に必要な書類とされています。

エ.電子公告の中断要件

電子公告の特徴として、対象者への周知のために公告対象期間中は24時間いつでも閲覧できる状態にあることが求められる。となると、厳密に公告対象期間中1分、1秒でも中断することは許されないことになります。しかし、インターネットの接続障害やウェブサーバーの点検整備などで短時間接続できない状況はあり得ます。これら短期間の中断であっても広告として成立しないとするのは効果的でないとし、以下のすべての要件を満たした場合には、公告の効力に影響を及ぼさないとされています(940条3項)。

A.広告の中断について公告を行った会社が善意無過失であること、または正当な事由があること

B.広告中断の合計時間が公告期間の10分の1以内であること

C.公告を行った会社が、公告中断を知った後速やかにその内容について追加公告をしたこと

・電子公告以外の公告(官報の利用等)の実務

官報も日刊新聞紙も紙媒体の公告を掲載するので、同じような手続となります。

ア.申込み

申込みに先立っても会社等の依頼者は公告の原稿を作成します。そして、作成した原稿を官報取次所に送り申込みをします。申込みから掲載までの期間は最低でも1週間程度は必要とされています。それで、掲載を待ちます。

イ.閲覧・検索

官報に掲載された公告の閲覧・検索に関しては、官報を購入して紙面による閲覧を粉居ます。インターネット版の官報は30日間は閲覧できるので、それで閲覧します。

 

Ø 関連する会社計算規則

² 計算書類の公告(会社計算規則136条)

@株式会社が法第440条第1項の規定による公告(同条第三項の規定による措置を含む。以下この項において同じ。)をする場合には、次に掲げる事項を当該公告において明らかにしなければならない。この場合において、第1号から第7号に掲げる事項は、当該事業年度に係る個別注記表に表示した注記に限るものとする。

1 継続企業の前提に関する注記

2 重要な会計方針に係る事項に関する注記

3 貸借対照表に関する注記

4 税効果会計に関する注記

5 関連当事者との取引に関する注記

6 一株当たり情報に関する注記

7 重要な後発事象に関する注記

8 当期純損益金額

A株式会社が法第440条第1項の規定により損益計算書の公告をする場合における前項の規定の適用については、同項中「次に」とあるのは、「第一号から第七号までに」とする。

B前項の規定は、株式会社が損益計算書の内容である情報について法第440条第3項に規定する措置をとる場合について準用する。

 

株式会社は会社法440条により、定時株主総会終了後、遅滞なく貸借対照表を定款に定める方法に従い公告します。その内容として、貸借対照表及び損益計算書を公告する場合に、これらの書類と一体として開示することを求められる注記事項について規定しています。

会社計算規則98条に記載されている注記事項のうち、公告において開示することが求められる事項は次の通りです。

継続企業の前提に関する注記(会社計算規則98条1項1号、100条)

重要な会計方針に係る事項に関する注記(会社計算規則98条1項2号、101条)

貸借対照表に関する注記(会社計算規則98条1項7号、103条)

税効果会計に関する注記(会社計算規則98条1項10号、107条)

関連当事者との取引に関する注記(会社計算規則98条1項15号、112条)

一株当たり情報に関する注記(会社計算規則98条1項16号、113条)

重要な後発事象に関する注記(会社計算規則98条1項17号、114条)

当期純損益金額

したがって、上記以外の事項、たとえば会計上の変更に関する注記(会社計算規則98条1項3号、102条)などについては公告を要しません。

また、公開会社でない株式会社や、会計監査人設置会社以外の株式会社では、もともと注記表に記載すべき事項の一部の省略が認められています。注記表への記載を省略している事項については、公告や電磁的公開も求められません。会計監査人設置会社以外の株式会社では、注記表に記載すべき事項は、重要な会計方針に係る事項に関する注記、会計方針の変更に係る注記、表示方法の変な項に関する注記、誤謬の訂正に関する注記、株主資本等変動計算書に関する注記その他の注記に限定されている(会社計算規則98条2項)ので、公告に付するべき注記事項は重要な会計方針に係る事項に関する注記のみとなります。

 

² 計算書類の要旨の公告(会社計算規則137条)

法第440条第2項の規定により貸借対照表の要旨又は損益計算書の要旨を公告する場合における貸借対照表の要旨及び損益計算書の要旨については、この章の定めるところによる。

 

会社の公告方法として官報への掲載、または時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法(939条1項)を定款に定める株式会社は、貸借対照表及び損益計算書の要旨のみを公告することができます(440条2項)。会社計算規則第6編第2章では要旨の公告詳細について定めています。

 

² 貸借対照表の要旨の区分(会社計算規則138条)

貸借対照表の要旨は、次に掲げる部に区分しなければならない。

1 資産

2 負債

3 純資産

 

会社計算規則73条1項と同じく、貸借対照表の要旨も、資産、負債及び純資産の部に区分されます。また、要旨の公告には、当期損益金額の付記(会社計算規則142条)を除いて、注記表事項を含めないとされています。

 

² 貸借対照表の要旨の資産の部(会社計算規則139条)

@資産の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 流動資産

2 固定資産

3 繰延資産

A資産の部の各項目は、適当な項目に細分することができる。

B公開会社の貸借対照表の要旨における固定資産に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 有形固定資産

2 無形固定資産

3 投資その他の資産

C公開会社の貸借対照表の要旨における資産の部の各項目は、公開会社の財産の状態を明らかにするため重要な適宜の項目に細分しなければならない。

D資産の部の各項目は、当該項目に係る資産を示す適当な名称を付さなければならない。

 

公開会社以外の株式会社が公告する貸借対照表の要旨の資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産の各項目に分かれます。貸借対照表全体を公告する場合には、各項目をさらに適当な項目に公告する必要があります(会社計算規則74条)が、公開会社以外の株式会社が要旨を広告する場合には、固定資産も含めて細分は任意でいいです(会社計算規則139条2項)。これに対して、公開会社では、資産の部の各項目のうち、固定資産については有形固定資産、無形固定資産及び投資その他資産の各項目に区分しなければなりません(会社計算規則139条3項)。また、資産の部の各項目は、財産の状態を明らかにするために重要な適宜の項目を細分化しなければなりません(会社計算規則139条4項)。

 

² 貸借対照表の要旨の負債の部(会社計算規則140条)

@負債の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 流動負債

2 固定負債

A負債に係る引当金がある場合には、当該引当金については、引当金ごとに、他の負債と区分しなければならない。

B負債の部の各項目は、適当な項目に細分することができる。

C公開会社の貸借対照表の要旨における負債の部の各項目は、公開会社の財産の状態を明らかにするため重要な適宜の項目に細分しなければならない。

D負債の部の各項目は、当該項目に係る負債を示す適当な名称を付さなければならない。

 

公開会社以外の株式会社が公告する貸借対照表の要旨の負債の部は、流動負債、固定負債の各項目に分かれます。貸借対照表全体を公告する場合には、各項目をさらに適当な項目に公告する必要があります(会社計算規則75条)が、公開会社以外の株式会社が要旨を広告する場合には、固定資産も含めて細分は任意でいいです(会社計算規則140条3項)。ただし、引当金については、他の負債と区分して記載しなければなりません(会社計算規則140条2項)。これに対して、公開会社では、負債の部の各項目は、財産の状態を明らかにするために重要な適宜の項目を細分化しなければなりません(会社計算規則140条4項)。

 

² 貸借対照表の要旨の純資産の部(会社計算規則141条)

@純資産の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 株主資本

2 評価・換算差額等

3 新株予約権

A株主資本に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、第五号に掲げる項目は、控除項目とする。

1 資本金

2 新株式申込証拠金

3 資本剰余金

4 利益剰余金

5 自己株式

6 自己株式申込証拠金

B資本剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 資本準備金

2 その他資本剰余金

C利益剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 利益準備金

2 その他利益剰余金

D第三項第二号及び前項第二号に掲げる項目は、適当な名称を付した項目に細分することができる。

E評価・換算差額等に係る項目は、次に掲げる項目その他適当な名称を付した項目に細分しなければならない。

1 その他有価証券評差額金

2 繰延ヘッジ損益

3 土地再評価差額金

 

公開会社以外の株式会社が公告する貸借対照表の要旨の純資産の部の区分は、公開・非公開のいずれの会社でも、貸借対照表を全体を開示する場合(会社計算規則76条)とは異ならない区分による開示が求められます。

 

² 貸借対照表の要旨への付記事項(会社計算規則142条)

貸借対照表の要旨には、当期純損益金額を付記しなければならない。ただし、法第四百四十条第二項の規定により損益計算書の要旨を公告する場合は、この限りでない。

 

大会社以外の株式会社では、貸借対照表のみが公告され、損益計算書の公告は義務付けられていません(440条1項)。したがって、貸借対照表の要旨を公告する場合、当期純利益の金額を付記することが求められます。損益計算書の要旨をも公告する場合は、当期純利益が開示されるので、付記の必要はありません。

 

² 損益計算書の要旨(会社計算規則143条)

@損益計算書の要旨は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

1 売上高

2 売上原価

3 売上総利益金額又は売上総損失金額

4 販売費及び一般管理費

5 営業外収益

6 営業外費用

7 特別利益

8 特別損失

A前項の規定にかかわらず、同項第5号又は第6号に掲げる項目の額が重要でないときは、これらの項目を区分せず、その差額を営業外損益として区分することができる。

B第1項の規定にかかわらず、同項第7号又は第8号に掲げる項目の額が重要でないときは、これらの項目を区分せず、その差額を特別損益として区分することができる。

C損益計算書の要旨の各項目は、適当な項目に細分することができる。

D損益計算書の要旨の各項目は、株式会社の損益の状態を明らかにするため必要があるときは、重要な適宜の項目に細分しなければならない。

E損益計算書の要旨の各項目は、当該項目に係る利益又は損失を示す適当な名称を付さなければならない。

F次の各号に掲げる額が存する場合には、当該額は、当該各号に定めるものとして表示しなければならない。ただし、次の各号に掲げる額(第9号及び第10号に掲げる額を除く。)が零未満である場合は、零から当該額を減じて得た額を当該各号に定めるものとして表示しなければならない。

1 売上総損益金額(零以上の額に限る。) 売上総利益金額

2 売上総損益金額(零未満の額に限る。) 売上総損失金額

3 営業損益金額(零以上の額に限る。) 営業利益金額

4 営業損益金額(零未満の額に限る。) 営業損失金額

5 経常損益金額(零以上の額に限る。) 経常利益金額

6 経常損益金額(零未満の額に限る。) 経常損失金額

7 税引前当期純損益金額(零以上の額に限る。) 税引前当期純利益金額

8 税引前当期純損益金額(零未満の額に限る。) 税引前当期純損失金額

9 当該事業年度に係る法人税等 その内容を示す名称を付した項目

10 法人税等調整額 その内容を示す名称を付した項目

11 当期純損益金額(零以上の額に限る。) 当期純利益金額

12 当期純損益金額(零未満の額に限る。) 当期純損失金額

 

大会社に該当する株式会社は、貸借対象表のみではなく、損益計算書も公告する義務を負います(440条1項)。その損益計算書の要旨を公告する内容を会社計算規則143条が規定しています。

損益計算書の要旨の分類項目は、損益計算書全体を公告する場合(会社計算規則88条1項)と、原則として同じです。損益の各段階として、売上総損益、営業損益、経常損益、税引前当期純損益、当期純損益を゜表示すべきことも同じです。損益計算書の表示では、特別利益や特別損失の細分化は義務付けられてはいません。もっとも、会社は特別利益・損失の項目を含め、各項目について、任意に適当な項目に細分することは認められています。また、会社の損益の状態を明らかにするために必要あるときは、重要な適宜の項目に細分しなければなりません(会社計算規則143条4項、5項)。

営業外損益の額が重要でない場合、また、特別損益の額が重要でない場合、それぞれの差額のみを営業外損益、特別損益として表示するば足りる(会社計算規則143条2項、3項)

 

² 金額の表示の単位(会社計算規則144条)

@貸貸借対照表の要旨又は損益計算書の要旨に係る事項の金額は、百万円単位又は十億円単位をもって表示するものとする。

A前項の規定にかかわらず、株式会社の財産又は損益の状態を的確に判断することができなくなるおそれがある場合には、貸借対照表の要旨又は損益計算書の要旨に係る事項の金額は、適切な単位をもって表示しなければならない。。

 

貸借対照表及び損益計算書の要旨の各項目の表示単位を会社計算規則144条は、百万円単位または10億円単位としています。貸借対照表及び損益計算書の各事項の金額単位は、1円、千円、百万円としています(会社計算規則57条)。要旨の公告において表示単位が大きくなるのは、細分化された項目の表示がなく、包括的な項目のみの表示となるからです。

株式会社は、公告する項目、貸借対照表及び損益計算書の表示項目の具体的金額を前提に、利害関係者が会社の財産及び損益の状態を理解するために適切な表示単位を選択することになります。

 

² 表示言語(会社計算規則145条)

貸借対照表の要旨又は損益計算書の要旨は、日本語をもって表示するものとする。ただし、その他の言語をもって表示することが不当でない場合は、この限りでない。

 

日本法に基づき、日本において設立されることを前提としている株式会社については、貸借対照表も損益計算書の要旨も日本語の記載が原則です。ただし、その他の言語を使用して作成することが不当でない場合は、その他の言語でもそくせいできます。これは会社計算規則57条に対応する内容です。

その他の言語を使用するのが不当でない場合とは、会社計算規則57条2項但書の場合と同様に、株主や取引相手の多くが外国人である場合などが考えられますが、実際には限定される場合となります。

 

² 貸借対照表等の電磁的方法による公開の方法(会社計算規則14条)

法第440条第3項の規定による措置は、会社法施行規則第222条第1項第1号ロに掲げる方法のうち、インターネットに接続された自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。)を使用する方法によって行わなければならない。

 

公告方法として、定款に官報または時事を掲載する日刊新聞紙に公告を掲載する方法を指定する株式会社(939条)において、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終了後遅滞なく、貸借対照表及び損益計算書の要旨の公告に代えて、定時株主総会の終結の日後5年間、貸借対照表及び損益計算書の内容を電磁的方法により不特定多数の者が提供を受ける状態に置く措置をとることで、公告義務を免れることができます。

会社計算規則147条は440条3項で定める電磁的方法による公開措置の詳細について規定しています。ここで指定している電磁的方法は、インターネットのウェブサイトに公開する方法です。つまり、会社のホームページに貸借対照表と損益計算書を5年間掲載するという方法です。

この場合、株主総会招集通知のウェブ開示とは違って、不特定多数の者が提供を受けることを目的としているため、ウェブ開示の場合のようなパスワードの設定はできないとされています。また、電子公告に関する規制、とくに電子公告調査(電子公告規則)に関する規制の適用は受けません。ただし、会社は貸借対照表及び損益計算書の公開されているサイトのアドレスを、商業登記簿で明らかにしなければなりません(911条)。

 

² 不適正意見がある場合等における公告事項(会社計算規則148条)

次の各号のいずれかに該当する場合において、会計監査人設置会社が法第440条第1項又は第2項の規定による公告(同条第3項に規定する措置を含む。以下この条において同じ。)をするときは、当該各号に定める事項を当該公告において明らかにしなければならない。

1 会計監査人が存しない場合(法第346条第4項の一時会計監査人の職務を行うべき者が存する場合を除く。) 会計監査人が存しない旨

2 第130条第3項の規定により監査を受けたものとみなされた場合 その旨

3 当該公告に係る計算書類についての会計監査報告に不適正意見がある場合 その旨

4 当該公告に係る計算書類についての会計監査報告が第126条第1項第3号に掲げる事項を内容としているものである場合 その旨

 

会計監査人設置会社が貸借対照表及び損益計算書またはその要旨を公告する場合、会計監査人の監査報告の内容が公告されることはありません。しかし、会計監査人の監査報告の内容が、適正意見でない場合には、公告された情報の受領者に対して、警告を与えるためにも、その内容を明らかにすることを求められています。

公告における開示が求められているのは次の場合です。

@会計監査人が辞任、あるいは資格喪失などにより欠けてしまい、仮会計監査人の選任(346条)もなされていない場合には、会計監査人が存在しない旨

A会計監査人が通知期限までに監査報告の内容の通知をしないためも会社計算規則130条3項の規定により、監査を受けたものとみなされている場合には、その旨

B公告に係る計算書類について、不適正意見が示されている場合には、その旨

C公告に係る計算書類について、会計監査人が監査意見を差し控える場合にはその旨

除外事項が付された限定付適正意見が表明された場合は、公告義務はありません。

 

 

 

関連条文  

会計の原則(431条)   

会計帳簿の作成および保存(432条)    

会計帳簿の閲覧等の請求(433条)     

会計帳簿の提出命令(434条)    

計算書類等の作成及び保存(435条)   

計算書類等の監査等(436条)    

計算書類等の株主への提供(437条)  

計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)    

会計監査人設置会社の特則(439条)       

臨時計算書類(441条)   

計算書類の備置き及び閲覧等(442条)    

計算書類等の提出命令(443条)    

連結計算書類(444条)    

資本金の額及び準備金の額(445条)   

剰余金の額(446条)    

資本金の額の減少(447条)    

準備金の額の減少(448条)    

債権者の異議(449条)    

資本金の額の増加(450条)    

準備金の額の増加(451条)    

剰余金についてのその他の処分(452条)    

 

 
「実務初心者の会社法」目次へ戻る