新任担当者のための会社法実務講座 第452条 剰余金についてのその他の処分 |
Ø 剰余金についてのその他の処分(452条) 株式会社は、株主総会の決議によって、損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分(前目に定めるもの及び剰余金の配当その他株式会社の財産を処分するものを除く。)をすることができる。この場合においては、当該剰余金の処分の額その他の法務省令で定める事項を定めなければならない。 ü
剰余金の処分 剰余金の処分とは、貸借対照表に計上されるその他利益剰余金、その他資本剰余金という剰余金について、その内部での科目の変更を意味するにすぎません。これには「剰余金の処分」という文言が用いられ、「剰余金額の処分」とされていないことからも明らかです。 条文では、任意積立金の積み立て、損失の処理を例示していますが、剰余金の資本金・法定準備金への組み入れは除外されていることなどから、ここでできる項目の変更は、その他利益剰余金の中から任意積立金の積み立て、任意積立金の取り崩し、その他利益剰余金の中からの任意積立金の積み立て、任意準備金の取り崩し、その他利益剰余金がマイナス残高の時のその他資本準備金による填補です。 このような処分は、単なる計数の変動であり、そのことから、剰余金の配当その他会社の財産を処分することは除かれています。これらは、旧商法下では未処分利益または損失に対する利益処分案あるいは損失処理案の中に含まれていた事項です。 ・損失の処理 損失の処理について明確に定義されているわけではありません。この条文の場合、上記のとおり、その他利益剰余金がマイナスの残高のときに、その他資本剰余金で填補することに限られています。 なお、その他資本剰余金も自己株式処分差損の発生により、期中にマイナスとなることがありますが、これについては、期末に0として、その分その他利益剰余金を減額する措置が取られ、その他資本剰余金がマイナス残高になることはない。なお、期中にその他資本剰余金がマイナス残高になることはあり得ますが、期中にその他利益剰余金のマイナスその他資本剰余金で埋めることはできません。 ・任意積立金の積み立て その他利益剰余金の中から、株主総会決議により任意積立金を積み立てることができます。 ü
処分機関 これらの剰余金の処分は株主総会の普通決議によりなされます(309条1項)。この決議も剰余金の配当の場合と同様、期中において臨時に決議することもできます。しかし、損失の処理の場合は時期が限定されます。 株主総会決議では、剰余金の処分の額その他法務省令で定める事項を定めなければならない。この法務省令とは会社計算規則153条で、次の事項を定めるように規定しています。@増加する剰余金の項目、A減少する剰余金の項目、B処分する各剰余金の項目に係る額です(会社計算規則153条1項)。 なお、任意積立金については、従来から一定の目的のために積み立てた任意準備金については、その目的に従った取り崩しには株主総会の決議を要しないとされています(会社計算規則153条2項)。また、定款に定めのある任意積立金の積み立てについても、株主総会の決議を要しないとされています(459条1項)。 Ø
関連する会社計算規則 ² 剰余金の処分(会社計算規則153条) @法第452条後段に規定する法務省令で定める事項は、同条前段に規定する剰余金の処分(同条前段の株主総会の決議を経ないで剰余金の項目に係る額の増加又は減少をすべき場合における剰余金の処分を除く。)に係る次に掲げる事項とする。 1 増加する剰余金の項目 2 減少する剰余金の項目 3 処分する各剰余金の項目に係る額 A前項に規定する「株主総会の決議を経ないで剰余金の項目に係る額の増加又は減少をすべき場合」とは、次に掲げる場合とする。 1 法令又は定款の規定(法第452条の規定及び同条前段の株主総会(法第459条の定款の定めがある場合にあっては、取締役会を含む。以下この項において同じ。)の決議によるべき旨を定める規定を除く。)により剰余金の項目に係る額の増加又は減少をすべき場合 2 法第452条前段の株主総会の決議によりある剰余金の項目に係る額の増加又は減少をさせた場合において、当該決議の定めるところに従い、同条前段の株主総会の決議を経ないで当該剰余金の項目に係る額の減少又は増加をすべきとき。 ・会社法452条前段の株主総会で定めるべき事項(会社計算規則153条1項) 剰余金の処分をする株主総会の決議において定めるべき事項は、@増加する剰余金の項目、A減少する剰余金の項目、B処分する各剰余金の項目に係る額、の3項目です。 この場合の剰余金の処分は、剰余金内部での項目の振り分けで、その他利益剰余金の中から任意積立金の積み立て、任意積立金の取り崩し、その他剰余金がマイナス残高のときの填補などが、それに当たります。 @増加する剰余金の項目 任意積立金の積み立ての場合は、当該任意積立金の任意積立です。任意積立金取り崩しの場合は、繰越利益剰余金となります。損失填補の場合には、填補されるマイナス残高の剰余金が増加することになります。 A現象する剰余金の項目 任意積立金の積み立ての場合は、繰越利益剰余金。任意積立金取り崩しの場合は、当該任意積立金。その他資本剰余金によるその他利益準備金の損失填補の場合には、その他資本剰余金・その他利益剰余金のそれぞれの増加額・減少額を定めることが必要となります。 B処分する各剰余金の項目に係る額 各剰余金の項目で増加・減少する額です。なお、単なる項目の振り分けですから、当然、増加する額の合計と減少する額の合計は同額となります。 ・株主総会決議が不要である場合(会社計算規則153条2項) @法令または定款の規定により剰余金の項目に係る額の増加・減少すべき場合 定款の規定による剰余金の項目に係る増加・減少とは、例えば、定款の定めに基づく任意積立金の積み立て・取り崩しが典型です。 法令による剰余金の項目に係る額の増加・減少としては、法令の規定により積み立てが求められている積立金の積み立てや、積み立てることは任意ですが、その増額・減少について法令の規定がある場合があります。 これらについて、株主総会決議が不要とされる理由として、定款に基づくものは株主の意思に基づくものであるし、法令により積み立てられるものについては、法が積み立てを強制しているものは、これらの増加・減少は株主の期待に反するとはいえないし、任意によるものであっても、法令により増加・減少額が定められている場合には、同様といえるからです。 A452条前段の株主総会決議によりある剰余金の項目に係る額の増加・減少をさせた場合に、当該決議の定めるところに従い、同条前段の株主総会決議を経ないで当該剰余金の項目に係る額の減少・増加をなすべき場合 任意積立金を株主総会決議により積み立てた場合で、その任意積立金をその決議が定めた積立目的に従って取り崩す場合です。
関連条文 会計の原則(431条) |