新任担当者のための会社法実務講座 第437条 計算書類等の株主への提供 |
Ø 計算書類等の株主への提供(437条) 取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第3項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第1項又は第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。 取締役会設置会社では、436条3項に基づいて、計算書類、事業報告及びこれらの書類の附属明細書について取締役会の承認を得た後に、定時株主総会において計算書類等の承認を受けるのに先立って、定時株主総会の招集手続に際して株主に計算書類等を提供することが求められます(437条) 提供される書類は、計算書類、すなわち貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表ならびに事業報告であり、監査機関による監査を受けた場合には、その監査報告も添付します(437条、会社計算規則133条1項、会社法施行規則133条1項)。連結計算書類を作成する株式会社では、連結計算書類も提供します(444条6項、会社計算規則134条1項)。ただし、計算書類と異なり、連結計算書類にか係る会計監査人及び監査役の監査報告の提供は任意です(会社計算規則134条2項)。 計算書類等の提供の方法は、株主総会招集通知の方法に対応して、書面の提供または電磁的方法によって行います。 株式会社は定款に定めを置いて、インターネットを通じて一定期間書類を閲覧可能な状態に置くことで、書面または電磁的方法による書類の提供に代えることができます。いわゆるウェブ開示で代替できる書類は、計算書類のうち、個別注記表に記載される事項、事業報告の記載事項のうち、株式会社の現況に関する事項、会社役員、株式に関する事項、新株予約権に関する事項以外の事項、及び連結計算書類です。したがって、個別貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書についてはウェブ開示による代替は認められません。 Ø
関連する会社計算規則 ²
計算書類等の提供(会社計算規則133条) @法第437条の規定により株主に対して行う提供計算書類(次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定めるものをいう。以下この条において同じ。)の提供に関しては、この条に定めるところによる。 1 株式会社(監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。次号において同じ。)及び会計監査人設置会社を除く。) 計算書類 2 会計監査人設置会社以外の監査役設置会社 次に掲げるもの イ 計算書類 ロ 計算書類に係る監査役(監査役会設置会社にあっては、監査役会)の監査報告があるときは、当該監査報告(二以上の監査役が存する株式会社(監査役会設置会社を除く。)の各監査役の監査報告の内容(監査報告を作成した日を除く。)が同一である場合にあっては、1又は2以上の監査役の監査報告) ハ 第124条第3項の規定により監査を受けたものとみなされたときは、その旨の記載又は記録をした書面又は電磁的記録 3 会計監査人設置会社 次に掲げるもの イ 計算書類 ロ 計算書類に係る会計監査報告があるときは、当該会計監査報告 ハ 会計監査人が存しないとき(法第346条第4項の一時会計監査人の職務を行うべき者が存する場合を除く。)は、会計監査人が存しない旨の記載又は記録をした書面又は電磁的記録 ニ 第130条第3項の規定により監査を受けたものとみなされたときは、その旨の記載又は記録をした書面又は電磁的記録 ホ 計算書類に係る監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会、監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)の監査報告があるときは、当該監査報告(2以上の監査役が存する株式会社(監査役会設置会社を除く。)の各監査役の監査報告の内容(監査報告を作成した日を除く。)が同一である場合にあっては、1又は2以上の監査役の監査報告) ヘ 前条第3項の規定により監査を受けたものとみなされたときは、その旨の記載又は記録をした書面又は電磁的記録 A定時株主総会の招集通知(法第299条第2項又は第3項の規定による通知をいう。以下同じ。)を次の各号に掲げる方法により行う場合にあっては、提供計算書類は、当該各号に定める方法により提供しなければならない。 1 書面の提供 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める方法 イ 提供計算書類が書面をもって作成されている場合 当該書面に記載された事項を記載した書面の提供 ロ 提供計算書類が電磁的記録をもって作成されている場合 当該電磁的記録に記録された事項を記載した書面の提供 2 電磁的方法による提供 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じ、当該イ又はロに定める方法 イ 提供計算書類が書面をもって作成されている場合 当該書面に記載された事項の電磁的方法による提供 ロ 提供計算書類が電磁的記録をもって作成されている場合 当該電磁的記録に記録された事項の電磁的方法による提供。 B提供計算書類を提供する際には、当該事業年度より前の事業年度に係る貸借対照表、損益計算書又は株主資本等変動計算書に表示すべき事項(以下この項において「過年度事項」という。)を併せて提供することができる。この場合において、提供計算書類の提供をする時における過年度事項が会計方針の変更その他の正当な理由により当該事業年度より前の事業年度に係る定時株主総会において承認又は報告をしたものと異なるものとなっているときは、修正後の過年度事項を提供することを妨げない。 C提供計算書類に表示すべき事項(株主資本等変動計算書又は個別注記表に係るものに限る。)に係る情報を、定時株主総会に係る招集通知を発出する時から定時株主総会の日から3箇月が経過する日までの間、継続して電磁的方法により株主が提供を受けることができる状態に置く措置(会社法施行規則第222条第1項第1号ロに掲げる方法のうち、インターネットに接続された自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下この章において同じ。)を使用する方法によって行われるものに限る。第8項において同じ。)をとる場合における第2項の規定の適用については、当該事項につき同項各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法により株主に対して提供したものとみなす。ただし、この項の措置をとる旨の定款の定めがある場合に限る。 D前項の場合には、取締役は、同項の措置をとるために使用する自動公衆送信装置のうち当該措置をとるための用に供する部分をインターネットにおいて識別するための文字、記号その他の符号又はこれらの結合であって、情報の提供を受ける者がその使用に係る電子計算機に入力することによって当該情報の内容を閲覧し、当該電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録することができるものを株主に対して通知しなければならない。 E第4項の規定により計算書類に表示した事項の一部が株主に対して第2項各号に定める方法により提供したものとみなされる場合において、監査役、会計監査人、監査等委員会又は監査委員会が、現に株主に対して提供された計算書類が監査報告又は会計監査報告を作成するに際して監査をした計算書類の一部であることを株主に対して通知すべき旨を取締役に請求したときは、取締役は、その旨を株主に対して通知しなければならない。 F取締役は、計算書類の内容とすべき事項について、定時株主総会の招集通知を発出した日から定時株主総会の前日までの間に修正をすべき事情が生じた場合における修正後の事項を株主に周知させる方法を当該招集通知と併せて通知することができる。 G第4項の規定は、提供計算書類に表示すべき事項のうち株主資本等変動計算書又は個別注記表に係るもの以外のものに係る情報についても、電磁的方法により株主が提供を受けることができる状態に置く措置をとることを妨げるものではない。 ・計算書類等の提供 会社法437条で定める株主への提供のうち、計算書および監査報告の提供方法について規定しています。議場報告の提供方法については会社法施行規則133条に定められています。 取締役会を設置しない株式会社では、定時株主総会の招集通知の際に計算書類を提供することは求められていません(437条)。 ・提供すべき計算書類等(会社計算規則133条1項) 取締役会設置会社で、定時株主総会の招集通知に際して提供すべき計算関係書類は、会社の機関の設計によって異なります。それについて、会社計算規則133条は、規定しています。 1)監査役及び会計監査人を設置しない株式会社(会社計算規則133条1項1号) 取締役会設置会社のうち監査役及び会計監査人を設置しない株式会社は、計算書類としては、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表のみを提供します。附属明細書は、株式会社の本店及び支店に備え置かれ、閲覧に付せられるのみです。 2)会計監査人設置会社以外の監査役設置会社(会社計算規則133条1項2号) 取締役会設置会社のうち会計監査人設置会社以外の監査役設置会社では、計算書類のほか計算書類に関する監査役の監査報告を提供します。監査役会設置会社では、各監査役の監査報告に基づいて、監査役会の監査報告が作成されますが、定時株主総会の招集通知に際して提供を求められるのは計算書類のほか監査役会の監査報告のみです。 3)会計監査人設置会社以(会社計算規則133条1項3号) 会計監査人設置会社では、計算書類のほか会計監査人及び監査役(監査役会設置会社では監査役会)の監査報告を提供します。監査役会をラッチしない会社で監査役が複数選任されている場合に、各監査役の監査報告の内容が作成日を除いて同一である場合には、各監査役の監査報告すべてを提供する必要はなく、それらのうち1通を提供すれば足ります(会社計算規則133条1項3号ホ)。 会計監査人が辞任あるいは資格喪失などで欠けてしまい仮会計監査人の選任もされていないときは、会計監査人が存しない旨のみを報告します(会社計算規則133条1項3号ハ)。 会計監査人が通知期限までに監査報告の内容を通知しない場合には、会社計算規則は通知期限に会計監査人の監査報告をうけたものとみなすことを認めています(会社計算規則130条3項)。その場合に、会計監査人の監査報告に代えて会社計算規則の規定によって監査を受けたものとみなされる旨のみを報告します(会社計算規則133条1項3号ニ)。会計監査人の監査報告の内容を受領した監査役が通知期限に監査報告の内容を通知しない場合も同様です(会社計算規則133条1項3号ヘ)。 ・提供の方法(会社計算規則133条2項) 計算書類等の提供方法は、招集通知の提供方法に準じます。すなわち、招集通知を書面で提供している場合には、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合でも、計算書類を書面で提供します。また、株主の承諾を得て、招集通知を電場的方法で提供する場合には、計算書類が書面で作成されている場合でも、電磁的方法て計算書類を提供します。 ・過年度事項の提供(会社計算規則133条3項) 株主に計算書類等を提供する際に、参考情報として、前年度に関する計算書類の表示事項(過年度事項)を併せて提供することができるとされています(会社計算規則133条3項)。ただし、過年度の計算書類の提供を義務付けているわけではありません。株式会社が法定の開示事項の他に、株主が株式会社の財政及び収支の状況を理解するために有益な情報を提供することを妨げないのは当然であり、そのことを注意的に規定していると解されています。金融商品取引法では開示書類に含まれる財務諸表や連結財務諸表では前年度の事項を比較情報として記載することが求められています。 また、過年度事項について、会計基準の変更等により採用する会計方針の変更があった場合や、過年度事項についての資産評価の誤りやその他不適切な会計処理が明らかになり、過年度事項の遡及的修正がなされた場合には、過去の定時株主総会で承認または報告された計算書類の数値ではなく、遡及修正された数値を提供することが認められています(会社計算規則133条3項後段)。このような遡及的修正の結果、比較情報として提供される前年度計算書類の各項目は、前期株主総会において承認または報告されたものとは内容が異なることになります。会社計算規則133条3項後段の規定は、会社計算規則によって作成される計算書類において、会計基準等の遡及的修正を前提とした開示を認め、公正な会計基準に対応した取り扱いを可能としています。 ・ウェブ開示制度(会社計算規則133条4〜6項) 株式会社は、計算書類等の株主に対する書面または電磁的方法による提供(会社計算規則133条2項)に代えて、インターネットのホームページに掲載する開示方法、いわゆるウェブ開示を採用することができます。ウェブ開示制度は、計算書類については個別注記表についてのみですが、事業報告は一部、連結計算書類とその監査報告についても認められています。 株主総会の招集通知を電磁的方法により行い、これに伴い計算書類等を電磁的方法により提供する場合には、株主の個別同意が前提とされます(299条3項)。これに対して、ウェブ開示制度では、個別の株主の同意なく、会社は書面による情報提供を廃止し、インターネットによる開示のみによることができます。インターネットの利用が困難な株主の不利益が予想されるため、ウェブ開示によることのできる事項は上記のように限定され、またウェブ開示制度を利用することについて定款に記載することが求められています(会社計算規則133条4項)。 ウェブ開示を行う期間は、定時株主総会に係る招集通知を発出する時から定時株主総会の期日から3ヶ月が経過する日までです(会社計算規則133条4項)。電子公告制度のように電子公告ができない場合の代替的公告制度を定めることは求められておらず、また、電子公告調査機関による継続的開示の確認も求められてはいません。開示が一時的に中断した場合に、ただちに株主総会の招集手続が違法となるわけではなく、実質的に見て、開示期間全体として継続的に開示がなされたかどうかで判断されることになります。 ウェブ開示制度を利用する場合には、提供すべき情報が掲載されているホームページのアドレスを株主に通知します(会社計算規則133条5項)。ウェブ開示制度は、株主に対する情報開示の制度であり、公告制度の代替ではないので、指定されたホームページがすべてのインターネット利用者に閲覧可能である必要はなく、株主にホームページのアドレスとともにパスワードを通知し、パスワードを入力した場合にのみ内容が閲覧可能とすることもできます。 監査役、会計監査人は個別注記表を含む計算書類全体について監査し、監査報告を作成しますが、ウェブ開示によって個別注記表が直接株主に提起されず、ウェブ開示にととまる場合には、現に株主に対してウェブ開示によって提供された個別注記表の記載事項が、監査対象となった計算書類の一部であることを株主に対して通知して注意を促すよう、取締役に請求することができます(会社計算規則133条6項)。 ・修正事項の通知(会社計算規則133条7項) 株主総会の招集通知に添付した計算書類、その他の方法によって提供した計算書類に、印刷ミスその他の事由により誤りがあった場合や、招集通知を発出した後に重要な事情の変更があった場合に、株主総会の前日までの間に修正後の事項を周知させる方法を、招集通知とともに併せて通知することができます(会社計算規則133条7項)。 修正後の事項の周知方法にはとくに指定がないので、株主が、比較的容易に修正がある旨及び修正内容を知ることができる方法によることが必要です。時事を掲載する新聞に公告する方法、あるいは会社のホームページに掲載する方法等が考えられます。
関連条文 会計の原則(431条) |