新任担当者のための会社法実務講座 第453条 株主に対する剰余金の配当 |
Ø株主に対する 剰余金の配当(453条) 株式会社は、その株主(当該株式会社を除く。)に対し、剰余金の配当をすることができる。 ü
配当とは何か 企業は企業価値の向上に資する積極的な投資を可能な限りまかなったうえで、なお余剰資金がある場合には、企業は毎年、純利益や利益余剰金から株主還元を行います。株主還元には、一般的には、配当と自己株式の取得の2つがあります。企業が基本的に当期純利益の一部を現金で株主に分配することを配当といいます。 この当期純利益に対する配当の割合を配当性向と呼び、配当を株価で除したパーセンテージを配当利回りと呼びます。 配当性向(%)=配当金÷当期純利益 配当利回り(%)=配当金÷株価 ü
剰余金の配当 剰余金の配当は、会社が、株主に対して、その有する株式の数に応じて会社の財産を分配する行為(453条)であり、営利を目的とする会社の本質的要素です(105条)。一方、株式会社における株主の有限責任の制度的裏付けの一つとして、株主に対する財産分配の限度額が法律上認められています。剰余金の配当は、株主に対する財産分配の方法として最も広く行われているものですが、会社による自己株式の取得も、実質的に株主に対する財産分配としての機能を果たし得るもので、それについても剰余金の配当と同じ金額上の制約が課されています。 株主に対して分配できる限度額(分配可能額)の全額が常に株主に分配されるわけではありません。もしそれを行なえば、会社は当座の資金繰りに困ることになりかねません。また、その分を社内に留保し、新規の設備投資や製品開発や新事業などの新規投資にあてた方が株主の利益になるかもしれません。 剰余金の配当と剰余金を減少させる額だけ資本金・準備金を増加する形で社内に留保する決定(会社法450条、451条)、または、剰余金の項目間の計数を変更する形で社内に留保する決定(452条)をあわせ、剰余金の処分と呼ばれています。 ※剰余金の配当と内部留保 会社が利益を上げて剰余金が発生した場合に、それを株主に配当として分配するか、会社が内部留保として新たな投資にあてるか、どちらが株主にとって利益となるのかによるのですが、それには、会社の状況や利益に対する姿勢などでかわってきます。 理論的には、会社の方が株主より良い投資機会を有していれば、当面は分配可能な剰余金を株主に分配せず、会社が新規投資にあてて、後ほど分配することが株主の利益の最大化であり、逆に、株主の方が良い投資機会を有するのであれば、分配可能額を即時に全額分配することが、株主の利益になるわけです。両者が同等の投資機会を有していても、会社が剰余金を再投資した利益に課される税率(法人税率)と株主が分配額を投資した利益に課される税率とが異なる場合には、その税率が低い側が投資した方が株主の利益になるわけです。 上場会社の場合には、会社が剰余金の分配をしなくても、株主は持株を市場で売却して現金を手に入れることができ、しかも個人株主にとっては、原則として総合課税となる配当所得を受けた方が有利となるケースが多くなります。会社が衰退産業でよい投資機会がなくても、金融商品取引所における購入その他政令で定める方法により自己株式を取得して消却すれば、売却株主には譲渡益課税がなされます。税制上、上場会社の個人株主にとっては、これらの方法の方が、剰余金の配当より望ましいことになります。しかし、法人株主の場合、完全子会社法人株式等および関連法人株式等からの受取配当金等は全額が益金に算入されず、非支配目的株式等からの受取配当等は20%が、その他株式等からの受取配当等は50%が益金に算入されないので、剰余金の配当の形で財産分配を受ける方が税制上有利ということになります。このように、どのような剰余金の分配政策が各株主にとって望ましいかについて、税制が大きな影響力をもっています。しかし、実際には、剰余金の配当が株主への財産分配の主たる方法であり、かつ、経営者は、通常、単年度の利益の増減により配当を変更せず、長期的にその配当率を維持できる見込みのある場合にのみ増配を行う(安定配当)。その理由は、配当などの増減は株主にとってわかりやすい経営者監視の手段であり、それだけに経営者は減配を恐れるからだと言われています。 ü
利益配当と剰余金の配当 会社法制定以前の旧商法の下では、会社は毎決算期に決算をし、そこで確定された利益を配当する利益配当と、営業年度1年とする会社について1回認められる中間配当が実施されていました。しかし、会社法では、旧商法の単年度決算利益を配当するという利益配当という概念は改められ、株式会社が株主に対して会社財産を払い戻すという剰余金の配当ということになりました。その理由として、配当の原資が利益に限られないことがあげられます。したがって、株式会社については、会社に帰属した利益を各株主に割り当てるという考え方も採用されていません。 株式会社が解散・清算を待たずに株主に会社財産の一部を交付することにより配当を行い、これにより株主に会社の収益の一部が還元されるということは、諸外国の株式会社制度に共通する仕組みです。我が国においても、従来から株主の利益配当請求権は残余財産の分配請求権と並んで株主の固有権であると説明されてきました。旧商法の下では、会社が利益配当をすることができる旨、あるいは株主の抽象的な利益配当請求権それ自体を認めた規定はありませんでした。これに対して、会社法は、剰余金の無配当という概念を前提に、株主の剰余金配当を明文化し、453条で株式会社が剰余金の配当をすることができる旨を明らかにしています。 剰余金の配当は、自己株式の取得と並んで、剰余金の処分のうち、会社から株主に財産が交付されるものに位置付けられます。剰余金の配当とは会社法に規定された手続きにより株主に対して会社財産を払い戻す行為を指すもので、一般用語として配当とは必ずしも一致するとは限りません。 ü
配当政策 配当に関する企業の戦略を配当政策といいます。この配当政策は、各企業の置かれた環境や経営状態によって違います。その際に考慮される要素や配当のメリットを以下に簡単に上げていきます。 @企業のライフサイクルによって配当政策は異なる 一般に、高配当=低成長(キャッシュを投入すべき投資案件が少ない)、低配当=高成長(キャッシュを投入すべき投資案件が多く、配当にキャッシュを回せない)という傾向が見られます。グーグルに配当金を要求する株主は少ないでしょう。逆にP&Gのように数十年にわたって配当の増配を続けている企業もあります。 A安定配当による効果 経営者の中には、会社の業績に連動した配当よりも安定した配当を目指す傾向の人も多い。減配は資本市場に嫌われ、株価が下がるケースも多いので、いったん配当を引き上げたら簡単には引き下げられないと経営者は分っているので、保守的に安定配当を目指すというわけです。特に日本では配当金の変動と株価の変動の相関関係が強いと言われています。日本における配当の株価への影響度は、米国と比べ3倍とも言われています。投資家には配当選好の強い投資家がいるので、そうした顧客ニーズに合わせて配当することで株価に良い影響がでて、結果として配当が価値を創造することもあるわけです。 Bアナウンスメント効果 例えば、増配は将来にわたっての持続的な収益向上に経営陣が強い自信を示した証と解釈されて、株価が上がることがあります。また、業績が落ち込んだ時に、配当を減配としないでいると、経営陣は業績悪化は一時的で回復への自信がある証拠と解釈されて株価の低下を抑えることがあります。これをアナウンスメント効果と呼びます。 C配当割引モデル 投資家の中には、投資家が享受する株式投資からの便益、あるいは価値は未来永劫の流列の中では、究極的には投資家の受領する配当金の流列に帰結するという企業価値評価の考え方を持つ人もいます。この評価モデルを配当割引モデルといいます。これは株式を売却しない限り、投資家が現実に投資の果実として受け取るのは現金配当だけという前提で、こうした手法を使う投資家は基本的に配当を好みます。 D残余利益配当方針 結局のところ、余剰利益のうちいくら配当として現金払いするかは、投資機会と最適資本構成によるという考え方です。投資家は自分で再投資する以上の投資案件があれば低配当を受け入れます。一方で、企業に本業への投資機会がなく、自己資本を高める最適資本構成上の必要性もなければ、投資家は高配当を要求するわけです。ただし、一般に、企業サイドに本業で良質な(資本コストを上回る)投資案件があれば、できるだけ投資案件を利益や内部留保でまかない、もしそれで当期利益が余れば残りを配当するというのが、この方針の基本になります。ファイナンス理論に長けた機関投資家はこの方針に賛同する傾向にあります。 〔参考〕日本企業の配当政策の実態 日本企業が株主に対する配当政策の方針として、しばしば言われるのが「安定配当」ということばです。安定配当とは、企業から株主に支払われる1株当たり配当金を長期にわたって一定額に保たれることを言います。通常、株主に支払われる配当金は、株式を発行している企業の業績によって変わってくるのが原則です。これに対して、安定配当は、企業の利益の変動にもかかわらず、一定の金額を配当するものです。一般に安定配当は、企業にとっては株主構成や株価の安定に寄与し、株主にとっては固定収入源として計算できるメリットがあると言われています。 これには歴史的な経緯を遡って見ることができます。 @ルーツは第2次世界大戦前 1937年の日中戦争により、日本国内は戦時体制に入りました。この時、小国であった日本にとって戦争遂行のための財源確保のために、企業の配当を通して消費に回された資金の流れを、資本を蓄積し、それを軍需産業へ集中的に配分することを行います。そのために、商法改正により株主の権限を制約します。さらに翌年の国家総動員法により企業の配当を制限し、増配企業には主務大臣への届け出が義務化されました。配当と利益の連動は切断され、資本家から企業を解放するとして、取締役は従業員出身者が占めることとなり、資本市場への依存度を下げ間接金融による資金還流のコントロールが始まりました。これがメインバンク制の源流と考える人もいます。当時の世界的なインフレを避けるため価格統制を行ったことにより企業の利潤が低下し、「経済新体制確立要綱」が示され、企業の目的は資本の要求に基づく利潤の追求から計画生産の達成に移りました。そのために経営者を株主の要求から解放し、増産に専念させる。限界ある国内の資源を効率的、集中的に軍需産業に振り向ける措置であり、この結果日本企業特有の従業員重視の経営スタイルや負債中心の財務構造はこのような事情で形成されたと考えられます。 A戦後復興によりエスカレート 敗戦により日本国中の資本蓄積は破壊された戦後の復興には、さらなる集中的資源配分が必要とされました。そこで、戦後の復興政策では戦時体制の資金提供者、経営者、従業員の企業内におけるパワーバランスをむしろ進展させ、銀行の監督下による企業再建を推進しました。いわゆる傾斜生産方式です。そこで、日本企業は株主資本に報いるというインセンティブを失い、国家指導の強い管理下で資源配分を余儀なくされるという市場原理とは全く異なる価値観によって経営理念が形成されていったことになります。 この間、配当に対して政府による法的な規制が課せられ、企業は自由に配当を決められない状況が続きました。 B経済成長と株式の持ち合い 昭和25年の朝鮮戦争勃発に伴う特需が戦後復興のスタートとなりましたが、政府は経済自立のために産業合理化を推進する方策を打ち出し、鉄鋼業を中心として、そのための設備投資を進める政策を取ります。いわゆる傾斜生産方式と呼ばれるその政策は、鉄鋼業に集中的に投資を行い鉄材をエネルギーである石炭に振り向け増産した石炭を鉄鋼に振り向け、鉄鋼を材料とする機械や耐久消費財の製造に波及させていくというものでした。これらは、いずれも大型の長期投資を必要とする産業であったため長期資金の確保が必要となりました。 これらの資金の源は家計に求める他はありません。一方では企業に巨大な資金需要がありながら、当時の家計には余剰資金は不足していました。そのため株式等に投資して長期資金を提供する余裕はなく、そのため、銀行が預金の形で家計から資金を吸収するための様々な制度設計(金融規制)がなされました。その結果、企業の長期資金の調達方法が主として銀行経由が主となっていきました。 一方、財閥解体等の政策で持ち株会社の解体によって放出された株式の保有者はそれらの会社の社員が中心でしたが、徐々に市場で売却され、株式市場が押し下げられる結果となり株式市場は低迷します。そこで、各企業は安定株主対策を講じます。いわゆる持ち合いです。これを可能としたのは、資金調達の場として株式市場の必要性が低かったためといえます。 C抑えられた資本コストと政策目的の株式保有による期待リターン 高度経済成長の原動力となったのは企業の旺盛な設備投資活動でした。この設備投資により増産した製品はアメリカ等の海外市場に輸出され、さらなる生産量の増産を生み出していきます。その際に、資金は間接金融で限られた余剰資金を政策的に集中して低金利で投下されました。一方株主資本コストも人為的に抑えることで、設備投資の促進、国際競争力に資することとなりました。つまり、メインバンク制度、株式の持ち合い、生命保険や事業法人による政策的目的による株式保有という投資による財務リターンを主目的としない株式保有は投資の期待値を抑えることで資本コストを低く抑えることができました。 その一環として安定配当を捉えることができます。その実際的な理由は、株主としてのメインバンクが株式を安定保有するための条件としても貸出の実効金利を下回らない配当利回りを要求したことです。また、生命保険などの株主は市場で頻繁に株式を売買してキャピタル・ゲインを求めないため配当が事実上経営的に投資リターンの中心であったため株式投資の元本を簿価で捉え、10%の配当が安定的に得られる仕組みは、株式を疑似確定利付証券として位置付けられることができたわけです。 安定配当の理由は、これだけに限定されるものではありませんが、ひとつの考え方として受け取っていただきたいと思います。 ü
剰余金配当請求権 株主は、株式の権利内容(自益権)の一部として、剰余金の配当を受ける権利(剰余金配当請求権)を有しています(105条1項1号)。しかし、配当決議により配当財産の額等の権利内容が確定する前の剰余金配当請求権は、観念的な一種の期待権であり、株式から分離して譲渡・差押えすることはできません(大審院判決大正8年1月24日)。将来生ずべき確定後の剰余金配当請求権を配当決議前に差し押さえることは可能とされていますが、取り立て前に株式が譲渡されれば、その差押えは効力がなくなります。 そして、配当決議により、各基準日株主(124条1項)に会社に対する具体的な剰余金配当支払請求権が発生します。その請求権は、株主を債権者としする具体的な債権(金銭債権等)であり、株式と別個独立に処分(譲渡・差押え等)の対象となります。逆に言えば、その後に株式が譲渡されても、剰余金配当請求権は譲受人に移転しません。 ü
剰余金の配当手続 剰余金の配当は会社法で規定された手続きにより株主に払い戻される、その手続きは453条以下に定められています。まず、剰余金の配当は原則として株主総会決議によります(454条1項)。この決議は、配当財産が金銭の場合には普通決議で成立します。また、会計監査人設置会社のうち監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社及び取締役の任期が1年以内である監査役会設置会社は、定款の定めにより、剰余金の配当を取締役会の決議で決めることができる(459条1項)。しかし、配当財産が金銭以外の財産であり、かつ、株主に対して金銭分配請求権を与えないこととする場合には、株主総会での特別決議が必要となります(309条2項10号)。 具体的な配当請求権は10年の消滅時効にかかります(民法167条)。会社によっては、株主が3年、5年等の一定の期間内に配当金を受け取らないと、会社は支払義務を免れる旨の定款の定めを設けている場合があります。このような定めは、除斥期間の定目であると解されていて、未整理の未払い勘定をいつまでも残すことは事務処理の整理上不便であり、また理論的にも、定款規定により具体的な配当金支払請求権が社団的制約を受けた形で発生すると考えることができるため、不当に短いものでない限り有効であると解されています(大審院判決昭和2年8月3日)。 ü
配当の時期 旧商法の下では、決算における利益処分として行う利益配当と、営業年度を1年とする会社について1回認められる中間配当がありました。しかし、現行の会社法においては、剰余金の処分の時期および回数の制限がなく、また、分配可能額の範囲内でなされる限り、債権者保護との関係においても回数制限をする必要はないと考えられたためです。これに関連して、前年度決算日以降の会社の行為その他により株主に分配され得る原資が増減した場合、配当時点までの増減の一部が分配可能額に反映されます。 また、旧商法下では、営業年度の中途において新株発行がなされた場合に、その発行の日から決算日までの期間によって、新株に交付する配当の額を日割りまたは月割り計算するいわゆる日割配当の慣行があり、商法にも可能とする条文がありました。しかし、現行の会社法では、配当される剰余金は、前事業年度の決算に基づく利益だけでなく、それ以外も財源とするものであるため、日割配当を認める合理性がないとして、禁止とされました。 ü
自己株式 会社が保有する自己株式に配当をすることはできません(453条本文括弧書)。 ü
財源・会計上の取扱い 剰余金の配当は、効力を生じる日における461条2項所定の分配可能額を超えてすることはできません(461条1項8号)。また、会社の純資産額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当を行うことはできません(458条)。 剰余金の配当をする場合には、現に計上している準備金の額が資本金の4分の1以上である場合を除き、剰余金の配当により減少する準備金の額の1割を、その原資の区分に応じて資本準備金または利益準備金に計上しなければなりません(445条4項、会社計算規則22条)。配当後の、「その他資本準備金」および「その他利益準備金」の額は、それぞれ、剰余金の配当によって減少する会社財産の帳簿価格のうち会社がこれらの剰余金から減ずべき額と定めた額、および、準備金として計上すべき額が減少します(会社計算規則23条)。 関連条文 会計の原則(431条) 金銭分配請求権の行使(455条) 基準株式数を定めた場合の処理(456条)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条) 株主の権利の制限(460条) |