@株式会社は、法務省令で定めるところにより、その成立の日における貸借対照表を作成しなければならない。
A株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
B計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。
C株式会社は、計算書類を作成した時から10年間、当該計算書類及びその附属明細書を保存しなければならない。
ü
会社成立の日における貸借対照表の作成義務(435条1項)
株式会社は、法務省令(会社法施行規則58条)の定めるところにより、その成立の日における会計帳簿に基づき、貸借対照表を作成しなければなりません(435条1項)。
ü
計算書類等の作成(435条2項)
株式会社は、各事業年度の計算書類として貸借対照表、損益計算書その他に株主資本等変動計算書、個別注記表及び事業報告とこれらの附属明細書を作成しなければなりません(435条2項)。なお、これらの計算書類の作成に係る期間は、その前事業年度の末日の翌日から当事業年度の末日までの期間で、この期間は1年以内ということになります(会社計算規則59条2項)。実務的には、その事業年度の終了後に作成することになります。そして、これらの計算書類等は会計帳簿に基づいて作成しなければなりません(会社計算規則59条3項)。
ü
計算書類等の主な内容
・損益計算書
損益計算書は、一事業年度に発生した収益とそれに対応する費用とを記載することにより、その期間内の会社の経営成績を明らかにする計算書です(企業会計原則第2の1)損益計算書は、@売上高、A売上原価、B販売費及び一般管理費、C営業外収益、D営業外費用、E特別利益、F特別損失の項目に区分して、以上から算出される税引前当期純損益金額の次に、課される税額等を表示することにより、最終的に当期純損益金額を算出する形で記載されます(会社計算規則88条〜94条)。
ア.営業損益計算
その会社の営業活動から生ずる収益・費用を記載する部分です(企業会計原則第2の2A)。例えば製造業の場合、営業収益として事業年度の売上高(会社計算規則88条1項1号)を記載し、その額から営業費用として、まずそれに対応する売上原価(会社計算規則88条1項2号)を控除して売上総損益金額(会社計算規則89条)を算出し、次に販売費及び一般管理費(会社計算規則1項3号)を控除して営業損益金額(会社計算規則90条)を算出します。一般に、営業損益は会社の本業による損益、つまり、事業の実力を表わしていると考えられています。
※実現主義
売上高の計上時期については、その事業年度内に商品等の販売または役務の給付が行われたものを売上額とし、これを実現主義といいます。なお、商品の販売はいつの時点とするか、出荷時、受渡時、検収時と分けられますが、便宜上出荷をもって販売としている会社が多いようです。
※原価計算
売上原価には、製造業の場合、材料費、工場従業員の賃金(労務費)、機械設備の減価償却費などが含まれます。費用・収益対応の原則により、その事業年度の売上に対応する部分のみがその年度の売上原価になります。例えば、材料仕入れのための支出のうち@当期内に製品として製造され出荷されたものの材料の部分は売上原価となりますが、Aそれ以外の製造途中のものは半製品などの在庫として棚卸資産として計上され売上原価とはなりません。なお、このAは次の年度に製造され出荷されれば、次の年度の売上原価となります。
※販売費及び一般管理費
会社の営業員の費用、事務管理系の業務の費用は、事業年度中に発生した額がそのまま年度の費用となります。
イ.営業外損益計算
その会社の営業活動以外の原因で、毎年続けて発生するような収益と費用による損益、例えば、受取利息・配当金、支払利息・割引料、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(いわゆる「売買目的有価証券」)の売却損益・評価差額金などです(企業会計原則第2の2B)。
ウ.経常損益計算
損益計算書の営業外損益の記載の後に、営業損益計算額に営業外損益を加えたものが経常損益金額です(会社計算規則91条)。これは、通常、会社の本業の損益である営業損益に借り入れの利払いや預金利息といった金融収支などを加えた会社の年間の損益です。この後の特別損益は臨時で本業以外の理由ものなので、日常的な企業活動の損益と言えます。営業損益が会社の儲ける力を表わすとすると、計上損益は会社の体力を表わすといえます。
エ.特別損益
特別損益は経常的でなく臨時に発生する損益(臨時損益)及び過年度に発生したが未記載の収益・費用(前記損益修正)を記載します(会社計算規則88条)。特別損益の例として、固定資産売却損益、売買目的以外の有価証券の売却損益、組織再編における(負の)のれん、その他に有価証券評価損、災害による損失などがあります。
オ.税引前当期純損益・当期純損益
経常損益金額に特別損益を加えて算出した額は、損益計算書に、「税引前当期純損益金額」として表示されます(会社計算規則92条)。
その次に事業年度に対する法人税等の税額及び税金等調整額を記載して税引前当期純損益に加減下結果が当期純損益です(会社計算規則94条)。なお、一株当たりの当期純損益金額を注記します(会社計算規則113条2号)。
当期純損益金額は、貸借対照表の純資産の部の株主資本(その他利益剰余金)を変動させるもので、株主資本等変動計算書にも記載されます。
・貸借対照表
貸借対照表は、貸借対照表日(計算書類の場合は事業年度の末日)における資産・負債・純資産を記載することにより、その時点の会社の財産状態を明らかにする計算書です(企業会計原則第3の1)。貸借対照表上の資産の部は流動資産、固定資産、繰延資産の三つの項目に分類され。負債の部は流動負債と固定負債の二つに分類されます。純資産の部は株主資本、評価・換算差額等・新株予約権の三つに分類されます
ア.資産の部
貸借対照表上の資産は、会社が保有する物(動産、不動産)、権利(債権、工業所有権等)、その他財産的価値のあるものです。この意義は、資本維持を通じて会社債権者保護を図るという観点からは監禁可能性があることを原則としますが、他方で将来の収益に対応する未実現費用の集積とみる立場もあります。
@)流動資産
流動資産とは、次の資産を言います。短期(1年以内)で現金化することが可能な資産です。
A.その会社の主目的である営業活動上所有しまたは発生した棚卸資産(製品・半製品・原材料等)、現金及び金銭債権(売掛金、受取手形等)
※棚卸資産の評価
原則として取得価額(取得原価、製作価額)を評価とします。ただし、事業年度末日の時価(この場合は正味売却価額、つまり経年劣化してしまった製品は中古品とみなされて定価での販売ができなくなるということです)が取得価額より著しく低く、取得原価まで回復の見込がない場合には、事業年度末日の時価に評価を下げることとなります。この会計処理を評価損、あるいは減損といい、営業外費用又は特別損失で計上します。
※金銭債権の評価
金銭債権(流動資産のみならず、固定資産で計上される金銭債権もある)は、原則として債権金額を計上します。しかし、譲渡性のある金銭債権は金融商品として市場価格があるものが少なくありません。この場合は時価を計上することになります。これは棚卸資産のような費用性資産とは性格が異なり時価でいつでも換金することができるため、時価の方が会社の財政状態を適正に表示することになるからです。
※債権の評価
債権について取立不能のおそれがある場合には、事業年度末日において取り立てることができないと見込まれる額を貸倒引当金として計上し、債権額が控除しなければなりません。一般の貸付金はもとより売掛金のような売上債権では営業相手の経営状態を監視してリスク回避を図ります。
B.会社の営業活動以外で発生した金銭債権(預金、貸付金等)で履行期が事業年度末日の翌日から起算して1年以内に到来するもの、前払費用で事業年度末日の翌日から起算して1年以内に費用となるもの、特定の資産や負債に関連しない繰延税金資産で事業年度末日から起算して1年以内に取り崩されると認められるもの
C.売買目的有価証券、親会社株式
A)固定資産
流動資産とは、次の資産を言います。短期的に現金化することん゛困難な資産です。
A.建物・機械装置・運搬具・土地・建設仮勘定等の有形固定資産
B.特許権・借地権・商標権・リースにより使用する固定資産・ソフトウェア制作費、有償取得したのれんなどの無形固定資産
C.売買目的有価証券以外の有価証券・履行期が1年以上さきの長期貸付金等の投資その他資産
※固定資産の評価
固定資産は取得価額を計上し、かつ各事業年度の末日において減価償却をし、取得価額から減価償却累計額を控除した価額を計上します。当初予想できなかった価額の減損が生じた場合(例えば災害による物理的減損など)には減損処理をします。
B)繰延資産
繰延資産とは、会社が既に代価の支払をしまたは支払義務が確定し、かつ、それに対応する役務の提供を既に受けたにもかかわらず、それを当事業年度の費用として計上せず、資産の部に計上して、次期以降に漸次償却(費用化)していくことが認められたものです。このような会計処理が認められる理由は、その役務の提供を受けた効果が次期以降の会社の収益に貢献すると期待されるので、後年度の収益に対応する部分は後年度の費用とすることで費用・収益を対応させることに合理性があるからです。
繰延資産は換金可能性がないので、会社債権者保護の要請から計上できるものは限定されています。すわわち、創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費の五つです。
イ.負債の部
貸借対照表上の負債は、原則として法律上の債務ですとかと、引当金のように将来の発生費用の見越しであるものも、負債の部に計上されます。
@)流動負債
流動負債と固定負債の区別の基準は、流動資産と固定資産の区別の基準に対応して、債務の履行期が事業年度の翌日から起算して1年以内に到来する金銭債務が流動負債となります。例えば、支払手形、買掛金、未払金、短期借入金などです。
A)固定負債
流動負債以外の負債です。例えば、長期借入金や社債などです。
※引当金
将来の特定の費用または損失に備えるための引当金は、当該事業年度の負担に属する金額に限り、その合理的な見積額を貸借対照表の負債に計上することができます(会社計算規則6条2項1号)。これは、事業年度末日現在、会社に法律上の債務は存在しませんが、将来において特定の支出・損失が生ずる(例えば数年内にある有形固定資産の修繕費用が発生する)可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができ、当期の収益に対応するものとして当期の負担に帰属させることが合理的なものは、その金額を損益計算書上当期の費用として計上し、累積額を貸借対照表の負債の部に計上することを認めています。具体的には、役員退職慰労金、修繕引当金などがこれに当たります。他方、退職給付引当金、製品保証引当金等は停止条件付であったり金額が予測に基づいているとはいえ、一般に法律上の債務であるから、負債の部に計上できるのは当然であり、ここにいう引当金には該当しません。
ウ.純資産の部
貸借対照表上の純資産の部は、資産額と負債額の差額です。その額は実質的には、株主が拠出した金額と留保利益とから成る株主の持分額を表示する部分(株主資本)と、それにも負債にも当たらない中間的性格のものを表示する部分(評価・換算差額等、新株予約権)とからなるものです。
・株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、一事業年度における貸借対象表の純資産の部の変動を示すものであり、最近の会計基準の改正により、損益計算書に記載されず貸借対照表の純資産の部に直接記載される項目が増加したこと等から、会社法の制定時に導入されました。
ア.株主資本の変動として、株式の発行による資本金・資本準備金の項目の変動、当期純利益・剰余金の配当による利益剰余金の項目の変動、自己株式の取得・消却・処分による自己株式の項目の変動等が記載されます。
イ.評価・換算差額等として、その他有価証券の評価額の変動によるその他有価証券の評価額の変動によるその他有価証券評価差額金の項目の変動等が記載されます。
ウ.新株予約権の変動として、新株予約権の行使などによる新株予約権の項目の変動等が記載されます。
・個別注記表
注記表は、計算書類の内容の正確な理解に資する情報です。個別注記表には次の項目が記載されます。
ア.継続企業の前提に関する注記(会社計算規則98条1項1号、100条)
イ.重要な会計方針に係る事項に関する注記(会社計算規則98条1項2号、101条)
ウ.会計方針の変更に関する注記(会社計算規則98条1項3号、102条の2)
エ.表示方法の変更に関する注記(会社計算規則98条1項4号、102条の3)
オ.会計上の見積りの変更に関する注記(会社計算規則98条1項5号、102条の4)
カ.誤謬の訂正に関する注記(会社計算規則98条1項6号、102条の5)
キ.貸借対照表に関する注記(会社計算規則98条1項7号、103条)
ク.損益計算書に関する注記(会社計算規則98条1項8号、104条)
ケ.株主資本等変動計算書に関する注記(会社計算規則98条1項9号、105条)
コ.税効果会計に関する注記(会社計算規則98条1項10号、107条)
サ.リースにより使用する固定資産に関する注記(会社計算規則98条1項11号、108条)
シ.金融商品に関する注記(会社計算規則98条1項12号、109条)
ス.賃貸等不動産に関する注記(会社計算規則98条1項13号、110条)
セ.持分法損益等に関する注記(会社計算規則98条1項14号、111条)
ソ.関連当事者との取引に関する注記(会社計算規則98条1項15号、112条)
タ.一株当たり情報に関する注記(会社計算規則98条1項16号、113条)
チ.重要な後発事象に関する注記(会社計算規則98条1項17号、114条)
ツ.連結配当規制適用会社に関する注記(会社計算規則98条1項18号、115条)
テ.その他の注記(会社計算規則98条1項19号、116条)
・附属明細書
附属明細書には、事業報告に係る附属明細書(会社法施行規則128条)と、計算書類に係る附属明細書とがあります。計算書類に係る附属明細書には、計算書類の内容を補足する重要な事項を表示します(会社計算規則117条)。
すべての株式会社は有形固定資産及び無形固定資産の明細、引当金の明細、販売費及び一般管理費の明細を表示する必要があります。
ü 電磁的記録による作成(435条3項)
株式会社は計算書類、事業報告及びこれらの附属明細書については電磁的記録をもって作成することができる(435条3項)。連結計算書類についても同様の規定が置かれています(444条2項)。これに対して、会計帳簿については会社法には明文の規定がなく、会社計算規則において書面または電磁的記録をもって作成しなければならないと規定されています(会社計算規則4条2項)。
ü 計算書類の保存(435条4項)
株式会社は、計算書類を作成した時から10年間その附属明細書も保存しなければなりません(435条4項)。
計算書類の保存主体は、会社が継続中は株式会社自身です。会社が清算により法人格を喪失した場合は、清算人または裁判所が選任する保存者が書類の保存義務を負います(508条)。
Ø 関連する会社計算規則
² 表示の原則(会社計算規則57条)
@計算関係書類に係る事項の金額は、一円単位、千円単位又は百万円単位をもって表示するものとする。
A計算関係書類は、日本語をもって表示するものとする。ただし、その他の言語をもって表示することが不当でない場合は、この限りでない。
B計算関係書類(各事業年度に係る計算書類の附属明細書を除く。)の作成については、貸借対照表、損益計算書その他計算関係書類を構成するものごとに、一の書面その他の資料として作成をしなければならないものと解してはならない。
・表示単位(会社計算規則57条1項)
会社法に定める計算関係書類は、1円単位、千円単位または百万円単位のいずれかによることができる(会社計算規則57条1項)。
以前の旧商法の時代には会社の規模などにより表示単位を指定されていましたが、現行の会社法では、単位の選択について、会社の区分はなく、各会社が実情に応じて選択することができます。会社の財産規模と必ずしも直接に関係しない資本金額によって計算書類の表示を区別することに、合理性がないと考えられたためです。会社計算規則では、公開会社であるかどうかによっては区別があるものの、大会社であるかどうかによる区別はありません。
なお、端数の処理については金融商品取引法と同様に四捨五入とされています。
・計算関係書類の使用する言語(会社計算規則57条2項)
会社は、日本の法律に基づき、日本において設立されることを前提としているので、計算関係書類も当然に日本語で記載されることが原則でするただし、日本語以外の言語を使用して作成することが不当でない場合には、日本語以外の言語で作成することができます(会社計算規則57条2項)。
「その他の言語をもって表示することが不当でない場合」としては、株主等の多くが外国人である場合や、戸の引き相手の多くが外国語による表示を求める等の事情が挙げられています。ただし、計算関係書類は、現在の株主や取引相手だけでなく、将来の株主や取引相手、さらには潜在的な不法行為債権者などによって閲覧ないし参照されることが想定されます、というような可能性も含めて、「その他の言語をもって表示することが不当でない場合」を考慮することになると思われます。
・計算関係書類の形式(会社計算規則57条3項)
附属明細書以外の計算関係書類については、貸借対照表、損益計算書、その他計算関係書類を構成するものごとに、1つの書面その他の資料として作成することは求められていません(会社計算規則57条3項)。
例えば、個別注記表や連結注記表は、まとめて一つの書類として記載することも可能ですが、計算書類に共通の会計方針や連結の方針以外の、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書に脚注の方式で記載することが考えられます。このように、各会社が実情にあわせて表示形式を考えることができます。
² 各事業年度に係る計算書類(会社計算規則59条)
@法第435条第2項に規定する法務省令で定めるものは、この編の規定に従い作成される株主資本等変動計算書及び個別注記表とする。
A各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間は、当該事業年度の前事業年度の末日の翌日(当該事業年度の前事業年度がない場合にあっては、成立の日)から当該事業年度の末日までの期間とする。この場合において、当該期間は、1年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、1年6箇月)を超えることができない。
B法第435条第2項の規定により作成すべき各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書は、当該事業年度に係る会計帳簿に基づき作成しなければならない。
・各事業年度に係る計算書類の構成形式(会社計算規則59条1項)
会社法435条2項は、計算書類を「貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの」としています。ここでは、そのなかで「その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの」を、株主資本等変動計算書及び個別注記表であると規定しています。
・計算書類等の作成に係る期間(会社計算規則59条2項)
各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書の作成に係る期間は、成立初年度を除いて、事業年度の前事業年度の末日の翌日から、その事業年度の末日までの期間と規定されています。その期間は、事業年度の末日を変更する場合を除いては1年を越えることはできません(会社計算規則59条2項)。
旧商法では定時株主総会は少なくても毎年1回招集することが求められて、その定時株主総会には計算書類を提出することが求められていたため、1事業年度が1年を超えることはできませんでした。これに対して、現行の会社法では、定時株主総会は「毎事業年度の終了後一定の時期」に開催するとされています。その代わりに、会社計算規則で事業年度の期間について、このような規制が設けられました。会社は通常、定款で事業年度の開始日と末日を規定しています。
会社は事業年度の変更をする場合には、変更後の最初の事業年度については、事業年度を最長1年6か月することができます。例えば、事業年度を毎年1月1日から12月31日までとする会社が、事業年度を毎年4月1日から3月31日に変更する場合に、12月31日を末日とする最終の事業年度が終了後、さらに次の年の3月31日までの15ヶ月間を事業年度とすることが認められるということです。これは短期間、この場合であれば、1月1日から3月31日までについて決算手続を行う負担を回避するためです。
事業年度は原則として最長1年であり、会社がそれより短期の事業年度を選択することはできます。
・会計帳簿に基づく計算書類等の作成(会社計算規則59条3項)
各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書は、当該事業年度に係る会計帳簿に基づいて作成しなければなりません。計算書類が、いわゆる誘導法によって作成されることを規定しています。
² 注記表の区分(会社計算規則98条)
@注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
1 継続企業の前提に関する注記
2 重要な会計方針に係る事項(連結注記表にあっては、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項及び連結の範囲又は持分法の適用の範囲の変更)に関する注記
3 会計方針の変更に関する注記
4 表示方法の変更に関する注記
5 会計上の見積りの変更に関する注記
6 誤謬の訂正に関する注記
7 貸借対照表等に関する注記
8 損益計算書に関する注記
9 株主資本等変動計算書(連結注記表にあっては、連結株主資本等変動計算書)に関する注記
10 税効果会計に関する注記
11 リースにより使用する固定資産に関する注記
12 金融商品に関する注記
13 賃貸等不動産に関する注記
14 持分法損益等に関する注記
15 関連当事者との取引に関する注記
16 一株当たり情報に関する注記
17 重要な後発事象に関する注記
18 連結配当規制適用会社に関する注記
18の2 収益認識に関する注記
19 その他の注記
A次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
1 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第1号、第5号、第7号、第8号及び第10号から第18号までに掲げる項目
2 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第1号、第5号、第14号及び第18号に掲げる項目
3 会計監査人設置会社であって、法第444条第3項に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第14号に掲げる項目
4 連結注記表 前項第8号、第10号、第11号、第14号、第15号及び第18号に掲げる項目
5 持分会社の個別注記表 前項第1号、第5号及び第7号から第18号までに掲げる項目
・注記表の区分(会社計算規則98条1項)
会社計算規則98条1項の条文は財務諸表等規則8条の2及び連結財務諸表規則13条に倣ったものですが、若干の省略があります。すなわち、有価証券に関する注記、デリバティブ取引に関する注記、退職給付に関する注記、企業結合あるいは事業分離等に関する注記は要求されていませんし、リース取引、税効果会計あるいは関連当事者との取引に関する注記として注記すべき内容も簡略化されています。なお、ストック・オプションに関する注記は事業報告に含められることになっています(会社法施行規則123条)。
これは、個別注記表や連結注記表を作成する会社は必ずしも有価証券報告書提出会社のように経理組織が充実しているとは限らないし、規模が小さく、大きな会計コストをかけることが合理的でない会社もあるということ、一部の開示項目は事業報告において開示されること、及び計算書類と連結計算書類の作成時期は有価証券報告書の作成時期より早めであること、これらの理由から、事務負担の問題などから簡略化されたものと考えられます。
・一定の会社の個別注記表に表示することを要しない項目及び連結注記表に表示することを要しない項目(会社計算規則98条2項)
会計監査人設置会社ではあるが、連結計算書類を作成する会社でない会社については、持分法損益等に関する注記は要求されません。これは、持分法損益に関する注記は、連結計算書類の作成義務があるにもかかわらず、重要な子会社が存在しないために連結計算書類を作成しない株式会社について、関連会社に対する投資について持分法を適用した損益等及び開示対象特別目的会社がある場合のその概要等を開示させることに意味があるからで、連結計算書類の作成を作成しない会社に持分法損益等に関する注記を要求すると、その負担が重くなり、連結計算書類の作成を義務付けないとしている会社法の趣旨にそぐわないと考えられるからです。
同じような趣旨で、会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表には持分法損益などに関する注記を含めることは要求されていないほか、継続企業の前提に関する注記、会計上の見積りの変更に関する注記、連結配当規制適用会社に関する注記は要しないとされています。連結配当制度適用会社に関する表示を要しないとされているのは、会計監査人設置会社でなければ会社法上の連結計算書類を作成できない(444条1項)のですが、連結配当適用会社は連結計算書類を作成している会社でなければならないので、連結配当制度適用会社にはなり得ないからです。継続企業の前提に関する注記を要しないとされているのは、継続企業の前提に関する注記は会計監査人による監査との関連でとくに重要性があるもので、この注記は会計監査人の意見があってこそ有用性が確保されるからです。会計上の見積りの変更に関する注記を要しないのは会社の負担を考慮してのものと考えられます。
非公開会社で会計監査人を設置しない会社の個別注記表について、継続企業の前提に関する注記、会計上の見積りの変更に関する注記、貸借対照表等に関する注記、損益計算書に関する注記、税効果会計に関する注記、リースにより使用する固定資産に関する注記、金融商品に関する注記、賃貸等不動産に関する注記、持分法損益等に関する注記、関連当事者との取引に関する注記、一株当たり情報に関する注記、重要な後発事象に関する注記、連結配当規制適用会社に関する注記の表示は要求されません。これは、公開会社以外の会社であって会計監査人を設置していない会社については私的自治を広く認めることが適当であるし、個別注記表を作成するための負担が過重にならないようにする必要があるからです。また、公開会社以外の会社であれば、株主の数が少なく、株主が会計帳簿閲覧等請求権(433条)を有していることもあり得るからです。しかし、重要な会計方針に係る事項に関する注記、会計方針の変更に関する注記、表示方法の変更に関する注記、誤謬の訂正に関する注記は計算書類を的確に理解し、期間比較に当たって注意を喚起するために不可欠であるし、株主資本等変動計算書にかんする注記は、1年に何回でも剰余金の配当等を行えることを前提とする株主等にとって重要な情報であるし、その注記をすることの会社にとっての負担は軽いと考えられ、省略は認められていません。
同じ理由で、持分会社の個別注記表にも、重要な会計方針に係る事項に関する注記、会計方針の変更に関する注記、表示方法の変更に関する注記、誤謬の訂正に関する注記及びその他の注記を表示しなければならないことになっています。
連結注記表には、継続企業の前提に関する注記、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項及び連結の範囲または持分法の適用の範囲の変更に関する注記、会計方針の変更に関する注記、表示方法の変更に関する注記、会計上の見積りの変更に関する注記、誤謬の訂正に関する注記、連結貸借対照表に関する注記、連結株主資本等変動計算書に関する注記、金融商品に関する注記、賃貸等不動産に関する注記、1株当たり情報に関する注記、重要な後発事象に関する注記及びその他の注記を含めなければなりません。この中で、連結損益計算書に関する注記が要求されていないのは、関係会社との取引の相殺消去・未実現利益の消去や持分法の適用によってある程度連結損益計算書に反映されているからです。また、連結配当規制適用会社に関する注記は単体の計算書類レベルで意義を有するに過ぎないため、連結注記表に表示させるまでもないと考えられるからです。
なお、この条文で省略することが認められている事項であっても、場合によっては会社計算規則98条1項19号及び116条に基づいて注記をしなければならないこともありえます。
² 注記の方法(会社計算規則99条)
貸借対照表等、損益計算書等又は株主資本等変動計算書等の特定の項目に関連する注記については、その関連を明らかにしなければならない。
特定の項目に関連する注記は、その関連が明らかになるように記載することが要求されています。注記の多くは、貸借対照表・連結貸借対照表、損益計算書・連結損益計算書または株主資本等変動計算書・連結資本等変動計算書に記載されている1つまたは複数の項目に関連するからです。
この場合の「特定の日」とは、必ずしも1つの項目に限らず、複数の項目も「特定の項目」にあたると言えます。
「関連が明らかになるような記載」とは、ある注記が特定の項目の注記であることを利用者が明瞭に判断できるような方式によればよく、さまざまな方式によることが考えられます。
² 継続企業の前提に関する注記(会社計算規則100条)
継続企業の前提に関する注記は、事業年度の末日において、当該株式会社が将来にわたって事業を継続するとの前提(以下この条において「継続企業の前提」という。)に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるとき(当該事業年度の末日後に当該重要な不確実性が認められなくなった場合を除く。)における次に掲げる事項とする。
1 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
2 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
3 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
4 当該重要な不確実性の影響を計算書類(連結注記表にあっては、連結計算書類)に反映しているか否かの別
・継続企業の前提に関する注記
継続企業の前提に関する注記は、会社法の施行の際に初めて要求されるようになったもので、財務諸表等規則8条の27に倣ったものです。
継続企業の前提に関する注記を要求しているのは、計算書類作成会社が継続企業であることは、会社計算規則に基づく計算書類作成の暗黙の前提となっているため、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況がある場合には、それを適切に注記することが求められる場合があると考えられるからです。継続企業の前提とは会社が将来にわたって事業を継続するとの前提をいいます。例えば、のれんや繰延資産の計上、法的債務性を有しない負債性引当金の計上などについては継続企業の前提があってはじめて有効となるので、継続企業の前提が成立しない場合には、「継続企業の前提が成立しないこと」を前提として貸借対照表を作成することになります。継続企業の前提に重要な疑義を抱かせるような事象または状況があるにすぎない場合には、継続企業の前提に基づいて計算関係書類を作成するため、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせるような事象または状況が必ずしも計算関係書類に反映されていないことを利用者が認識し、また利用者が計算関係書類を用いて意思決定するようなこと防ぐため、継続企業の前提に関する注記が要求されると考えられます。
・継続企業の前提に重要な疑義を抱かせるような事象または状況
企業会計審議会「監査基準の改訂について」(平成14年1月25日)三6(3)では、「継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況としては、企業の破綻の要因を一義的に定義することは困難であることから、財務指標の悪化の傾向、財政破綻の可能性等概括的な表現を用いている。より具体的に例示するとすれば、財務指標の悪化の傾向としては、売上の著しい減少、継続的な営業損失の発生や営業キャッシュ・フローのマイナス、債務超過等が挙げられる。財務破綻の可能性としては、重要な債務の不履行や返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶等が挙げられる。また、事業の継続に不可欠な重要な資産の毀損や権利の失効、重要な市場や取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、その他法令に基づく事業の制約等も考慮すべき事象や状況と考えられる」としていました。また、財務諸表等規則ガイドライン8の27−2は、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」とは、「監査基準にいう継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況をいうものとし、債務超過、売上高の著しい減少、継続的な営業損失の発生、継続的な営業キャッシュ・フローのマイナス、重要な債務の不履行、重要な債務の返済の困難性、新たな資金調達が困難な状況、取引先からの与信の拒絶、事業活動の継続に不可欠な重要な資産の毀損又は喪失若しくは権利の失効、重要な市場又は取引先の喪失、巨額の損害賠償の履行、法令等に基づく事業活動の制約等が含まれることに留意する。なお、これらの事象又は状況が複合して、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況となる場合もあることに留意する」としています。
そして、日本公認会計士協会・監査・保証実務委員会報告74号「継続企業の前提に関する開示について」4項は、財務指標として、売上高の著しい減少、継続的な営業損失の発生または営業キャッシュ・フローのマイナス、重要な営業損失の発生または当期純損失の計上、重要なマイナスの営業キャッシャフローの計上、債務超過を、財務活動関係として、営業債務の返済の困難性、借入金の返済条項の不履行や履行の困難性、社債等の償還の困難性、配当優先株式に対する配当の延滞又は中止、営業活動関係としては、主要な仕入先からの与信または取引継続の拒絶、重要な市場又は得意先の喪失、事業活動に不可欠な重要な資産の毀損、喪失又は処分、法令に基づく重要な事業の制約、その他として、巨額な損害賠償金の負担の可能性、ブランド・イメージの著しい悪化を例示しています。
・注記することを要しない場合
継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在する場合であっても、当該事象または状況を解消し、または改善するための対応をすれば、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められなくなるときには継続企業の前提に関する注記は要求されません。また、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在する場合であって、当該事象または状況を解消し、また改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときであっても、当該事業年度の末日後に当該重要な不確実性が認められなくなった場合には注記をすることを要しない。これは、当該事業年度の末日後に重要な不確実性が認められなくなった時には、むしろ、注記をしない方が有用な情報となる面があるからと考えられます。
・注記すべき事項
@当該事象または状況が存在する旨およびその内容
例えば、「当社グループは、当連結会計年度において、〇〇百万円の当期純損失を計上し、〇〇百万円の債務超過となっている」というように記載をすることが考えられます。
A当該事象または状況を解消し、または改善するための対応策
募集株式の発行等の資金調達、返済条件の見直し・債務免除の要請、資産の処分、経営の合理化(不採算事業からの撤退、人員の整理など)、他の同等な市場または得意先の開拓などが考えられます。これらは「当該事象又は状況を解消又は大幅に改善するための経営者の対応及び経営計画」としてまとめることができます。ここで注記される経営者の対応及び経営計画は、計算書類または連結計算書類の作成時に策定されているものであって、実行可能性があるものでなければならないのは当然のことです。
少なくとも、対象対照表日(事業年度の末日)の翌日から1年間に講じるものを記載すべきです。継続企業実務指針5項は、具体的な対応策の内容として、「借入金の契約条項の履行が困難であるという状況に対しては、企業が保有する有価証券若しくは固定資産等の資産の処分に関する計画、新規の借り入れ若しくは借り換え、又は新株若しくは新株予約権の発行等の資金調達の計画などが考えられるまた、重要な市場又は得意先の喪失については、他の同等な市場又は得意先の開拓といった計画が考えられる」としています。
B当該重要な不確実性が認められる旨およびその理由
「重要な不確実性が認められる」場合の典型例としては、対応策の内容またはその実現不可能性が最終的に固まっていない場合が想定でき、「対応策に関する先方との最終的な合意が得られていないため、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められます」というような記載が考えられます。
C当該重要な不確実性の影響を計算書類に反映しているか否かの別
通常、「計算書類は継続企業を前提として作成されており、このような重要な疑義の影響を計算書類には反映していない」というような記載となります。
・事業年度の末日後に継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が発生した場合
この場合には、継続企業の前提に関する注記は要求されません。そのような事象または状況を解消し、または改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められ、翌事業年度以降の会社の財産または損益に重要な影響を及ぼすときは、そのような重要な不確実性の存在は会社計算規則114条に規定する重要な後発事象に該当することになります。
・継続企業の前提が成立していない会社等における資産および負債の計上・評価
継続企業の前提が成立していない会社等における資産及び負債の計上及び評価を継続企業の前提が成立していることを前提とする会社計算規則の定めに従ってなすことは適切ではありません。
日本公認会計士協会・会計制度委員会研究報告第11号「継続企業の前提が成立していない会社等における資産及び負債の評価について」で、これについて指針を示しています。まが、清算中の会社では、資産は基本的に清算を仮定した処分価額により計上するとともに、負債は、基本的に債権調査により確定された評価額や清算業務に必要な費用の見積り額をもって計上し、キャッシュ・フローを伴わない項目は計上しないものとしています。他方、会社更手続の開始決定を受けた会社については、多くの負債の評価は、債権調査手続きにより確定する一方で、資産は、基本的には事業の清算を仮定するのではなく、更生後の事業の継続を仮定した時価により計上します。
² 重要な会計方針に係る事項に関する注記(会社計算規則100条)
重要な会計方針に係る事項に関する注記は、会計方針に関する次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。
1 資産の評価基準及び評価方法
2 固定資産の減価償却の方法
3 引当金の計上基準
4 収益及び費用の計上基準
5 その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項
貸借対照表及び損益計算書が示す会社の財産及び損益の状態を理解するために、その数値がどのような前提に基づいて作成されているかを知ることが重要です。ところが会社計算規則および一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行においては、例えば、資産の評価の方法、固定資産の減価償却の方法あるいは引当金の計上の方法として複数の方法が認められており、会社によって採用している会計方針が異なる可能性があります。そこで注記で会社の会計の方針を表すことが要求されているのです。しかし、一般的に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行を斟酌して、代替的な会計処理方法が認められていない場合には、その会計方針を注記する必要はないとされています。また、「重要性の乏しいものを除く」とされているので、原則的な会計処理方法を採用している場合には注記を要しないと解されています。
代替的な会計処理方法が認められており、原則的な会計処理方法が明らかでない場合には、例えば、取得価額を付したのか、時価を付したのか、適正な価格を付したのかなどを注記しなければなりません。また、棚卸資産や有価証券の評価方法についても、先入先出法、総平均法、移動平均法等がありますが、これらも注記しなければなりません。さらに、固定資産の減価償却の方法としても、定率法、定額法、級数法、生産高比例法などがあり、これらも注記しなければなりません。同様に引当金の計上の方法についても、統計的にあるいは保険数理計算によって算定する方法、個別的に見積もる方法その他合理的な簡便法による方法などがあり得るので、会計方針の注記が必要となります。
² 会計方針の変更に関する注記等(会社計算規則102条の2)
@会計方針の変更に関する注記は、一般に公正妥当と認められる会計方針を他の一般に公正妥当と認められる会計方針に変更した場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社及び持分会社にあっては、第四号ロ及びハに掲げる事項を省略することができる。
1 当該会計方針の変更の内容
2 当該会計方針の変更の理由
3 遡及適用をした場合には、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額
4 当該事業年度より前の事業年度の全部又は一部について遡及適用をしなかった場合には、次に掲げる事項(当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なときは、ロに掲げる事項を除く。)
イ 計算書類又は連結計算書類の主な項目に対する影響額
ロ 当該事業年度より前の事業年度の全部又は一部について遡及適用をしなかった理由並びに当該会計方針の変更の適用方法及び適用開始時期
ハ 当該会計方針の変更が当該事業年度の翌事業年度以降の財産又は損益に影響を及ぼす可能性がある場合であって、当該影響に関する事項を注記することが適切であるときは、当該事項
A個別注記表に注記すべき事項(前項第3号並びに第4号ロ及びハに掲げる事項に限る。)が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表における当該事項の注記を要しない。
・会計方針の変更と遡及適用
「会計方針」とは計算書類または連結計算書類の作成に当たって採用する会計処理の原則及び手続をいうものとされ(会社計算規則2条3項58号)、「遡及適用」とは新たな会計方針を当該事業年度より前の事業年度に係る計算書類または連結計算書類に遡って適用したと仮定して会計処理をすることをいう(会社計算規則2条3項59号)ものです。会社法の下では、「会計方針の変更」は正当な理由により行われるべきとされ、ここでも「一般に公正妥当と認められる会計方針を他の一般に公正妥当と認められる会計方針に変更した場合」と規定されています。
ところで、従来の会計基準、証券取引法の委任に基づく大蔵省令ならびに商法及びその委任に基づく法務省令は、正当な理由による会計方針の変更の場合には注記による情報開示を要求してきました。しかし、国際会計基準第8号「事業セグメント」などが会計方針の変更に関し、新たに適用された会計基準等に経過的な取扱いが定められていない場合や自発的に会計方針を変更した場合には、原則として新たな会計方針の遡及適用を求めていること、会計方針の変更を行った場合に過去の財務諸表に対して新しい会計方針を遡及適用すれば、原則として財務諸表本体のすべての項目に関する情報が比較情報として提供されることになり、特定の項目だけではなく、財務諸表全般についての比較可能性が高まると考えられるため、変更及び訂正会計基準は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合には、会計基準等に特定の経過的な取扱いが定められていない場合には、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用し、会計基準等に特定の経過的な扱いが定められている場合には、その経過的な取扱いに従うとする一方で、それ以外の正当な理由による会計方針の変更の場合には新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及できるものとしています。このように新たな会計方針を遡及適用すべきか否かは、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従って判断されます。
・注記すべき事項
@当該会計方針の変更の内容及び当該会計方針の変更の理由(会社計算規則102条の2第1項1号及び2号)
変更および訂正会計基準10項(2)に照らせば、会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更の場合には、「当該会計方針の変更の理由」としては、「会計基準等の名称」を記載すれば足りると解されています。
A遡及適用した場合には、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額(会社計算規則102条の2第1項3号)
変更及び訂正会計基準は、「当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが実務上不可能な場合には、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用する」と定めており、過去の事業年度の一部のみについて遡及適用をすることが考えられるが、過去の事業年度のすべてについて遡及適用をした場合と過去の事業年度の一部のみについて遡及適用をした場合の両方が、この条文の「遡及適用した場合」に含まれます。
会社計算規則102条の2第1項3号で求められている注記は、変更及び訂正会計基準により求められる「表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更による遡及適用の累積的影響額」の注記に対応するものです。会社法は、当期の計算書類の開示のみを求めているから、会社法上の計算書類に関して「表示する財務諸表のうち、最も古い期間」は当事業年度となるので、遡及処理による累積的影響額は、当事業年度の期首の資産、負債及び純資産の額に反映することとなるためです。
B当該事業年度より前の事業年度の全部または一部について遡及適用しなかった場合の注記事項(会社計算規則102条の2第1項4号)
ここでいう「遡及適用しなかった場合」には、次のような場合があります。
ア.会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更であって、経過的な取扱い(適用開始時に遡及適用を行わないことを定めた取扱い等)に従い、過去の事業年度の全部又は一部についての遡及適用をしなかった場合。
イ.遡及適用の原則的な扱いが実務上不可能な場合。
ウ.会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合。
エ.遡及適用するに重要性が乏しいので遡及適用しなかった場合。
オ.変更及び訂正会計基準以外の「一般に公正妥当と認められる企業会計の会計慣行」により遡及適用が要求されていないため、遡及適用をしなかった場合。
また、条文の括弧書きは、「当該会計方針の変更を会計の見積りの変更と区別するのが困難なとき」について、他の会計方針の変更の場合と異なり、A)に掲げる事項の開示を要しない旨を定めています。」
@)計算書類または連結計算書類の主な項目に対する影響額
変更及び訂正の会計基準は、「表示期間のうち過去の期間について影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たりの情報に対する影響額」の注記を認めていますがも会社法においては、計算書類及び連結計算書類の開示のみが求められていることに対応して、注記の内容が変容するとともに、会社の負担に配慮して、1株当たりの情報に対する影響額の注記は要求されていません。
A)当該事業年度より前の事業年度の全部または一部について遡及適用をしなかった理由ならびに当該会計方針の変更の適用方法および適用開始時期
変更及び訂正会計基準は、原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、その理由。会計方針の変更の適用方法及び適用開始時期の注記を要求しており、これに対する注記を求めるというものです。
B)当該会計方針の変更が当該事業年度の翌事業年度以降の財産または損益に影響を及ぼす可能性のある場合であって、当該影響に関する事項を注記することが適切であるときは、当該事項
どのような場合に、これらを注記することが適切かは、変更及び訂正会計基準その他の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従って判断されます。変更及び訂正会計基準は、会計基準などに特定の経過的な取扱いが定められている場合においては、「経過的な取扱いが将来に影響を及ぼす可能性がある場合には、その旨及び将来への影響。ただし、将来への影響が不明又はこれを合理的に見積もることが困難である場合には、その旨」を、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合においては、「会計上の見積りの変更が、当期に影響を及ぼす場合は当期への影響額。当期への影響がない場合でも将来の期間に影響を及ぼす可能性があり、かつ、その影響額を合理的に見積もることができるときには、当該影響額。ただし、将来への影響額を合理的に見積もることが困難な場合には、その旨」をそれぞれ注記することを求めています。
・個別注記表の注記の省略が認められる場合(会社計算規則102条の2第2項)
変更及び訂正会計基準10項及び11項に対応して、個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合に、連結注記表にその旨を注記したときには、個別注記表における注記の省略を認めるという内容です。これは、個別注記表に連結注記表における注記を参照すべき旨を記載すれば、連結注記表が開示される限り、情報提供としては十分だからです。
もっとも、省略が認められるのは、本条1項3号ならびに4号ロ及びハに規定する事項に限られています。
・「重要性の乏しいもの」の判断における重要性の基準
会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積りの変更及び誤謬の訂正との関連でも、計算書類・連結計算書類・連結計算書類を利用する利害関係人の意思決定への影響に注目して、重要性は判断されます。そして、重要性の判断に当たっては、計算書類・連結計算書類に及ぼす金額的な影響と質的な影響の双方を考慮にいれる必要があります。金額的重要性については、損益への影響額または累積的影響額が重要であるかどうかにより判断するというアプローチ、損益の趨勢に重要な影響を与えているかにより判断するというアプローチ、計算書類・連結計算書類の各項目への影響が重要であるかどうかにより判断するというアプローチなどがあります。具体的な判断基準は、企業の個々の状況によって異なってきます。また質的重要性は、企業の経営環境、計算書類・連結計算書類の各項目の性質等に注目して判断することが考えられます。
・継続性の原則
企業会計原則一般原則の5は、「企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」と定め、企業会計原則注解3は、「いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない」としています。これが継続性の原則です。このような継続性の原則が商法上の「公正なる会計慣行」に当たるかは議論が分かれてきました。すなわち、公正な会計処理の方法として認められている複数の会計処理の原則または手続の間であっても、みだりに変更することは会社の財産及び損益の状況についての正しい理解を妨げることになるから、「公正なる会計慣行」のひとつであると解する。これに対して、株式会社は、本来、「公正なる会計慣行」に違反しない限り、複数の会計処理の原則及び手続のうちのいずれかを選択することができるとして継続性の原則を限定的に解する。そういう議論がありました。
会社法の下において、継続性の原則は、たとえ限定的に適用されるのが妥当と解されるにしても、情報提供の観点からは、会計方針の変更に関する注記を求めるのが望ましいし、継続性の原則の適用があるとすれば、そのような注記はなおさら必要なので、会計処理の原則又は手続を変更した場合には、その旨、変更の理由及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容を注記させることになっていました。すなわち、変更があった旨を注記することによって計算書類の読者の注意を喚起するとともに、会計処理の原則または手続の変更は、財産の額ひいては分配可能額に影響を与え、また、当期純損益の額にも影響を与えるから、会社の利害関係者に有用な情報を提供するために、当該変更が計算書類に与えている影響の内容を注記させることとしていました。もっとも、このような注記が要求されることによって、結果的には、会計処理の原則または手続の不当な変更を行わないインセンティブを与えることになりました。
² 表示方法の変更に関する注記等(会社計算規則102条の3)
@表示方法の変更に関する注記は、一般に公正妥当と認められる表示方法を他の一般に公正妥当と認められる表示方法に変更した場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。
1 当該表示方法の変更の内容
2 当該会計方針の変更の理由
A個別注記表に注記すべき事項(前項第二号に掲げる事項に限る。)が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表における当該事項の注記を要しない。
これは、企業会計基準委員会・企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」16項に対応するという位置づけです。ただし、会社法は、当事業年度に係る計算書類の開示のみを要求していることから、比較情報の開示を前提として定められています。
「表示方法」とは、計算書類または連結計算書類の作成に当たって採用する表示の方法を言います(会社計算規則2条3項60号)。
² 会計上の見積りの変更に関する注記(会社計算規則102条の4)
会計上の見積りの変更に関する注記は、会計上の見積りの変更をした場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。
1 当該会計上の見積りの変更の内容
2 当該会計上の見積りの変更の計算書類又は連結計算書類の項目に対する影響額
3 当該会計上の見積りの変更が当該事業年度の翌事業年度以降の財産又は損益に影響を及ぼす可能性があるときは、当該影響に関する事項
会社計算規則98条1項5号の「会計上の見積りの変更に関する注記」の内容をここで規定しています。該当する変更があるときは、会計監査人設置会社である株式会社の個別注記表及び連結注記表に表示することが求められているものです。ただし、会計監査人設置会社以外の会社の個別注記表表示することまでは求められていないと解されています。
「会計上の見積り」とは、計算書類または連結計算書類に表示すべき項目の金額に不確実性がある場合において、計算書類または連結計算書類の作成時に入手可能な情報に基づき、それらの合理的な金額を算定することを言います(会社計算規則2条3項61号)。また、「会計上の見積りの変更」とは、新たに入手可能となった情報に基づき、当該事業年度より前の事業年度に係る計算書類または連結計算書類の作成に当たってした会計上の見積りを変更することを言います(会社計算規則2条3項62号)。この場合、会計方針の変更や誤謬の訂正の場合とは異なり、遡及修正は行いません。
² 誤謬の訂正に関する注記(会社計算規則102条の5)
誤謬の訂正に関する注記は、誤謬の訂正をした場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。
1 当該誤謬の内容
2 当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額
会社計算規則98条1項6号「誤謬の訂正に関する注記」の内容を定める規定です。該当する事項があるときは、連結注記表ならびに個別注記表に表示することが求められます。。
ここでいう「誤謬の訂正」とは、「当該事業年度より前の事業年度に係る計算書類又は連結計算書類における誤謬を訂正したと仮定して計算書類又は連結計算書類を作成すること」を言います(会社計算規則2条3項64号)。
「誤謬の訂正に関する注記」は誤謬の訂正をした場合に求められているもので、誤謬の訂正を行わなかった場合には注記の必要はありません。過年度の計算書類や連結計算書類に誤謬があったときは、誤謬の訂正をすることを要しない場合であっても、誤謬の訂正をすべきか否かは、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行にしたがって判断されます。
括弧書きの「重要性の」乏しいものの、重要性の判断基準は会社計算規則102条の2での説明を参考として下さい。
² 貸借対照表に関する注記(会社計算規則103条)
貸借対照表等に関する注記は、次に掲げる事項(連結注記表にあっては、第六号から第九号までに掲げる事項を除く。)とする。
1 資産が担保に供されている場合における次に掲げる事項
イ 資産が担保に供されていること。
ロ イの資産の内容及びその金額
ハ 担保に係る債務の金額
2 資産に係る引当金を直接控除した場合における各資産の資産項目別の引当金の金額(一括して注記することが適当な場合にあっては、各資産について流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産又は繰延資産ごとに一括した引当金の金額)
3 資産に係る減価償却累計額を直接控除した場合における各資産の資産項目別の減価償却累計額(一括して注記することが適当な場合にあっては、各資産について一括した減価償却累計額)
4 資産に係る減損損失累計額を減価償却累計額に合算して減価償却累計額の項目をもって表示した場合にあっては、減価償却累計額に減損損失累計額が含まれている旨
5 保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準ずる債務(負債の部に計上したものを除く。)があるときは、当該債務の内容及び金額
6 関係会社に対する金銭債権又は金銭債務をその金銭債権又は金銭債務が属する項目ごとに、他の金銭債権又は金銭債務と区分して表示していないときは、当該関係会社に対する金銭債権又は金銭債務の当該関係会社に対する金銭債権又は金銭債務が属する項目ごとの金額又は二以上の項目について一括した金額
7 取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債権があるときは、その総額
8 取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債務があるときは、その総額
9 当該株式会社の親会社株式の各表示区分別の金額
・貸借対照表及び連結貸借対照表に関する注記の内容とすべき事項
@資産が担保に供されている場合(会社計算規則103条1号)
担保に供されている資産に関する注記を求める規定です。このような注記が求められているのは、会社の資産が担保に供されている場合には、一般債権者にとって引当となる会社の資産は担保の対象となっていない資産に限られることが事実上多いし、どのような資産が担保に供されているは会社の財産状態を示すものとして重要性を有するからです。とくに、将来債権等を担保に供している場合には、将来の会社の財産及び損益の状態に重要な影響与える可能性があります。そこで、会社債権者をはじめとする利害関係者にとって適切な意思決定を可能にするための情報を提供するという観点から、注記が求められていると考えられます。この注記により、会社資産の担保余力が示され、一般債権者にとってその債権の引当となる会社の一般財産の大きさを推測することができるようになります。
ここでの「担保に供されている」とは、当該資産が質権や抵当権などの約定担保物権の対象となっていないことを意味し、留置権や先取特権などの法定担保権の対象となっていることは含まないと解されています。法定担保権の対象となっている場合にいちいち注記させることは煩瑣であり、また、先取特権が意味を持つ局面は通常の継続企業においては例外的な場合であるし、留置権の存続期間は事実上短いからです。一般に「担保に供する」という場合には約定担保権を想定するのが常識となっているからです。
資産が担保に供されていること、担保に供されている資産の内容及びその金額、担保に係る債務の金額が注記すべき事項とされており、貸借対照表の勘定科目の細目に従って、資産の種類ごとに、その帳簿価額を明らかにします。また、担保の種類も注記することが望ましいと考えられます。
A資産に係る引当金を直接控除した場合(会社計算規則103条2号)
会社計算規則78条2項に基づいて、資産に係る引当金を直接控除した場合には、貸借対照表上は、その資産に係る引当金額が判明しないので、情報提供の観点から、各資産の資産項目別の引当金の金額を表示すべき事項としています。このとき、流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産または繰延資産ごとにのみ一括して表示することを認めているのは、最低限、流動資産、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産または繰延資産という項目ごとの情報は必要であると考えられるからです。
B資産に係る減価償却累計額を直接控除した場合(会社計算規則103条3号)
会社計算規則79条2項または81条に基づいて、資産に係る減価償却累計額を直接控除した場合には、貸借対照表上・連結貸借対照表上は、資産に係る減価償却累計額も取得価額も判明しないので、情報提供の観点から、各資産の資産項目別の減価償却累計額を表示すべき項目としています。ここで、一括して注記することが適当な場合としては総合償却などを採用している場合が考えられます。このような場合には、減価償却累計額をそれぞれの科目に割り振ることが困難であるからです。また、各資産の資産項目別の減価償却累計額の重要性が乏しい場合も一括して注記することが適当な場合に当たると考えられます。
C資産に係る減損損失累計額を減価償却累計額に合算して減価償却累計額の項目をもって表示した場合(会社計算規則103条4号)
会社計算規則80条3項に基づいて、減価償却累計額及び減損損失累計額を控除項目として表示する場合に、減損損失累計額を減価償却累計額に合算して、減価償却累計額の項目をもって表示したときは、減損損失累計額が含まれていることが貸借対照表上・連結貸借対照表上は判明しないので、減価償却累計額に減損損失累計額が含まれている旨の注記が求められています。
D保証債務等(会社計算規則103条5号)
貸借対照表に計上すべき法律上の債務には、確定債務のみならず、不確定期限付債務や停止条件付債務も含まれると解されてきました。そこで条件付債務を引当金の部に計上することが認められてきました。その根拠として、@他の債務と異なり評価の問題があること、A従来の会計慣行上、引当金として取り扱われていたこと、B条件成就の時期が判明しないものが多く、これを履行期の基準によって区分表示することは事務手続きが煩雑になることなどです。ここでいう条件付債務は、法律上の債務であって、債務の確定が将来の不確定な事実の成否にかかっている債務をいい、金額及び履行期の双方が不確定の債務であって、民法上の条件を付された債務のみならず、不確定期限付債務を含むと解されていました。
保証債務は、ここでいう条件付債務に当たります。したがって、特段の事情がない限り、負債の部に計上されるはずです。しかし、会計実務では保証債務が負債の部に計上されることはありませんでした。企業会計の立場からは、保証債務は偶発債務であり、その発生の蓋然性が低いと説明されるのが通常でした。
しかし。計算書類の利用者の注意を喚起するために注記するように、ここで規定されています。ここでは、債務の内容及び金額の注記を求めています。これは、保証債務等が貸借対照表の負債の部に計上されていない場合には、保証債務等はいわば海外の負債であり、その内容が明確にならないと、計算書類の利用者が会社の財産の状態を適切に把握できない可能性があります。そして、保証債務の履行が求められる可能性は被保証者の財政状態の影響を受け、また、その保証のタイプに依存するから、被保証者ごとに被保証債務の内容及びその残高、根保証かどうかを記載します。もっとも、そのすべてについて個別に記載することがきわめて煩瑣な場合もあるので、重要であないものは一括して記載することもできると解されています。
なお、負債の部に計上した場合には、注記は不要です。
E関係会社に対する金銭債権または金銭債務を区分表示していない場合(会社計算規則103条6号)
財務諸表等規則39条は、関係会社との取引に基づいて発生した債務、前払費用または未収収益で、その金額が資産総額の100分の1を超えるものについて、その金額を注記することを求め、55条は関係会社との取引に基づいて発生した買掛金及び支払手形の合計額が負債及び純資産の合計額の100分の1を超える場合にはそれぞれの金額を、関係会社との取引に基づいて発生した債務、未払費用または前収益で、その金額が負債及び純資産の合計額の100分の1を超えるものらついては、その金額を注記するように求めています。
このようなことを踏まえて会社計算規則では、貸借対照表の分量が大きくなるため区分表示は求めないものの、区分表示をしない場合には注記を求めています。このような注記が求められる趣旨は、関係会社と会社との間には支配従属・影響関係が通常認められ、その結果、会社と関係会社一般との間の取引について特殊な事情が生ずる可能性があります。例えば、通常の場合、親会社は自己の好む者を子会社の取締役に選任することが可能です。その結果、親会社と子会社との間では通常の取引条件とは異なる条件で取引されることもあるし、場合によると子会社が親会社に商品その他の資産を売却したことにして利益を計上する可能性もあります。さらに、親子会社が実質的または経済的に1つの企業体であるとすれば、親子会社間の債権債務は一般の債権債務とは同等には考えられず、それらを分けて表示しないと会社の財産の状態について誤解が生ずることになりかねません。そこで、会社が関係会社に対して有する金銭債権及び金銭債務を区分表示することによって、利害関係者の注意を喚起することが望ましいので、区分表示をしない場合には個別注記表らおける表示を求めています。
なお、連結注記表への注記を要しないとされているのは、連結貸借対照表の作成に当たって、連結子会社に対する金銭債権、金銭債務は相殺消去されること、連結貸借対照表は企業集団の財政の状態を示すものであることから、関係会社に対する金銭債権、金銭債務の区分表示する実益が少ないからです。
F取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債権(会社計算規則103条7号)
取締役、執行役又は監査役との間の取引による取締役、執行役および監査役に対する金銭債権について注記が求められます。ここでいう「取引」とは、取締役についていえば、取締役が会社の製品その他の財産を譲受け会社に対し自己の製品その他の財産を譲渡し会社から金銭の貸付けを受け、その他自己または第三者のために会社との間でなす取引を意味します。なお、ここでの「取引」はいわゆる直接取引に限定されています。さらに、そのような取締役、執行役又は監査役と会社との間の「取引」による取締役、執行役又は監査役に対する金銭債権の注記を求め、取締役と会社との取引による第三者に対する金銭債権の注記は求められていません。注記が要求される金銭債権に貸付金、売掛金、受取手形。未収金、立替金等が含まれます。
なお「その総額」を記載することを求められているので、取締役、執行役又は監査役に区分して、あるいは金銭債権の種類別に注記する必要はありません。
このような規定が設けられているのは、取締役、執行役又は監査役との間の取引は通常の取引条件によらないで行われる可能性があり、また、取締役、執行役又は監査役に対する債権を計上しつつ、会社が弁済を求めないために実質的には贈与などと同じことになります。また、取締役、執行役又は監査役に対する債権を貸借対照表に計上することによって粉飾が行われる可能性も考慮されています。すなわち、取締役等と会社との間の不適切な取引の可能性及び架空債権、焦付債権の存在の可能性について利害関係者の注記を促します。公開会社の利害関係者は、さらに取締役等との間の取引にかんする注記として個別注記表に含められ、または附属明細書に記載されるので、詳細な情報を得ることができます。
なお、連結注記表への記載を要しないのは、連結計算書類を作成する会社の事務負担を過剰なものとしないためと言われています。
G取締役、監査役及び執行役との間の取引による取締役、監査役及び執行役に対する金銭債務(会社計算規則103条8号)
取締役、執行役又は監査役との間の取引による取締役、執行役又は監査役にたいする金銭債務に関する注記を求める規定です。この内容や趣旨は7号の場合と同じです。
H親会社株式(会社計算規則103条9号)
親会社株式は関係会社株式に含まれるものですが、親会社株式を取得することは例会的に認められ、親会社株式は相当の時期に処分しなければならないとされています(135条3項)。したがって、情報提供観点から、注記することが求められているのです。
² 損益計算書に関する注記(会社計算規則104条)
損益計算書に関する注記は、関係会社との営業取引による取引高の総額及び営業取引以外の取引による取引高の総額とする。
個別注記表に表示される損益計算書に関する注記について規定しています。
関係会社とは、会社の親会社、子会社及び関連会社(会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該他の会社等)ならびに他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等を言います(会社計算規則2条3項22号)。
営業取引及び営業取引以外の取引には、組織再編行為は含まないと解されています。これは、組織再編行為は取引法上の行為ではなく、組織法上の行為であると従来から考えられてきました。組織再編行為については、それ自体が開示事項となっているので、計算書類の注記として開示しなくても不都合はないと考えられるからです。
なお、親会社、子会社、兄弟会社、関連会社その他の関係会社、主要株主等との間の取引に関する事項が関連当事者との取引に関する注記として公開会社の個別注記表または附属明細書に含められます。
² 株主資本等変動計算書に関する注記(会社計算規則105条)
株主資本等変動計算書に関する注記は、次に掲げる事項とする。この場合において、連結注記表を作成する株式会社は、第2号に掲げる事項以外の事項は、省略することができる。
1 当該事業年度の末日における発行済株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類ごとの発行済株式の数)
2 当該事業年度の末日における自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類ごとの自己株式の数)
3 当該事業年度中に行った剰余金の配当(当該事業年度の末日後に行う剰余金の配当のうち、剰余金の配当を受ける者を定めるための法第124条第1項に規定する基準日が当該事業年度中のものを含む。)に関する次に掲げる事項その他の事項
イ 配当財産が金銭である場合における当該金銭の総額
ロ 配当財産が金銭以外の財産である場合における当該財産の帳簿価額(当該剰余金の配当をした日においてその時の時価を付した場合にあっては、当該時価を付した後の帳簿価額)の総額
4 当該事業年度の末日における当該株式会社が発行している新株予約権(法第236条第1項第4号の期間の初日が到来していないものを除く。)の目的となる当該株式会社の株式の数(種類株式発行会社にあっては、種類及び種類ごとの数)
株主資本計算書に関する注記に含めるべき事項を定めています。なお「連結注記表を作成する株式会社は、第2号に掲げる事項以外の事項は、省略することができる」とされているのは、連結注記表には事業年度末日における自己株式の数は記載されていないからです。そのほかの1、3、4号と同じ事項が連結注記表に含められています。
@当該事業計年度の末日における当該株式発行会社の発行済株式の総数(種類株式発行会社にあっては、種類ごとの発行済株式の総数)(会社計算規則105条1号)
株主資本等変動計算書において資本金額の変動及び変動事由が開示されるので、これに関連する情報として、開示事項とされています。
A当該事業年度の末日における自己株式(種類株式発行会社にあっては、種類ごとの自己株式の数)(会社計算規則105条2号)
期間、数量等の制限なく自己株式を保有できるため、期末における自己株式の数が重要であることに加え、会社の自己株式の数は、行使され得る議決権の数を利害関係人が判断する上で有用な情報です。
また、貸借対照表上の自己株式の金額と比較することによって、自己株式の取得価額が過大でないかを判断することができ、将来における自己株式処分損益の可能性を推測することができます。
B当該事業年度中に行った剰余金の配当に関する事項(会社計算規則105条3号)
株主資本等変動計算書においては、その他資本剰余金の額及びその他利益剰余金の額の変動及び変動事由が開示されるので、これに関連する情報としても開示事項とされています。連結ベース化単体ベースかについて、開示されるのは計算書類を作成する会社(単体)ベースについての情報であり、連結株主等変動計算書に関する注記というより、株主資本等変動計算書に関する注記です。開示すべき事項は、@配当財産が金銭の場合には、株式の種類ごとの配当金の総額、1株当たりの配当額、基準日及び効力発生日、A配当財産が金銭以外の場合には、株式の種類ごとに配当財産の種類並びに配当財産の帳簿価額、1株当たり配当額、基準日及び効力発生日、B基準日が当期に属する配当のうち、配当に当たって減少させる剰余金の種類、です。
C当該事業年度の末日における当該株式が発行している新株予約権の目的となる株式の数(会社計算規則105条4号)
「発行している新株予約権の目的となる株式の数」とは、発行している新株予約権の権利が行使されたものと仮定した場合の増加株式数を言います。なお、ここでいう「新株予約権」にはストック・オプション等も含まれます。