新任担当者のための会社法実務講座 第397条 監査役会に対する報告 |
Ø 監査役に対する報告(397条) @会計監査人は、その職務を行うに際して取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを発見したときは、遅滞なく、これを監査役に報告しなければならない。 A監査役は、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人に対し、その監査に関する報告を求めることができる。 B監査役会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役」とあるのは、「監査役会」とする。 C監査等委員会設置会社における第1項及び第2項の規定の適用については、第1項中「監査役」とあるのは「監査等委員会」と、第2項中「監査役」とあるのは「監査等委員会が選定した監査等委員」とする。 D指名委員会等設置会社における第1項及び第2項の規定の適用については、第1項中「取締役」とあるのは「執行役又は取締役」と、「監査役」とあるのは「監査委員会」と、第2項中「監査役」とあるのは「監査委員会が選定した監査委員会の委員」とする。 ü 会計監査人の会計監査報告(397条1項) 会計監査人は会計に関する監査の職務・権限を有するのに対して、監査役は業務一般についての監査(その中には会計監査を含みます)の職務・権限を有しています。この点についての両者の職務・権限の関係として、会計に関する監査について、無意味な重複を避けるため、第一次的には会計監査人が監査を行い、その監査報告書を監査役会に提出し、監査役会は、その会計監査人の会計監査を前提として、会計監査人の監査の方法または結果についての各監査役の意見に基づき、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めた場合にのみ、その旨及び理由並びに監査役の監査の方法の概要または結果を監査報告書に記載するという構造をとっています。このことから、監査役と会計監査人との間には、緊密な連携関係が不可欠といえます。 ü 監査役の会計監査人に対する説明・報告請求権(397条2項) 上述のとおり、監査役は会計監査については、会計監査人の監査報告書の相当性を判断して自分の行った監査について監査役会に報告し、監査役会は、それに基づいて監査報告書作成します。そのため、監査役は、その判断にあたって、会計監査人に対して、その監査報告書について説明を求めることが当然必要になります。そこで、監査役にはその権利が与えられている(3971条2項)と言えます。 監査役協会による監査役監査基準44条3項では、「監査役は、必要に応じて会計監査人の往査及び監査講評に立ち会うほか、会計監査人に対し監査の実施経過について、適宜報告を求めることができる」と定め、監査役は、会計監査人の会計監査に立ち会うことができるほか、会計監査人の監査の実施経過についても報告を求めることができるとしています。また、1項では「監査役及び監査役会は、会計監査人と定期的に会合をもつなど、緊密な連係を保ち、積極的に意見及び情報の交換を行い、効率的な監査を実施するよう努めなければならない」と定め、監査役と会計監査人との間の意思の疎通を図ることを求めています。 ここで規定されている報告請求権は、監査役等の調査権限ではあるものの、むしろ、これらの権限を行使する者は、その会計監査人が行う会計監査について、日頃より、会計監査人との間で、意思の疎通は駆ることが重要で、会計監査が適正でありかつ効率的に行われるように配慮し、しかも取締役の職務執行に関する不正な行為または重大な法令定款違反の事実を会計監査人が発見したときは、その事実が確実に会計監査人から監査役等に報告されるように体制を確立しておくことが、報告義務のならず、会社の監査業務にとって重要です。 これに対して、会計監査人は監査役の指揮・命令を受けるわけではなく、独立の専門職業人として自己の監査計画に沿って監査を実施しているわけであるから、新たな調査を必要とする事項については、監査役から報告を求められた場合に監査計画を修正し監査役に協力するか否かは、会計監査人としての善管注意義務に従って判断することになります。 ü 会計監査人の報告義務(397条1項) 会計監査人は、その職務を行うに際して取締役の職務の執行に関して不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは遅滞なく、これを監査役に報告しなければなりません(397条1項)。業務監査は会計監査人の職務ではありませんが、会計監査の際に取締役の不正行為等を発見する可能性があること、重大な違法行為を放置せずに是正する権限を有している監査役等に報告させることが会社及び株主の利益のために必要であることから、このような報告義務が課せられています。 ・報告すべき事実 会計監査人が報告すべき事実は、取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実です。つり、「不正な行為」を発見した会計監査人はこれを監査役等に報告しなければなりませんが、「法令又は定款に違反する事実」については、「重大な事実」を報告することになっています。監査役の取締役への報告義務(382条)とは異なり、「不正の行為をするおそれのある事実」及び「著しく不当な事実」は含まれていません。これは業務監査を職務とする監査役と会計監査を職務とする会計監査人との職務の違いによるものです。また監査役の取締役への報告は「直ちに」行なわなければなりませんが、会計監査人の監査役等への報告は「遅滞なく」行うこととなっており、時間的な早急さの度合いが弱く、正当な理由又は合理的な理由による遅延は許されると解されています。これは、会計監査人は会計監査の職務を行っているときに報告すべき事実を発見し、発見した事実を監査役等に報告することになるためと考えられます。 ・報告を受けた者の対応 会計監査人から報告を受けた者、すなわち監査役、監査役会、監査等委員会、監査委員会は、その者の職務に従い、調査・検討するなど、適切な対応を行わなければなりません。 監査役会、監査等委員会、監査委員会において会計監査人からの報告を受けた場合には、議事録に記載されます(会社法施行規則109条3項3号ハ、同111条3項4号ロ)。 例えば監査役の対応について、日本監査役協会の「監査役監査基準」44条4項において「監査役は、会計監査人から取締役の職務の執行に関して不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実(財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある事実を含む)がある旨の報告等を受けた場合には、監査役会において、必要な調査を行い、取締役に対して助言又は報告をおこなうなど、必要な措置を講じなければならない」と規定しています。 ※金融商品取引法との関係 会社法の定める会計監査人の報告義務のほかに、金融商品取引法193条の3では「財務計算に関する書類」に関する監査に当たり「特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実」を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、当該特定発行者に通知しなければならない」としています。このような事実を発見した公認会計士または監査法人は、会社に対して書面で通知しなければならない。その通知の相手方は特定発行者、つまり会社の職務執行を監督する監査役等です(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令7条)。さらに、通知を行った公認会計士または監査法人は、通知した日から金融商品取引法施行令36条で定める期間が経過した日のあとも、通知した事実が財務計算の適正性に重大な影響を及ぼすおそれがあり、通知を受けた会社が適切な処置をとらないときは、意見を内閣総理大臣に申し出なければならないとしています(金融商品取引法193条の3第2項)。
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