新任担当者のための会社法実務講座
第463条 株主に対するの求償権の制限 第464条 買取請求に応じて株式を取得
した場合の責任 |
Ø 株主に対する求償権の制限(463条) @前条第1項に規定する場合において、株式会社が第461条第1項各号に掲げる行為により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額が当該行為がその効力を生じた日における分配可能額を超えることにつき善意の株主は、当該株主が交付を受けた金銭等について、前条第1項の金銭を支払った業務執行者及び同項各号に定める者からの求償の請求に応ずる義務を負わない。 A前条第1項に規定する場合には、株式会社の債権者は、同項の規定により義務を負う株主に対し、その交付を受けた金銭等の帳簿価額(当該額が当該債権者の株式会社に対して有する債権額を超える場合にあっては、当該債権額)に相当する金銭を支払わせることができる。
ü
善意の株主に対する求償(463条1項) 分配可能額を超える剰余金の配当等が行われた場合に、462条1項の金銭を支払った業務執行者は、剰余金の配当等を受けた株主に対し求償することができるのが原則です。求償権の根拠としては、連帯債務者間の求償権(民法422条)および会社の請求権の代位取得(民法500条)が考えられます。両者は請求権競合の関係にあります。 このように義務を履行した業務執行者が株主に求償できることを前提として、463条1項は、分配可能額を超えることを知らなかった株主に対する求償権を制限しています。経営から遠ざかった一般株主としては、剰余金の配当等が分配可能額を超えていることを知らなくてもやむを得ない面があり、自ら違法行為をした業務執行者が善意の株主に求償することは不当と考えられるからです。 悪意の株主に求償し得る業務執行者は、原則として、462条1項の金銭を全額支払った者に限られます。会社が流出財産を回復しない段階で業務執行者から株主に対する求償を認めると、会社債権者の利益を害するおそれがあるからです。ただし、462条1項の義務を負う複数の業務執行者および株主が金銭の支払いをすることにより、会社に対する全額の支払いが完了した時は、もはや債権者を害するおそれがないので、悪意の株主に対する求償を認めて差し支えないことになります。同じ理由で、会社に対する全額の履行がされたときは、義務を履行した業務執行者Aから負担部分の求償を受け、Aに対して自己の負担部分を支払った業務執行者Bについても、463条1項の適用が認められると考えられます。 461条1項の業務執行者には該当しない監査役や会計参与は、461条1項の責任を負いません。しかし、これらの者は、会社が分配可能額を超える剰余金の配当等を行うについて任務懈怠があったときは、会社に対して損害賠償責任を負います(423条1項)。会社に対する損害賠償責任を履行した監査役・会計参与は株主に対する請求権を取得します(民法500条)が、その請求権の行使について463条1項を類推適用することができると考えられます。任務懈怠のあった役員が善意の株主に求償することは不当であると考えられるからです。 ü
債権者による請求(463条2項) 分配可能額を超える剰余金の配当等がなされた場合であっても、会社が462条1項の株主・業務執行者に支払義務を求めなければ、債権者利益を確保することができません。そこで、463条2項は、会社の債権者が株主に対し、交付を受けた金銭等等の帳簿価格に相当する金銭を支払わせることができる旨を定めています。 会社法では、民法の債権者代位権の特則として整理されています。債権者代位権を行使する場合には、債権者が直接給付判決を求めることができるとされていることから、463条2項に基づく同じように請求することができる、と考えられます。条文では誰に対する支払かを規定していません。判例では、各債権者としています。請求権の額が債権者の会社に対する債権額に限定されていることから、自己への直接給付を請求できる旨を定めていると理解されています。 Ø
買取請求に応じて株式を取得した場合の責任(464条) @株式会社が第116条第1項又は第182条の4第1項の規定による請求に応じて株式を取得する場合において、当該請求をした株主に対して支払った金銭の額が当該支払の日における分配可能額を超えるときは、当該株式の取得に関する職務を行った業務執行者は、株式会社に対し、連帯して、その超過額を支払う義務を負う。ただし、その者がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。 A前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。 ü
分配規制を超過した株式買取の支払義務(464条1項) 株式買取請求権に応じて会社が自己株式を取得する場合のうち、単元未満株式の買取請求に応じるもの(155条7号、192条1項)、組織再編行為時の買取請求に応じるもの(155条13号、会社法施行規則27条5号)には財源規制は適用されません(461条1項)。これに対して、組織変更等の会社の重要事項の決定に反対する株主が株式の買取請求をする反対株主の株式買取請求(116条1項)には、分配可能額を超えて取得してはならないという財源規制は適用されません(461条)が、業務執行取締役が分配可能額を超えて支払った超過額を会社に支払う義務を負います(464条1項)。なお、462条1項は適用されないので、金銭等の交付を受けた株主は支払義務を負いません。 このような反対株主の買取請求について461条の財源規制と異なる分配規制を設けたのは、一方で株主の利益を保護するために株式買取請求を認める必要があり、また他方で反対株主の株式買取請求に応じることは会社が単独で回数制限もなく行うことができるので、大量の自己株式の買取を認めてしまうおそれがあり、それは債権者保護の観点から問題があるからです。そこで、業務執行取締役等に超過額の支払を求めることにより、会社債権者と株主との利害の調整を図ったのが、この分配規制です。 ü
取締役・執行役の責任 この責任を負うのは、株式買取請求をうけた株式の取得に関する職務を行った業務執行者、すなわち業務執行取締役・執行役と法務省令で定める者です(462条1項、会社計算規則159条9号)。 ここでの責任の内容は、株主に対して支払った金額の全額ではなく、それが支払の日における分配可能額を超過する額です。最低限の会社債権者保護を達成できればよいというものです。反対株主からの株式買取請求に対しては、会社は買取をしなくてはならず、分配可能額を超過したことを理由に買取を拒むことはできません。ただし、そもそも株主が反対する会社の行為を中止すれば買取請求は効力を失う(116条7項)ので、464条は、買取請求に応じると分配可能額を超過する支払が生じることが予想されるので、取締役らに支払義務を課すことにより、会社の行為を中止させる効果を狙ったものであると言うこともできます。 超過額支払義務は、総株主の同意があれば免除することができます(464条2項)。
関連条文 会計の原則(431条) 金銭分配請求権の行使(455条) 基準株式数を定めた場合の処理(456条)剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条)
|