新任担当者のための会社法実務講座 第116条 反対株主の株式買取請求 |
Ø 反対 株主の株式買取請求(116条) @次の各号に掲げる場合には、反対株主は、株式会社に対し、自己の有する当該各号に定める株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる。 一 その発行する全部の株式の内容として第107条第1項第1号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 全部の株式 二 ある種類の株式の内容として第108条第1項第4号又は第7号に掲げる事項についての定めを設ける定款の変更をする場合 第111条第2項各号に規定する株式 三 次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式(第322条第2項の規定による定款の定めがあるものに限る。)を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき 当該種類の株式 イ 株式の併合又は株式の分割 ロ 第185条に規定する株式無償割当て ハ 単元株式数についての定款の変更 ニ 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第202条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。) ホ 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第241条第1項各号に掲げる事項を定めるものに限る。) ヘ 第277条に規定する新株予約権無償割当て A前項に規定する「反対株主」とは、次の各号に掲げる場合における当該各号に定める株主をいう。 一 前項各号の行為をするために株主総会(種類株主総会を含む。)の決議を要する場合 次に掲げる株主 イ 当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該行為に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。) ロ 当該株主総会において議決権を行使することができない株主 二 前号に規定する場合以外の場合 すべての株主 B第一項各号の行為をしようとする株式会社は、当該行為が効力を生ずる日(以下この条及び次条において「効力発生日」という。)の20日前までに、同項各号に定める株式の株主に対し、当該行為をする旨を通知しなければならない。 C前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。 D第一項の規定による請求(以下この節において「株式買取請求」という。)は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにしてしなければならない。 E株券が発行されている株式について株式買取請求をしようとするときは、当該株式の株主は、株式会社に対し、当該株式に係る株券を提出しなければならない。ただし、当該株券について第223条の規定による請求をした者については、この限りでない。 F 株式買取請求をした株主は、株式会社の承諾を得た場合に限り、その株式買取請求を撤回することができる。 G 株式会社が第1項各号の行為を中止したときは、株式買取請求は、その効力を失う。 H 第133条の規定は、株式買取請求に係る株式については、適用しない。
株式買取請求権の対象となる行為、すなわち定款変更、事業譲渡等及び組織再編という会社の基礎的変更と性格付けられる行為のうち、一定の定款変更等の場合における株式買取請求権の要件・手続等を規定しているのが116条です。 株式買取請求権とは、定款変更、事業譲渡等及び組織再編という会社の基礎的変更と性格付けられる行為は、株主に重大な影響を与える(株式の換価に煩雑な手続きが必要となり、かつ、その価格も下落する可能性がある)ところから、株主総会の決議に重い要件がかけられ(特別決議や特殊決議)かつ決議に反対の株主に株式買取請求権を認められています。つまり、この決議をする総会に先立って会社に書面で反対の意思を通知し、かつ総会で反対した株主は、その有する株式を、そのような決議がなかったならば有していたであろう公正な価格(決議があったことによって下落した価格ではない)で買い取るように請求することができる権利です。 ü
株式買取請求権が認められる会社の行為(116条1項) ・譲渡制限の定めを設ける定款変更(116条1項1、2号) 株式の全部の内容として譲渡制限の定めを設ける場合(107条1項1号、309条3項1号)には、全部の株式が買取の対象となり、ある種類の株式の内容として譲渡制限の定めを設ける定款変更を行う場合(108条1項4号、466条、309条2項11号、111条2項、324条2項1号)には、当該種類の株式に加えて、譲渡制限株式を対価として交付される取得請求権付株式および取得条項付種類株式(111条2項)が株式買取請求権の対象となります。譲渡制限の定めを設ける定款変更には株主全員の同意を要さず、全部の株式の内容であるか、ある種類の株式の内容であるか、さらに、現に保有する株式であるか、対価として交付される株式であるかを問わず、株式の自由譲渡の制限によってもたらされる不測の損害を回避する方策として株式買取請求権が認められます。 ・全部取得条項を付する定款変更(116条1項2号) 全部取得条項を付する定款変更は、株主の自由意思によらず、いわば財産権を収用し強制的に他の財産に変えるという重大な効果を伴うことから、これを緩和する方策として定款変更に反対する株主に株式買取請求権が認められます。もっとも、全部取得条項を付する定款変更と同様の効果を伴う取得条項を付する定款変更(全部またはある種類の株式に取得請求権を付するための定款変更は買取請求権の対象とはなりません)、各株主が定款変更に対する拒否権を有するため株式買取請求の対象とはなりません。この両者の関係については、譲渡制限株式の場合と同様に、必ずしも株主に甚大な影響を与えるものではないから、全部取得条項付種類株式の内容を変更する定款変更には、111条2項の適用はないというのが立案担当者の見解です。 ・種類株主総会の拒否権喪失の代償(116条1項3号) 資本再編成によりある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるとき種類株主総会の決議が必要とされるところ(322条1項1〜6号)、これを排除する定款の定めがある場合、それらにより損害を受けるおそれのある種類株主にいわば拒否権を喪失(種類株主の意思が問われないこと)の代償として株式買取請求権が認められます(116条1項3号)。その意味で、反対株主に認められる権利とは言えないでしょう。また、組織再編の場合における反対株主の株式買取請求権が、種類株主総会が不要とされる場合の代償措置として認められているわけではなく、損害のおそれの有無にかかわらず、すべての株主に保障された権利として構成されているのとは異なります。従来から、「ある種類の株主に損害を及ぼすおそれ」とは、その行為が外形的・客観的に他の種類の種類株主に損害を及ぼすおそれのある場合のみをいいます。例えば、既に拒否権付種類株式(A)が発行されている時、他の事項につき拒否権がある拒否権付種類株式(B)を追加する定款変更は、事実上A種類株主の会社支配に対する影響力を低下させることがあるとしても、外形的・客観的にそれが明白ではないので、「損害を及ぼすおそれ」には当たらないということになります。そう考えると、ここでの「ある種類の株主に損害を及ぼすおそれ」については、株主割当て・無償割当ての方法による持分比率および持分価値の希釈化が基準となると解されているところ、例えば重要な議案に拒否権を行使できる内容の株式を発行する場合のように、会社法の下でその具体的な判断は容易ではないが、その基本的な考え方は維持されています。もっとも、資本再構成と性格付けられる行為でも、著しくレバレッジを高める多額の借入行為、株式の買受け・消却や資本金等の減少の行為は株式買取請求権の対象とはされていません。また、種類株主総会の決議が必要とされる場合のうち、株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加を内容とする定款変更(322条1項1号)については、単元株式数についてのものを除き、定款で種類株主決議を排除することはできず(322条3項但書)、その結果、単元株式数について種類株主総会決議が排除される定款変更(116条1項3号ハ、322条3項)を除き、株式買取請求権による救済は認められません。 ・会社法の規定する行為以外の会社の行為 会社法は、種類株式を発行している場合に、当該種類株式の内容を変更する提案について明文規定を置いていますが、種類株式発行会社以外の会社における既存株式全部の変更についてはとくに明文の規定はありません。一般の定款変更手続きで可能と解されていますが、定款変更のために必要な株主総会・種類株主総会の決議要件は、特別な手続きが明文で用意されているもの(譲渡制限株式変更等)以外は、特別決議とされており、反対株主の株式買取請求権は認められていません。その結果、いかなる重大な株式内容の変更であっても、株主総会・種類株主総会の特別決議で達成でき、株式買取請求権も生じないことになり、普通株式を議決権制限株式にする場合には、定款変更のための株主総会・種類株主総会の特別決議を行なえば足りることになるようです。 ü
株式買取請求権を有する株主─反対株主(116条2項) 自己の有する株式の買取りを請求することができる権利を反対株主に認めています(116条2項)。反対株主の要件としては、株主総会の決議を要する場合には、株主総会に先立って決議に反対する旨を会社に書面で通知し、かつ株主総会で決議に反対することが必要です。あるいは、その株主総会で議決権を行使できない株主(例えば単元未満株主)また、株主総会の決議を要しない場合には、すべての株主です。 ü
株式買取請求の手続き(116条3〜5項) 株式買取の手続きは、まず、会社から株主への通知または公告(116条3、4項)があり、その情報提供を受けて、つぎに会社に対して買取請求に係る株式の数を明らかにしてする株式買取請求(116条5項)がなされます。 ・会社からの情報提供(116条3、4項) 会社法の株式買取請求権は、必ずしも株主総会等の決議や議決権の行使を前提としていないので、116条1項3号で列記されている行為を行う会社が、その行為の効力発生日の20日前までにその株主に対し、その行為を行う旨の通知(116条3項)または公告(116条4項)を行うことが求められています。種類株主の拒否権の代わりに認められる株式買取請求では、損害を受けるおそれのある種類株主は種類株主総会の場では拒否できないから、買取請求を行うために通知や公告が必要です。 116条4項は、会社の通知にかわるものとして公告を一般的に認めます。定款変更に株主総会決議を要し、また、新たに株式の譲渡制限を付す会社が公開会社である場合には、通知に代わる公告が認められる組織再編等と同様に考えられます。 ※会社法・金融商品取引法に基づく開示内容 株主総会等の承認決議を要する場合には、招集通知を通じた情報開示が行われます。例えば、116条1項1号に定める定款変更をする場合には、いわゆる特殊決議、また116条2項に定める定款変更には通常の定款変更の手続き(466条、309条2項)を要することになり、株主総会の招集の通知には議案の要領が記載されます(298条1項、325条、会社法施行規則63条3項)。また、株主割当てや株主割当ての方法で新株予約権が発行される場合は、株式または新株予約権の引受の申込日の2週間前までに募集事項等について株主に通知しなければなりません(202条4項、241条4項)。また、株式の発行などについては有価証券届出書や適時開示が求められます。 ・反対株主による株式買取請求(116条5項) 株式買取請求は、効力発生日20日前の日から効力発生の前日までの間(時間的な要件)に、その株式買取請求に係る株式の数を明らかにしていなければなりません(116条5項)。 反対株主による買取請求は、株主としての地位に基づく会社に対する権利行使であり、一般には基準日あるいは買取請求時点で株主名簿上の株主である必要があり、また、当該買取請求は、会社に対する少数株主権等の行使に該当し、社債、株式等の振替に関する法律なよる振替制度の下での少数株主権の行使では、株主名簿の記載・記録ではなく、振替口座の記録の通知(個別株主通知)が会社に対する対抗要件となります。 振替株式の買取請求及び価格決定の申立ては、社債、株式等の振替に関する法律上の少数株主権等に該当し、会社に対する対抗要件としての個別株主通知が必要とされますが、これは実際には買取請求権の行使時や価格決定の申立て時に必ずしも必要というわけではなく、請求を受けた会社が請求をした者が株主であることを争った場合に、その裁判で必要となるということです(最高裁判決平成24年3月28日)。なお、括弧内の平成24年の最高裁判決では、株式買取請求には会社に対する対抗要件としての個別株主通知が必要なところ、これを欠くと当該買取請求が不適法となり、したがって、買取請求価格決定の申立ても適法な株式買取請求をした者ではない者による申し立ても不適法としており、対抗要件を備えない株主の原告適格を否定するとしています。 ü
公正な価格 株式買取請求の要件を満たす反対株主は、株式会社に対して、自己の有する株式を「公正な価格」で買い取ることを請求することができる、とされています。旧商法では、株式の買取価格は「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」と規定されていました。それが会社法では、組織再編等では一般にシナジー効果が発生するにもかかわらず、旧商法の文言に従えばシナジーの分配を受けられないことになるため、「公正な価格」に改められました。しかし、会社法の上では、その「公正な価格」の具体的内容や考慮すべき要素を明示しておらず、「公正な価格」の決定は、経済界において一般に公正妥当と認められる評価手法に基づき、裁判所の合理的な裁量に委ねられています。 買取の対象となる株式が上場会社の株式である場合は、旧商法での「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」が「公正な価格」と一致します。すなわち、原則として市場株価が基準となり、実際の算定に当たっては、会社の行為による影響を除く趣旨から、行為の公表前何か月間の市場価格の終値の平均により買取価格を算出するのが一般的です(東京地裁判決昭和58年2月10日)。 ü
株式買取請求の撤回(116条7項) 反対株主が株式買取請求をした後は、原則として、その請求を撤回することはできませんが、株式会社の同意がある場合(または効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがなされない場合)に撤回が認められます(116条7項)。株式買取請求権の撤回が制限される結果、買取請求段階において従来よりも慎重な判断が株主に要求されることから、株式買取請求権の行使期間をできるだけ効力発生日に近づけ、効力発生日における会社の状況を正確に把握できるようにするため、買取請求期間が、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間になりました(116条5項)。 ü
行為の中止と株式買取請求の失効(116条8項) 株式買取請求権は会社の行為に対して異議のある場合に認められる株主の権利であり、会社が行為をやめた場合は、株式買取請求権を行使する理由はなくなり、株式買取請求は失効します(116条8項)。株式買取請求に伴い、大量の現金流出の可能性があり、会社が株式を買い取るにつき困難な事態に陥るおそれがあることから、会社が行為を中止して、買取請求を失効させる余地を残すことが制度としても合理的と考えられたからです。 行為を中止するには、元の行為の効力を生ずるに必要な手続に対応して、総会決議によることが必要な場合、取締役会決議で足りる場合、客観的な条件の定めで足りる場合があります。 ü
財源規制等 反対株主の株式買取請求権の行使により、会社はそれに応じて自己株式を取得することになる場合(155条13号)、株式会社が株式を取得する対価として株主に支払う金銭等の総額が、支払いの日における分配可能利益額を超えるときは、反対株主の保護を図る必要があることから、事前規制としての財源規制はかからず、取得自体は認められます。 関連条文 取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則(112条)
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