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第461条 配当等の制限
 

 

Ø 配当等の制限(461条)

@次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。

一 第138条第1号ハ又は第2号ハの請求に応じて行う当該株式会社の株式の買取り

二 第156条第1項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第163条に規定する場合又は第165条第1項に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。)

三 第157条第1項の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得

四 第173条第1項の規定による当該株式会社の株式の取得

五 第176条第1項の規定による請求に基づく当該株式会社の株式の買取り

六 第197条第3項の規定による当該株式会社の株式の買取り

七 第234条第4項(第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による当該株式会社の株式の買取り

八 剰余金の配当

A前項に規定する「分配可能額」とは、第1号及び第2号に掲げる額の合計額から第3号から第六号までに掲げる額の合計額を減じて得た額をいう(以下この節において同じ。)。

一 剰余金の額

二 臨時計算書類につき第441条第4項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第3項の承認)を受けた場合における次に掲げる額

イ 第441条第1項第2号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

ロ 第441条第1項第2号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

三 自己株式の帳簿価額

四 最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

五 第2号に規定する場合における第441条第1項第2号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

六 前3号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

 

剰余金の配当が行われると、会社財産が株主に払い戻されることになるため、会社債権者から見ると、債権の弁済資源である会社の財産が減少する事態が生じることになります。このような事態から債権者を保護する必要性は、会社のうち、株主が間接有限責任しか負わない株式会社においてとくおおきいものとなります。他方、会社財産の減少は会社の業績悪化や会社資産の劣化などによって生じるのですが、それらによる財産の減少は法的規制により食い止めることはできません。そこで、会社法では、株主に対する財産の払い戻しについて何らかの法的規制を加えることによって会社債権者を保護してきたのでした。

わが国の商法は大陸法の商法を範として制定されたため、株主に対する財産の払い戻しを規制する仕組みとして資本制度を用いてきました。最低資本制度と言い、資本維持の原則という、資本の額をもって会社が維持すべき純資産の最低金額とし、会社の純資産額が資本の額を下回るときには、株主に対する払い戻しを禁止するというものでした。そして、会社法が制定されると、最低資本金制度は廃止されましたが、配当阻止数としての資本の機能は維持されました。それが、利益の配当、中間配当、資本及び準備金の減少に伴う払戻し、自己株式の取得等による株主に対する会社財産の払戻しを「剰余金の配当等」として整理し、これらの行為に横断的に財源規制を適用するというものです。

ü 財源規制の概要

461条1項1〜8号に掲げる行為を分配行為と呼び、この分配行為により株主に対して交付する金銭など帳簿価額の総額は、その行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない(461条1項)。分配可能額を超えて支払った場合には、関係者は462条に従って会社に対する金銭支払義務を負い、債権者は株主に対して一定の範囲で自己への金銭の支払いを請求することができます(463条2項)。分配可能額を超えて剰余金の配当等を行った取締役、監査役、執行役、会計参与等は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはそれらを併科されます(963条5項2号)。

帳簿価額の総額が超えてはならないのは、分配行為が効力を生じる日の分配可能額であり、最終事業年度の末日における分配可能額ではありません。株主に分配してよいのは、分配行為が効力を生じる日において債権者を害することがないと認められる額だからです。ただし、実際の分配可能額は最終事業年度の末日の分配可能額を基準として、これに末日以降の会社の行為による変動額を加減して求めているので、分配行為時の分配可能額を会社が感知し得ないということはないと言えます。

財源規制の対象となる分配行為は以下の通りです(461条1項1〜8号)。

・自己株式の取得(461条1項1〜7号)

@)138条1号ハまたは2号ハの請求に応じて行う買取(462条1項1号)

譲渡制限株式の株主または取得者から、譲渡承認の請求および承認をしない場合の買取請求がなされた場合(136条、137条1項)に、会社が譲渡承認をせずに、譲渡制限株式を自ら買い取る行為です。会社が自己株式を買い取ることのできる分配可能額がない場合には、譲渡承認をするか指定買取人を指定しなければなりません(140条)。

A)156条1項の決定に基づく取得であって163条または165条1項に規定する場合(462条1項2号)

株主との合意による自己株式の取得のうち、子会社から取得する場合(163条)、および会社が市場取引または公開買付けの方法により取得する場合(165条1項)です。

B)157条1号の決定に基づく取得(462条1項3号)

株主との合意による自己株式取得のうちに、株主に対し通知を行って株式譲渡の機会を提供する場合と、株主総会の特別決議により特定の株主から取得する場合です。

C)173条1項による取得(462条1項4号)

株主総会決議に基づいて行う全部取得条項付株式の取得です。全部取得条項付株式の取得の対価が株式会社では他の種類の株式である場合には、適用されません。取得の対価がゼロ(無償)と定められたときは、分配可能額がなくても違反となりません。

D)176条1項の請求に基づく買取り(462条1項5号)

定款に定めを置いて、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、株式の売渡しを請求して行う自己株式の買取です。

E)197条3項による買取り(462条1項6号)

所在不明株主の株式を競売に代えて売却するときに、自己株式として買い取る場合です。分配可能額の範囲で売却株式の一部を買い取ることもできます。

F)234条4項による買取り(462条1項7号)

会社の行為により株主に交付する株式の数に端数が生じる場合に、端数の合計数に相当する株式を売却して会社がこれを買い取る場合です。

G)その他の場合

155条が定める会社が自己株式を取得することができる場合のうち、上記@からF以外の場合には、財源規制がありません。そのような場合のうち、取得請求権付株式の取得の請求に応じて取得する場合には、取得と引き換えに株主に交付する財産の帳簿価額が請求の日における配当可能額を超えるときには、株主は取得の請求をすることができず(166条1項)、取得条項付株式をその条項に従って取得する場合には、同じく交付する財産の帳簿価額が取得事由の生じた日における分配可能額を超えるときには、取得の効果は生じない(170条5項)、などいうかたちで別に財源規制が定められています。また、反対株主の株式買取請求権が行使された場合のうち、株式会社の組織再編行為以外の場合については、払い戻した額が分売可能額を超える場合には、取締役等が゜会社に対してその超過額を支払う義務を負うとされています(464条1項)。これにより分売可能額を超える払い戻しを行う会社行為が事実上阻止されることが期待されています。

また、これに対して財源規制が適用されないものもあります。単元未満株の買取(155条7号)、他の会社その他法人の事業の全部を譲り受けるときに取得する場合(155条10、13号)、会社の合併・分割に伴って承継する場合(155条11〜13号)、会社が有する株式等について自己株式の割当を受ける場合(155条13号)、会社の組織再編行為等に際して反対株主の買取請求権の行使に応じて取得する場合(155条13号)、無償で取得する場合(155条13号)、権利の実行に当たり目的を達成するために必要かつ不可避である場合(155条13号)などがそうです。

・剰余金の配当(461条1項8号)

会社法は、株主が原則として剰余金の配当を受ける権利を有すること(105条1項)、会社が株主に剰余金の配当をなし得ること(453条)、およびその手続きを定めています(453〜460条)。これらの規定から、剰余金の配当には、任意の時期に株主総会の決議に基づいて行うもの(451条)のほか、取締役会設置会社が1事業年度の途中において取締役会の決議に基づいて行う中間配当(451条5項)が含まれています。

ü 分配可能額の計算

分配可能額の計算の出発点は、最終事業年度の末日における「その他資本剰余金」・「その他利益剰余金」の合計額です(446条2項1号、会社計算規則149条)。そこから、次の@〜Iを控除します。

@最終事業年度の末日における「のれん等調整額」(461条2項6号、会社計算規則158条1号)

A最終事業年度の末日の「その他有価証券評価差額金」・「土地再評価差額金」がマイナスである場合における当該差額(461条2項6号、会社計算規則158条2、3号)

B連結配当規制適用会社において最終事業年度の末日における連結貸借対照表上の株主資本等の額が個別貸借対照表上のそれを下回る場合の当該差額(461条2項6号、会社計算規則158条4号)

C株主への財産分配行為が効力を生ずる日(以下「A地点」という)の自己株式の帳簿価額(461条2項3号)

D最終事業年度の末日からA地点までの間に処分した自己株式の帳簿価額(446条5号

E最終事業年度の末日からA地点までの間に処分した自己株式の対価の額(461条2項4号)

F最終事業年度の末日からA地点までの間に剰余金の配当をした場合における配当財産の帳簿価額等(446条6号

G最終事業年度の末日からA地点までの間に分割会社が剰余金の額を減少した場合の減少額(446条7号、会社計算規則150条1項1号)

H最終事業年度の末日からA地点までの間にその他資本剰余金・その他利益剰余金から資本金・準備金に組み入れられた額(446条7号、会社計算規則150条1項1、2号)

I最終事業年度の末日からA地点までの間に財産価格填補責任等の履行のため支払われた額(446条3、4号

そして、次のJ〜Kを付加します。

J最終事業年度の末日からA地点までの間に資本金・準備金を減少した額(446条3、4号

K最終事業年度の末日からA地点までの間に吸収型再編受入行為によりその他資本剰余金・その他利益準備金が増加した額(446条7号、会社計算規則150条1項5号)

このような分配可能額の計算は、大まかに言うと、最終事業年度の末日の剰余金(その他資本剰余金・その他利益剰余金)の額から、会社債権者保護上控除すべき額(@ABD及びCの一部)および、最終事業年度の末日後の剰余金の減少額(Cの一部、FGH)を控除し、債権者異議手続きを経た最終事業年度の末日後の剰余金の増加額を加算した(JK)額であると考えればよいものです。

次の個別にみていきましょう。

・剰余金の額からの減算項目

@)自己株式の帳簿価額(461条2項3号)

貸借対照表上の純資産の部において、自己株式の帳簿価額は、剰余金の構成項目である「その他資本剰余金」「その他利益剰余金」とは別に控除項目として計上されています(会社計算規則76条2項)。そこで分配可能額の計算上、自己株式の帳簿価額を剰余金の額から減じる必要があります。自己株式の帳簿価額は、過去に株主に対して株式の取得と引換えに払い戻した財産の合計額に相当し、これには、事業年度末日までに取得した分と事業年度末日後に取得した分とが含まれます。自己株式の取得には分配可能額による規制が適用されないものがありますが、会社が自己株式を取得すれば、分配可能額による規制が適用されるかどうかにかかわらず、分配可能額が変動することになります。

A)事業年度末日後に自己株式を処分した場合の自己株式の対価の価額(461条2項4号)

会社が自己株式を処分すると自己株式の対価相当額分だけ会社の純資産は増加し、かつ取得の対価は資本金等の分配可能額に組み入れられない項目へ計上する必要がないため、何の手当てもしなければ、自己株式の対価相当額分の配当額が増加することになります。

しかし、自己株式の処分対価をそのままに分配可能額に算入すると、対価として取得した財産が不当に高く評価された場合には分配可能額が不当に多くなり、債権者の利益を害することになりかねません。そこで、この問題に対処するため、自己株式の取得対価については、通常の決算か臨時決算を経ない限り分配可能額に組み入りないこととなりました。具体的には、通常の自己株式の処分の場合は、自己株式の対価額を分配可能額から減額することにより、それが分配可能額の増加要因である「処分差損益+帳簿価額」と同額となるため、分配可能額は変わらないこととなります。

ただし、自己株式の処分が吸収型再編受入行為または特定募集による場合、自己株式を対価とする場合には、例外として、自己株式の対価額を減額せず、自己株式の処分対価が分配可能額に組み入れられます(会社計算規則158条9、10号)。

B)法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額(461条2項6号)

会社法の政策上の観点から、法務省令により分配可能額の規制を迅速に変更するための規定です。現在は、のれん等調整額、その他有価証券評価差損、土地再評価差損等、10項目が定められています。

・臨時計算書類を作成した場合

臨時計算書類は、株式会社が、最終事業年度の直後の事業年度に属する一定の日(臨時決算日)における会社の財産の状況を把握するために作成することができる書類であり、臨時決算日における貸借対照表と、臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間に係る損益計算書から成るものです(441条)。臨時決算を行って作成した臨時計算書類について株主総会または取締役会の承認を受けた場合には、臨時計算書類が対象とする期間の期間損益および自己株式の処分対価を分配可能額に組み入れることができます(461条2項2号)。

言い換えると、臨時決算を行って臨時計算書類を作成する目的は、期間損益や自己株式の処分益を分配可能額に組み入れることにあると言えます。このような処理が許されるのは、臨時決算の手続きには期間損益や自己株式処分対価の適正な評価を確保する仕組みが含まれているので、臨時決算の手続きを経た場合には、それらの結果を反映させても債権者を害するおそれがないからです。また、臨時決算日までの期間損益を反映させて分配可能額を計算することは、それにより臨時決算日現在の株主とそれ以降の株主との間の利害調整をより適切に行うことができる。

臨時決算によって変動するのは剰余金の額自体ではなく、分配可能額です。臨時決算を行って、臨時決算までの間に利益が生じている場合にはその額を加算し(461条2項4号、会社計算規則156条)、損失が生じている場合にはその額を減算します(461条2項5号、会社計算規則157条)。

最終事業年度末日後に処分した自己株式の対価相当額は、分配可能額の計算上、減額されていますが(461条2項4号)、臨時決算をした場合には臨時決算期間に処分した自己株式の対価相当額は分配可能額に加算されます(461条2項2号)。この結果、自己株式の対価相当額だけ分配可能額が増加することになります。

Ø 関連する会社計算規則

² 臨時計算書類の利益の額(会社計算規則156条)

法第461条第2項第2号イに規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損益金額(零以上の額に限る。)とする。

この条文は、461条2項の分配可能額を算出するに当たって、臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純利益の額を加算すべきことを定めたものです。登記純損失が生じている場合は、加算額は零となり、会社珪砂な規則157条により、その額が減算されます。

臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純利益の額とは、会社計算規則94条により算出される当期純利益であり、会社計算規則156条により零以上の場合に限定されるので、損益計算書に当期純利益として表示される金額に等しくなります。

 

² 臨時計算書類の損失の額(会社計算規則157条)

法第461条第2項第5号に規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、零から臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損益金額(零未満の額に限る。)を減じて得た額とする。 

この条文は、461条2項の分配可能額を算出するに当たって、臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損失の額を減額すべきことを定めたものです。当期純利益が生じている場合は、減算額は零となり、会社計算規則156条により、その額が加算されます。

臨時計算書類の損益計算書に計上された当期純損失の額とは、会社計算規則94条により算出される当期純損失金額であり、会社計算規則157条によりそりが零未満の場合に限定されるので、損益計算書に当期純損失として表示される金額に等しくなります。

 

² その他減ずるべき額(会社計算規則158条)

法第461条第2項第6号に規定する法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、第1号から第8号までに掲げる額の合計額から第9号及び第10号に掲げる額の合計額を減じて得た額とする。

一 最終事業年度(法第461条第2項第2号に規定する場合にあっては、法第441条第1項第2号の期間(当該期間が二以上ある場合にあっては、その末日が最も遅いもの)。以下この号から第3号まで、第6号ハ、第8号イ及びロ並びに第9号において同じ。)の末日(最終事業年度がない場合(法第461条第二項第2号に規定する場合を除く。)にあっては、成立の日。以下この号から第3号まで、第6号ハ、第8号イ及びロ並びに第9号において同じ。)におけるのれん等調整額(資産の部に計上したのれんの額を二で除して得た額及び繰延資産の部に計上した額の合計額をいう。以下この号及び第4号において同じ。)が次のイからハまでに掲げる場合に該当する場合における当該イからハまでに定める

イ 当該のれん等調整額が資本等金額(最終事業年度の末日における資本金の額及び準備金の額の合計額をいう。以下この号において同じ。)以下である場合 零

ロ 当該のれん等調整額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額以下である場合(イに掲げる場合を除く。) 当該のれん等調整額から資本等金額を減じて得た額

ハ 当該のれん等調整額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額を超えている場合 次に掲げる場合の区分に応じ、次に定める額

(1) 最終事業年度の末日におけるのれんの額を二で除して得た額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額以下の場合 当該のれん等調整額から資本等金額を減じて得た額

(2) 最終事業年度の末日におけるのれんの額を二で除して得た額が資本等金額及び最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額の合計額を超えている場合 最終事業年度の末日におけるその他資本剰余金の額及び繰延資産の部に計上した額の合計額

二 最終事業年度の末日における貸借対照表のその他有価証券評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)を零から減じて得た額

三 最終事業年度の末日における貸借対照表の土地再評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)を零から減じて得た額

四 株式会社が連結配当規制適用会社であるとき(第2条第3項第55号のある事業年度が最終事業年度である場合に限る。)は、イに掲げる額からロ及びハに掲げる額の合計額を減じて得た額(当該額が零未満である場合にあっては、零)

イ 最終事業年度の末日における貸借対照表の(1)から(3)までに掲げる額の合計額から(4)に掲げる額を減じて得た額

(1) 株主資本の額

(2) その他有価証券評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)

(3) 土地再評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)

(4) のれん等調整額(当該のれん等調整額が資本金の額、資本剰余金の額及び利益準備金の額の合計額を超えている場合にあっては、資本金の額、資本剰余金の額及び利益準備金の額の合計額)

ロ 最終事業年度の末日後に子会社から当該株式会社の株式を取得した場合における当該株式の取得直前の当該子会社における帳簿価額のうち、当該株式会社の当該子会社に対する持分に相当する額

ハ 最終事業年度の末日における連結貸借対照表の(1)から(3)までに掲げる額の合計額から(4)に掲げる額を減じて得た額

(1) 株主資本の額

(2) その他有価証券評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)

(3) 土地再評価差額金の項目に計上した額(当該額が零以上である場合にあっては、零)

(4) のれん等調整額(当該のれん等調整額が資本金の額及び資本剰余金の額の合計額を超えている場合にあっては、資本金の額及び資本剰余金の額の合計額)

五 最終事業年度の末日(最終事業年度がない場合にあっては、成立の日。第7号及び第10号において同じ。)後に二以上の臨時計算書類を作成した場合における最終の臨時計算書類以外の臨時計算書類に係る法第461条第2項第2号に掲げる額(同号ロに掲げる額のうち、吸収型再編受入行為及び特定募集(次の要件のいずれにも該当する場合におけるロの募集をいう。以下この条において同じ。)に際して処分する自己株式に係るものを除く。)から同項第5号に掲げる額を減じて得た額

イ 最終事業年度の末日後に法第173条第1項の規定により当該株式会社の株式の取得(株式の取得に際して当該株式の株主に対してロの募集により当該株式会社が払込み又は給付を受けた財産のみを交付する場合における当該株式の取得に限る。)をすること。

ロ 法第2編第2章第8節の規定によりイの株式(当該株式の取得と同時に当該取得した株式の内容を変更する場合にあっては、当該変更後の内容の株式)の全部又は一部を引き受ける者の募集をすること。

ハ イの株式の取得に係る法第171条第1項第3号の日とロの募集に係る法第199条第1項第4号の期日が同一の日であること。

六 3百万円に相当する額から次に掲げる額の合計額を減じて得た額(当該額が零未満である場合にあっては、零)

イ 資本金の額及び準備金の額の合計額

ロ 株式引受権の額

ハ 新株予約権の額

ニ 最終事業年度の末日の貸借対照表の評価・換算差額等の各項目に計上した額(当該項目に計上した額が零未満である場合にあっては、零)の合計額

七 最終事業年度の末日後株式会社が吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式に係る法第461条第2項第2号ロに掲げる額

八 次に掲げる額の合計額

イ 最終事業年度の末日後に第21条の規定により増加したその他資本剰余金の額

ロ 最終事業年度の末日後に第42条の2第5項第1号の規定により変動したその他資本剰余金の額

ハ 最終事業年度がない株式会社が成立の日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額

九 最終事業年度の末日後に株式会社が当該株式会社の株式を取得した場合(法第155条第12号に掲げる場合以外の場合において、当該株式の取得と引換えに当該株式の株主に対して当該株式会社の株式を交付するときに限る。)における当該取得した株式の帳簿価額から次に掲げる額の合計額を減じて得た額

イ 当該取得に際して当該取得した株式の株主に交付する当該株式会社の株式以外の財産(社債等(自己社債及び自己新株予約権を除く。ロにおいて同じ。)を除く。)の帳簿価額

ロ 当該取得に際して当該取得した株式の株主に交付する当該株式会社の社債等に付すべき帳簿価額

十 最終事業年度の末日後に株式会社が吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式に係る法第461条第2項第4号(最終事業年度がない場合にあっては、第8号)に掲げる額。

この条文は、461条の分配可能額を算出するために、剰余金の額に加算・減算すべき金額のうち、461条2項6号に基づき法務省令により委任された金額を定めています。

・のれん等調整額(会社計算規則158条1号)

のれん等調整額とは、貸借対照表上の資産の部に計上したのれんの額の2分の1と繰延資産の部に計上した額の合計額をいいます(会社計算規則158条1項)。のれんとは、会社が対価を支払って事業等を取得した場合に、その対価が取得した事業等の識別可能財産を超過する額(正ののれん)、または対価額が識別可能財産に不足する額(負ののれん)であり、適正な額ののれんを資産(正ののれんの場合)または負債(負ののれんの場合)として計上することができます(会社計算規則11条)。

繰延資産とは、将来の収益への貢献を期待できる一定の費用であって、期間収益を適正に算定するために費用としては計上せず、資産として計上することを認められたものをいいます。いかなる繰延資産を計上することができるか、及び繰延資産の償却方法・期間については一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行に従うとされています。会社法では、分配可能額の算定上は、繰延資産を原則として資産扱いしないこととしています。

会社法では、のれんは単独では換価可能性がなく、繰延資産と同様に、費用または損失の繰延という側面があることは否定できないものの、その中には将来の収益によって回収可能なものも含まれている可能性も否定できないことから、基本的にはその2分の1について資産性を肯定し、残りの2分の1を分配可能額から控除することとしました。

のれん等調整額の分配可能額の算定上の減算方法は、のれん等調整額の大きさに応じて次のように取り扱います。

@)のれん等調整額が資本等金額以下である場合(会社計算規則158条1号イ)

資本等金額とは、最終事業年度末日における資本金の額及び準備金の額の合計額です。のれん等調整額が資本等金額以下である場合には、分配可能額からの減算を行わない(会社計算規則158条1号イ)。これは、のれん等調整額を資産として扱い分配可能額の計算に含めることから将来生じ得る損失等については、資本金及び準備金の合計額に対応する会社資産がバッファーとなっていると考えられるためです。

A)のれん等調整額が資本等金額及びその他資本剰余金の額以下である場合(会社計算規則158条1号ロ)

この場合には、のれん等調整額から資本等金額を減じて得た額を、額分配可能から減算します(会社計算規則158条1号ロ)。資本等金額に相当する額は前項と同様に減算する必要はありませんが、それを超える部分に相当する資産を引き当てとする会社財産の払戻しを認めないという政策判断を示すものです。

B)のれん等調整額が資本等金額及びその他資本剰余金の額を超え、かつ、のれんの2分の1が資本等金額及びその他資本剰余金以下の場合(会社計算規則158条1号ハ(1))

この場合には、のれん等調整額から資本等金額を減じて得た額を、分配可能額から減算します(会社計算規則158条1号ハ(1))。これは、のれん等調整額のうち資本等金額でカバーされていない額を分配可能額から減算するものです。

C)のれん等調整額が資本等金額及びその他資本剰余金の額を超え、かつ、のれんの2分の1が資本等金額及びその他資本剰余金を超えている場合(会社計算規則158条1号ハ(2))

この場合には、その他資本剰余金の額及び繰延資産の部に計上した額の合計額を、分配可能額から減算します(会社計算規則158条1号ハ(2))。これはのれん等調整額のうち資本等金額でカバーされていない額のうち、繰延資産に相当する部分は、全額、分配可能額の算定上、減じなければならないわけですが、のれんの額の2分の1に相当する部分については、その他資本剰余金の額を上限として、分配可能額の算定上、減ずれば足りるとするものです。のれんの2分の1相当額についてその他資本剰余金の額を上限として減算すれば足りるとしたのは、のれんの計上によって剰余金またはその供給源である資本金・資本準備金が計上されることとなる場合、すなわち積極的に分配可能額を増加させる効果が生ずる場合に、これについて手当をすれば足りると考えられたからです。

※臨時計算書類を作成した場合

臨時計算書類を作成し、その承認を得た場合には、最終事業年度の末日ではなく臨時会計年度の末日におけるのれん等調整額と資本等金額・その他資本剰余金とを比較して、減算額を算定します。

・その他有価証券評価損(会社計算規則158条2号)・土地評価差損(会社計算規則158条3号)

その他有価証券評価差額金とは、貸借対照表の純資産の部の「評価・換算差額等」に表示される金額であり、会計基準によって認識されるものです。その他有価証券の変動によって生じた評価差額を言います。その他有価証券とは、財務諸表の用語で、様式及び作成方法に関する規則8条22項が定義する「売買目的有価証券、満期保有目的の債権並びに子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券」を言います。土地評価差額金とは、土地の再評価に関する法律に基づき、事業用土地の再評価を行った場合の再評価差額から再評価に係る繰延税金資産の金額を加えた額を言います。

これらのその他有価証券の時価評価あるいは土地の再評価によって生じた評価損は、その他有価証券評価差額金あるいは土地再評価評価差額金に計上され、剰余金に反映されないため、会社計算規則158条2号、3号の規定がなければ、分配可能額に影響を与えることはありません。そこで、これらの差額が生じたのに分配可能額が影響を受けない場合について、未実現の損失を実現したものとして扱い、評価損を分配可能額から減額するようにしました。

なお、その他有価証券・土地以外の資産の資産の時価評価・再評価によって生じた評価損について、分配可能額から減算する手当は会社計算規則に用意されていません。それらの場合には、会計基準に従う限り、評価損が生じた結果、分配可能額が減少するため、あらためて評価損を分配可能額から減額する必要がないからです。固定資産における減価償却費がその典型例です。

その他有価証券の時価評価・土地の再評価によさって生じた評価益は、その他有価証券評価差額金・土地再評価差額金に計上され、剰余金の額には反映されません。したがって、これらの評価益が生じても、分配可能額が増加するわけではありません。これに対して、売買目的有価証券については評価益は当期純利益となり、その他利益剰余金が増加するため、分配可能額を増加させます。

・連結配当規制適用会社における剰余金の差額(会社計算規則158条4号)

連結配当とは、ある会社を頂点とする連結グループの剰余金を基準として当該会社の配当等を行う制度で、会社法では、連結剰余金が単体剰余金よりも少ない場合にその差額を分配可能額から減額するという制度です(会社計算規則158条4号)。連結剰余金と単体剰余金との差額を減額する趣旨は、連結剰余金が単体剰余金よりも少ないという状況は、株式会社が保有している子会社株式に含み損がある場合とみなすことができ、これは評価損が生じているにもかかわらず分配可能額に反映されていない場合とで同様であると考えられることから、その差額を分配可能額から減額することとなりました。これに対して、連結剰余金が単体剰余金よりも多いという状況は、株式会社が保有している子会社株式に含み益がある場合と同じとみることができます。この含み益は現実に子会社から剰余金の配当を受け取って実現することが予定されているため、あえてて分配可能額に算入することはしません。これは、株式会社がある事業年度について連結計算書類を作成しており、その事業年度に係る計算書類の作成に際して、その事業年度の末日から次の事業年度の末日までの間における分配可能額の算定について、この会社計算規則158条4号の適用の旨を定めた会社についてのみ適用されます。この会社を連結配当適用会社といいます。

連結配当規制を適用するためには、最終事業年度の末日における貸借対照表と連結貸借対照表とに基づき、それぞれの、@株主資本の額から、Aその他有価証券評価損、B土地再評価損、Cのれん等調整額、及びD最終事業年度の末日後に子会社から自己株式を取得した場合には、取得直前の子会社における持分に相当する額の合計額を減じて得た額とを比較して、連結ベースの方が少ない場合に、その差額を分配可能額の計算上、減額します。連結ベースの額の方が大きい場合には、減額を行いません。

・2以上の臨時計算書類を作成した場合(会社計算規則158条5号)

例えば四半期ごとに配当を行うために、事業年度中に3回、臨時計算書類を作成することが考えられます。2以上の臨時計算書類は、それぞれが最終事業年度の直後の事業年度初日から臨時決算日までを臨時会計年度するものであるため、それらの臨時会計年度は一部が重複することになります。そこで、最終の臨時計算書類以外の臨時計算書類に係る461条2項2・5号の額を相殺し、最終の臨時計算書類についてのみ反映させることとしたものです。

461条2項2号に掲げる額から同項5号に掲げる額を減じて得た額を、分配可能額の算定と、控除するため、同項2号の額があれば減算し、同項5号の額があれば加算することとなり、最終の臨時計算書以外の臨時計算書類にかる461条2項2・5号の額を相殺し。最終の臨時市計算書類についてのみ反映されるとしています(会社計算規則158条5号)。

・純資産額が300万円に不足する額(会社計算規則158条6号)

458条は、会社の純資産額が300万円を下回る場合には、剰余金の配当をすることができない旨を定めますが、これだけでは、剰余金の配当等の後に会社の純資産が300万円を下回るような配当等を禁止する効果はありません。そこで、会社計算規則158条6項では、剰余金の配当等の後に会社の純資産が300万円を下回らないように、分配可能額算定上控除すべき金額を定めています。

具体的には、資本金の額・準備金の額、新株予約権の額、貸借対照表上の評価・換算差額の合計額が300万円未満の場合には、300万円との差額を分配可能額の算定上、減額します(会社計算規則158条6号)。資本金の額・準備金の額、新株予約権の額等、300万円と比較する項目は、貸借対照表の純資産の中で、分配可能額に組み入れられない項目です。剰余金名の配当の際に、これらの項目の合計額が300万円未満である場合には、分配可能額の全額を分配すると、配当後に純資産の部が300万円未満となるため、300万円との差額を分配可能額の算定上、減額するわけです。

・最終事業年度の末日後に吸収型再編受入行為または特定募集を行う場合(会社計算規則158条7号・8号ロ・10号)

吸収型再編または特定募集に伴う自己株式処分対価について、たとえ臨時決算を経ていなくても、例外的に、分配可能額に反映されます。

特定募集とは、会社が全部取得条項付種類株式を取得するが、それと同時に、取得した株式の全部または一部を引き受ける者の募集を行い、その募集により株式会社が払込をまたは給付を受けた財産のみを、全部取得条項付種類株式の取得の対価として交付する行為を言います。この場合に、会社から財産が流出していないので、当該自己株式の対価額を分配可能額の算定上、加算しても問題がないと考えられました。

吸収型再編受入行為とは、吸収合併における存続会社による権利義務の承継、吸収分割における承継会社による権利義務の承継、及び株式交換における完全親会社による完全子会社の株式の取得を言います。これらの場合には、自己株式の処分によって得た財産が不当に高く評価されると債権者の利益を害するとも考えられますが、組織再編行為を行うことによって、事業年度中に剰余金の配当等を行うことができなくなるのは好ましくないと考えられました。

したがって、最終事業年度の末日後に行なう吸収型再編受入行為または特定募集に際して処分する自己株式の対価額を、分配可能額の算定上、加算します(会社計算規則158条10号)。臨時計算書類を作成し、その承認を得た場合には、臨時会計年度の自己株式対価額がすでに加算されているので、これを消去するためにその額を減額します(会社計算規則158条7号)。

・会社計算規則21条の規定により増加したその他資本剰余金の額(会社計算規則158条8号イ)

発起人が設立時における現物出資の不足額支払義務の履行として支払った額、募集株式の引受人が、不公正発行の差額払込義務または現物出資の不足額支払義務の履行として支払った額は、その他資本剰余金を増加させます(会社計算規則21条)。これらによる払込額も、自己株式の対価額と同様、適法な承認を得て臨時計算書類に計上された額のみを分配可能額に反映させます。そこで、会社計算規則150条により増加した剰余金の額から臨時会計年度後の増加分のみを控除することにより、臨時決算を経た増加額を、分配可能額の算定上、加算させます(会社計算規則158条8号イ)。

つまり、最終事業年度の末日後に会社計算規則21条によって増加したその他資本剰余金の額は、剰余金の額を増加させますが、分配可能額の算定上、その額が控除されるため(会社計算規則158条8号イ)、分配可能額に反映されることはありません。これに対して、臨時計算書類を作成し、その承認を得た場合には、会社計算規則158条8号イの「最終事業年度」が臨時会計年度に読み替えられる結果、会社計算規則150条1項6号により増加した額のうち臨時会計年度の末日後の増加分のみを控除することになり(会社計算規則158条8号イ)、臨時会計年度中のその他資本剰余金の増加額が分配可能額に反映されます。

・自己株式を対価とする自己株式の取得(会社計算規則158条9号)

取得請求権付株式や取得条項付株式の取得に際して、対価として自己株式を交付する場合には、自己株式の入れ替えが行われるにすぎず、会社からの財産の流出はありません。そこで会社計算規則158条9号は、461条2項4号の規定により分配可能額から減額された自己株式の対価額と相殺するために、取得した自己株式の帳簿価額を加算します。

 

関連条文  

会計の原則(431条)  

会計帳簿の作成および保存(432条)    

会計帳簿の閲覧等の請求(433条)     

会計帳簿の提出命令(434条)    

計算書類等の作成及び保存(435条)   

計算書類等の監査等(436条)    

計算書類等の株主への提供(437条)   

計算書類等の定時株主総会への提出等(438条)    

会計監査人設置会社の特則(439条)    

計算書類の公告(440条)    

臨時計算書類(441条)    

計算書類の備置き及び閲覧等(442条)    

計算書類等の提出命令(443条)    

連結計算書類(444条)    

資本金の額及び準備金の額(445条)    

剰余金の額(446条)    

資本金の額の減少(447条)    

準備金の額の減少(448条)    

債権者の異議(449条)    

資本金の額の増加(450条)    

準備金の額の増加(451条)    

剰余金についてのその他の処分(452条)    

   株主に対する剰余金の配当(453条)

剰余金の配当に関する事項の決定(454条)

金銭分配請求権の行使(455条)

基準株式数を定めた場合の処理(456条)

配当財産の交付の方法等(457条)

適用除外(458条)  

剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定め(459条)

株主の権利の制限(460条) 

剰余金の配当等に関する責任(462条)

株主に対する求償権の制限(463条)

買取請求に応じて株式を取得した場合の責任(464条)

欠損が生じた場合の責任(465条)

 

 
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