新任担当者のための会社法実務講座 第362条 取締役会の権限等 |
Ø 取締役会の権限等(362条) @取締役会は、すべての取締役で組織する。 A取締役会は、次に掲げる職務を行う。 一 取締役会設置会社の業務執行の決定 二 取締役の職務の執行の監督 三 代表取締役の選定及び解職 B取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。 C取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。 一 重要な財産の処分及び譲受け 二 多額の借財 三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任 四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止 五 第676条第1号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項 六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備 七 第426条第1項の規定による定款の定めに基づく第423条第1項の責任の免除 D大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第6号に掲げる事項を決定しなければならない。 取締役会は、株式会社の取締役全員で構成される会議体です(362条1項)。公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会など設置会社では、必ず設置することを求められています(327条1項)。 取締役会は、業務執行に関する意思決定機関であり、また同時に業務執行に関する監督機関でもあります。取締役会が業務執行に関する意思決定機関であるという事は、株主総会の招集、株式や社債の発行、会社財産の処分、営業所の設置、組織再編等の業務執行に関する決定を取締役会が行うということです。この決定を実行するのは業務執行機関である代表取締役ないし業務執行取締役です。取締役会の、このような権限に関連して、取締役会が業務執行機関である代表取締役に対して、どの範囲で業務執行に関する意思決定を委ねることができるかが問題となります。一方では、業務執行に関する意思決定権が取締役会にあるといっても、日々の営業取引等の日常の業務執行についてまですべて取締役会が決定しなければならないというのでは、取締役会が会議体であることからいっても煩雑であり、またそのような事項の決定は代表取締役に委ねても弊害はない。しかし、他方で、どんな事項でも代表取締役に委ねてもよいということになると、代表取締役の権限が強くなりすぎて、専横的になってしまう可能性が生じ、取締役会による業務執行の監督機能が働かなくなるおそれがあります。そこで、会社法は特定の重要事項の決定については取締役会で決定しなければならないとしています。それが昭和56年の商法改正で明文化されました。なお、これらの取締役会で決議すべき事項は、必ず法定の要件を満たした自身の決議で決定しなければなりません。 ü 取締役会設置会社の業務執行の決定(362条2項1号) 取締役会は、法令または定款で株主総会の決議事項とされているもの(295条2項)を除く、会社の業務執行について決定する権限を有しています。また、会社法や定款で定められた以外の事項は、取締役会の定める規則(取締役会規則)や個別決議により、代表取締役やそれ以外の業務執行取締役等に委任することができます。 一方、362条4項で列記されている事項その他の重要な業務執行の決定については、取締役会の専権事項となっており、たとえ定款で規定したとしても、代表取締役等に委任することはできないとされています。これは当該事項については、取締役全員の協議により、適切な意思決定が為されることを期待されているためです。そして、取締役会の決定に誤りがあり、会社に損害を生じさせた場合には、その決定に参加した取締役は善管注意義務・忠実義務違反による損害賠償責任(423条)を負担する可能性が生じることになります。 ü
決定の委任の可否(362条4項) 重要な業務執行の決定は、取締役の全員で構成される取締役会での審議を経た上での決議によらなくてはならないとして、それは、重要な経営事項についてについての慎重な決定を求めるとともに代表取締役の専横を防止するためです。 以下で、その代表取締役等に委任できない重要事項について検討していってみたいと思います。 @重要な財産の処分および譲受け(362条4項1号) 「重要な財産」とは会社の所有する不動産、動産、生産設備、金銭、有価証券、知的財産権等です。また、その「処分および譲受け」は広い概念であって、例えば、「処分」は譲渡、賃貸、担保設定、貸付、出資、寄付、債務免除、債権放棄、廃棄等が該当し、「譲受け」は設備投資、財産の賃借、知的財産権の使用契約などが含まれます。また、事業の譲渡および譲受けについても、重要な財産の処分および譲受けに含まれるとされますが、事業の全部または重要な一部の譲渡や全部の譲受けは株主総会の決議事項となります(467条1項)。 重要な財産の処分に当たるかどうかは、「当該財産の価額、会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目的、処分行為の態様、従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきもの」として、保有株式を譲渡した際に、その株式の帳簿価額が会社の総資産の1.6%に相当し、また、その株式の譲渡は営業のため通常行われる取引に属さないとして、重要な財産の処分に当たるとした最高裁判決(平成6年1月20日)があります。これを受けて、保有総資産の1%に相当する額程度と、社内の取締役会規則や付議事項などの基準としている会社も少なくありません。 ※「重要」や「多額」の判断 取締役会で決定すべき事項の中に「重要」とか「多額」という形容が付されていますが、そうでない普通の場合とを区分する基準は規定されていません。その基準は相対的なもので、すべての会社に共通の画一的基準があるわけではありません。会社の規模、業種、また取引に関係する事項であれば取引の種類または取引の相手方等により、具体的個別的に判断することになります。例えば、同じ1億円の取引であっても、大規模会社から重要な財産の処分または譲受けに含まれないのに、小規模会社なら含まれるとか、同じ1億円の貸付でも、貸付を営業の通常の過程でしている金融業者がする場合には重要な財産の処分に含まれないが、金融業者以外がする場合にはそれに含まれる可能性があります。また、取引の相手方が、子会社か、関連会社か、あるいは海外企業か、さらには経営成績の悪化している企業か等によっても異なってきます。取締役会で決定すべき事項かどうかは、これらの基準のもとに客観的に決められるものであって、客観的に見てそれに該当するにもかかわらず、取締役会に付議しないで行為をした取締役は法令違反の責任を負わされることになります。多くの会社では、取締役会規則、あるいは取締役会に付議する基準(付議基準)をあらかじめ定めています。これらは絶対的意味をもつものではなく、付議事項とされていなかったものでも、客観的に見て取締役会で決すべきものと判断されるときは、取締役会に付議しなければ、法令違反の責任を負うことになります。付議事項が善良なる管理者の注意をもって適切に決められたものである以上は、それによって行動した場合には、法令違反の責任を問われることはないということになります。ただし、善管注意義務を満たしているかどうか基準も絶対的ではないわけですが。 また、財産の種類、処分及び譲受けの態様について質的な側面は個別に見ていくと、例えば、次のように考えられます。 ア.会社の日常類型的反復的な業務執行行為(棚卸資産の販売、原材料の仕入れ等)については、原則的には重要な財産の処分に該当しませんが、次のような場合は、重要な財産の処分に当たると考えられます。 a.従来の取引と異なり、特定の相手方に対して短期間に多量の商品を販売する場合には、売買条件、債権回収の安全性、市場に与える影響等から重要な財産処分にあたる可能性があります。 b.販売戦略などの理由で従来の取引とは異なる価格設定(赤字を含めた大幅な値引き)などの異例な取引によるリスクが業績に多大な影響を与えると予想される場合 c.不動産会社における棚卸商品としての不動産の譲渡の場合にも、特定の相手方に対して多数の不動産を一括して売却するような場合 イ.不動産については、量的な重要性の目安に加えて、当該不動産が営業上の拠点となりうるか、本社屋などのように会社組織上重要なものであるか、などの質的な重要性を勘案される。 ウ.有価証券については、資金運用であるか投資か、発行会社との関係、発行済みの有価証券に対する取得する有価証券の比率などを勘案して重要性が判断されます。 エ.知的財産権については、会社の営業上必要なものであるか否かが勘案されることになります。 オ.債務担保設定については、自社債務か否か、担保の目的物、形態などが勘案されることになります。 カ.貸付については、貸付先との関係、貸付先の財産状態などが勘案されることになります。 キ.出資については、出資の状況、出資比率、他の出資者の状況などが勘案されます。 ク.寄付金については、相手先、金額、支払時期、方法等が勘案されます。 ケ.債務免除については、債務の種類、免除の理由、相手方の状況などが勘案されます。 これらのように、重要性の質的側面が高くなれば、金額が低額でも重要となり、質的な重要度が低ければ金額の基準は高くなると考えられます。 A多額の借財(362条4項2号) 「多額」の基準については、経営への影響の観点から各社で判断ということになりますが、基準とするものとして総資産額、資本金、年間売上高、純資産額、年間利益額、負債、借入総額等のうちから一つまたは複数を併用する方法で決めているケースが一般的です。「借財」とは、会社における金銭債務の負担であり、金融機関などからの借入、債務保証、リース契約、手形割引等をさします。 あるいは、借財のやり方についても、取締役会の決議対象となるか否かの判断が分かれる場合が考えられます。例えば、銀行から借り入れをする場合、次のようにケースでは金額とは別に判断することになります。 ・多額の借入金合計を時期をずらして、数回に分割して借り入れを行う場合 ・多額借入金合計を数ヶ所の銀行に分けて借り入れを行う場合 ・その一件の借入額は多額でないが、従前の借入残高の累積によれば相当の高額となる場合 ・大型プロジェクトの一括決議をしている場合における個々の借り入れについて B支配人その他の重要な使用人の選任及び解任(362条4項3号) 「支配人」とは、名称にかかわらず、会社の事業に関する包括的代理権を与えられた者を指します。また、「重要な使用人」とは、支配人及びそれに準ずる重要性を有する使用人を指し、一般的には役員を除いた各部門の最高位の使用人、さらに具体的には本社部門の部長職や支店長、所長、工場長等、一定以上の決裁権限を有する者と言えます。この場合も、各企業では取締役会規則や付議事項において、社内の役職位について取締役会で決定するものを規定しているところが多いようです。また、これに伴い、役付取締役の指名、使用人兼務取締役の使用人の地位の選解任、そして、相談役や顧問の選解任も合わせて取締役会で決定されるのが一般的です。 C支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止(362条4項4号) 「支店」とは、930条に基づく登記がされているものに加え、名称に関わらず、独立的に営業活動を継続することができる組織と施設を備えている拠点を指します。また、「重要な組織」とは、その組織の設置、変更及び廃止が会社の経営に与える影響度を基として、事業部や生産工場、研究所等が該当します。さらに、「変更」とは移転、統合、分割等を指します。この変更については、設置した組織をどのように運営するかは経常的な業務執行の範囲に属する事項なので取締役会が決めることではないのですが、その変更が経営にとって重大な影響を与えるものは、取締役会に付議するものとなります。例えば、死点については営業圏を異にする場所への移転がこれに当たるでしょうし、部を統合する(部の廃止に相当)、部を分割して二つにする(部の新設に相当)、さらに営業、生産、管理等の経営上の基本組織を変更する場合などが該当してくるでしょう。これに対して、支店や部の名称変更や、ある程度の規模の拡大や縮小、部内の課の変更等は付議の対象とはなってこないと考えられます。 D社債の発行(362条4項5号) 「重要な事項」とは会社法施行規則99条に定める、2以上の募集に係る総額等の事項の決定の委任、募集総額の上限、募集社債の利率に関する事項の要綱、募集社債の払込金額に関する事項の要綱で、これらに加えてそれらの前提として社債発行の目的や必要性も含まれます。 E取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(362条4項6号) いわゆる内部統制システムの構築は、重要な業務の決定とその執行であるから、一般に取締役会においてその大綱を決定し(会社法施行規則100条)、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、その大綱を踏まえ、担当する部門における内部統制システムを具体的に決定するべき職務を負います。さらに、各取締役は、代表取締役および業務担当取締役が内部統制システムを構築すべき義務を適正に履行しているか否かを会社に対する善管注意義務・忠実義務の一環として監視する義務を負います。 ※上場会社は、金融商品取引法に基づき有価証券報告書とともに内部統制報告書及び有価証券報告書・四半期報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正であることを確認した旨の確認書の提出が義務付けられています。取締役は法令を遵守する義務があります(355条)から、適正な内部統制報告書及び確認書の作成・提出をしなければなりません。それを怠れば金融商品取引法違反のみならず、会社法でも会社に対する善管注意義務・忠実義務違反となります。したがって、金融商品取引法上の内部統制の整備も、会社法の要求する内部統制システムの一内容となります。 F定款の定めに基づく取締役等の損害賠償責任の免除(362条4項7号) 取締役の損害賠償責任の一部を定款に規定することによって、取締役会の決議で、一定限度の枠内で免除するという426条1項に基づく決議です。 Gその他重要な業務執行(362条4項) 「重要な業務執行」とは、会社経営のための事務処理のうち、会社に重大な影響を与える事項であると考えられ、経営戦略や事業計画の策定、予算の決定、業務提携や新規事業への進出、人員整理、あるいは重大な訴訟の提起や和解等が含まれています。しかし、「重要な」というのは抽象的・相対的な概念であるため、取締役会に決定を委ねる(=取締役会に議案を付議する)都度、個々の付議者が判断するのでは一貫性に欠け、また恣意的になるおそれもあります。実際には、各会社の実情に応じた客観的な基準について、取締役会規則や取締役会付議事項等の社内規程によって定められているのが一般的です。これは万一訴訟等になった場合への対策としても有効です。 なお、取締役会は「重要な業務執行」について、基本的部分を決定する必要はありますが、その範囲内における具体的方法、細目の決定については、代表取締役等に委任することは可能とされています。 具体的に見ていきましょう。会社の事業経営のために重要事項として以下のようなものをあげることができます。 a)会社の経営の基本事項と重要な業務執行 ・年間事業計画の策定、変更 ・年間予算の決定、変更 ・主力製品の決定、変更 ・主力工場の操業状況の決定、変更 ・主要部門に関する業務提携、技術提携 b)設備投資、新製品の研究開発 会社の財産状況、経営方針、経営戦略に重大な影響を与える設備投資、新製品の研究開発は重要な業務執行に当たります。 c)重要な契約の締結 d)労務関係における重要な業務執行 ・労働協約締結に際しての会社側骨子の確定 ・就業規則の制定、改定、 ・ストその他争議行為終結のための会社側骨子の確定 ・大量解雇、大量一時帰休、大量新規採用 ・大幅な人員の配置移転 ・従業員の懲戒、処罰 e)会社規則 取締役会規則、株式取扱規則などは定款に準ずるものであり、その他に会社の経営、組織、人事、労務、経理に関する基本的な規則などが対象となってきます。 f)訴訟 H362条4項に定める以外の取締役会の専決事項 362条4項以外にも、会社法等で特に取締役会の決議を要すると定めた事項があります。これらも代表取締役や取締役に委任することはできません。代表的なものを以下に列挙します。 a)譲渡制限株式・譲渡制限新株予約権の譲渡承認など(139条1項、140条5項、265条1項) b)時株式の取得価格等の決定(157条2項)、子会社からの自己株式の取得(163条)、市場取引等による自己株式の取得(165条3項) c)取得条項付株式の取得(168条1項) d)特別支配株主の株式等売渡請求の承認等(179条の3、179条の6) e)株式の分割(183条2項)、株式無償割当(186条3項) f)所在不明株主の株式の競売等(197条4項) g)公開会社における募集株式・新株予約権の募集事項の決定等(201条1項、202条3項、204条2項、240条1項、241条3項、243条2項) h)株式を振替制度の取扱い対象とすることへの同意(社債株式振替法128条2項) i)株主総会の招集の決定(298条4項、325条) j)代表取締役の選定(362条2項) k)監査役設置会社以外における取締役・会社間の訴訟の会社代表者の決定(364条) l)取締役の競業取引・利益相反取引の承認(365条1項) m)計算書類・事業報告・附属明細書の承認(436条3項) n)株式の発行と同時に行う資本金・準備金の額の減少(447条3項、448条3項) o)中間配当(454条5項) p)会計監査人設置会社・取締役の任期が1年等の要件を満たす会社における剰余金の配当(459条1項) ※取締役会の決議を欠いた行為の効力 ア.取引行為 A会社の代表取締役甲が、取締役会で決議すべき事項について、その決議を経ないで第三者Bと行為した場合(瑕疵ある決議をした場合も同様)に、その行為の効力がどうなるかについて、判例は、取締役会決議を欠いた重要財産の処分行為について、原則として有効であるが、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときは無効であるとしています(最高裁昭和40年9月22日)。この基準によれば、過失(軽過失)のある相手方が保護されない点で、349条5項が適用された場合と結果が異なってきます。 イ.その他の行為 代表取締役が取締役会の決議に寄らないで募集新株の発行・社債の募集のように取引の安全を強く要請されるようなことを行った場合、決議を欠いても無効事由とならないされています。他方で、取締役会の決議なしに株主総会の招集は決議取消事由となります。このように適法な決議によらない代表取締役の行為の効果は区々であるので、一つ一つ別個に考えていかなければなりません。 ü 取締役の職務の監督(362条2項2号) 取締役会は、業務執行に関する意思決定を為すだけで、業務執行は代表取締役やそれ以外の行執行取締役(及びその指揮下の使用人)が行います(363条1項)。取締役会は、これら取締役の職務の執行、つまり取締役会において決定した事項や代表取締役・業務執行取締役に委任された業務が適切になされているか(不当な職務執行等に対する予防的な監督を含む)を監督し(362条2項2号)、不適正認めた場合にはそれらの者を解職しなければなりません(362条2項3号、363条1項2号)。 この場合の「職務の執行」とは、具体的事業活動について関与する業務執行に加え、取締役による業務の監督や取締役会における意思決定も含まれます、また、監督対象となる取締役は代表取締役や業務担当取締役に限定されず、また役付けの有無に関係なく、すべての取締役が該当します。一方、「監督」とは、監督する者が監督される者(業務執行者)の業績を評価することにより、経営の効率を確保することと考えられます。これは単に取締役個々の意思決定や業務戦略の妥当性を審査することではなく、取締役会全体がひとつの組織として機能しているかを評価されることであるとされています。 取締役会としては、取締役会で決定したことが適切に執行されていなければならないから、その執行を行う代表取締役及び業務執行取締役による実行を監督する必要があります。これは、いわば経営決定の実行に対する監督であり、取締役会による監督の中心となります なお、取締役会による業務執行の監督は、直接的には代表取締役・業務執行取締役が対象ですが、実際の業務執行はこれらの指揮監督を受けた使用人等か行うため、会社の事業全体に及ぶものとなります。そうでないと、取締役会の決定が適切に実行されないことになり、会社ガバナンスの目的である効率性と公正性の確保は実現できないことになります。それゆえ、業務執行を担当する機関が取締役会において決定されたことを適切に実行しているかは、会社にとってきわめて重要なことであり、取締役会による意思決定の執行の監督は、取締役会の決定と並ぶ重要な意義をもつものです。 @具体的方法 a)取締役会への報告義務 取締役会が適正な監督の判断をするためには適切な情報が不可欠です。その情報を収集するために、各取締役が自らの担当の日常業務や会議等を通じて収集する、もう一つは代表取締役に組織的に収集させで報告を受けることです。そこで、 取締役会は、業務の執行計画や実施状況の監督を行う場合、代表取締役及び業務担当取締役に対して必要な報告や資料の提示・提出等を求めることとなります。そのため、代表取締役及び業務担当取締役に対し、3ヶ月に1回以上、職務執行の状況を取締役会に報告することを要求(363条2項)し、当該取締役会の開催は、書面または電磁的方法による取締役会開催の同意(370条)があっても省略できないものとされています(372条2項)。これは取締役による監督が、形式的なものではなく、取締役会という会議体の中で実質的に行なわれなければならないことを意味します。取締役会では、この報告や提出された資料等を審議検討し、その適否を判断します。適否の判断に際しては、監査役のほか、会計監査人の意見を聴取することや、社内外の専門家の意見を聴取することも認められています。以上の業務執行の監督を通じて、代表取締役または業務担当取締役について是正すべき事項がある場合には、適宜の指摘か行われ、これへの対応が適切でない場合には、取締役会は、当該代表取締役を解職することができます(362条2項3号)。なお、業務担当取締役についても同様に考えられます(363条1項2号)。※取締役の監督義務 取締役会を構成する各取締役は、取締役会における調査・検討・審議・判断という過程において、会社に対する善管注意義務を確実に履行しなければならない。加えて、その履行が適正であるかについての監督義務を負う、という最高裁の判断が出ています(最高裁昭和48年5月22日)。 取締役会は会社の業務執行を監督する機能を有するため、取締役会を構成する取締役は、取締役会に上程された事柄だけでなく、代表取締役の業務執行全般を監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする責務を有する(366条1項、2項)と言えます。このように、取締役は、業務の適正を確保するため、取締役会の構成員として、監視機能に基づき必要な手段を講じなければなりません。 〔参考〕取締役会の監督権限と監査役監査権限 取締役会は、会社の経営方針・業務執行に関する決定機関であるとともに、その経営方針・業務執行の実践を確保するための監督を行なわなければなりません。したがって、取締役会の監督権限は、業務執行が経営方針に合致しているかどうかを確認することを目的とし、職務執行の適法性にとどまらず、その妥当性に及ぶことから、積極的かつ前向きの監督をするという性格を帯びています。 これに対して、監査役による業務監査は、原則として業務執行の適法性の監査に限られ、相当でない事項または著しく不当な事項を指摘するというものです。したがって、監査役の監査権限は、取締役の行為や取締役会決議の適法性を確保することが目的となるので、消極的かつ防止的な監査をするという性格を帯びています。 これら取締役会による監督権限と監査役の監査権限は、対立するものではなく、健全な会社業務の維持、コーポレートガバナンスの確保を促進する上で相互に補完・関連するするところがあります。 b)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(内部統制システム) 大会社の取締役会は、取締役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務及び当該会社・子会社からなる企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制、いわゆる内部統制システムを整備し運営することによって監督を行います(362条5項)。 上場会社などの大会社の現状では、取締役会による取締役の業務執行の監督は容易でなく、取締役各人の能力に期待するだけでなく、取締役会において判断するために必要な情報が提供され、取締役の職務執行が法令・定款に適合することを確保する内部統制システムが必要と考えられるようになりました。会社法及び関係法令では、大会社及び監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社についていわゆる内部統制システムの構築を取締役会の義務としています(348条3項4号及び4項、会社法施行規則100条102条)。決定の内容及び運用状況は、事業報告に記載されることにより開示され(会社法施行規則118条2号)、その相当性が監査役による監査の対象となります(会社法施行規則129条1項5号)。法務省令で求められている内容は次のとおりです。 (1)取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 (2)取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制 (3)損失の危険の管理に対する規程その他の体制 (4)取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 (5)使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 (6)当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制 (7)監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用に関する事項 (8)前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項 (9)取締役及び使用人が監査役に報告するための体制その他監査役への報告に関する体制 (10)その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制 ※内部統制システム 内部統制システムは1920年頃からアメリカを中心に広まった概念で、当初は財務報告の信頼性確保の前提として、会計監査人が会計監査を行うために必要とした内部牽制のシステムでしたが、次第に、経営者が使用人の業務の効率性・有効性・遵法(コンプライアンス)を監視するシステムの意味合いを強め、現在では、経営者自身を監視するシステムの意味でその語が用いられることもあります。我が国の会社法では、経営者の監督体制を含めた意味で用いられます。 c)社外取締役による監督 社外役員である社外取締役、社外監査役は、いずれも、会社及び子会社において直前に取締役・使用人等ではなかった者であり、外部の視点から職務執行の監督を行うことのできる立場にあります。以下で、取締役会の構成員である社外取締役による監督機能について考えてみたいと思います。 会社法上、監査役会設置会社において社外取締役の選任は義務付けられていませんが、強く推奨されている(327条の2)ことから、会社それぞれの事情に基づいて、社外取締役を選任しています。社外取締役に期待され役割として次の点があげられます。 ・透明性の確保 取締役会において社内取締役から一定の距離のある外部者を加えることにより、外部者への説明を通じて、業務執行の透明性を確保することができる。 ・助言機能 社外取締役の持つ職歴や経験、知識その他外部者の立場から、経営に対する大局的な観点からの助言を受けることができます。 ・監督機能等 経営者の評価・選解任その他取締役会における重要事項の決定に際して議決権を行使することによる「業務改善全般への監督機能と、会社と経営者との間の「利益相反を監督する機能」とを向上させることができます。 ü 代表取締役の選任及び解職(362条2項3号) 取締役会設置会社では、取締役会の経営決定を受けてそれを実行する機関が必要であり、しかもその実行としての業務執行には、対内的なものと対外的なものとがあります。そして対外的な業務執行の場合には、会社を代表する機関が必要となり、それが代表取締役です。 取締役会は、その開催に取締役による招集を要するという性格上、日常的に開催されるものではありません。これを補完するため、取締役会は、日々の業務遂行を委任する(363条1項)ための常設機関として取締役の中から代表取締役を選定する義務があり(362条3項)日常の業務執行を委任します(363条1項)。代表取締役の員数に制限はなく、数名とするのが通例です。取締役会設置会社においては、取締役であるという資格で当然に業務執行権・代表権を有するわけではないので、取締役会でとくに代表取締役として選任されなければなりません。代表取締役、取締役会設置会社の必要的機関ですから、取締役会には代表取締役の選定義務があります。代表取締役の選定は、取締役会の権限であるので、この選定を他の代表取締役等とか常務会などの他の会社の機関あるいは取引先その他の第三者に委ねることはできません。また、代表取締役の解職とは、代表取締役を取締役会の決議をもって解任することです。 取締役会はその決議により代表取締役を解職する権限を有し、解職決議により代表取締役の地位が剥奪された場合は、当人への告知なしにその効力が生じます(最高裁判決昭和41年12月20日)。任期の定めがある代表取締役が任期中に正当な理由なくして解職された場合には、これにより生じた損害の賠償請求ができます。なお、実務上は、代表取締役選定の際に、その対象となる代表取締役候補者は特別利害関係人(369条2項)に当たらず、この選定議題に関する取締役会の議決に加わることができるのに対して、代表取締役の解職に際しては、その対象となる代表取締役は特別利害関係人に該当し、解職議題に関する取締役会の議決には加わることができないとされています。この違いについては、一般的に、代表取締役の選定について候補者自身が議決権を行使することは、業務執行の決定への参加に他ならず、特別利害関係には当たらないと解されているからです。代表取締役は、取締役であることが前提となるので、任期を定めないときは、取締役の任期がその任期となります。代表取締役への就任には本人の承諾が必要です。 ü 指名委員会等設置会社の取締役会の特則(362条2項3号) 指名委員会等設置会社における取締役会は、取締役会が選任した執行役に業務執行の決定を大幅に委任することができます。監査役会設置会社のようは場合は、業務執行の決定の多くを取締役会が行わなければならず、しかも取締役会が通常は多人数で組織されているため迅速な業務執行の決定が難しいのです。指名等委員会設置会社は、さらに、執行役が業務執行を決定する方法は法定されていないので、機動的な決定が期待できると考えられています。これにより、取締役会は、主に監督機関の役割を担い、実効的な監督を行うことが想定されており、各委員会の過半数が社外取締役であることが求められています。この委員会が強い権限を有する制度です。 指名委員会等設置会社の取締役会は監査役会設置会社の場合と同様に業務執行との決定と職務執行の監督の権限を有していますが、業務執行の決定について特有の規定がなされています。 @指名委員会等設置会社の業務執行の決定 監査役会設置会社と同様に、会社の業務執行のすべてについて決定する権限を有しています(416条1項1号)が、機動的な意思決定を行うことができるようにしたことが指名委員会等設置会社の主な特徴ですから、取締役会決議により業務執行の決定を執行役への大幅な委任ができるようになっています。 そこで、執行役への委任が認められず取締役会が決定しなければならない事項は、次のとおりです(416条2項、4項)。 a)経営の基本方針(416条1項1号イ) 取締役会・執行役が業務を決定死、取締役会が取締役・執行役の職務の執行を監督(評価)する際の基本方針であり、中長期計画等がこれに該当します。 b)重要な業務執行組織等に係る事項 ・執行役の選任・解任(402条2項、403条1項、416条4項9号) ・執行役の職務の分掌・指揮命令の関係その他の執行役相互の関係に関する事項(416条1項1号ハ) ・代表執行役の選定・解職(420条1項・2項、416条4項11号) ・各委員会を組織する取締役の選定・解職(400条2項、401条1項、416条4項8号) c)内部統制システムに係る事項 指名委員会等設置会社においては、監査委員会は、内部統制部門を通じて取締役・執行役の職務執行の監査を行います。そのため、取締役会は次の事項を決定しなければなりません。 ・監査委員会の当該職務の執行のため必要な事項(416条1項1号ロ、会社法施行規則112条1項) ・執行役の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制その他会社の業務及びその会社・子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要な事項(416条1項1号ホ、会社法施行規則112条2項) d)定款授権がある場合の自己株式買受に係る事項 定款で市場取引等により自己株式を取得することを取締役会に授権している場合(165条2項、3項)における取得株式の種類・数・取得価額の決定(416条4項2号) e)株主総会係る事項 株主総会に提出する議案の決定(416条4項5号) f)計算書類の承認(416条4項13号、436条3項、441条3項、444条5項、459条1項) g)中間配当の決定(416条4項14号、454条5項) h)会社の組織再編行為に係る事項 ・事業譲渡等(416条4項15号、467条1項) ・合併(416条4項16号) ・吸収分割(416条4項17号) ・新設分割(416条4項18号) ・株式交換(416条4項19号) ・株式移転(416条4項20項) i)利益相反取引等の承認等・責任の一部免除 取締役・執行役の、競業・利益相反取引の承認(416条4項6号、356条1項)、 j)その他 ・会社・監査委員会間の訴訟において会社を代表する者の決定(416条4項10号、408条1項1号) ・取締役の招集権者の決定(416条4項7号、366条1項但し書き) ・譲渡制限株式・新株予約権の譲渡承認(416条4項1号・3号) 以上の指名委員会等設置会社の取締役会の専決事項に対して、一般の取締役会の決定を要する事項の中で指名委員会等設置会社では執行役に決定を委任できる事項は次のとおりです。 a)重要な財産の処分・譲受け(361条4項1号) b)多額の借財(361条4項2号) c)重要な使用人の選任・重要な組織の設置等(361条4項3号・4号) d)要綱を定款で定めた種類株式の内容の決定(108条3項) e)自己株式の取得価額等の決定・子会社からの取得(157条、163条) f)取得条項付株式の取得(168条1項) g)株式の分割・株式無償割当(183条、185条) h)所在不明株主の株式の競売等(197条4項) i)公開会社における募集株式・新株予約権の募集事項の決定(201条1項、240条1項) j)社債の募集に関する重要事項の決定(361条4項5号) k)特別支配株主の株式売渡請求の承認等(179条の3第3項、179条の6第2項) l)簡易合併・略式合併等株主総会の承認を要しない組織再編行為の決定(784条、796条) なお、執行役に委任されていない行為を執行役が取締役会の決定を経ずに行った場合の効果は、代表取締役が取締役会の決議を経ずにその行為を行った場合に準じて、原則として有効となりますが、相手方が血気を経ていないことを知りまたは知りうべきときは無効となります。 A指名委員会等設置会社の執行役等の職務の執行の監督 指名委員会等設置会社の取締役会は、執行役等の職務の執行を監督します(416条1項2号)。指名委員会等設置会社においては、各執行役が取締役会の決議により委任を受けた事項の決定を行い、かつ会社の業務執行を行うから、執行役による行執行を監督することが、取締役会による監督の主要なぶぶんとなります。 指名委員会等設置会社では、取締役が業務の決定・執行を行なうことはなく(415条、416条3項)、各取締役は取締役会の構成員としてとしての職務、各委員会の委員としての職務を有しているので、それらの職務の執行が取締役会による監督の対象となります。 取締役会による執行役等の監督は、妥当性・適法性の両面に及びます。しかし、執行役・取締役の違法行為に対する訴訟遂行権限は監査委員会または各監査委員に、各執行役・取締役が受ける報酬等の決定権限は報酬委員会に、株主総会に提出する取締役等の選任・解任議案の決定権限は指名委員会・監査委員会にそれぞれ属するので、取締役会は、主にその監督権限を、取締役の職務分掌の決定、または執行役の解任・職務の分掌等の決定の方法により行使することになります。 各委員会の委員である取締役であってその所属する委員会が選定する者は、遅滞なく、委員会の職務の執行の状況を取締役会に報告はなければなりません(417条3項)。 ü 監査等委員会設置会社の取締役会の場合 監査等委員会生徒の特徴は、第一に組織に対する規制が柔軟であり、当事者の選択の余地が広い点です。すなわち、一方の極として、取締役会が重要な業務執行の決定の大部分を行う形、言い換えれば、単に監査役会を監査等委員会に置き換えただけの形をとることもできれば、他方の極として、取締役の過半数を社外取締役が占め、重要な教務執行の決定を大幅に取締役に委任したモニタリング・モデルの機関形態になる事も可能です。このことは、このような会社形態は、社外取締役の設置について便宜を図るという点を除いて、明確な理念がかけてことの現われと言えます。 第二に、制度の利用勧奨策か手厚く盛り込まれていることです。すなわち、指名委員会、報酬委員会を欠くこと等から、取締役会による業務執行の監督機関が指名委員会等設置会社と同等とは言い難いにも関わらず、定款の定めによって、指名委員会等設置会社に置けるのと同等の業務執行の決定権限の委任を行うことができます。また、監査等委員会が利益相反取引を承認した場合には、その取引に関与したドリ縞利益の任務懈怠の推定がなくなります。 @監査等委員会設置会社の業務執行の決定 監査役等委員会設置会の業務執行の決定は、取締役会、並びに取締役会が選定した代表取締役、代表取締役以外の業務執行取締役などにより行われます(399条13、363条1項、415条、416条)。多くの部分は監査役会設置に会社おける業務執行の決定と実質的に同じシステムと言えます。監査等委員会設置会社に特有の点としては、次の二つの条件うちいずれかを満たせば、取締役会は、指名等委員会設置会社が執行役に委任できるのと同じ業務執行事項の決定を、取締役に委任できることです(399条の13第5項・6項)。 ・取締役過半数が社外取締役であること ・定款の定めがあること 取締役に委任することが可能な重要な業務執行事項の範囲は、指名委員会設置会社において執行役への委任が可能な範囲と実質的に同じで、この委任を行えば、機動的意思決定ができます。 A監査等委員会設置会社の業務執行の監督 基本的には、監査役会設置会社の場合と同じように、監査等委員会設置会社の取締役会は、業務執行に関する意思決定を為すだけで、業務執行は代表取締役やそれ以外の行執行取締役(及びその指揮下の使用人)が行います(363条1項)。取締役会は、これら取締役の職務の執行、つまり取締役会において決定した事項や代表取締役・業務執行取締役に委任された業務が適切になされているか(不当な職務執行等に対する予防的な監督を含む)を監督し(362条2項2号)、不適正認めた場合にはそれらの者を解職しなければなりません(362条2項3号、363条1項2号)。
関連条文 |