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取締役会決議の省略(書面決議)の法的性質
取締役会決議の省略は、取締役会設置会社において、取締役が行った取締役会決議の目的である事項の提案に対して、すべての取締役が書面等で同意することにより、当該提案を可決する旨の取締役会決議があったものとみなすものです。これは、取締役会決議が会議を開催して行われるものであるということを前提に、そのような決議を省略して、取締役会の決議を擬制する、ということです。また、本来的意義における「取締役会決議」ではないとして、議題や議案という文言は、条文で使われていません。しかし、取締役会の決議があったものとみなされるので、その後の取り扱いは、取締役会決議がなされた場合と異なりません。これは、一般に、書面決議あるいは持ち回り決議と呼ばれます。この場合、会議を開催するわけではないので、招集通知などの招集手続きは必要ありません。
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取締役会決議の省略(書面決議)の要件
・定款の定め
取締役会設置会社は、取締役が、取締役会決議の目的事項について提案をした場合において、当該事項について議決に加わることができる取締役の全員が、書面または電磁的記録により、同意の意思表示をしたとき、監査役設置会社では、監査役が当該提案について異議を述べない限り、当該提案を可決する旨の取締役会決議があったものとみなす旨を、定款で定めることができます(370条)。このような定款の定めを設けることにより、書面決議をすることが認められます。
・提案
取締役会の決議の省略(書面決議)の提案をすることができるのは、取締役です。実務上は、招集権者である取締役が提案を行っているようです。
この提案について議決に加わることができる取締役全員の同意が要件とされています(370条1項括弧書)が、特別利害関係などで議決に加わることのできない取締役も提案することはできると考えられます。実務としては、特別利害関係のある取締役が他の取締役と相談し、他の取締役と相談し、その取締役により提案されるという形で行われているようです。
提案の具体的方法はとくに定められていません。定款または取締役会規則で特別の定めがない限り、適宜の方法で提案することができると考えられます。実務的には書面または電磁的記録によりなされているようです。
・同意
取締役からの提案について、特別利害関係が認められる取締役を除く取締役の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合に、提案を可決する旨の取締役会決議があったみなされます。この事実を明確にするため、口頭による同意は認められていません。監査役設置会社では、監査役が提案に異議をのべたときには、取締役会の決議があったと見なすことはできません。そこで、監査役に対しても提案を知らせる必要があります。
取締役は、提案の内容それ自体に反対であるわけではなく、提案の内容ないし会社の状況により、会議を開催し取締役が協議の上で慎重に会社意思を確定することが妥当であると判断する場合にも、同意しないことができます。監査役は、提案の内容が、法令・定款に違反する、あるいは書面決議を行うことが取締役の善管注意義務に違反すると考える場合、異議を述べなければなりません。
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取締役会決議の省略(書面決議)の議事録等
・同意書面
書面決議においては、提案に対する同意の意思表示を記載・記録した書面等(同意書面)は、本店に備え置かれ、株主や債権者等の閲覧・謄写に供せられます(371条)。
・書面決議の議事録
会社法施行規則は、書面決議の議事録の内容を次のように規定しています(会社法施行規則101条4項1号)。
@
取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
A
@の事項を提案した取締役の指名
B
取締役会の決議があったものとみなされた日
C
議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
なお、この議事録には取締役及び監査役の署名等は要求されていません。こレは、会議が開催されず、出席した取締役等が存在しないためです。実質的には、別途、同意書面の備置・閲覧等がなされているため、議事及び結果の真実性を確認するための署名等に意味がないからです。
実務的には、同意書面と議事録が一体となってはじめて、取締役会決議の議事録と同様の機能が認められると解されています。つまり、両者を合わせて取締役会の議事録に相当するということになります。
※書面決議の対象が登記事項であるときは、登記申請に際して、取締役会の議事録に代えて、取締役会の決議があったものとみなされる場合に該当することを証する書面を添付しなければならない(商業登記法46条3項)。この4取締役会の決議があったものとみなされる場合に該当することを証する書面とは、同意書面ということになります。
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取締役会決議の省略(書面決議)の利用
会社法では、書面決議の制限についての規制はありません。実際には、緊急の経営上の要請により書面決議による必要があると判断する場合に、招集権者である取締役が書面決議の提案をするのが典型例と言えるでしょう。しかし、書面決議をすることができるのは、このような緊急の必要性がある場合に限定されるわけではありません。取締役会の決議を省略して機動的に取締役会の意志決定を行なうことが妥当であると考えられる場合に、書面決議をする、と言うことになるでしょう。また、決算取締役会の決議事項についても、すでに十分審議がなされている等の事情がある場合には、書面決議をすることが可能と考えられます。
取締役は、書面決議をするのが妥当か、現に会議を開催して協議の上、取締役会の決議を行うべきかについて、善管注意義務を尽くして判断する必要があります。