新任担当者のための会社法実務講座 第402条 執行役の選任等 |
Ø 執行役の選任等(402条) @指名委員会等設置会社には、1人又は2人以上の執行役を置かなければならない。 A執行役は、取締役会の決議によって選任する。 B指名委員会等設置会社と執行役との関係は、委任に関する規定に従う。 C第331条第1項の規定は、執行役について準用する。 D株式会社は、執行役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない。ただし、公開会社でない指名委員会等設置会社については、この限りでない。 E執行役は、取締役を兼ねることができる。 F執行役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結後最初に招集される取締役会の終結の時までとする。ただし、定款によって、その任期を短縮することを妨げない。 G前項の規定にかかわらず、指名委員会等設置会社が指名委員会等を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合には、執行役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。 ü
執行役の設置(402条1項) 指名委員会等設置会社は、1人または2人以上の執行役を設置しなければなりません(402条1項)。条文の1人又は2人以上というのは、指名委員会等設置会社が設置する執行役の人数は単独である1人でも複数人数でもよいということです。執行役が単独の1名ということであれば、その者が代表執行役に選定されたものとされます(420条1項)。また、望ましい執行役の人数は会社の規模や状況によって異なるため、執行役を何人選任するかは会社の判断に委ねられています。 指名委員会等設置会社とは、指名委員会、監査委員会及び報酬委員会を置く株式会社です(2条12号)。このような指名委員会等設置会社について、執行役設置の義務が規定されているわけです。つまり、指名委員会等設置会社には、三つの委員会と執行役が設置されなければならないことになります。しかし、326条2項に列挙されている株式会社の機関には執行役は含まれていません。指名委員会等設置会社で執行役の設置は402条1項で設置が義務付けられています。このことから、指名委員会等設置会社以外の株式会社は執行役を設置することができないということです。その理由として、326条2項は株式会社が設置することができる機関を限定する規定であり、402条1項の指名委員会等設置会社における執行役の設置義務は、その326条2項の例外として規定を置いているとみなされるからです。そして、326条2項は、そこに列挙されている機関を株式会社で設置するためには、その会社の定款に定めを置くことを要求しています。そのため、会社が委員会を設置するためには、その旨を定款で定めなければなりません。これに対して執行役は326条2項に列記されているわけではないので、定款に定めを置くことを要求されていません。ただし、実務上は定款において取締役などとならべて会社の機関として定めているようですが。なお、株式会社の登記では、指名委員会等設置会社である旨や、各委員会の委員の氏名に加えて、執行役の氏名や、代表執行役の氏名・住所を登記しなければなりません(911条)。 なお、326条2項に列挙される株式会社の機関に執行役は含まれていませんが、執行役については会社法の規定が株式会社の機関に定める第2編第4章に各条文に置かれていることのほか、295条3項の「取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関」という条文の文言から、執行役が指名委員会等設置会社の機関であることが明言されています。 ※執行役会 執行役が複数選任される場合に、執行役会を組織することは会社法では定められていません。取締役会が会社の機関として326条2項で規定されているのとは違います。ただし会社が任意に執行役会を組織することはできます。具体的には、執行役相互の関係に関する事項(416条1項)として執行役会について取締役会で定めることや、業務執行の決定を執行役に委任する(416条4項)際に執行役会を関与させる旨を定めても支障はないということです。ただし、取締役会のように法定の会社の機関ではないので取締役会の決定権限の一部を執行役会に委任しても善意の第三者に対抗することはできないと言えます。 ※執行役員 株式会社が任意に設置している執行役員は執行役とは異なるものです。執行役が指名委員会等設置会社の機関であるのと違って、会社の機関ではありません。執行役員の地位は、一般的には、重要な使用人と考えられています。 執行役員と会社の間の関係は、両者の間の雇用契約または委任契約、報酬・退職金等に関する会社の内規、それらの契約についての民法の任意規定や、労働契約についての法ルールによって規律されることになります。執行役員は、会社法の規定上「役員等(423条1項、429条1項、847条)」には含まれません。そのため、執行役員が会社に対して任務懈怠責任を負うことや、株主代表訴訟の対象となることはありません。 ü
執行役の選任(402条2項) 執行役は取締役会の決議により選任されます(402条2項)。403条1項とあわせれば、指名委員会等設置会社において、取締役会は執行役の選解任権を有することになります。株主総会ではなく取締役会が執行役の選解任権を有しているのは、執行役に対する監督権限を有する取締役会(416条1項)が、その監督権限を十分に行使し、業務を担当する執行役(418条)を速やかに入れ替えることができるようにするためです。 ・選任の登記 執行役を選任した場合は、それから2週間以内に、会社は、本店の所在地において登記をしなければなりません。指名委員会等設置会社の登記事項のうち、執行役の氏名についての変更の登記です(915条1項)。その際の登記の申請には、取締役会の議事録と就任を承諾したことを証する書面(就任承諾書)を添付します。 ・特別利害関係人 会社のある取締役がその会社の執行役に選任される場合、執行役を選任するための取締役会決議について、当人である取締役は、特別の利害関係を有する取締役として議決権を排除される(369条)わけではないと考えられています。参考として、代表取締役を選定する取締役会において、代表取締役の候補者が特別の利害関係を有する取締役には当たらないとされています。その理由として、そのような決議への参加が業務執行の決定への参加にほかならないからです。執行役の選任も、代表取締役の選定と同じように考えることができます。 ・任用契約 取締役の選任について、株主総会における選任決議は会社の内部的な意思決定であり、選任された者が就任を承諾し、会社と被選任者との間で任用契約を締結することで、被選任者は取締役に就任すると考えられています。同じように執行役の選任は取締役会の決議によって行われますが、被選任者が就任を承諾し、会社と被選任者が任用契約を締結することで、被選任者は執行役に就任することになります。 ただし、執行役の選任決議をする前に、候補者から就任の内諾を得ておくことが通例となっていて、その場合、選任の取締役会決議の成立と同時に、その者は執行役に就任すると考えられます。 ・職務執行停止・職務代行者(917条1項) 執行役の選任決議に瑕疵がある場合には、仮処分による執行役の職務執行停止・職務代行者の選任があり得ると考えられます。これは取締役の選任に瑕疵がある場合、選任決議の無効あるいは取り消しの訴えが提起されますが、訴えの提起だけでは取締役の地位に影響はありません。しかし、その取締役に職務を継続させることか゜不適切なばあいもあり、そこで民事保全法上の仮の地位を定める仮処分の一種として、会社の本店の所在地を管轄する裁判所は当事者の訴えに基づき、仮処分により取締役の職務執行を停止し、さらにその職務を代行する者を選任することができます。 ü
指名委員会等設置会社と執行役との関係(402条3項) 指名委員会等設置会社と執行役との関係は委任関係になります。(402条3項)。したがって、取締役と同じく、職務の執行につき善管注意義務(民法644条)および忠実義務(419条2項)を負います。 ・善管注意義務 株式会社と役員との関係については330条に規定されていますが、この場合の役員には執行役は含まれておらず、指名委員会等設置会社と執行役との関係では、402条3項で規定しています。両者の関係が委任に関する、つまり民法644条に従うとされているため、執行役は指名委員会等設置会社に対して善管注意義務を負うことになります。他方で419条2項が355条を執行役について準用すると規定していることから、執行役は指名委員会等設置会社に対して忠実義務を負うことになります。 〔参考〕取締役の善管注意義務と忠実義務の関係 会社と選任された役員との関係は、一般に委任に関する規定に従うこととされています(330条)。したがって、役員は、その職務の遂行においては、善良な管理者としての注意義務、いわゆる善管注意義務を負います(民法644条)。この注意義務の水準は、その地位・状況にある者に通常期待される程度のものとされ、とくに専門的能力を買われて役員に選任された者については、期待される水準は高くなります。 会社法では、取締役は法令及び定款の定め並びに株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を遂行する義務を負う(355条)と特に規定しています。この条文で述べられている内容は、善管注意義務と重複していると考えられています。そうすると、委任関係から当然に善管注意義務は発生するもので、民法にも規定されているものを、敢えて同じ内容を会社法で条文にしたのは、何か特別の意味があるのか、と勘繰りたくなるものです。いくつかの学説はあるようですが、判例の立場や一般的な考え方としては、この会社法の規定は、善管注意義務と同じ内容を規定化したもので、それを具体化したもので、それ以上の高度な義務を別に規定したものではないという裁判例(最高裁昭和45年6月24日)もあり、取締役と会社の利害が対立するような場合、私利を図ることなく職務を忠実に務めるという意味合いで用いられている。実際の、取締役と会社の利害の対立においては利益相反や競業といった具体的な規定がなされています。 取締役の善管注意義務と執行役の善管注意義務の違いとして、執行役には他の執行役に対する一般的な監視義務がないということがあります。一般に、株式会社の取締役は、会社の業務執行全般に関する監督(監視)義務を負うものとして株主総会で選任されるのに対して、執行役は職務分掌を定めた形で取締役会により選任されること、及び執行役は取締役会(監査委員会)から妥当性を含めて実効的監査を受けているはずだからです。ただし、執行役でも、自己の指揮下にある執行役に対しては、職務分掌の内容として当然に監視義務があます。 ・報酬・費用 委任は無償を原則としています(468条1項)。しかし、執行役は報酬を受けるの普通です。その執行役の報酬は、404条3項により報酬委員会が執行役の個人別の報酬等の内容を定めます。 また、執行役が職務を遂行するついて費用を要するときは、指名委員会等設置会社は、執行役からの請求に対して支払いをしなければなりません(民法649条1項)。必要と認められる債務を受任者が負担した場合(民法649条2項)及び受任者が自己に過失なく損害を受けた場合(民法649条3項)も指名委員会等設置会社と執行役との関係についても適用されます。 ・執行役の責任 @)任務懈怠による責任 執行役は、その任務懈怠によって会社に生じた損害を賠償する責任を負います(423条1項)。この賠償責任は、総株主の同意がなければ免除することはできません(424条)。しかし、執行役が善意・無過失の場合には、取締役と同じ方法により、賠償責任の一部を免除することができます。 A)利益相反取引 執行役が利益相反取引の相手方ともしくは第三者のために会社と取引をした場合、または会社を代表し利益相反取引をすることを決定した場合には、一般の会社において取締役がそのような行為をした場合と同じ責任を負うことになります。(423条3項) B)株主権の行使に関する利益供与の責任任 会社が会社法120条1項に違反する財産上の利益を供与したときは、それに関与した執行役は、会社に対して、特別の責任を負うことになります。こは、一般の会社における取締役の責任と同じです。 C)執行役の第三者に対する責任 執行役がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、その執行役はこれによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(429条1項)。 ü
執行役の資格(402条4項) 執行役を選任する際の候補者となるための資格について、取締役の欠格事由(331条1項)を準用することになっています。331条は、取締役の適格性について全面的に株主総会の判断に委ねるのではなく、およそ株式会社の経営を委ねるに相応しくないと考えられる者を欠格者として、すべての株式会社において取締役になることができないものとするための規定です。指名委員会等設置会社では、執行役も会社の経営を行なうものであり、331条1項を準用することで、執行役について取締役と同様の範囲で欠格事由が定められることになります。具体的に、次の者は取締役になる事ができません。 @)法人 A)成年被後見人もしくは被保佐人または外国の法令上これら同様に扱われている者 B)会社法もしくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の規定に違反し、または、金融商品取引法の一部の規定の罪、もしくは破産法の一定の規定の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者 C)前項以外の法令に違反し、禁固以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたはその執行をうけることがなくなるまでの者 ある者が以上の欠格事由に該当した場合、執行役に選任され、かつ就任を承諾しても、承認の効果は生じません。欠格事由に該当する者を執行役に選任する取締役会決議は、内容が法令に違反するものであるため無効となります。執行役が在任中に欠格事由に該当することになったときは、そのときに、資格喪失によって退任することになります。また、その事由がやんでも、当然に執行役の地位を回復することはありません。 ü
執行役を株主に限る旨の定款の規定(402条5項) 公開会社である指名委員会等設置会社は、執行役を株主に限定する旨を定款で定めることはできません。取締役について同様の旨を定める331条2項と同様に、執行役について広く人材を得る必要性があるあることと、執行役の資格を大株主に制限されて実質的な大株主の支配されてしまうことを防止するためです。 定款による執行役の被選任資格の制限については、ここで定められている以外は、公序良俗に反する定めや実質的に執行役を選任することができなくなってしまうような定めは認められないと解されています。それ以外の制約は有効であると考えられています。たとえば、執行役の資格として定年制のような年齢制限を加えたり、日本人に限定したりといった場合です。 なお、このような定款の規制は公開会社に限ったことなので、指名委員会等設置会社でも、非公開の会社の場合は、執行役を株主に限る旨を定款に定めることができます。 ü
執行役と取締役の兼任(402条6項) 執行役は取締役との兼任が可能です(402条6項)。指名委員会等設置会社の取締役会がモニタリング・ボードとして監督と執行の分離を徹底して、取締役会が監督に特化するという趣旨から考えると、取締役と執行役は分離するのが望ましいし、兼任は認めるべきでないということになります。しかし、ここで兼任が認められているのは、監督機関である取締役会の構成員の中に執行役を兼任する者がいると、業務執行の詳しい状況や会社の内情を把握することが容易となり、監督権限の適切な行使に資すると考えられたため、執行役と取締役の兼任が認められています。なお、指名委員会等設置会社の制度導入の際に参考とされたアメリカの株式会社においても両者に相当する機関の兼任は制限されていないのも、その理由のひとつと考えられています。 たとえ、両者の兼任が認められるとしても、指名委員会が取締役の選任等の内容を適切に決定することで取締役会の構成が適切なものとなれば、取締役会による執行役の選任も適切に行なわれ、業務執行とその監督の適切さも保障されると考えられます。執行役と兼任の取締役を置くかどうか、また、そのような取締役の数はどの程度か、といったことは取締役会(指名委員会)の判断に委ねられます。なお、執行役を兼ねる取締役の数についても、会社法上の制限はありません。 ただし、執行役と監査委員の兼任は禁止されています(400条4項)。この兼任の禁止の趣旨は取締役の職務の執行を監視すべき地位にある監査委員が、執行役を兼ねたり、執行役の指揮命令の下で業務執行を行うべき使用人を兼ねたりすれば、執行役の影響力を受けて監査が歪んでしまうおそれがあると考えられるからです。これは、あくまでも監査業務との関連によるものです。 一方で、指名委員会等設置会社では、取締役は原則として会社の業務を執行すること、また、取締役会から会社の業務執行の決定の委任を受けることはできません(415条、416条3項)。他方で、執行役と取締役との兼任は可能ですが、取締役としては業務執行権限を有しておらず、その者が業務執行の決定をし、業務を執行するのは、あくまでも執行役の権限の行使です。この点で、指名委員会等設置会社ではない株式会社の取締役が、取締役の職務の一部として業務執行権限を有することがあることとは異なります。 執行役は使用人を兼ねることができます。使用人兼務執行役の報酬に関する404条3項の規定は、兼務を前提としている規定です。そういう規定があるということは間接的に使用人兼務を認めているわけです。他方で、指名委員会等設置会社の取締役が使用人を兼ねることは禁止されています(331条5項)。このことから、使用人兼務執行役が取締役を兼ねることはできないことになります。 ü
執行役の任期(402条7項) 執行役の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結後最初に招集される取締役会の終結の時まで、つまり、1年間ということです。これは、指名委員会等設置会社の取締役の任期が、選任後1年以内の終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時まで(332条1項)であることに対応していることになります。毎年取締役の全員が新たに選任され、新たな取締役会が構成されると、執行役の選解任の権限は取締役会に帰属するため(402条2項、403条3項)、新たに選任された取締役によって構成される取締役会によって、執行役も新たに選任されるということになります。 ・執行役の任期に関する定款規定 執行役の任期は、原則として1年です。しかし、定款に定めを置くことによって執行役の任期を条文で規定された1年より短縮することが可能です。これは、指名委員会等設置会社の取締役の任期が原則1年で、定款に規定を置くことにより1年より短縮することができる(332条1項但書)ことに合わせたものです。だからといって、取締役の任期を1年とし、執行役の任期を6か月と定款の定めても、無効とはなりません。 また、取締役の任期について、他の取締役の在任中に新たに就任した取締役の任期を、他の取締役の残存期間とすると、途中就任があろうが、取締役を全員一斉に、任期満了で新たに選任することができることになっています。このような文言は執行役の任期を規定した402条7項にはありませんが、取締役の補欠の場合と同様の任期の規定を定款に定めても適法と考えられています。 ・委員会を置く旨の定款の定めを廃止した場合(402条8項) 指名委員会等設置会社が委員会を置く旨の定款の定めを廃止する定款変更をした場合に、執行役の任期が、その定款変更の効力が生じたときに満了となります。定款変更の効力が生じるのは、株主総会決議により効力発生日定められない限り、株主総会の決議の成立時です。つまり、株主総会で定款変更の決議成立と同時に、執行役の任期は満了となります。 このような定款変更により、株式会社は指名委員会等設置会社ではなくなることになるので、指名委員会等設置会社でのみ設置が認められていた執行役は廃止されることになります。これに対して、取締役の場合は、指名委員会等設置会社でない株式会社においても設置される機関です。ただし、指名委員会等設置会社とそうでない株式会社とでは取締役の権限が大きく異なり、取締役に求められる具体的な資質や要件も異なります。そのため、332条7項によって、定款変更に伴って、取締役の任期も満了するものとされています。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 執行役の選任等(402条) 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |