新任担当者のための会社法実務講座
第399条 会計監査人の報酬等の
決定に関する監査役会の関与
 

 

Ø 会計監査人の報酬等の決定に関する監査役会の関与(399条)

@取締役は、会計監査人又は一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。

A監査役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは、「監査役会」とする。

B監査等委員会設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは、「監査等委員会」とする。

C指名委員会等設置会社における第1項の規定の適用については、同項中「監査役(監査役が2人以上ある場合にあっては、その過半数)」とあるのは、「監査委員会」とする。

 

ü 会計監査人の報酬等

会社が会計監査人に支払うべき報酬等は、定款あるいは株主総会で定める必要はありません。会計監査人の報酬等は、監査契約の内容の一つとして、会社と会計監査人との間の合意によって定められます。しかし、その会社の方では取締役がその報酬等を定める場合には、監査役(監査役が二人以上の場合にはその過半数)の同意を得なければなりません(399条1項)。会計監査人の監査を受ける立場の取締役(経営者)のみがその決定に関わると、会計監査人が会社に対して十分な質・量の役務を提供することが困難な低い水準に報酬等を抑制したいとのインセンティブが働く、つまり、会計監査人の活動を阻害したり、暗に介入しようとするおそれがあります。一方、アメリカにおいては、サーベンス・オックスリー法301条で、監査委員会が外部監査人の選任、報酬及び監督について責任を負うことになっています。そこで、会計監査人の独立性を担保するため、その選解任について監査役(監査役会)、監査等委員会あるいは監査委員会が関与することに加えて、会計監査人の報酬の決定については、監査役(監査役会)、監査等委員会あるいは監査委員会に同意権限が付与されています。

ü 会計監査人の報酬等の決定に関する同意

@報酬等の範囲

この条文の規定が適用されるのは、会計監査人の報酬等、すなわち、報酬、賞与などの名目のいかんを問わないものの、会計監査人が会社法に規定された職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益に限られます。したがって、会計監査人が、金融商品取引法に基づく監査など会社法以外の監査を行った場合や、コンサルティング等の非監査業務を行った場合の報酬については、この規定に基づく監査役等の同意は必要ありません。

A同意の時期

ここで規定されている同意をいつ得るかについては特段の規定がありません。そのため、監査契約を締結し、監査を行ってから同意を得ることでも差し支えないと解されています。

B同意が得られない場合

会計監査人の報酬等について監査役等の同意が得られない場合は、会計監査人には何らの報酬請求権も発生しないと解されています。もっとも、報酬等の合意は必ずしも監査契約成立の要件ではないため、報酬等が未決定のまま監査契約を成立させることを妨げないし、それに基づいて行われる会計監査も有効となります。

ü 会計監査人の報酬等の開示

公開会社は、会計監査人の報酬等の額及びその報酬額について監査役が同意した理由を、非監査業務の内容と共に事業報告に開示しなければなりません(会社法施行規則126条)。これは、監査報酬や非監査業務の対価が高すぎることも、会計監査人と経営者の癒着の原因ともなりかねないため、開示によって透明性を高めることで、防止しようという趣旨です。もっとも、会計監査人の職務執行の対価としての報酬等以外は、報酬額の開示は求められていません。

有価証券報告書作成義務を負う株式会社は、会計監査人は会社または子会社が支払うべき金銭その他の合計額を事業報告で開示しなければなりません。この開示は会計監査人の職務執行の対価には限定されないため、金融商品取引法による監査あるいは非監査業務による報酬も含まれます。そこが会社法の場合と異なります。また、子会社があれば子会社を通じて払う報酬も含まれます。これは連結計算書類の導入に伴い、一般投資者保護の観点から計算書類の適正性を確保するためです。

 

 

関連条文

会計監査人の権限等(396条) 

監査役に対する報告(397条) 

定時株主総会における会計監査人の意見の陳述(398条) 

 
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