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第371条 取締役会の議事録等
 

 

Ø 議事録等(371条)

@取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から10年間、第369条第3項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。

A株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。

一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求

二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

B監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。

C取締役会設置会社の債権者は、役員又は執行役の責任を追及するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該取締役会設置会社の議事録等について第2項各号に掲げる請求をすることができる。

D前項の規定は、取締役会設置会社の親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。

E裁判所は、第3項において読み替えて適用する第2項各号に掲げる請求又は第4項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該取締役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第3項において読み替えて適用する第2項の許可又は第4項の許可をすることができない。 

 

取締役会の議事録は、株主総会の議事録と同様に株主に広く開示されています。取締役会は、重要な業務執行の意思決定機関であり、かつ取締役の職務執行の監督機関でもある。したがって、事後的に取締役の責任を追及することに資するためだけではなく、合理的な資料に基づいて実質的な審議がなされたかどうか等の経営チェック一般の実効性を確保するために、取締役会の議事の経過について、できるだけ詳しく議事録に記載することが求められました。他方で、その議事録や決議の内容には、企業秘密に属する事項が含まれており、これが広く開示されると、会社の利益を害するおそれがあります。そこで、実務慣行として、代表取締役中心の常務会や経営会議等が実質的な経営の基本方針の意思決定機関として機能し、取締役会の審議が形式化していきました。その結果、取締役会議事録は簡略化され、重要事項が記載されなくなります。

これに対して、会社法では取締役会の専決事項を詳細に法定し、その閲覧には裁判所の許可を要することとして、取締役会の審議と議事録の記載の充実を図りました。

ü 取締役会議事録の作成(369条3項

取締役会の議事については、法務省令で定めるところに従い、議事録を作成し、出席した取締役・監査役が署名または記名押印しなければなりません(369条3項、会社法施行規則101条)。出席した取締役・監査役には途中退出者も含まれます。また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合は、署名または記名押印に代えて、電子署名が求められます(369条4項)。

※取締役決議の省略及び報告の省略の場合に作成される議事録については、取締役・監査役の署名または記名押印は要求されていません。

取締役会の議事録は法律関係の明確化のために作成されるものにすぎず、したがって、記載洩れまたは事実と異なる記載があった場合、それにより決議に影響があるわけではないと考えられます。しかし、決議に参加した取締役が議事論に異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと推定されます(369条5項)。これは異議が記されていない議事録に署名をしたことにより賛成の推定がされるからである言います。

※登記事項について取締役会の決議を要するときは、登記申請書に議事録を添付します(商業登記法46条2項)。

・議事録の作成時期

取締役会議事録の作成時期については。とくに規定はありませんが、議事録の備置・閲覧等との関連において、取締役会終了後合理的な期間内に作成されなければならないと考えられています。かつては、署名を求める関係で、1か月後に開催される次回取締役会の開会前に作成されることもあったらしいですが、今日では、それでは遅いとされています。会社の規模や出席取締役・監査役の数、議事内容等によって変わってくるでしょうが、一般に1週間程度が基準と考えられているようです。

・議事録の署名等と作成者

株主総会の議事録では、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名の記載が要求されています(会社法施行規則72条3項)が、取締役会については、これに相当する規定はありません。

取締役会に出席した取締役及び監査役は、議事録が書面をもって作成されている時は、これに署名または記名捺印しなければなりません(369条3項)。また議事録が電磁的記録をもって作成されている時は、法務省令で定められている記名捺印に代わる措置、いわやる電子署名の措置(会社法施行規則225条1項6号)をとらなければなりません(369条4項)。実務上は、記名捺印の方法が一般的なようです。議事録に捺印する印鑑について、一般的な制限はなく、したがって実印である必要はありません。途中出席又は退席した取締役は署名にその旨記載します。このような議事録への署名等が要求されているのは、議事録の正確性を担保するためと決議に参加した取締役に異議をとどめなかったときは賛成したと推定されるということからです。なお、一部の取締役が署名等を拒否したとしても、議事録の効力にはかわりはありません。

それゆえ、株主総会の議事録のように、誰が議事録を作成したかは法的に問題とされることはないでしょう。この場合、議事録の作成は事実行為であり、作成義務者を確定することに法的にはとくに意味はなく、署名者が作成したとみればよいと考えられます。議事録に記載・記録すべき事項を記載・記録せず、または虚偽の記載・記録をした場合に、過料の制裁を受けることになります(976条7号)。この場合には署名義務者がその対象となります。

・議事録の内容

議事録に記載すべき内容は次のとおりです、(会社法施行規則101条3項)

実際に開催した場合

@)取締役会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役等が取締役会に出席した場合における出席方法を含む)

A)特別取締役による取締役会であるときは、その旨

B)招集権者でない他の取締役や監査役の請求を受けて招集されたもの等である時は、その旨

取締役会は、原則として各取締役が招集しますが、定款または取締役会の決議により、取締役会を招集する取締役(招集権者)を定めることができます(366条1項)。招集権者以外の取締役、監査役には取締役会には、取締役会招集請求権が認められています(366条367条383条)。これによって取締役会が招集されたときは、その旨を議事録に記載・記録しなければなりません(会社法施行規則)。

C)議事の経過の要領及び結果

議事の経過とは、開会、提案、協議、報告などの審議内容、表決方法、閉会など取締役会の経過全般を指し、議事論には、議事の進行過程、発言内容と発言者の主要なものを記載すれば足り、速記録のように逐一内容を記載する必要はありません。

また決議の結果については、一義的に明確になるように完結に記載します。例えば、全員一致の場合は「出席取締役全員異議なく承認可決された」、また全員一致でない場合は「出席取締役の賛成多数で可決された」と記載するのが一般的です。ただし反対者がいる場合には、反対・棄権した取締役の氏名を明記することとなります。

議事録の内容は、事後的な紛争に紛争に際して、証拠資料として機能し、議事録に異議をとどめない決議に参加した取締役は賛成の推定をうける(369条5項)ため、取締役の責任に関連する事項については、その責任が明らかとなるにできるだけ具体的に記載する必要があります。

D)決議について特別の利害関係を有する取締役があるときは、当該取締役の氏名

E)一定の事項について取締役会において述べられた意見または発言がある時は、当該意見または発言の内容の概要

競業取引・利益相反取引に係る事後報告における意見または発言(365条2項419条2項)、株主における招集請求に基づいて招集された取締役会または自ら招集した取締役会における当該株主の意見(367条4項)、計算書類等・臨時計算書類または連結計算書類を承認する取締役会における会計参与の意見(376条1項)、取締役会における監査役による取締役の不正行為等の報告(382条406条)、監査役の意見(383条1項)が述べられた場合は、議事録に、その意見または発言の内容の概要を記載・記録しなければなりません。

F)取締役会に出席した執行役、会計参与、会計監査人または株主の名称

G)取締役会の議長がいるときは、議長の氏名

※上記以外には次の事項の記載も望ましいとされています。

a)出席した取締役及び監査役の氏名

議事録は出席者が判明すれば足りるので、欠席者に関する記載は必須ではないとされています。

b)取締役の総数等

c)閉会時間

d)作成年月日

取締役会の決議の省略の場合

@)取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容

A)決議があったものと見なされた事項を提案した取締役の氏名

B)取締役会の決議があったものとみなされた日

C)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

取締役会の報告の省略の場合

@)取締役会への報告を要しないものとされた事項

A)取締役会への報告を要しないとされた日

B)議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

ü 取締役会議事録の備置(371条1項)

取締役会の議事録には。議事の経過の要領とその結果が記載・記録され、これにより、取締役会の決議が適正な手続きの下に成立したかどうか、取締役が取締役会における意思決定に誠実に参加しているどうかが明らかになります。また、報告事項等において、業務執行取締役の業務執行状況も知ることができます。また書面決議においては、その同意書面が、書面決議の議事録と併せて備え置かれます。

取締役会議事録(取締役会の決議の省略における各取締役が同意の意思表示をした書面または電磁的記録を含む)は、取締役会の日(取締役会の決議の省略の場合は、決議があったものとみなされた日)から10日間本店に備え置かなければなりません(371条1項)。取締役会の決議及び報告の省略により作成される議事録も、備置きについては通常の取締役会議事録と同様に扱います。

・備置期間

取締役会の日から10年間、議事録を本店に備え置かなければなりません。10年の期間は、株主総会の議事録に併せて(318条2項)、また、役員等の責任の時効等に配慮して定められたものです。10年の期間の始期は、議事録の作成ではなく、取締役会の日とされています。

また、取締役会決議の省略(書面決議)の場合は、同意の意思表示を記載した書面またはその意思表示を記録した電磁的記録を議事録と併せて10年間備え置かなければなりません。

※保存期間

備置期間と似たような概念として保存期間があります。例えば会計帳簿や計算書類は10年間の保存期間が定められています(432条2項435条4項)。取締役会の議事録については、このような規定は設けられていません。備置きは、議事録を保存することとは異なり、閲覧等を前提とするものです。適法な閲覧等の請求に対しては、営業時間内に応ずることができる状態に置くことです。取締役会の議事録は、株主総会の議事録と同様に、備置期間終了後に当然に廃棄することはできませんが、合理的理由があるときは、廃棄することもできると解されています。

この10年の備置期間終了後は、閲覧等の請求はできません。もっとも、期間経過後であっても、会社が保管している場合は、文書提出命令により閲覧することのできる可能性はあると考えられます。

取締役会の議事録の備置について、会社は具体的な義務者つまり、当該職務の執行者を定めることとされています。この義務者は、取締役会において、取締役の中から定められます。この職務を懈怠した取締役は、過料の制裁に処せられます(976条8号)。

ü 取締役会議事録の閲覧謄写(371条2項、3項、4項)

株主は、その権利を行使するために必要があるときは、会社の営業時間内であればいつでも、取締役会の閲覧または謄写を請求することができます(371条2項)。

ただし、監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の株主については、裁判所の許可を得た場合に限り閲覧謄写の請求をすることができます(371条3項)。株主総会の議事録の閲覧には、このような制限がないのに、取締役会の議事録は裁判所の許可が必要になるのでしょうか。それは、株主総会は決議事項が限定されていて、株主総会自体がある程度公開の場でもある(招集通知や株主総会参考書類は公開されます)ので、その議事の内容・結果が公になっても、会社に不利益をもたらすことはありません。これに対して、取締役会では重要な業務執行が決議され、公開されれば会社に不利益となるような企業の秘密にわたる事項が議題とされることも少なくありません。したがって、そのような取締役会の議事録を株主等に無条件に閲覧謄写を認めてしまうと、会社は企業秘密の漏洩、権利濫用的な閲覧謄写を懸念して、議事録の記載内容をあたりさわりないものにしつね閲覧謄写しても意味のないものにしてしまう可能性があります。そこで一方では閲覧謄写請求の要件を厳格にし、会社の上記懸念を解くとともに、記載内容の維持を期待したからです。

会社債権者が、役員の責任を追及するために必要がある時も、これに同じです(371条4項)。

親会社社員も、親会社(例えば持ち株会社)の役員等の責任を追及するため、あるいは子会社の役員等の特定責任等を追及するためには、重要な子会社の経営状況を調査する必要があり得るので、裁判所許可を得て閲覧謄写請求をすることが出来ます(371条5項)。これに対して、裁判所は閲覧謄写により会社またはその親会社・子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは、許可を与えることができません(371条6項)。

ü 裁判所の許可

・非訟事件手続

許可の裁判は非訟事件です。裁判所は、本店所在地を゜管轄する地方裁判所の管轄に属します(868条1項)。親会社社員による申し立ても、親会社ではなく、その会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(868条2項)。非訟事件においては、原則として職権探知主義が採用されていますが、疎明が求められている場合は、裁判所に職権探知の責任はなく、当事者が主観的立証責任を負担すると解されています。裁判において、会社の陳述を聴かなければなりません(870条)。裁判は、理由を付した決定によりなされます(871条)。裁判所が許可を与えたのに、議事録などの閲覧を拒むときは過料の制裁が科されます(976条4号)。

・必要性の疎明

株主や親会社社員が申し立てるときは、その権利を行使するため、取締役会の議事録の閲覧・謄写が必要であることを疎明しなければなりません。会社債権者は、役員または執行役の責任を追及するために必要であることを疎明しなければなりません(869条)。株主の取締役会の議事録等の閲覧・謄写請求が、権利行使のために必要でない場合、許可されないことは当然ですが、議事録等を閲覧等し内容を検討してはじめて、株主代表訴訟を提起するひつようがあるかが判明する場合もあります。したがって、権利行使の必要性の疎明を厳格に要求することは、取締役会の議事録等の閲覧等の請求権制度自体の機能を大幅に低下させることにもなりかねません。株主は、閲覧・謄写しようとする権利の種類及び知ろうとする事実を特定して、疎明する必要があると解されています。

・閲覧・謄写する議事録の特定

取締役会の議事録等の閲覧・謄写は、株主の権利行使のため必要があるときに認められるものであり、その判断のためには、閲覧・謄写を求める取締役会の議事録がある程度特定されている必要があります。閲覧等によって会社または親会社等に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは、許可が認められないことになります。この要件の有無を判断するためにも、議事録の特定が求められます。他方で、申し立てをする株主等は、取締役会議事録の作成に関与していないので、いつ、いかなる内容の取締役会が開催されたかについて、認識していないのが通常であり、対象となる議事録を具体的に特定するのは困難です。申し立てにおいて、申し立てる議事録が存在することを疎明する必要がありますが、対象となる議事録の特定の程度は、閲覧・謄写の範囲をそのほかの部分と識別することが可能な程度で足りるとされています(東京地裁判決平成18年2月10日)。

 

関連条文

取締役会の権限等(362条) 

取締役会設置会社の取締役の権限(363条) 

取締役会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(364条)

競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条) 

招集権者(366条) 

株主による招集の請求(367条) 

招集手続(368条) 

取締役会の決議(369条) 

取締役会の決議の省略(370条) 

取締役会への報告の省略(372条)

特別取締役による取締役会の決議(373条) 


 
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