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第408条 指名委員会等設置会社と
執行役または取締役との間の訴えにおける会社の代表等
 

 

Ø 指名委員会等設置会社と執行役または取締役との間の訴えにおける会社の代表等(408条)

@第420条第3項において準用する第349条第4項の規定並びに第353条及び第364条の規定にかかわらず、委員会設置会社が執行役(執行役であった者を含む。以下この条において同じ。)若しくは取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は執行役若しくは取締役が委員会設置会社に対して訴えを提起する場合には、当該訴えについては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が委員会設置会社を代表する。

一 監査委員が当該訴えに係る訴訟の当事者である場合 取締役会が定める者(株主総会が当該訴えについて委員会設置会社を代表する者を定めた場合にあっては、その者)

二 前号に掲げる場合以外の場合 監査委員会が選定する監査委員

A前項の規定にかかわらず、執行役又は取締役が委員会設置会社に対して訴えを提起する場合には、監査委員(当該訴えを提起する者であるものを除く。)に対してされた訴状の送達は、当該委員会設置会社に対して効力を有する。

B第420条第3項において準用する第349条第4項の規定並びに第353条及び第364条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる株式会社が氏名委員会等設置会社である場合において当該各号に定める訴えを提起するときは、当該訴えについては、監査委員が当該指名委員会等設置会社を代表する。

一 株式交換等完全親会社(第849条第2項第1号に規定する株式交換等完全親会社をいう。次項第1号及び第5項第3号において同じ。) その株式交換等完全子会社(第847条の2第1項に規定する株式交換等完全子会社をいう。第5項第3号において同じ。)の取締役、執行役又は清算人(清算人であった者を含む。以下この条において同じ。)の責任(第847条の2第1項各号に掲げる行為の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じたものに限る。)を追及する訴え

二 最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。次項第2号及び第5項第4号において同じ。) その完全子会社等(同条第2項第2号に規定する完全子会社等をいい、同条第3項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。第5項第4号において同じ。)である株式会社の取締役、執行役又は清算人に対する特定責任追及の訴え(同条第1項に規定する特定責任追及の訴えをいう。)

C第420条第3項において準用する第349条第4項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる株式会社が指名委員会等設置会社である場合において、当該各号に定める請求をするときは、監査委員会が選定する監査委員が当該指名委員会等設置会社を代表する。

一 株式交換等完全親会社 第847条第1項の規定による請求(前項第1号に規定する訴えの提起の請求に限る。)

二 最終完全親会社等 第847条第1項の規定による請求(前項第2号に規定する特定責任追及の訴えの提起の請求に限る。)

D第420条第3項において準用する第349条第4項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査委員が指名委員会等設置会社を代表する。

一 指名委員会等設置会社が第847条第1項、第487条の2第1項若しくは第3項(同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は第847条の3第1項の規定による請求(執行役又は取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合(当該監査委員が当該訴えに係る訴訟の相手方となる場合を除く。)

二 指名委員会等設置会社が第849条第4項の訴訟告知(執行役又は取締役の責任を追及する訴えに係るものに限る。)並びに第850条第2項の規定による通知及び催告(執行役又は取締役の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関するものに限る。)を受ける場合(当該監査委員がこれらの訴えに係る訴訟の当事者である場合を除く。)

三 株式交換等完全親会社である指名委員会等設置会社が第849条第6項の規定による通知(その株式交換等完全子会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

四 最終完全親会社等である指名委員会等設置会社が第849条第7項の規定による通知(その完全子会社等である株式会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

 

ü 会社と執行役または取締役との間の訴えにおける会社の代表(408条1項)

会社と執行役または取締役との間の訴えが提起された場合の会社の代表者を決める際に、次の二つの場合に分けられ、それぞれの場合によって代表となる者が違います。

なお、ここで述べられている執行役、取締役は、それぞれ、執行役であった者、取締役であった者も含まれます(408条1項括弧書)。つまり、退任した執行役、取締役も対象に含まれることになるわけです。なお、ここでの執行役、取締役には一時取締役、一時執行役、一時代表執行役の職務を行う者、あるいは、執行役・代表執行役・取締役の職務代行者も含まれます。

また、執行役、取締役と会社の間の訴訟であれば、その訴訟の種類を問わず適用されます。

この場合の代表者の権限を有する範囲は、訴えを提起することだけにとどまらず、訴訟全般に及ぶ、例えば、提起された訴えの取り下げ、和解、上訴についても会社を代表する権限を持ちます。

・監査委員が訴訟の当事者ではない場合(408条1項2号)

会社と執行役または取締役との間の訴えが提起された場合、その訴えで会社を代表するものを、原則として監査委員会が選定する監査委員とされます(408条1項2号)。この場合に、条文冒頭のように420条3項が準用する349条4項によって代表執行役が指名委員会等設置会社を代表することになっていますが、この場合に代表執行役が会社を代表すると、執行役と会社の間の利益衝突の問題が生じることになります。また、代表執行役が訴えの当事者である執行役または取締役と仲間意識を有することから、馴れ合い訴訟によって会社の利益が害される危険が考えられます。このように選定された監査委員が会社を代表するということは、監査役設置会社において同様の場合に監査役が会社を代表する386条1項と同様の趣旨によるものです。もっとも、386条の場合には個々の監査役が権限を持っているのに対して、408条の場合には監査委員会によって選定された監査委員のみが権限をもつように限定されています。これは、407条の差止請求の場合と同じように監査委員は監査委員会で組織的職務を執行するためです。

・監査委員が訴訟の当事者である場合(408条1項1号)

会社と執行役または取締役との間の訴えが提起された場合、その訴えで会社を代表するものを、原則として監査委員会が選定する監査委員とするのが原則です。しかし、監査委員が訴えの当事者である場合には、取締役会が定める者、または、株主総会がその訴えについて会社を代表するものを定めた場合には、そのものを代表者とします。

ここでの「監査委員」には、監査委員であった者を含むとは括弧書されていないので、含まれません。そのため、過去に監査委員であったが現在は監査委員でない取締役または執行役が訴訟の当事者になる場合には1項1号は適用されず、2号によって監査委員会が選定する監査委員が会社を代表します。また、条文の文言は「当該監査委員」ではなく「監査委員」となっています。そのため、監査委員のいずれかが訴訟の当事者であれば1号が適用される、取締役会か株主総会で代表者を決めなければなりません。

ü 執行役または取締役が会社に対して訴えを提起する場合の訴状の送達(408条2項)

前条の規定にかかわらず、執行役または取締役が会社に対して訴えを提起する場合には、監査委員に対して訴状が送達された場合、会社に対して送達の効力が発生すると定めています。そのような場合、訴状には監査委員のいずれかを代表者として記載してもよく、訴状にに記載された監査委員宛に訴状を送達すればたりるということです。

このようなルールが規定されているのは、訴訟について会社を代表する者が訴えが提起される前には決定されていないこともあるからです。

ü 会社が株式交換等をした場合の会社と子会社の執行役、取締役等の責任を追及する訴えにおける会社の代表(408条3項)

株式交換等完全親会社が指名委員会等設置会社である場合に、その株式交換等完全子会社の取締役、執行役または清算人の責任を追及する訴えにおいて、監査委員が株式交換完全親会社を代表する権限を有します(408条3項1号)。また、最終完全親会社等が指名委員会等設置会社である場合に、その完全子会社等である会社の取締役、執行役または清算人に対する特定責任追及の訴えにおいて、監査委員が最終完全親会社等を代表する権限を有します(408条3項2号)。

ü 会社が株式交換等をした場合の会社と子会社の執行役、取締役等に対する訴えの請求における会社の代表(408条4項)

株式交換等完全親会社が指名委員会等設置会社である場合に、その株式交換等完全子会社の取締役、執行役または清算人の責任を追及する訴えの提起の請求(847条1項)において、監査委員が株式交換完全親会社を代表する権限を有します(408条4項1号)。また、最終完全親会社等が指名委員会等設置会社である場合に、その完全子会社等である会社の取締役、執行役または清算人に対する特定責任追及の訴えの提起の請求(847条1項)において、監査委員が最終完全親会社等を代表する権限を有します(408条4項2号)。

ü 執行役または取締役の責任を追及する訴えの提起の請求等(408条5項)

・提訴請求(408条5項1号)

指名委員会等設置会社が、執行役または取締役の責任を追及する訴えの提訴請求(847条1項)を受ける際には、監査委員が会社を代表します。ただし、会社を代表して提訴請求を受けるのは、原則として代表執行役であり(349条4項420条3項)、監査委員が代表となって受けるのは執行役または取締役の責任を追及する訴えの提訴請求についてだけに408条5項で規定されているということです。

監査役設置会社では、こ同様の場合には監査役が代表して受けますが、これは取締役とは独立した立場にある監査役に取締役に対する訴訟を提起すべきかどうかを判断させる必要があるからです(最高裁判決平成21年3月31日)。これと同様に考えれば、代表執行役ではなくて監査委員が代表して受けるというのは、独立した立場の監査委員会において、訴訟を提起すべきかを判断するからだと考えられます。

@)権限を有する監査委員

この場合権限を有するのは個別の監査委員であり、その場合、提訴請求は監査委員の誰に対しても行うことができます。このような取扱いが定められたのは、提訴請求を受けるべき者が決定されていないこともあり、また仮にそのような者が決まっていたとしても、提訴請求する株主が知ることはできないからです。

ただし、その訴えとなる訴訟の相手方となる監査委員は、提訴請求を受ける権限を有しない(408条5項1号括弧書)。そのような監査委員に権限を持たせるのは不適切だからです。

A)提訴請求を受けた調査等

提訴請求を受ける権限を有するのは各監査委員ですが、提訴請求を受けて、指名委員会等設置会社として、請求された訴えを提起すべきかをどうかを判断するのは監査委員会です。提訴請求を受けた後で、監査委員会が判断を行う前に、提訴請求の適法性の確認と、執行役または取締役の責任を基礎づける事実の存否を調査する必要があります。このような調査・確認を行なうのが、提訴請求を受けた監査委員である必要はなく、監査委員会が選定する監査委員に行わせることができます。

・代表訴訟の告知(408条5項2号)

@)代表訴訟の告知を受ける権限

指名委員会等設置会社が、執行役または取締役の責任を追及する訴えの訴訟告知(849条3項)を受ける際には、監査委員が会社を代表します。ただし、会社を代表して提訴請求を受けるのは、原則として代表執行役であり(349条4項420条3項)、監査委員が代表となって受けるのは執行役または取締役の責任を追及する訴えの訴訟告知についてだけに408条5項で規定されているということです。

代表訴訟の訴訟告知(849条3項)は、849条1項に定める訴訟参加の機会を確保するために行われるもので、これに基づいて執行役または取締役の責任を追及する代表訴訟に会社が共同訴訟人として参加する場合、及び、原告株主側に補助参加する場合に、会社を代表するのは、監査委員会が選定する監査委員ということになります。これは、同じような責任追及の訴えを会社自らが提起する場合には、その者が会社を代表する権限を有する(408条1項2号)からです。また、執行役または取締役の責任を追及する代表訴訟において、会社が被告側に補助参加する場合に、会社を代表する権限を有するのは代表執行役です。ただし、そのような訴訟の参加には各監査委員の同意を得なければなりません(849条2項)。以上のことから、訴訟告知を受ける権限を監査委員が有するものとされたと考えられます。

A)権限を有する監査委員

この場合権限を有するのは個別の監査委員であり、その場合、訴訟告知は監査委員の誰に対しても行うことができます。このような取扱いが定められたのは、訴訟告知を受けるべき者が決定されていないこともあり、また仮にそのような者が決まっていたとしても、提訴請求する株主が知ることはできないからです。

ただし、その訴えとなる訴訟の相手方となる監査委員は、訴訟告知を受ける権限を有しない(408条5項2号括弧書)。そのような監査委員に権限を持たせるのは不適切だからです。

・代表訴訟の和解に関する通知及び催告(408条5項2号)

@)代表訴訟の和解に関する通知及び催告を受ける権限

代表訴訟の告知を受けた場合に加えて、会社が、執行役または取締役の責任を追及する訴えに係る通知及び催告(850条2項)を受ける場合、監査委員が会社を代表します。執行役または取締役の責任を追及する代表訴訟の和解について、850条2項の規定による通知及び催告を受けて、会社としてそのような和解に異議を述べるべきかどうかを判断するのは監査委員会だからです。

A)権限を有する監査委員

この場合権限を有するのは個別の監査委員であり、その場合、通知及び催告は監査委員の誰に対しても行うことができます。このような取扱いが定められたのは、通知及び催告を受けるべき者が決定されていないこともあり、また仮にそのような者が決まっていたとしても、通知及び催告をする株主が知ることはできないからです。

ただし、その訴えとなる訴訟の相手方となる監査委員は、通知および催告を受ける権限を有しない(408条5項2号括弧書)。そのような監査委員に権限を持たせるのは不適切だからです。

 

 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条)  

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条)  

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)  

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

  株主による執行役の行為の差止め(422条)   

 
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