新任担当者のための会社法実務講座
第426条 
取締役等による
免除に関する定款の定め
 

 

Ø 取締役等による免除に関する定款の定め(426条)

@第424条の規定にかかわらず、監査役設置会社(取締役が2人以上ある場合に限る。)、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社は、第423条第1項の責任について、当該役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合において、責任の原因となった事実の内容、当該役員等の職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるときは前条第1項の規定により免除することができる額を限度として取締役(当該責任を負う取締役を除く。)の過半数の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって免除することができる旨を定款で定めることができる。

A前条第3項の規定は、定款を変更して前項の規定による定款の定め(取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任を免除することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合、同項の規定による定款の定めに基づく責任の免除(取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)についての取締役の同意を得る場合及び当該責任の免除に関する議案を取締役会に提出する場合について準用する。この場合において、同条第3項中「取締役(これらの会社に最終完全親会社等がある場合において、第1項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該会社及び当該最終完全親会社等の取締役)」とあるのは、「取締役」と読み替えるものとする。

B第1項の規定による定款の定めに基づいて役員等の責任を免除する旨の同意(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)を行ったときは、取締役は、遅滞なく、前条第2項各号に掲げる事項及び責任を免除することに異議がある場合には一定の期間内に当該異議を述べるべき旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。ただし、当該期間は、1箇月を下ることができない。

C公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「公告し、又は株主に通知し」とあるのは、「株主に通知し」とする。

D株式会社に最終完全親会社等がある場合において、第3項の規定による公告又は通知(特定責任の免除に係るものに限る。)がされたときは、当該最終完全親会社等の取締役は、遅滞なく、前条第2項各号に掲げる事項及び責任を免除することに異議がある場合には一定の期間内に当該異議を述べるべき旨を公告し、又は株主に通知しなければならない。ただし、当該期間は、一箇月を下ることができない。

E公開会社でない最終完全親会社等における前項の規定の適用については、同項中「公告し、又は株主に通知し」とあるのは、「株主に通知し」とする。

F総株主(第3項の責任を負う役員等であるものを除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が同項の期間内に同項の異議を述べたとき(株式会社に最終完全親会社等がある場合において、第1項の規定による定款の定めに基づき免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該株式会社の総株主(第3項の責任を負う役員等であるものを除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は当該最終完全親会社等の総株主(第3項の責任を負う役員等であるものを除く。)の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主が第3項又は第5項の期間内に当該各項の異議を述べたとき)は、株式会社は、第1項の規定による定款の定めに基づく免除をしてはならない。

G前条第4項及び第5項の規定は、第1項の規定による定款の定めに基づき責任を免除した場合について準用する。

 

ü 取締役等の責任免除に関する定款の定め(426条1項)

取締役が二人以上の監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社である株式会社では、定款に次のような旨の規定を定めたときは、その定めに従い、取締役会設置会社であれば取締役会の決議によって、それ以外であれば取締役の過半数の同意によって、一定の額を限度として取締役の責任を免除することができます(426条1項)。

これは425条に基づく株主総会の決議による責任の一部免除だけであると、役員等の責任免除のためにのみ臨時株主総会を招集するのは、費用や手続を考えると困難であるし、定時総会まで責任の一部免除を行い得ないとすると責任が免除されるかどうか不明な状態が継続し、ひいては経営が萎縮することになりかねないため、機動的に開催できる取締役会決議による責任軽減を認めるという趣旨であると解されています。しかし、現実には、責任原因となった事実の発生後に、株主総会の特別決議により責任の一部免除を受けるのは難しいので、この制度を設けたということが実情にあっていると考えられます。それは、取締役会が責任の一部免除の決議をすれば、決議をした取締役の責任が代表訴訟により追及されるおそれがあります。これに対して、この制度によって決議をした取締役の責任は、株主総会に責任の一部免除議案を提出した取締役の責任よりも追及されにくいと考えられます。したがってこの制度による責任の一部免除による方が、あらかじめ定款の規定制定時に株主の意向を聞いているため、取締役に一定の裁量を与えていると解されているため、役員等の責任を免除しやすいと考えられるからです。

定款には、免除の要件として次の3点を定めることが必要です。

@)取締役の任務懈怠の責任であること

A)職務を行うにつき取締役が善意・無重過失であること

B)「責任の原因となった事実の内容、(当該取締役の)職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認めるとき」は「取締役会の過半数の同意」により免除することができる旨

※上記要件のうち、Bは株主総会決議の際にはなかった要件で、この場合、とくに追加されたものです。もし、責任の原因となった事実の内容、(当該取締役の)職務の執行の状況その他の事情を勘案して特に必要と認められない場合に、取締役会が責任免除の決定をしても、定款違反の無効な決定となります。また、大局的に見て会社(株主)の利益に合致しない免除決定は、決定に参加した取締役の善管注意義務違反となります。しかし、これらの要件は抽象的なものであり、実際上は、取締役の裁量は広いといえます。つまり、状況を勘案して取締役会が責任免除が必要と決議すればよい。例えば、功績のあった役員とか、その責任の一部免除を認めることにより、現在及び将来の取締役による会社経営を萎縮させないとか、取締役の人材を広く求めることができるなどの効用も「その他の事情」として勘案してもよいという説もあります。

責任を免除できる額の限度は、前条の株主総会の決議による責任免除の場合と実質的に同額です。

〔参考〕全株懇モデルによる取締役の責任の軽減に関する定款の規定

第27条 当会社は、会社法第426条第1項の規定により、任務を怠ったことによる取締役(取締役であった者を含む。)の損害賠償責任を、法令の限度において、取締役会の決議によって免除することができる。

※株主総会の決議による責任免除とは異なり、責任を発生される取締役の行為がなされる前に、定款により、取締役または取締役会に免責権限を授権するものです。この制度は、機動的な責任免除ができないと業務執行が萎縮するおそれがあることから設けられたものです。つまり、取締役がリスクを冒して大胆な経営判断を行った場合に事後の責任軽減が行われる蓋然性が高くなければなりません。株主総会の特別決議による責任の一部免除では、責任が発生したときに本当に会社が責任軽減をしてくれるかどうか分からないため、取締役に十分な安心感を与えられないおそれがあります、これに対して、この制度による場合は、株主総会の特別決議よりは簡易な手続で責任を一部軽減することができるし、責任が発生した時に会社が責任の一部免除を行うというメッセージを取締役に送ることができるということから、大胆な経営判断を行うインセンティブを取締役に与えることになと、というわけです。

定款にこの規定を設けることのできる会社は取締役二名以上と限られている理由は、一人の取締役が自己の責任免除を判断することを認めるべきでないからであり、監査役(監査等委員、監査委員)が設置されている会社に限られている理由は、取締役の判断が恣意的に行われないように監視することが必要とされたためです。

取締役・取締役会に対して責任免除権限を授権する定款の規定は登記事項となります(911条3項)。

ü 監査役等の同意(426条2項)

定款を変更して、責任免除の規定を設ける議案を取締役が株主総会に提出する場合には、各監査役、監査等委員、監査委員の同意が必要となります(監査役会設置会社では監査役会の決議ではなく、各監査役の同意が必要となります)(426条2項)。また、その定款の定めに基づく責任の免除について議案を取締役会に提出する場合にも、同じく各監査役、監査等委員、監査委員の同意が必要となります。

これはお手盛りの危険を防止するためです。監査役、監査委員、監査等委員、会計参与、会計監査人の責任の一部免除を可能にする定款変更には、この同意は不要です。

ü 取締役会の決議

定款にその旨の定めを置いた株式会社、役員等の行為によって会社に損害が生じたことが判明した時点で、取締役会決議により、役員等の責任を一部免除する決議をすることができます。取締役が、取締役(監査委員、監査等委員を除く)または執行役の責任の一部免除に関する議案を取締役会に提出する場合には、監査役全員の同意を得なければなりません(426条2項、425条3項)。取締役会で決議すべき内容についての法律の規定はありませんが、対象となる取締役、責任原因事実、責任免除額を特定しなければならず、取締役会において425条の株主総会における場合と同様の事項及び責任の一部免除を認める特別の必要性を開示することが必要になると考えられます。取締役及び監査役は、責任の一部免除議案について自らの信任義務に照らして判断する必要があり、その判断が誤っていた場合には任務懈怠責任を追及される可能性があると考えられます。

責任免除の対象となる取締役は、特別利害関係人に該当するため決議に参加することはできません(369条2項)。

ü 取締役会決議の通知義務(426条3〜7項)

取締役・取締役会が責任免除の決定をしたときは、取締役は、遅滞なく下の事項を公告または株主に通知しなければなりません。(426条3項)

ア.責任の原因となった事実及び賠償責任額

イ.免除できる額の限度及びその算定の根拠

ウ.責任を免除すべき理由及び免除額

エ.免除に異議がある場合には一定の期間内に述べるべき旨

総株主の議決権の3%以上を有する株主(定款の定めによる引き下げは可能)が、その期間内に異議を述べたときには、会社は、定款の定めに基づく責任免除をすることはできません(426条7項)。

取締役会の決議による役員等の責任の一部免除は、上記株主の異議がなく申立て期間を経過した時点で効力を生じることになります。取締役が異議手続を怠った場合、決議は効力を生じないと解されています。

異議手続の株主への周知のために上場会社では公告を利用することになると思われます。 

 

関連条文

役員等の株式会社に対する損害賠償責任(423条) 

株式会社に対する損害賠償免除(424条) 

責任の一部免除(425条) 

責任限定契約(427条) 

取締役が自己のためにした取引に関する特則(428条) 

役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条) 

役員等の連帯責任(430条)  

補償契約(430条の2) 

役員等のために締結される保険契約(430条の3)

 

 
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