新任担当者のための会社法実務講座
第368条 取締役会の招集手続
 

 

Ø 招集手続(368条)

@取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。

A前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。

 

ü 取締役会の招集

取締役会は、会議体としての株主総会に比べると、会議の構成員は少人数であり、しかも、出席義務のある専門家の会合です。また、審議事項(決議事項)も機動的決定が求められるものが多いところが特徴的です。そのため、業務執行に関する意思決定を弾力的・機動的に行えるように会社法では規定されています。

取締役会の招集は、取締役会を招集する権限を有する者が招集通知を発出することによってなされます。取締役会は、原則として、各取締役が招集しますが、定款または取締役会で、取締役会を招集する取締役(招集権者)を定めることができます(366条1項)。招集権者が定められた場合には、それ以外の取締役、監査役及び株主に取締役会招集請求権が認められています(366条2項367条1項383条2項)。指名委員会等設置会社の場合は株主には請求権が認められていないものの、執行役には認められています(417条2項)。これらの者が取締役会の招集請求をしたにもかかわらず、招集権者により、適時に招集手続がなされないときは、請求をした者に取締役会招集権が認められます(366条3項367条3項383条3項417条2項)。

ü 取締役会の招集期間(368条1項)

取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間前までに、各取締役及び各監査役に対して招集通知を発出しなければなりません(368条1項)。この招集期間は、定款をもって短縮することができ、実際の事例としては「3日前」と定めている会社が圧倒的に多いと言われています。さらに、定款に招集期間を定めている場合には、但書きとして、緊急の必要があるときは、期間短縮ができる旨を規定しているのが一般的です。

※株懇モデルの定款

(取締役会の招集通知)

第23条 取締役会の招集通知は、会日の3日前までに各取締役および各監査役に対して発する。ただし、緊急の必要があるときは、この期間を短縮することができる。

なお、この一週間とは、民法140条の期間計算の原則に基づき、招集通知を発した日と会日との間に中7日をおかなければならないという意味です。

※発信主義と到達主義

取締役会の招集通知について、会社法は「通知する」ではなく「通知を発する」と規定しています。民法では、隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずる到達主義をとっています。会社法では、「通知を発する」という規定の仕方をしていますが、通知を発した時点で効力を生ずるというわけではなく、株主総会の招集通知では株主に「通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす」という旨ということになっていて、到達擬制を示しています。このような到達擬制の定めは、民法の原則である到達主義を前提に、多数の株主等の存在する会社の事務処理上の便宜を配慮した特則です。したがって、その特則が定められていない取締役会の招集通知については、到達することを要し、招集通知が到達しないときは、招集手続きの瑕疵となると解されています。取締役会の招集通知について1週間前までに「発する」と規定されているのは、機関の定めを画一的に運用するためのものであって、到達したかどうかを不問に付すことまで意味しているわけではありません。

ü 招集通知の対象者(368条1項)

招集通知は、取締役会の構成員である取締及び監査役の全員に発出しなければなりません(368条1項)。したがって、決議事項について特別利害関係を有する取締役も、招集通知の相手方となります。これは、取締役会においては、招集通知に示された取締役会の目的事項以外の事項についても審議し、決議できることに起因するものです(東京地裁判決昭和56年9月22日)同様に特定の取締役が欠席することが明らかな場合であっても、招集通知を発しなければなりません(383条1項)。

また、監査役への招集通知は取締役会に出席して、必要があるときには意見を述べなければならないからです。監査役は、業務監査権限を適切に行使するために、意見表明義務が課されています。

また、明文の規定はありませんが、株主による取締役会の招集請求を受けて招集権者が取締役会を招集する時は、この株主に対しても、取締役会の招集通知を発する必要があると解されています。

ü 取締役会の招集通知の方法

招集通知の方法については明文の規定はなく、書面または電磁的方法によらず、口頭で行っても差し支えないとされています。しかしながら、実務上は、、緊急事態等やむを得ない場合を除き、書面または電子メールによる通知を行っている場合が多いようです。

なお、外国に常駐する取締役に対して招集通知を発出しなくてもよいとする見解もありますが、国際化が進展し、通信技術が発達した今日において通知不要とする根拠はなく、外国の拠点に常駐している取締役に対しても招集通知を発出しなければなりません。

また、招集通知には、会議の日時及び場所を示す必要はありますが、目的事項を示す必要はないとされています。株主総会の招集通知は会議の目的事項を記載しなければなりませんが、取締役会の場合とは違います。株主総会の場合には、株主に対して、総会に出席するかどうかを判断する材料として、また出席するとしてその準備の材料として、議題の記載が要求されるのに対して、取締役会の場合には、取締役はその職務として取締役会に出席する義務があり、それに出席するかどうかの自由がなく、また、出席したら、業務執行に関する諸般の事項が議題とされることを予期すべきだからです。したがって、例えば、招集通知に一定の事項を議題とする旨の記載がなされていても、それに拘束されることなく、それ以外の事項も議題にすることができる。つまり、議題ないし議案は各取締役が提起することができる。そういうところが株主総会と違うと考えられています。当然、機動的な意思決定が求められたときに招集通知に記載された議題でないので決議できないでは、間に合わない事だってあるわけです。実際の業務執行が絡んでくれば当然のことです。もっとも、近年のコーポレートガバナンス向上の要請に鑑み、取締役会で活発な議論を行うために、目的事項はもとより、その議案の内容及び参考資料をも事前に示すことは、コーポレートガバナンス・コードでも求められていることでもあります。右に招集通知の記載例を示しておきます。

〔参考〕コーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会の活発な議論を促す運営の推奨

コーポレートガバナンス・コードの【原則4−12.取締役会における審議の活性化】では、招集通知を早期に発出するとか、事前に資料をおくって議題の内容を理解してもらった上で会議に臨んでもらうといったことを推奨しています。詳しくはこちらを参照願います。

ü 招集手続の省略(368条2項)

取締役会の招集手続きは、取締役及び監査役に出席する機会を確保することを目的とするため、それらの者のすべての同意があるときは、招集の手続を経ることなく、取締役会を開催することができます(368条2項)。この場合、取締役及び監査役が全員出席する必要はありません。同様の趣旨から取締役会の決議及び監査役全員の同意をもって、一定の日時及び場所において、定期的に取締役会を開催する旨を定めた場には、開催の度に招集手続取る必要はないと考えられます。

また、招集手続の省略に該当するものではありませんが、取締役及び監査役の全員が揃っている際に、その同意のもと取締役会を開催することができます。これは、関係者において出席する機会が確保され、その職務権限が害されないからです。

・招集手続きの省略の同意

同意は原則として各取締役から個々に得なければなりません。一般的抽象的に、例えば日時を指定せずに、取締役会の招集通知を不要とする旨の同意は効力がありません。株主総会の招集手続の省略では、議題を特定して株主の同意を得なければならない(299条4項309条5項)のに対して、取締役会の招集通知の省略の場合は、議題を特定せずに同意を得ることができると考えられます。

同意は、問題となる取締役会が開催される前に得なければなりません。同意を得る方式についてとくに制限はなく、書面または電磁的方法によることは求められていません。

取締役の全員が会社の業務執行に関する事項について協議決定したときは、取締役会の招集手続を経ない旨の明示の同意なしにその手続を経なかった場合でも、取締役会の決議がなされたものと判示されています(最高裁判決昭和31年6月29日)。このように関係者全員が出席している場合は、招集手続の省略に係る同意の有無を問題とする必要はないということです。ただし、会議に欠席する者がいるときには事前の同意とは認められないと言えます。

・定例会

実務上、取締役会決議や取締役会規則により、定例取締役会の定めが規定されています。例えば、毎月第4月曜日の午前10時より本社会議室で定例取締役会を開催する旨の規定です。このような定例会の定めは、招集権者に対して適時の取締役会の招集を義務づけるとともに、関係者の取締役会出席の一般的準備のためのものとして理解れば、問題はありません。定例でも、取締役会を開催するときは、その都度、招集通知が発出されるからです。

この定例会の規定を根拠として、招集権者は定例会について関係者全員の同意があるとして、招集通知の発出を省略できるという主張があるようですが、実務では、招集通知が発出されています。

※取締役会の延期・続行と招集手続の省略

株主総会の場合(317条)とは異なり、取締役会については、延期・続行に係る規定はありません。取締役会は、株主総会に比べて容易に招集することができ、招集通知期間の短縮が認められています。また、招集通知の省略についても、株主総会の場合より機能的であると理解できます。そのような理解から、取締役会の延期・続行の決議を認める必要性は、株主総会の場合に比べて強くないとして、会社法の規定が置く必要性が薄かったと考えられます。

取締役会での議論が白熱し、審議を翌日に持ち越そうという場合に、続行決議を認めることには合理性があると考えられ、つまり、出席者の過半数の同意がある場合は、その取締役会の目的と同一事項について審議するため延期・続行することが認められると解されています。

ü 取締役会の招集手続に瑕疵ある場合

取締役及び監査役に対する招集通知に漏れがある場合、瑕疵ある招集手続となり、関係する取締役会決議の無効原因となりますが、その場合であっても通知に漏れがあった対象者が実際に取締役会に出席し異議を述べなかったときは、瑕疵は治癒するというのが一般的見解です。

招集通知に漏れがあった場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき別段の事情があるときは、瑕疵は決議の効力に影響がないとする裁判例もあります(最高裁昭和48年7月6日)。この場合「特段の事情」を認めた場合としては、「取締役会に出席せず、会社の運営を他の取締役に一任していた名目的取締役に対して通知を欠いた場合(東京高裁昭和49年7月6日)」「すでに辞表を提出し取締役としての職務をとっていなかった取締役に対して通知を欠いた場合(東京高裁昭和49年9月30日)」などがあります。 

ただし、監査役は取締役会に出席して意見を述べるために招集通知を受け取りすが、議決権を有するわけではないので、監査役に対する招集通知が漏れてしまっても、取締役会の決議無効事由とする必要はないという考えもあります。

関連条文

取締役会の権限等(362条) 

取締役会設置会社の取締役の権限(363条) 

取締役会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(364条)

競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条) 

招集権者(366条) 

株主による招集の請求(367条) 

取締役会の決議(369条) 

取締役会の決議の省略(370条) 

議事録等(371条) 

取締役会への報告の省略(372条)

特別取締役による取締役会の決議(373条) 

 
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