新任担当者のための会社法実務講座 第420条 代表執行役 |
Ø 代表執行役(420条) @取締役会は、執行役の中から代表執行役を選定しなければならない。この場合において、執行役が1人のときは、その者が代表執行役に選定されたものとする。 A代表執行役は、いつでも、取締役会の決議によって解職することができる。 B第349条第4項及び第5項の規定は代表執行役について、第352条の規定は民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された執行役又は代表執行役の職務を代行する者について、第401条第2項から第4項までの規定は代表執行役が欠けた場合又は定款で定めた代表執行役の員数が欠けた場合について、それぞれ準用する。 ü
代表執行役(420条) 指名委員会等設置会社では、経営の意思決定(業務執行の決定)は取締役会にありますが、原則として取締役には経営決定を実行する権限(狭義の業務執行権)がなく(415条)、1人または2人の執行役が、取締役会から委任された経営の決定をするとともに、その決定を実行するための業務執行を行います。そして業務執行には、会社を対外的に代表する行為が含まれるので、指名委員会等設置会社以外の会社における代表取締役のように代表権を有する者を定める必要があります。したがって、会社を代表する権限を有する執行役、それが代表執行役です。 ü
代表執行役の選定・解職(420条1項、2項) ・代表執行役の選定(420条1項) 代表執行役の選定・解職は取締役会の権限です。選定・解職のいずれも、取締役会の決議をもって行います。この場合、すでに存在する執行役の中から代表執行役を選定してもよいし、新たに執行役に選定するのと同時に代表執行役としてもよいが、代表執行役は執行役としての地位を有していなければなりません。取締役会の決議により執行役を選定した場合、それはあくまでも執行役としての選定であるから、それにより当然に代表権が与えられるわけではありません。したがって、代表権を付与するためには、あたらめて代表執行役としての選定が必要となります。代表執行役に就任するに当たって、選出された代表執行役の就任承諾は効力発生要件として必要と考えられています。したがって、執行役の就任承諾とは別に、あらためて代表執行役の就任承諾なしに、その義務を課すことはできません。 なお、執行役が一人の場合には、条文に規定されているので取締役会による代表執行役選定の決議を要しないで、代表執行役に選定されたものとみなされます。かなわち、執行役が2人以上のときに取締役会による選定が必要となるということです。 選定する代表取締役の人数は条文では規定されていません。条文では代表取締役を選定するはよいので、それが何人いてもいい、ただし、最低1人はいなくてはなりません。執行役の中からどれだけの人数を代表執行役とするかは、取締役会の経営判断にかかり、執行役の全員を代表執行役とすることも可能です。 代表執行役の任期は、法律上、とくに定められていません。しかし、執行役であることを前提とするので、執行役の任期を超えることはありえないことになります。定款あるいは選定決議によりとくに任期の定めをしない。 代表執行役の就任・退任は登記事項です(911条3項32号)。代表執行役の終任事由は、執行役としての任期満了・辞任。解任および代表執行役の解職・辞任であり、退任の登記をすることになります。 ・代表執行役の解職(420条2項) 代表執行役の解職とは、当人の意思に反してでもその資格を喪失させることです。代表執行役の解職は、取締役会が解職すべきと判断すれば、任期の定めの有無、理由の有無にかかわらず、いつでもその決議をもって解職できます(420条2項)。取締役会は、代表執行役の職務執行が適法・妥当に行われているかを監督する権限を有しています。代表執行役の解職は、取締役会による解職決議によりただちに効力が生じ、代表執行役であった者に告知があってから生じるものではないとされています(代表取締役の場合の裁判例が、最高裁判決昭和41年12月20日)。 取締役会の代表執行役の解職決議は、代表執行役の資格を剥奪することで、同時に執行役の解任までは含まないのが原則です。一方、執行役の解任についても、取締役会はいつでも決議で解任することができます(402条3項)。したがって、取締役会は代表執行役を解職すると同時に、執行役を解任することができます。ただし、執行役の解任の場合には正当な事由がある場合を除き解任されたことによって生じた損害賠償を請求することができます(403条2項)。なお、代表執行役の解職(執行役にはとどまる)の場合は、執行役解任の場合のような損害賠償請求は認められていません。 ü
代表執行役の権限(420条3項) 代表執行役は、指名委員会等設置会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限(代表権)を有します(420条2項、349条4項)。この場合の裁判上の行為は訴訟行為を、裁判外の行為は法律行為・準法律行為をそれぞれ意味します。代表執行役は指名委員会等設置会社の代表機関であり、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為、すなわち、会社の権利能力の範囲内に属する一切の行為をする権限を有します。ここにいう会社の業務とは広い概念で、会社がいくつかの事業を行っている場合には、それらのすべてが含まれます。代表執行役の代表権は、事業ごとの制限はありません。 指名委員会等設置会社の代表権を有する代表執行役が会社を代表して対外的取引行為をすれば、そのはそのまま会社の行為となります。それゆえ代表権の行使は会社及び第三者にとって利害関係がある者となってくるでしょう。したがって、会社が代表権を制限しても、善意の第三者に対抗できないことになります(420条2項、349条5項)。 例えば、重要な財産処分(362条4項)の決定権限を執行役に委任するには、取締役会の決議が必要ですが、このように教務執行決定は、代表執行役は取締役会から決定権限の委任を受けなければできません(416条4項、418条)。しかし日常業務(会社の業務の通常の経過から生じる事項)の決定権限は、代表執行役の選定決議によって明示されていない場合であっても当然に委任されていると解されています。 ü
代表執行役の欠員等(420条3項) ・職務代行者(420条3項、352条) 民事再生法上の仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条1項)の一種として、保全の必要性、つまり、その取締役がそのまま職務の執行を続ければ会社に回復不能の損害が生ずる可能性があるということ、が認められる場合、裁判所は、当事者の申立てにより、会社及び取締役の双方を債務者として、仮処分により、取締役の職務執行を停止し、さらにその職務を代行する者(職務代行者)を選任することができます。これが352条で規定された仮処分命令の職務代行者で、この内容が代表執行役の場合にも準用されます。 仮処分命令により選任された執行役または代表執行役の職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社のの日常業務に属する行為に限定され、そうでない行為をするには裁判所の許可が必要となります。また、職務代行者が、この許された権限に違反して行った行為は無効となりますが、会社は、善意の第三者にその無効を対抗することはできません。 ・欠員の場合(420条3項、401条2〜4項) 定款で定めた代表執行役の員数が欠けた場合に、任期の満了または辞任により退任した代表執行役は、新たに選定された代表執行役が就任するまで、なお代表執行役の権利義務を有します。また、裁判所は、必要があると認めたときは、利害関係人の申立により、一時代表執行役の職務を行うべき者を選任することができます。一時代表執行役の権限は、職務代行者の場合と異なり、本来の代表執行役のそれと同じです。裁判所は前期の一時代表執行役の職務を行うべき者を選任した場合には、会社がその者に対して支払うべき報酬の額を定めることができます。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 |