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第373条特別取締役による取締役会の決議
 

 

Ø 特別取締役による取締役会の決議(373条)

@第369条第1項の規定にかかわらず、取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)が次に掲げる要件のいずれにも該当する場合には、取締役会は、第362条第4項第1号及び第2号に掲げる事項についての取締役会の決議については、あらかじめ選定した3人以上の取締役(以下この章において「特別取締役」という。)のうち、議決に加わることができるものの過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を取締役会で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行うことができる旨を定めることができる。

一 取締役の数が6人以上であること。

二 取締役のうち1人以上が社外取締役であること。

A前項の規定による特別取締役による議決の定めがある場合には、特別取締役以外の取締役は、第362条第4項第1号及び第2号に掲げる事項の決定をする取締役会に出席することを要しない。この場合における第366条第1項本文及び第368条の規定の適用については、第366条第1項本文中「各取締役」とあるのは「各特別取締役(第373条第1項に規定する特別取締役をいう。第368条において同じ。)」と、第368条第1項中「定款」とあるのは「取締役会」と、「各取締役」とあるのは「各特別取締役」と、同条第2項中「取締役(」とあるのは「特別取締役(」と、「取締役及び」とあるのは「特別取締役及び」とする。

B特別取締役の互選によって定められた者は、前項の取締役会の決議後、遅滞なく、当該決議の内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければならない。

C第366条(第1項本文を除く。)、第367条、第369条第1項及び第370条の規定は、第2項の取締役会については、適用しない。

ü 特別取締役の制度(373条1項)

特別取締役の制度は、取締役会の決議事項のうち日常業務的色彩の濃い362条4項1号及び2号について、その決定を一部の取締役に委ね、取締役会はより基本的な事項の審議に専念することを可能にすることを目的とする制度です。

特別取締役が決定を委ねられた事項(362条4項1号及び2号

a)重要な財産の処分及び譲受け

b)多額の借財

※特別取締役の制度は、旧商法の平成14年改正により大会社に認められた「重要財産委員会」の制度(商法特例法1条の3)を会社法制定時に手直ししたものです。特別取締役は、上記a)b)の事項を決定する権限を当然に有し、取締役会が事項・金額等を限定して権限の委任を行うことはできません。さもないと取引の相手方に特別取締役の権限の範囲を確認する必要が生ずるからです。もっとも、特別取締役を選定しても、取締役会が上記a)b)の事項を決定する権限を失うわけではなく、両者が同一の事項について異なる決議をしたときは、通常の取締役会で同一事項について二度決議が行われた場合と同様の法律関係となります。特別取締役による取締役会については、株主・監査役による取締役会の招集請求の規定及び書面決議の規定は適用されません(373条4項、383条4項)。他の取締役の出席義務はなく(373条2項)、監査役は原則として出席義務を負いますが、監査役の互選により、監査役の中からとくにその取締役会に出席する監査役を定めることもできます(383条1項但書き)。この場合でも招集通知は全監査役に送付されます。

※重要財産委員会制度を廃止して、特別取締役制度を創設した経緯

重要財産委員会制度は平成14年の商法改正により創設されましたが、実際に導入した会社は少数に留まりました。その理由は次のようなことからでした。

・重要財産委員会という新たな機関を設けるための準備(制度の理解や社内における重要財産委員会規程の整備等)に労力がかかること

・重要財産委員会が重要な財産の処分について委任を受けていない場合があるにもかかわらず、「重要財産委員会」と呼ばれるなどの名称上の難点があること

・各社が取締役数を絞っている傾向にある中で、取締役の数が10人以上を要する重要財産委員会の設置要件のハードルが高いこと

また、会社法では株式会社の機関について、基本的には定款で自由に設置や廃止をできるものですが、重要財産委員会は、取締役会の決議で設置できて、委員会そのものに固有の権限が法的に規定されていないので、取締役会が委任しなければ何もできないという、法的な整合性が不十分だったからでした。

そこで、重要財産委員会にかわるものとして、上記の難点をクリアした特別取締役制度を新たに設けたというわけです。

※指名委員会等設置会社では特別取締役の採用は認められない

指名委員会等設置会社では、執行役に対して、広範に業務執行の意思決定権限を委任することができ(416条4項)て、また、取締役に対して業務執行の決定権限を委任することが禁止されています(416条3項)。取締役会の主たる機能は、経営の基本方針を策定し、それに基づいて執行役が健全かつ効率的に経営を遂行するのを監督することです(416条1、2項)。このような指名委員会等設置会社の理念や基本構造から、特別取締役による取締役会決議制度を設けることについては、実務上の要請も認められず、むしろ、執行役の権限と特別取締役の権限が衝突する等の問題が発生するため、特別取締役の採用は認められていません。

ü 特別取締役による決議(373条1項)

指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社は、次の二つの要件に該当する場合には、取締役会が3人以上の取締役を特別取締役に選定し、この特別取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって、上記a)b)の決議をすることができる旨を定款に定めることができます(373条1項)。

特別取締役を選定できる要件

ア.取締役が6人以上

←機動的かつ頻繁に取締役会を招集することができる少人数の取締役会には制度の必要性がないため

イ.1人以上の社外取締役の存在

←当該権限委任をしても取締役会の監督機能が働き得ることを保障する必要があるため

すなわち、上記ア.イ.の要件を満たす会社は、a)b)の事項の決定権限を特別取締役に委任することが認められるのです。

※上記のような特別取締役を選定する要件が設けられたのは、次のような事情からです。重要な財産の処分・譲受及び多額の借財の決定が取締役会の法定決議事項となった明定されたのは、昭和56年の商法改正においてです。当時の上場会社の倒産の多くはワンマン社長が暴走して過大な設備投資等を行った結果であったことを反映しています。近年、当該事項が取締役会の法定決議事項であることが会社の迅速な業務執行の決定を阻害しているとの批判が現われたため、特別取締役への権限の委任が認められたが。ワンマン社長とその側近の暴走の危険が消滅したわけではないことから、1人以上の社外取締役選任が、その要件として、牽制が図られているからです。

※取締役会の決議要件の特則

特別取締役による議決の定めがなされ、特別取締役が選定された場合において、取締役会の決議要件の特例を利用することができます。しかし、これは、取締役全員を構成員とする取締役会の権限を縮減する者ではありません。重要財産の処分及び譲受と多額の借財については、なお、取締役会でも決議することができます。他方で、特別取締役は、取締役会の有する決定権限について、取締役会から委任を受けて、その権限を行使するのではないのです。特別取締役による議決の定めがある場合は、重要財産の処分及び譲受と多額の借財の決定について、取締役会の決議要件に係る特則が当然に適用されるということです。これは、取締役会決議の一態様であり、重要財産の処分及び譲受と多額の借財の一部に権限を制限することはできません。

取締役会決議と特別取締役による取締役会決議の両者に法的な相違はありません。特別取締役による取締役会決議についても、原則として取締役会に関する規定が適用され、議事録もも、取締役会議事録となります。

ü 特別取締役による取締役会決議制度の決議事項

特別取締役による取締役会決議が認められる業務執行事項は、重要財産の処分及び譲受と多額の借財です。これらは、日常業務的色彩が認められ、迅速性が求められるとともに、これらの事項の決定を一部の取締役にゆだね、取締役会においてはより基本的な事項の審議に専念することを可能にすることが妥当であると考えられたからです。

取締役会の専決事項のうち、重要財産の処分及び譲受と多額の借財については、特別取締役による議決の定めを設けることにより、当然に特別取締役による取締役会決議事項となります。もっとも、特別取締役による取締役会決議ができる重要財産の処分及び譲受と多額の借財の範囲を、内部的に制限することができます。例えば、一定金額以上の取引ないし借財は、取締役会で決議する旨、さだめることができます。ただし、この制限は内部的制限であり、これに違反した決議に基づく取引も原則として有効です。

※特別取締役による取締役会決議の選択

特別取締役が選定されても、取締役会の権限の一部が排除されるわけではありません。取締役会は、特別取締役を選定するか否かに関わりなく、重要財産の処分及び譲受と多額の借財について決議することができます。そこで、特別取締役を選定した場合に、重要財産の処分及び譲受と多額の借財の決定に際して、いずれの取締役会決議で承認するかが問題となります。一般には、取締役会の招集権者または特別取締役による取締役会を招集する特別取締役の判断によると解されています。実際のところ、取締役会において特別取締役を選定したのだから、原則として特別取締役による取締役会決議を委ねるという会社もあれば、まさかの場合のためにあらかじめ特別取締役を選定したにすぎないとして、原則として取締役会で毛決議するという会社もあります。

※矛盾する取締役会決議の優劣

上記と似たケースとして、同一事項について両者の取締役会において異なる内容の決議がなされたときが想定できます。原則として、特別取締役による取締役会決議は、通常の取締役会決議と法律上同価値の決議であると考えられています。しかし、実際には、通常の取締役会決議は、特別取締役による取締役会決議を覆すことができ、他方、その逆はできないと解されています。

ü 特別取締役の議決の定めと特別取締役の選定

取締役会は、あらかじめ3人以上の特別取締役を選定することができます(373条1項)。特別取締役が3人以上でなければならないとされているのは、取締役会設置会社の取締役が3人以上でなければならないからで(331条4項)。迅速な意思決定が求められる場合であっても、3人以上の合議体で決定することが取締役会制度の趣旨から必要と考えられたと思われます。

取締役会は、あらかじめ選定した特別取締役により取締役会決議を行うことができる旨を定めることができます。取締役会は、まず、取締役会の決議要件の特則の採用を一般的に決議(特別取締役による議決の定めの設定)して、その決議を前提に、特別取締役を選定することになります。前者は、いったん決議されれば、その廃止が決議されるまで効力を有します。

※社外取締役

特別取締役制度を採用するためには、少なくとも1人の社外取締役がいなければなりません。これは、取締役会の監督権限の実質化のためです。特別取締役による取締役会決議制度が適切に運営されているかどうか、取締役会が適切に監督権限を行使するためには、少なくとも1人の社外取締役が必要であると考えられたからです。

ü 特別取締役の登記

特別取締役による取締役会決議は、重要な財産の処分及び譲受と多額の借財についてなされますが、これらはすべて対外的取引であり、特別取締役による議決の定めと特別取締役の選定が、対外的に明らかにされる必要があると考えられます。このため、特別取締役による議決の定めがあるときはその旨、及び特別取締役の指名、取締役のうち社外取締役であるものについてその旨を登記しなければなりません(911条3項21号、商業登記法47条2項12号)。

はじめて特別取締役の登記をするときは、その前提として、特別取締役による議決の定めがある旨の登記もしなければなりません。特別取締役については、氏名と就任年月日を登記します。これらの場合、取締役会議事録が添付書類となります。

特別取締役による議決の定めが廃止された場合の他、特別取締役や社外取締役の変更が生じたときは、偏光の登記をしなければなりません(909条、915条1項)。

ü 特別取締役による取締役会の招集・運営

特別取締役により決議される取締役会も、法的には取締役会であり、原則として取締役会の招集及び運営に関する規定が適用されますが、会社法は、特別取締役による取締役会決議制度の趣旨を考慮して、若干の特則を設けています。

・招集者

特別取締役による取締役会の招集について、366条1項本文のみが適用されます(373条4項)。この場合の「各取締役」は「各特別取締役」と読み替えられます(373条2項後段)。特別取締役による取締役会は、各特別取締役が招集することができ、招集権者の定めは適用除外されます。少数の取締役が構成員である場合に、とくに招集権者を定める必要はなく、この制度は、そもそも、機動的な決定のために設けられたものですから、特別取締役が権限事項について決議すべきであると考えるときは、ただちに取締役会を招集することができることが、機動的な意思決定には有益であると考えられるからです。

特別取締役の間で、原則的に取締役会を招集する者を定めることは許さると考えられます。ただし、その者だけが招集できるという排他的な招集権者を設けることはできません。

特別取締役以外の取締役には、特別取締役による取締役会の招集請求権は認められていません(373条4項)。特別取締役以外の取締役は366条2項の規定に従い通常の取締役会の招集請求を行うことになります。また、監査役による招集請求権の規定も適用除外となります。監査役の招集請求権は、取締役の違法行為の是正を目的としるので、特別取締役による取締役会の権限事項外だからです。

・招集手続

特別取締役による取締役会の招集手続きについて、368条の規定が適用され、読み替えられます(373条2項後段)。原則として、取締役会の1週間前までに各特別取締役に対して招集通知を発出しなければなりませんが、取締役会の決議で、これを下回る期間を定めることができます。

特別取締役による取締役会の招集についても、特別取締役全員の同意があるときは、招集手続きを経ることなく開催することができます。監査役設置会社では、特別取締役全員の同意の他、監査役全員の同意が必要とされます(368条2項)。

・特別取締役以外の取締役と監査役

特別取締役による取締役会には、特別取締役以外の取締役は出席を要しないと規定されています(373条2項前段)。これを受けて、特別取締役以外の取締役に対して招集通知を発出する必要はないとされています。なお、特別取締役以外の取締役であっても、出席することは可能と解されています。しかし、特別取締役以外の取締役が出席しても、決議要件の適用を受け、議決権を行使できない、とされています。

監査役設置会社において、複数の監査役がいる場合は、特別取締役による取締役会にも、原則として各監査役が出席し、必要があると認められるときは、意見を述べなければなりません(383条1項)。しかし、監査役の互選によって、監査役の中からとくに特別取締役による取締役会に出席する監査役を定めることができます(383条1項但書)。このような監査役が定められた場合であっても、取締役の場合のような適用除外規定はないため、特別取締役による取締役会の招集通知は各監査役に対して発出されなければなりません。む

・決議要件

特別取締役による取締役会決議は、議決に加わることができる特別取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行うことができます。特別取締役による取締役会決議については、特別利害関係取締役の議決権排除にかかる369条2項の規定は適用されますが、取締役会の決議要件に係る369条1項の規定による決議要件の加重は適用除外となります(373条4項)。また、書面決議制度(370条)は、特別取締役による取締役会には適用除外となります(373条4項)。

ü 取締役会への報告(373条3項)

特別取締役の互選により定められた者は、特別取締役による取締役会の決議後、当該決議の内容を特別取締役以外の取締役に報告しなければなりません(373条3項)。これは、特別取締役による取締役会決議について、取締役会の監督権限の実効性確保のためです。報告の方法はとくに規定されていないので、適宜の方法で報告すればよいとされています。

この報告を聞いて、その決定が不適当であると考える取締役は、当該決定に基づいて対外的取引が行われる前に、取締役会の開催を求めて当該決定の変更を求めることができなければなりません。

なお、監査役に対する報告義務はとくに規定されていません。監査役は、原則として特別取締役による取締役会に出席しなければならないからです。

ü 議事録

取締役会の議事録の作成に関する規定(369条3、4項)、さらには、決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものはその決議に賛成したものと推定する規定(369条5項)は、特別取締役による取締役会にも適用されます。取締役会議事録に関する会社法施行規則101条の規定も適用されます。議事録の内容は、基本的に通常の取締役会と同じですが、取締役会が特別取締役による取締役会である旨を議事録の内容としなければなりません(会社法施行規則101条3項2号)。

取締役会議事録の備置・閲覧等に関する371条の規定は、特別取締役による取締役会の議事録についても適用されます。

 

関連条文

取締役会の権限等(362条) 

取締役会設置会社の取締役の権限(363条) 

取締役会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(364条)

競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条) 

招集権者(366条) 

株主による招集の請求(367条) 

招集手続(368条) 

取締役会の決議(369条) 

取締役会の決議の省略(370条) 

議事録等(371条) 

取締役会への報告の省略(372条)

特別取締役による取締役会の決議(373条) 

 
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