新任担当者のための会社法実務講座
第327条 取締役会等の設置義務等
 

 

Ø 取締役会等の設置義務等(327条)

@次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。

一 公開会社

二 監査役会設置会社

三 監査等委員会設置会社

四 指名委員会等設置会社

A取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。

B会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。

C監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない。

D監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。

E指名委員会等設置会社は監査等委員会を置いてはならない。

ü 監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の比較

公開会社は取締役会設置会社でなければなりませんが、同時に、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの会社形態をとらなければならないことになります。そこで、この三つの形態について簡単に説明し、それぞれの特徴を比較して置くことにします。なお、それぞれの形態についての詳細は、会社法の該当条文のところで改めて説明していきたいと思います。ただし、会社法の条文は、とくに断りがない場合には、監査役会設置会社を標準として規定していて、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社は、それぞれの場合に限定した条文を置いています。

@監査役会設置会社

取締役会が会社の業務につき意思決定を行い、その意思決定に基づく業務執行を、取締役会が選定した代表取締役その他の業務執行取締役が行う一方、取締役の職務執行に対しては、取締役会から独立した監査役が監査を行うという機関構成になっています。監査役会は、3人以上の監査役で構成され、その半数以上は社外監査役でなければなりません。

この経営形態の取締役会が会社法でデフォルトの、とくに断りのない規定で示しているものです。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社の取締役会は、このデフォルトから外れる部分があるので、その部分をとくに会社法では条文にして規定しているわけです。では、取締役会について概説します。3人以上の取締役の全員で構成される取締役会が、その決議により会社の業務執行の決定を行い、その決定を執行する代表取締役または業務執行取締役を選定し、権限を委任し、かつその者の職務の執行を監視する。その会議の手続にも、個人的信頼に基づき選任された取締役相互の協議・意見交換により一定の結論を得るため、代理出席を認めず、かつ3ヶ月に1回以上招集が必要、等の制約があります。一方で株主総会の権限は制約され、他方取締役会の業務執行の監視のため、監査役会の設置が要求されています。

しかし、実際の企業現場においては取締役会の業務執行は会社法の趣旨からは外れてきている場合の方が多くなっていると思います。上場会社の取締役会は、取締役のほぼ全員が代表取締役(社長)を頂点とする執行担当階層組織の一員であるため、その頂点にいる代表取締役を効果的に監督することが事実上困難になっています。 

A指名委員会等設置会社

取締役会は、会社の業務についての意思決定を大幅に執行役に委任する一方、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会を通じて、主として執行役に対する監督機関としての役割を担うという機関構成になっています。各委員会は、3人以上の取締役で構成され、その過半数は社外取締役でなければなりません。

指名委員会等設置会社の取締役会は、監査役会設置会社の取締役会とは根本的な性格が異なるモニタリング・モデルと呼ばれます。これは海外の上場会社に多く見られるもので、株主により選任された取締役からなる取締役会は経営の基本方針の決定、業績評価、業務執行者の選任・解任しか行わず、かつ、取締役会の構成員の全部または大多数は業務執行に関与しない形の機関構成をとっています。

B監査等委員会設置会社

監査役(会)に代えて、監査等委員会が設置される機関構成を採ります。そして、監査等委員会は、監査等委員として株主総会で選任された3人以上の取締役(その過半数は社外取締役でなければならない)によって組織される委員会であり、取締役の職務の執行の監査等を行います。また、監査等委員会設置会社においては、指名委員会及び報酬委員会の設置は義務付けられていません。言わば、監査役会設置会社と指名等委員会設置会社の中間型と言えます。両者のどちらかに近寄っても、折衷的にするのも、企業の状況に応じてある程度柔軟な制度設計が可能(後述の検討事項の扱い方が鍵)。

C監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の比較 
 

 監査役会設置会社

 指名委員会等設置会社

 監査委員会等設置会社

監査機関

 監査役会  監査委員会  監査等委員会

 構成員

 3名以上の監査役  3名以上の取締役

 (監査委員)

3名以上の監査等委員の取締役

社外役員

 半数以上は社外監査役  過半数は社外取締役  過半数は社外取締役

選任 

 株主総会で選任  株主総会で取締役を選任し、

取締役の互選で委員を選任

株主総会で監査等委員の取締役

とその他の取締役を区別して選任

任期 

 監査役は4年

取締役は2年以内

 1年

監査等委員の取締役は2年

その他の取締役は1年 

常勤者 

 常勤監査役は必須  常勤の委員は任意  常勤の監査等委員は任意

業務執行者 

 業務執行取締役  執行役  業務執行取締役

指名・報

酬委員会 

 設置は任意  それぞれ必置

設置は任意

ただし監査等委員会に意見

申述権が認められている 

※公開会社でない株式会社の取締役会

旧商法時代からの株式会社は、定款に取締役会を置く旨の定めがあると見なされていたので、非公開の会社にも取締役会設置会社は少なくありません。そのような会社の取締役は、自身が大株主であるか、株主から派遣された者が、員数合わせのための名目的存在かで、いずれにせよ株主から独立した存在ではありません。しかし、だからといって、取締役会において株主の意思の結集が行われることはむしろ稀です。取締役会がワンマン経営者の諮問機関的存在であればいい方で、まったく会議の開催がなかったり、実質的意思決定は株主の間でなされ、取締役会は形式のみという例も多い、というのが実際です。

〔参考〕執行役員

会社法には定めがありませんが、事実上の制度として、アメリカの業務執行役員制度を手本にして、取締役会の経営意思決定・監督機能と業務執行機能を分離し、執行役員が後者を担う「執行役員制度」が、公開会社の間で広く導入されています。執行役員制度の下では取締役会が業務執行の方針を決定するとともに、取締役の指揮及び命令に従って行われる執行役員の業務執行を監督することなります。これによって、取締役は会社の重要な意思決定と監督機能に集中できます。その一方で、取締役の業務から解放された執行役員は担当業務の執行に専念できるため、たとえて言えば、取締役が執行者を兼務するため会社全体よりも担当部門の利益を優先してしまう、あるいは、取締役会の構成員が多すぎて議論がしづらいといった理由等で取締役会が形骸化する、といった問題に対処できるとされています。

執行役員は指名委員会等設置会社の執行役(402条1項)とは異なり、会社法上「重要な使用人」の扱いとなるため、その選解任は取締役会における決議(362条4項3号)が必要になると考えられています。

ü 取締役会の設置義務(327条1項)

4つの形態の株式会社では取締役会の設置が義務付けられました。その理由は、それぞれで異なります。

公開会社

公開会社では、発行する株式に譲渡制限がないので、株主がその地位を容易に他に譲渡できるわけで、株主による会社経営への継続的かつ積極的な関与を期待することが困難です。また株主相互の関係が稀薄なものが参加していることからも株主自らではなく、取締役会を設置して業務に関する意思決定や業務執行の監督をさせることが必要となります。

監査役会設置会社

監査役会を設置する会社では取締役会の設置が義務付けられます。監査役会は最低でも3名の監査役で構成され監査役会に対して、取締役会が置かれていなければ、取締役1名か2名という会社もあると思います。それではバランスが取れません。取締役会を設けないという簡素な経営組織に対して、監査役会という複雑で大がかりな仕組みを置くニーズは生まれるとは考えられません。このため取締役会を設置しない会社には監査役会の設置を認めていません。

・指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社

指名、報酬、監査の各委員会の構成及び権限行使は取締役会と密接不可分であるため、取締役会の設置が当然義務付けられています。

ü 監査役会の設置義務(327条2項、3項)

会社法では、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社を除いた取締役会設置会社及び会計監査人設置会社に監査役会の設置を義務付けています。

取締役会設置会社が監査役会を設置しなければならない理由は、次のようなものです。すなわち、取締役会設置会社では、株主総会の権限が縮小されて(295条2項)、他方で業務執行の決定と監督が取締役会に委ねら、取締役の権限が広くなっています。そこで監査役会を設置して株主の代わりに会計監査及び業務監査を行わせることとしているのです。ただし、非公開会社では、監査役の代用として会計参与を置くことができることにしています。そこで、監査役会を設置すると監査機関が重複してしまうので、監査役会の設置義務を免れています(327条2項)。

会計監査人設置会社に監査役会の設置義務が課されている(327条3項)のは、上記とは別の理由からです。すなわち、会計監査人は会計の専門知識を持った専門家であり、会社の計算書類を監査して、会社の会計処理の適正さを担保することが期待されています。しかし、会計監査人の監査は外部監査であり、監査役の行う内部監査と保管しあう関係にあります。会計監査人が職務を行うに際して、取締役の職務の執行に関し不正行為又は重大な法令・定款違反を発見したときには、遅滞なく監査役に報告しなければならない(397条)とされ、また監査役は職務を行う場合に必要な場合には会計監査人に対して監査に関する報告を求めることができます。また、会計監査人の取締役からの独立性を確保するための役割を監査役は期待されています。そしてまた、会計監査人が適正な監査を行っているかを監査役は監視する役割も担っています。

ü 指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社と監査役(327条4項、6項)

指名委員会等設置会社では監査役を置くことが禁止されています(327条6項)。指名委員会等設置会社は、指名、報酬、監査の3つの委員会を置く会社で、監査委員会は必ず設置されます。監査委員会は業務監査も会計監査も行うものでも監査役との機関の重複が避けられません。もちろん、監査役と監査委員会の機能はまったく同一というわけではありません。たとえば、妥当性監査については監査委員会には期待されますが監査役には権限がありません。監査委員会による監査・監督機能を十分に果たしていれば、監査役の果たすべき役割は、ほとんど残りません。

これは監査等委員会に、監査等委員会があり、指名委員会等設置会社の監査委員会とほぼ同じであるので、同じ理由で監査役の設置が禁止されています。

ü 指名委員会等設置会社と会計監査人(327条2項、3項)

指名委員会等設置会社は大会社でも中小会社でもなることができます。この会社は執行役に広範な業務執行権限が付与されるため、業務執行者に対する監視監督機能を充実させる必要があり、会計監査人による専門的監査が必要であると考えられました。

 

 


 

関連条文

主総会以外の機関の設置(326条) 

大会社における監査役会の設置義務(328条) 

 
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