※公開会社でない株式会社の取締役会
旧商法時代からの株式会社は、定款に取締役会を置く旨の定めがあると見なされていたので、非公開の会社にも取締役会設置会社は少なくありません。そのような会社の取締役は、自身が大株主であるか、株主から派遣された者が、員数合わせのための名目的存在かで、いずれにせよ株主から独立した存在ではありません。しかし、だからといって、取締役会において株主の意思の結集が行われることはむしろ稀です。取締役会がワンマン経営者の諮問機関的存在であればいい方で、まったく会議の開催がなかったり、実質的意思決定は株主の間でなされ、取締役会は形式のみという例も多い、というのが実際です。
〔参考〕執行役員
会社法には定めがありませんが、事実上の制度として、アメリカの業務執行役員制度を手本にして、取締役会の経営意思決定・監督機能と業務執行機能を分離し、執行役員が後者を担う「執行役員制度」が、公開会社の間で広く導入されています。執行役員制度の下では取締役会が業務執行の方針を決定するとともに、取締役の指揮及び命令に従って行われる執行役員の業務執行を監督することなります。これによって、取締役は会社の重要な意思決定と監督機能に集中できます。その一方で、取締役の業務から解放された執行役員は担当業務の執行に専念できるため、たとえて言えば、取締役が執行者を兼務するため会社全体よりも担当部門の利益を優先してしまう、あるいは、取締役会の構成員が多すぎて議論がしづらいといった理由等で取締役会が形骸化する、といった問題に対処できるとされています。
執行役員は指名委員会等設置会社の執行役(402条1項)とは異なり、会社法上「重要な使用人」の扱いとなるため、その選解任は取締役会における決議(362条4項3号)が必要になると考えられています。
ü
取締役会の設置義務(327条1項)
4つの形態の株式会社では取締役会の設置が義務付けられました。その理由は、それぞれで異なります。
・公開会社
公開会社では、発行する株式に譲渡制限がないので、株主がその地位を容易に他に譲渡できるわけで、株主による会社経営への継続的かつ積極的な関与を期待することが困難です。また株主相互の関係が稀薄なものが参加していることからも株主自らではなく、取締役会を設置して業務に関する意思決定や業務執行の監督をさせることが必要となります。
・監査役会設置会社
監査役会を設置する会社では取締役会の設置が義務付けられます。監査役会は最低でも3名の監査役で構成され監査役会に対して、取締役会が置かれていなければ、取締役1名か2名という会社もあると思います。それではバランスが取れません。取締役会を設けないという簡素な経営組織に対して、監査役会という複雑で大がかりな仕組みを置くニーズは生まれるとは考えられません。このため取締役会を設置しない会社には監査役会の設置を認めていません。
・指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社
指名、報酬、監査の各委員会の構成及び権限行使は取締役会と密接不可分であるため、取締役会の設置が当然義務付けられています。
ü
監査役会の設置義務(327条2項、3項)
会社法では、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社を除いた取締役会設置会社及び会計監査人設置会社に監査役会の設置を義務付けています。
取締役会設置会社が監査役会を設置しなければならない理由は、次のようなものです。すなわち、取締役会設置会社では、株主総会の権限が縮小されて(295条2項)、他方で業務執行の決定と監督が取締役会に委ねら、取締役の権限が広くなっています。そこで監査役会を設置して株主の代わりに会計監査及び業務監査を行わせることとしているのです。ただし、非公開会社では、監査役の代用として会計参与を置くことができることにしています。そこで、監査役会を設置すると監査機関が重複してしまうので、監査役会の設置義務を免れています(327条2項)。
会計監査人設置会社に監査役会の設置義務が課されている(327条3項)のは、上記とは別の理由からです。すなわち、会計監査人は会計の専門知識を持った専門家であり、会社の計算書類を監査して、会社の会計処理の適正さを担保することが期待されています。しかし、会計監査人の監査は外部監査であり、監査役の行う内部監査と保管しあう関係にあります。会計監査人が職務を行うに際して、取締役の職務の執行に関し不正行為又は重大な法令・定款違反を発見したときには、遅滞なく監査役に報告しなければならない(397条)とされ、また監査役は職務を行う場合に必要な場合には会計監査人に対して監査に関する報告を求めることができます。また、会計監査人の取締役からの独立性を確保するための役割を監査役は期待されています。そしてまた、会計監査人が適正な監査を行っているかを監査役は監視する役割も担っています。
ü
指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社と監査役(327条4項、6項)
指名委員会等設置会社では監査役を置くことが禁止されています(327条6項)。指名委員会等設置会社は、指名、報酬、監査の3つの委員会を置く会社で、監査委員会は必ず設置されます。監査委員会は業務監査も会計監査も行うものでも監査役との機関の重複が避けられません。もちろん、監査役と監査委員会の機能はまったく同一というわけではありません。たとえば、妥当性監査については監査委員会には期待されますが監査役には権限がありません。監査委員会による監査・監督機能を十分に果たしていれば、監査役の果たすべき役割は、ほとんど残りません。
これは監査等委員会に、監査等委員会があり、指名委員会等設置会社の監査委員会とほぼ同じであるので、同じ理由で監査役の設置が禁止されています。
ü
指名委員会等設置会社と会計監査人(327条2項、3項)
指名委員会等設置会社は大会社でも中小会社でもなることができます。この会社は執行役に広範な業務執行権限が付与されるため、業務執行者に対する監視監督機能を充実させる必要があり、会計監査人による専門的監査が必要であると考えられました。