新任担当者のための会社法
第295条 株主総会の権限
 

 

Ø 株主総会の権限(295条)

最初に株主総会は何かということを簡単に述べておいたほうがよいと思います。会社法等の現在の法的な定義から言うと、株式会社の最高意思決定機関ということになります。「株主」というのは会社の所有者です。株式会社は法人の一種ですが、社団法人とか合資会社とか株式会社以外の法人では「株主」とは言わず「社員」と呼びます。この場合、一般的に会社の社員といえば、従業員、会社法上の言い方では使用人のことを指しますが、法令上では社員=株主です。ですから株主総会は社員総会と言い換えることもできます。株主総会というより、社員総会と言った方が株式会社の最高意思決定機関というイメージを伝え易いのではないかと思います。つまり、法人のメンバーが全員集まって、その総意により重要なことを決めていこうというわけです。

民法上の法人、例えば社団法人のような非営利法人であれば、メンバーである社員が全員で重要事項を決める社員総会、組合であれば組合員全員で決める組合大会が、これにあたります。ある解説書で、政府であれば国会が、これにあたるという説明がありましたが、これは間違いだと思います。国会は全員ではなくて国民から委託された代表者が集まって決めるもので取締役会に近いのではないか、全員で重要なことを決めるということからすれば選挙とか国民投票の方が近いと思います。古代ギリシャのアテネなんかのポリスでの直接民主制で市民全員が集まって重要事項を決めるのが株主総会に近いイメージではないかと思います。(詳しくは別のところで解説していますのでこちらに)

株主総会は株式会社の最高意思決定機関ですから、オールマイティな権限を持っているはずです。つまり、何でも決められる。そして株主総会で決められたことは絶対で、株主も経営者も従わなければならない。それは当たり前のことです。だから、そんなことは法律に、わざわざ断る必要はありません。しかし、実際のところ、規模の大きな会社になれば、株主が集まって全てを決めることは不可能です。そこで、取締役会が実際に経営を任せているわけです。しかし、その任された取締役会としてはオールマイティの株主総会に、いつちょっかいを出されるか分からないとすると、行動しにくい。取締役会に任せたわけですから、口を差し挟むのは控えるべきです。しかし、全部任せると、経営陣が暴走を始めても止められなくなる。もともと会社法の前身である商法には株主総会の権限を限定するような規定はありませんでした。それが1950年(昭和25年)の商法改正によって、現在の会社法で規制されている規制、つまり、株主総会の決議事項は会社の基本事項に限定されるという規定が設けられました。これによって、株主総会は会社の最高の機関であると同時に万能の機関であったのに対して、最高の機関ではあっても万能の機関ではないことになりました。これは株主の権利を制限したというものではなく、会社事業の経営に冠する株主の合理的意思を反映させたものと言われています。つまり、株主は原則として会社事業の経営についての専門知識や経験を有しておらず、したがって業務の具体的内容についてもすべて株主総会で決議ができるとすることは、会社事業の合理的経営の観点からみて適切とは言えず、株主総会の法定決定事項を基本的事項に限って、それ以外の事項の決定については、会社経営の専門家である取締役が構成する取締役会に委ねたということになります。しかし、株主が会社事業の経営に関心がある場合があり、また法定事項でないが総会の権限とすることを求めることもあるので、法定事項でなく、定款で定めることにより、総会の権限とすることができることになっています。このような趣旨から定款で株主総会の権限とする事項にはとくに制限はないと考えられます。それで、取締役会設置会社の場合には、株主総会の権限を限定しているわけです。それが会社法で規定されています。

@株主総会は。この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議することができる。

A前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。

Bこの法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。

ü 取締役会非設置会社の株主総会の権限(1項)

295条は株式会社として意思決定を行う事項のうち、株主総会が決定できる事項の範囲を定めた規定といえます。かといって、株主総会が具体的な事項について決定する権限をいちいち定めているのではありません。そういうことは309条をはじめ会社法のさまざまな個所で規定されています。それに対して、この295条は、株主総会の権限の範囲を一般的に規定したもので、株式会社での株主総会以外の機関(取締役会など)との相互の権限分配のあり方を示しています。

そして第1項は、一般論として株式会社全般を対象にしているように見えますが、第2項が取締役会設置会社を対象とした規定なので、自然と取締役会設置会社以外の株式会社は第2項ではなく、この第1項に従うことになり、実質的には非取締役会設置会社向けの規定内容となっているわけでです。というのも、株式会社である程度以上の規模の会社であれば取締役会を設置しているのが一般的で、むしろ取締役会を設置していないのは、零細な規模の株式会社に限られるからです。

もともと、第1項の規定は会社法制定時に旧商法時代には存在していた有限会社法(制度上、所有と経営を厳格に分離せず、社員総会の法定の決議事項のみならず、業務執行についても決議できた)がなくなって、会社法に統合されたときに、有限会社を引き継いだ小規模の株式会社についての規定を、もともと旧商法にあった内容に新たに追加されたのが、この第1項というわけです。

・取締役会非設置会社の株主総会の決議事項

「この法律に規定する事項」及び「株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」という2種類の事項について、株主総会が決議できると規定されています。

@法定決議事項(「この法律に規定する事項」)

「この法律に規定する事項」というのは、会社法が株主総会で決議することを義務付けている法定決議事項のことです。この法定決議事項について、他の機関が決議をしても無効で、株主総会がその決議と異なる内容の決議することは妨げられません。その内容は、第2項の「この法律に規定する事項」と同じです。

Aその他の決議事項(「株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」)

「株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項」の文言をみていくと、株式会社に関する一切の事項を決議事項とするとなっているので、前半の株式会社の組織、運営、管理その他というのは、その例示の列挙と考えられています。これらの事項は会社法によって株主総会の専属的事項とされているわけではないので、取締役が決定しても無効にはなりません。しかし、株主総会がそのことについて決定した場合は、取締役は従わなければなりません(355条)。つまり、株主総会は、業務執行事項であっても必要に応じて決議を行い、取締役の業務執行に対して指図を行うことができるわけです。

ü 取締役会設置会社の特例(2項)

上で説明した、取締役会設置会社では株主総会の権限がオールマイティではなくて限定されるということを規定しているのが2項で、「株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる」としています。つまり、第1項の取締役会非設置会社の場合とは異なって、取締役会設置会社では法定決議事項から外された事項が自動的に株主総会のれ決議事項から外されることになり、そして法定決議事項ないし定款留保事項以外に株主総会において決議ができなくなるわけです。

それでは、その限定された株主総会が決議できる事項というのは、どのようなものなのでしょうか。それは、それぞれの事項について規定した条文で、これは株主総会の決議を要するというようにバラバラになっていて、ひとつの条文にまとめて、株主総会で決議できる事項が一覧にされているというのはありません。一応、各条文から拾ってきたのをまとめると下のようになります。

@会社の基礎に根本的変動を生ずる事項(定款変更、合併、会社分割、株式交換(移転)、事業譲渡、資本金額の減少等)

A機関等(取締役、監査役、会計監査人等)の選任・解任に関する事項

B計算に関する事項(計算書類の承認等)

C株主の重要な利益に関する事項(剰余金の処分、株式の有利発行等)

D取締役等の専横の危機のある事項(役員の報酬等)

E株主総会の運営に関する事項

※定時株主総会の権限

計算書類の承認、剰余金の配当の決定等(438条、439条、454条)

※第1項の「この法律に規定する事項」と、この第2項の「この法律に規定する事項」は、同じ文言ですが若干内容に違いがあります。それは取締役設置会社の場合、株主総会の機動的な開催は困難な場合が想定されるため、取締役会による意思決定の手続を経ることによって株主の利益保護を図ることが可能です。それゆえに株主総会の権限事項とすべき範囲を限定することが合理的とされています。その一環として、株主総会の法定決議事項が、取締役会非設置会社に比べて取締役会設置会社では取締役会の専属事項になっている事項が少なくありません。以下、その主な例を列記すると、譲渡制限株式の譲渡等の承認(139条1項)、譲渡制限株式の指定買取人による買取の決定(140条5項)、取得条項付株式の取得日の決定(168条1項)、株式の分割に関する事項の決定(183条2項)、株式無償割当に関する事項の決定(186条)、競業取引・利益相反取引の承認(365条1項)

ü 定款の留保(2項)

第2項の規定によれば、株主総会は法定決議事項以外に、その他の事項を定款に定めることにより決議することができる、とされています。それは、株主総会が本来は会社意思決定事項に関するすべての権限を有するという考えによるものです。ただ、より実際的な理由として、ある会社意思決定事項について株主総会で決定する必要が生じた場合、柔軟に対応できるようにしたというものです。これはとくに規模の小さな会社に当てはまる。

・留保の範囲

定款の規程により株主総会の権限として留保できる事項について、295条2項は何の制約も示していません。この趣旨は、各会社の実情に応じて取締役会と株主総会との間での権限の振り分けを認めているということです。ただし29条の許す範囲での留保が可能という限界があることはいうまでもありません。

例えば、取締役の業務執行権限に属する事項、とりわけ裁量的な判断を要する事項です。取締役会設置会社では、専門的な経営者である取締役に経営上の判断を委ねているという制度趣旨からすると、それを頭ごなしに株主総会で意思決定することは、355条に抵触するおそれがあるからです。

また、代表取締役の選定や解職についてもそうです。それは決定権限を株主総会に委ねると、取締役会も代表取締役に対する命令監督権限を実質的に基礎付けている解職させる権限を奪ってしまうことになるのからです。

・定款の留保なく株主総会で決議した場合

定款で株主総会の権限として決められていない事項について、議題や議案が提出され、決議を求められた場合、議題とすることができるのでしょうか。例えば、経営事項について株主提案が提出された場合です。

このような提案を勧告的議案として、ひとまず法的な意味を持たない形で評価し、株主総会の議事の中で処理をするのが現実的な対応と言えなくもありません。しかし、会社法は、このような勧告的議案の運用を想定しているとは言えません。むしろ株主総会の運営上の混乱を招くおそれもあります。

従って、法的には、原則としてこのような議題は株主総会の目的とすることはできず、これに基づく議案も決議の対象とすることはできないと考えられます。しかし、現実に提案された場合に、法的な正当性がないと提案を拒否することなく、株主総会の場で取り上げることは現実的にあり得ます。その場合、そのような事項を株主総会で取り上げたこと自体は、株主総会全体に何らかの瑕疵が及びことになはならない、つまり、この事項に関する場合と他の決議事項とは切り離して取り扱われると考えられています。

ü 法定権限の委譲の無効(3項)

第1項及び第2項で株主総会の権限とされた事柄を、例えば取締役会に権限を委譲して、取締役会の権限とすることは出来ないという内容です。その理由は、権限委譲に関して、株主に合理的な判断を期待することが困難だからです。したがって、株主総会の権限事項について、これが何ら決議することなく、取締役会その他の機関が決議すれば効力が発生するように定款で定めることはできないということになります。

なお、取締役には忠実義務があって、その内容とし、株主総会の決議が妥当でなくても従わなくてはなりません。しかし、違法な決議には従う義務はない(830条2項)のはいうまでもありません。

※第三者の同意

株主総会の権限事項について株主総会が決議した上で、さらに決議の効力発生について第三者の同意や承認をかからせることができるのかが問題となります。

このような場合であっても、株主総会決議は必要であることに変わりはありません。その限りにおいて株主総会の権限を損なうものではないと考えられます。会社法の立案者の見解も、決議の効力の発生を他の機関や第三者の承認に係ら占めることは否定しないということです。

※株主総会の権限事項について株主総会が決議した上で、当該決議の効力発生に一般的な条件や期限を付すことは、第3項による制限を受ける問題ではなく、当該条件や期限が法令・定款や株式会社の本質に反しない限り認められると考えられています。

〔参考〕各機関相互の関係

ア.株主総会と取締役会の関係

株主総会決議事項は、法令・定款で定められた事項に限定されていますが、昭和25年の商法改正以前は、このような株主総会の権限を限定するような規定はありませんでした。この昭和25年の改正によって株主総会の決議事項は会社の基本的事項に限定されることになりました。その結果、株主総会は、それまでは会社の最高の機関であるとともに万能の機関とされていたのに対して、この改正によって、会社の最高の機関ではあるが、万能の機関ではないことになりました。この昭和25年の商法改正は株主総会の権限を縮小することになりましたが、それは決して株主の企業所有権を制限しようとするものではなく、会社事業の経営に関する株主の合理的意思を反映させたもの言えます。すなわち、株主は原則として会社事業の経営については知識・経験を有せず、したがって業務執行の具体的内容についてもすべて株主総会で決議することができるとすることは、会社事業の観点から見て不適当であるので、株主総会の決議事項を基本的事項に限って、それ以外の業務執行に関する事項の決定については、経営の専門家である取締役が構成する取締役会の委ねることにしたのです。しかし、株主が会社事業の経営の関心がある場合があり、また法定事項ではないが総会の権限とすることを要求する場合があるので、法定事項でなくても定款で定めることにより株主総会の権限とすることができるものとしたのです。

イ.取締役会と代表取締役の関係

取締役会は、業務執行に関する意思決定機関であると同時に業務執行に関する監督機関でもあります。取締役会が業務執行に関する意思決定機関であるという事は、株主総会の招集、株式や社債の発行、会社財産の処分、営業所の設置、組織再編等の業務執行に関する決定を取締役会が行うということです。この決定を実行するのは業務執行機関である代表取締役ないし業務執行取締役です。取締役会の、このような権限に関連して、取締役会が業務執行機関である代表取締役に対して、どの範囲で業務執行に関する意思決定を委ねることができるかが問題となります。一方では、業務執行に関する意思決定権が取締役会にあるといっても、日々の営業取引等の日常の業務執行についてまですべて取締役会が決定しなければならないというのでは、取締役会が会議体であることからいっても煩雑であり、またそのような事項の決定は代表取締役に委ねても弊害はない。しかし、他方で、どんな事項でも代表取締役に委ねてもよいということになると、代表取締役の権限が強くなりすぎて、専横的になってしまう可能性が生じ、取締役会による業務執行の監督機能が働かなくなるおそれがあります。そこで、会社法は特定の重要事項の決定については取締役会で決定しなければならないとしています。それが昭和56年の商法改正で明文化されました。

ウ.取締役会と監査役の関係

取締役が業務執行に関する監督機関であることに関連して、そのことと監査役が業務執行に関する監督機関であることの関係が問題となります。取締役会における監督権限は業務執行の適法性だけではなく、その妥当性にも及びます。これに対して監査役の監督権限は適法性監査に限られます。例えば、企業の海外進出に関して、取締役会は、その時期に海外に進出するのが妥当かどうかを判断する権限を有し、それが妥当でないと判断すれば、取締役会として、そのような海外進出の決定をしないことができます。しかしこれに対して、監査役は、その取締役会の決議には参加できません。監査役の権限は著しく不当な場合を含む意味での適法性監査に限られます。このように業務執行に対する取締役会における監督と監査役による監査とでは、その監督ないし監査の範囲が異なり。取締役会の方が監査役より広いというのが違いです。このうち、適法性については取締役会も監査役も同じ適法性であっても、内容的な差異があります。すなわち、監査役はもっぱら業務監査のみをする職務とするものであって、そのために会社法は監査の手段としての様々な権限を与えていて、かつ、その地位の取締役会や代表取締役からの独立性を保障して不安なしに監査を続けることができるようにするためです。それに対して取締役会の構成員である取締役には配慮がなされていないで、実際上は業務担当取締役ないし使用人兼務取締役として、業務執行体制の中に上下の関係で組み込まれているので、一方で業務執行の一翼を担いながら、他方で取締役会の構成員として、取締役会による業務執行の監督を進めるという職務を負っています。


 

関連条文

株主総会の招集(296条)

株主による招集の請求(297条

株主総会の招集の決定(298条)←株主総会招集の決議

株主総会の招集の通知(299条)←株主総会招集の決議

株主総会参考書類及び議決権行使書の交付等(301条、302条) 

株主提案(303条、304条、305条) 

検査役の選任(306条) 

議決権の数(308条) 

株主総会の決議(309条) 

議決権の代理行使(310条) 

書面による議決権の行使(311条) 

電磁的方法による議決権の行使(312条) 

議決権の不統一行使(313条)  

取締役等の説明義務(314条) 

議長の権限(315条) 

延期または続行の決議(317条)

 

 
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