新任担当者のための会社法実務講座
第403条 執行役の選解任
 

 

Ø 執行役の選解任(403条)

@執行役は、いつでも、取締役会の決議によって解任することができる。

A前項の規定により解任された執行役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、指名委員会等設置会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

B第401条第2項から第4項までの規定は、執行役が欠けた場合又は定款で定めた執行役の員数が欠けた場合について準用する。

 

ü 執行役の解任(403条1項)

・取締役会による解任

執行役は取締役会の決議により、いつでも解任することができます(403条1項)。402条2項とあわせて、取締役会が執行役の選解任の権限を有しているということになります。

執行役の解任自体には正当な事由など、事由は問われません。どのような事由に基づくにせよ解任は可能です。これは、いかなる事由に基づくのであれ、取締役会からの信頼を失った執行役に会社の経営を委ねるわけではいかないという考慮から、定められたものと考えられます。402条3項により執行役と会社との関係が委任に関する規定に従うとされているので、委任契約は各当事者が任意に解除できるという民法651条の規定に基づくと考えても、会社からも自由に契約解除できるからというのも根拠としてあげることができます。

そのことを前提に、正当な事由がない解任の場合には解任された執行役は会社に対する損害賠償請求権を有しています(403条2項)。

執行役以外の役員の解任については、役員の解任の訴えの制度(854条)がありますが、執行役の解任については相当するものがありません。執行役以外の役員の場合、その解任権限は株主総会にある(329条1項)ことを前提に、これらの役員について不正行為や法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、多数株主がそのような役員を支持するために解任決議が成立しないというような状況において、裁判所の後見的介入によって解任させることができる方途を残すという趣旨で制度が設けられています。これに対して、執行役は、選解任権限の行使を含め獲得は取締役会の権限となっています(416条1項)。このことから、訴えの制度は設けられていないと考えられます。

・取締役会による解任決議の特別利害関係人

取締役会が解任決議をする対象となった執行役が、取締役と兼任だった場合、その取締役会の決議において、その取締役は特別利害関係人(369条2項)として決議に参加できるのか。参考として、代表取締役を解職する取締役会の決議に、当人は取締役として参加できるかが問題となった裁判例において、特別利害関係人として決議に参加できないと結論づけています(最高裁判決昭和44年3月28日)。その理由として、「代表取締役は、会社の業務を執行・主宰し、かつ会社を代表する権限を有するものであって(中略)、会社の経営、支配に大きな権限と影響力を有」することから、代表取締役の解職を議論するときには、「当該代表取締役に対し、一切の私心を去って、会社に対して負担する忠実意識(中略)に従い公正に議決権を行使することは必ずしも期待しがたく、かえって、自己個人の利益を図って行動することすらあり得る」からだと判示しています。このような判例からは、執行役についても同様に妥当するとして、議決権排除がなされると解されています。

・被解任者への通知

執行役を推認する取締役会決議か成立した時点で執行役と会社との任用契約が終了するのか、この計億の終了には会社からの解除の意思表示ないし通知が必要なのでしょうか。

取締役の解任の場合、株主総会で解任決議が成立した(339条1項)としても、それだけでは取締役と会社の任用契約が終了するわけではなく、会社による解任の意思表示が取締役に到達したときに任用契約が終了することになります。ただし、最近の判例では、代表取締役について解任決議により地位を失うわけだから委任関係も当然に終了すると判示しています。執行役についての裁判例は未だありませんが、これに順ずるものと考えてよさそうです。

ü 執行役が解任された場合の損害賠償請求(403条2項)

・執行役が解任された場合の損害賠償請求

取締役会決議によって解任された執行役は、その解任に正当な事由がある場合を除き、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(403条2項)。取締役会による執行役の解任自体は、どのような事由に基づくにせよ可能ですが、被解任者による委員会設置会社に対する損害賠償請求が一定の場合に認められることで、執行役の利益への配慮がなされていると言えます。

取締役の解任の場合339条2項において、同じように解任された取締役の損害賠償請求権が認められています。これは、取締役解任の自由を保障する一方で、取締役の任期に対する期待を保護し、両者の利益の調和を図る趣旨で、一種の法定責任を定めるものと考えられています。

原則として執行役の場合も同様の趣旨ですが、取締役会の解任権限は株主総会にあるのに対して、執行役の解任は取締役会の権限です。執行役の解任は取締役の職務であり、したがって執行役の解任が不適切に行われた場合、それを行った取締役が任務懈怠責任を問われることになります。取締役の解任は資本多数決型の解任であるのに対して、執行役の解任は業務執行決定型の解任と言われることもあります。その違いは、「正当な事由」の解釈に反映してくることになります。

・被解任者による損害賠償請求

解任された執行役の損害賠償請求権は法定責任として定められているため、会社の故意又は過失を要件とすることなく、請求を提起することができます。この請求を解任された執行役が会社に対して提起する場合、会社を代表するのは監査委員会が選定する監査委員です(408条1項)。

・正当な理由

執行役の解任について正当な理由がある場合、解任された執行役は損害賠償を請求することができない。

まず、正当な理由の主張立証責任の所在について、会社側が正当な理由があることを抗弁として主張立証すべきか、解任された執行役の側が正当な理由なしに解任されたことを請求原因として主張立証するかについて、裁判所では、会社側の抗弁として主張立証することで整理しているとのことです。

そして、正当な理由の内容について、解任された取締役の損害賠償請求(339条2項)の際の正当な理由は、@取締役の職遂行上の法令・定款違反行為、心身の故障、A職務への著しい不適任(能力の著しい欠如、独断的な職務執行)、B経営判断の失敗、などが考えられます。ただし、取締役の解任と執行役の解任は、取締役会による解任のところで触れたように制度の性格が異なるので、取締役を解任する際の正当な理由が、そのまま執行役の解任の場合にも当てはまるとは限りません。そこで、個々に検討していきましょう。

まず、@については正当な理由に該当することに異論の余地はありません。Aについては、どの程度の能力や適性の欠如あれば正当な理由があることになるのかの判断基準が、取締役の解任と、執行役の解任の場合には違ってきます、というのも、執行役の解任は取締役会の決議によるもので、そのことを通じて取締役会による妥当性の監督は不当に制約されるべきではないということから、Aの判断基準については取締役の解任の場合より広く正当な事由を認めるものと考えられています。また、Bについては経営判断の原則から、任務懈怠の場合のみを認めることとされていましたが、これもAの場合と同様に広く認められるように考えられています。

・損害賠償の範囲

この場合の賠償が認められる損害の範囲は、執行役が解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益の額とされています。そのような逸失利益の中心は、解任された執行役の残任期と任期満了時に得たであろう報酬です。なお、これは取締役の解任の際の損賠賠償の範囲と同じと考えられています。

ü 執行役に欠員が生じた場合(403条3項)

執行役に欠員が生じた場合に、欠員を解消するために執行役の選任を会社が怠れば、過料に処せられます(976条)。執行役は取締役会決議によって選任されますが、執行役の欠員という事態が生じ、それが継続することは、実務上、あまり考えられませんが、あり得ないことではありません。そこで、執行役の欠員による会社経営の中断を避けるため、委員の欠員の際の措置(権利義務委員、一時委員)に関する規定を執行役の場合にも準用するのが、この制度です(403条3項)。ただし、補欠の役員に相当する規定は執行役にはありません。この場合規定にはないからといって、補欠の執行役の選任ができないわけではありません。

・任期の満了または辞任により退任した執行役

執行役に欠員が出た場合、任期の満了まは辞任により退任した執行役は、新たに選任された執行役が就任するまで、なお継続して執行役としての権利義務を有します。

定款で執行役の員数が定められている場合に、複数の執行役が任期の満了または辞任によって退任し、その後欠員の一部が補充されたにとどまる場合、退任した執行役の全員がなお執行役の権利義務を有するというのが想定されるケースです。なお、権利義務を継続できるのは、任期満了または辞任により退任した執行役に限られ、その他の事由で退任した執行役に同様の扱いをすることはありません。

この制度によって権利義務を継続した執行役について、退任があっても915条1項に定める登記事項の変更は生じていないものとみなされます。したがって、退任の登記変更は、この時点では行わず、新たに執行役に就任するものの就任登記と同時に行うことになります。

・一時執行役

執行役に欠員が生じた場合に、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申し立てにより、一時執行役を選任することができます。

一時執行役の選任申立事件は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属し(868条1項)、利害関係人には、株主、取締役、会計監査人、従業員、債権者などが該当しますが、会社自身は該当しません。一時執行役の選任について申立人等の審問をすることは、法律上要求されません。一時執行役の選任の決定に対しては、申立人に限り即時抗告をすることができます。一時執行役が選任された場合、裁判所の嘱託によって登記がなされます(937条1項)。裁判所は一時執行役を選任した場合には、会社がそのものに支払う報酬の額を定めることができます。一時執行役の報酬の決定について、裁判所は、会社及び一時執行役の陳述を聴かなければなりません(870条1項)。一時執行役の報酬の額の決定に対しては、会社及び一時執行役に限り即時抗告をすることができます(872条)。

 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条) 

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条)  

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条)  

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)  

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

  株主による執行役の行為の差止め(422条)   

 
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