新任担当者のための会社法実務講座
第372条 取締役会への報告の省略
 

 

Ø 取締役会への報告の省略(372条)

@取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない。

A前項の規定は、第363条第2項の規定による報告については、適用しない。

B指名委員会等設置会社についての前2項の規定の適用については、第1項中「監査役又は会計監査人」とあるのは「会計監査人又は執行役」と、「取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)」とあるのは「取締役」と、前項中「第363条第2項」とあるのは「第417条第4項」とする。

取締役、会計参与、監査役または会計監査人が取締役(監査役設置会社においては監査役を含む)全員に対し、取締役会に報告すべき事項を通知することにより取締役会への報告を要しないこととされています(372条1項)。取締役解の決議の省略と違い、取締役会の報告の省略については定款に規定する必要はなく、また、通知を受けた取締役の同意も要求されていません。

これは、会社運営の簡易化、弾力化のために、会社法において新設された制度です。取締役会の決議及び報告の省略の制度を用いて、全く取締役会を開催しないことは認められておらず、業務執行取締役による3ケ月に1回以上の取締役会に対する業務執行状況の報告(363条2項)は、実際に取締役会を開催して行う必要があります。つまり、取締役会設置会社は、3ヶ月に最低1回以上は取締役会を開催する必要があることになります。また、「3ヶ月に1回以上」と定めているので、報告から次の報告までに3ヶ月を超えてはならないのであり、4半期に1回取締役会を開催すれば足りるということを意味するものではないとされています。 

ü 取締役等の同意

取締役会への報告の省略については、取締役(監査役設置会社においては、取締役及び監査役)全員の同意を要する旨の規定はありません。これらの者の全員に対して、取締役会に報告すべき事項の通知をしたという事実により、取締役会に対する報告を省略することが認められるということです。株主総会への報告の省略の場合(320条)とは異なり、取締役会への報告の省略について、取締役会への報告があったものとみなす旨の規定は設けられていません。取締役会への報告の省略がなされている場合において、取締役または監査役が、取締役会で報告事項について審議する必要があると認めるときは、取締役(または監査役)は、その職責として、招集権者に対して、取締役会の招集を請求することができます。したがって、株主総会における株主の場合と異なり、取締役の同意を得る必要は特にないと解されていると言えます。

※株主総会への報告の省略

株主総会については、事実上、株主全員に対して、報告が通知されたことをもって、ただちに報告の省略が認められるわけではありません。決議の省略の場合と同様、株主の全員が書面等により、報告の省略について同意することが求められている。取締役が、株主全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことについて、株主の全員が、書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときに限り、当該事項が株主総会への報告があったものとみなされます(320条)。

株主総会の報告事項については、株主総会を開催してそこで報告し、株主がそれに対して質問することが予定されており、株主の同意には、株主総会における質問権ないし質疑討論の機会を放棄するという意味があります。

ü 報告事項

取締役は、競業取引または利益相反取引を行ったときは、当該取引後遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。監査役は、取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をするおそれがあると認めるときは、または法令・定款に違反する事実または著しく不当な事実があるあると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告しなければなりません(382条)。これらの報告の省略が認められていますが、これに限定されることなく、広く一般的に、取締役、会計参与、監査役、会計監査人、または、執行役が、職務の遂行上、取締役会に報告すべき事項が生じた場合において、当該報告を省略することが認められるのです。

代表取締役及び業務執行取締役は、3ヵ月に1回以上、自己の職務執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(363条2項)。この業務執行取締役の定期的な職務執行状況報告については、372条による報告の省略は適用除外となり、現実に取締役会を開催して、報告しなければなりません(372条2項)。これは第1に、業務執行取締役の職務執行状況の報告が、取締役会の監督権限にとって重要であることを理由としますが、むしろそれ以上に、この報告義務に仮託して、3ヵ月に1回以上は、現実に取締役会を開催することが求められていると解されています。

ü 議事録

取締役会決議の省略(書面決議)の場合は、同意の意思表示を記載・記録した書面等(同意書面)が、本店に備え置かれ、株主等の閲覧等に供せられるとともに、書面決議の議事録も別途作成され(会社法施行規則101条4項)、本店に置いて備え置かれ、株主等の閲覧等に供せられます(371条)。これに対して、取締役会への報告の省略の場合は、報告を受けるべき取締役等の同意は要求されておらず、決議の省略の場合のような同意書面はありません。したがって、取締役会に報告されるべき事項について、報告に代わる措置がとられたことを明らかにすることが強く求められます。そこで、会社法施行規則101条4項2号は、取締役会への報告を要しないとされた場合においても、当該取締役会の議事録を作成するものとして、取締役会への報告を要しないとされた事項の内容、取締役会への報告を要しないとされた日(取締役の全員に対して、報告事項が通知された日)、議事録の作成を担当した取締役の氏名を記載しなければなならないと規定しています。

ü 指名委員会等設置会社の特則(372条3項)

指名委員会等設置会社の取締役会への報告の省略については、監査役がおらず、他方、執行役制度が設けられているため、取締役会への報告をなすべき者が、「取締役、会計参与、監査役又は会計監査人」ではなく、「取締役、会計参与、会計監査人又は執行役」となり、「取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)」の括弧書は不要となります。また、363条2項所定の業務執行取締役り職務執行状況報告が、417条4項の執行役の職務執行状況報告となります。

関連条文

取締役会の権限等(362条) 

取締役会設置会社の取締役の権限(363条) 

取締役会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(364条)

競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条) 

招集権者(366条) 

株主による招集の請求(367条) 

招集手続(368条) 

取締役会の決議(369条) 

取締役会の決議の省略(370条) 

議事録等(371条) 

特別取締役による取締役会の決議(373条) 

 
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