新任担当者のための会社法実務講座
第327条の2 社外取締役の設置義務
 

 

Ø 社外取締役の設置(327条の2)

監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは,社外取締役を置かなければならない。

 

ü 令和元年会社法改正による社外取締役選任義務づけ

令和元年の会社法改正により、公開会社でありかつ大会社である監査役会設置会社(指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社では、2人以上の社外取締役を置くことが、すでに義務付けられている(331条6項、400条1項)ので、監査役会のみが対象となります)であって、有価証券報告書を提出する義務を負う会社(以下「上場会社等」という)は、社外取締役を置くことを義務づけられました。これに違反した場合には過料に処せられます(976条19号の2)。なお、この会社法改正に伴い、前回の平成26年の会社法改正によって導入された、上場会社等が社外取締役会を置いていない場合に定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明する義務を取締役に負わせる旨の規定は削除されました。

〔参考〕平成26年改正会社法における会社法327条の2

Ø 社外取締役を置いていない場合の理由の開示(327条の2)

業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。

この改正の背景として、日本の資本市場の信頼性を確保するために、上場会社等で社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信する。社外取締役による監督機能を重要視する方向性を分かりやすいメッセージとして示すことを目的とした改正であった、ということができます。社外取締役には、少数株主を含むすべての株主に共通する株主の共同の利益を代弁する立場にある者として会社経営の監督を行い、また、経営者あるいは支配株主と少数株主との利益相反の監督を行うという役割を果たすことが期待されています。日本再興戦略の一環でもあり、資本市場の担い手である機関投資家や取引所の関係者などからは、コーポレート・ガバナンスを実効的に機能させ、資本市場が信頼させる環境を整備するための重要な要素として、上場会社には最低条件として社外取締役を置くことを義務付けることが求められてきました。そこで、改正会社では、資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等について社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信するために、上場会社等に社外取締役を置くことを義務付けるようになったということです。

少なくとも上場会社では、ほとんどの会社で1名以上の社外取締役が選任されているので、この条文によって社外取締役の選任が新たに必要となる会社はそれほど多くないのが実際のところでしょう。東京証券取引所の上場規程は、上場会社に1名以上の独立役員を確保することを義務づけています(東京証券取引所の上場規程436条の2)。また、コーポレートガバナンス・コードでは、上場会社は独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべき(原則4−8)とされていて、この内容を満たさない場合は、その理由を公表しなければならないとされています。実際のところ、社外取締役が1名にとどまる上場会社は少なくありません。これらの会社では、通常の場合には、この条文は問題なることはありません。しかし、1名しかいない社外取締役が欠けてしまった場合の対応が問題となってきます。

ü 社外取締役を欠いた場合の対応

上場会社等が社外取締役を選任しなかった場合には過料に処せられることになりますが、社外取締役が1人選任されていた会社で、1人しかいない社外取締役が任期中に退任してしまった場合には、社外取締役を欠くことになった場合には、条文に規定はありませんが、「遅滞なく」選任しない場合には、同じように過料に処せられると解されていると考えられます。

具体的に、どの程度の期間内に選任すれば「遅滞なく」合理的な範囲内に選任したと言えるかについては、その会社の候補者の選定の状況等を考慮して、選任のための臨時株主総会を開催するために、どの程度の期間を要するかなどといった、個別具体的な事情により異なると考えられています。適切な社外取締役を選任するためには、その候補者の選定にも一定の時間を要するのは当然のことと考えられます。かえって拙速な選定は企業価値向上に資さないおそれがあります。したがって、候補者の選定も含めて真摯に選任に向けた手続きを進めていれば、遅滞なく、合理的な期間内に選任をしたと言ってよいものと考えられます。

ü 社外取締役を欠く取締役会決議の効力

社外取締役に欠員が生じている状態でなされた取締役会決議の効力について、改正案の検討時では、「社外取締役が欠けた場合であっても、遅滞なく社外取締役が選任されるときは、その間にされた取締役会の決議は無効とならないと解釈することができる」と議論されていました。しかし、この議論には疑問の余地が残るとされていました。

ここでは、解釈論として社外取締役を欠くということは取締役会構成の瑕疵がただちに取締役会決議の瑕疵と直結するものではないと考えられます。そうであれば、取締役会決議における瑕疵の重大性を検討することを通じて、社外取締役の欠員が一時的なものである場合には、決議における瑕疵が軽微であるとして決議の有効性をいじすることも可能だと考えられることができます。つまり、問題とすべきは決議における瑕疵の重大性であって、取締役会構成における瑕疵の重大性ではありません。

したがって、社外取締役に欠員が生じている状態でなされた取締役会決議の効力を考えるに際には、決議における瑕疵の重大性を検討すべきで、そこで中心的に考慮すべき要素は、有効性が問題となっている個々の決議において、社外取締役が不在であることがどの程度重要視されるべきかという点にある。言い換えれば、社外取締役に期待される機能からみて、その不在が決議の有効性を失わせるような問題といえるかということです。

ü 社外取締役を選任しない株主総会決議の効力

上場会社等で株主総会を通じて取締役を選任するに当たり、社外取締役を1人も選任しなかった場合に、その株主総会における取締役選任決議の効力をどのように解すればよいかということです。具体的には次の場合に分けて考えることができると思います。

・会社が意図的に社外取締役候補者を取締役選任議案として用意しなかった場合

改正会社法327条の2に基づき上場会社等は少なくとも1人は社外取締役が置かれるように社外取締役候補者を取締役選任議案として提出する義務を負います。それゆえ、そのような議案を株主総会に提出しなかったという手続違反の点をとらえて、株主総会における取締役選任決議については、招集手続きの法令違反が認めるられ、したがって831条による決議取消自由にあたると考えられます。

・会社は社外取締役候補者であると考える者を取締役選任議案として用意し、その者が取締役として選任されたものの、実際には決議の時点で社外性を欠いていた場合

社外取締役候補者は株主総会参考書類に社外取締役の候補者である旨等が記載されることになっているので、決議の時点で実際には社外性を欠いていた場合には、参考書類に虚偽の記載が含まれているとみなされる可能性が高く、その社外取締役の選任決議については招集手続の法令違反を理由に決議取消自由にあたる可能性が高いと考えられます。

ただし、同時に選任された他の社外取締役以外の取締役候補者の選任決議については瑕疵はないと考えられます。会社としては、社外取締役1名を含む取締役選任議案を提出する義務は果たしていると考えられるからです。

・会社が用意した社外取締役候補者の取締役選任議案が株主総会で否決された場合

社外取締役候補者の取締役選任議案を株主総会に提出している以上、改正会社法327条の2との関係で会社として果たすべき義務は果たしていると考えられます。社外取締役候補者の取締役選任議案が株主総会で否決され、社外取締役が欠けたとしても、会社にはすやかに社外取締役を補充するための措置をとる義務があることは当然ですが、株主総会における取締役選任決議については、招集手続に法令違反はないと考えられます。

ü 経過措置

改正附則

第5条(社外取締役の設置義務等に関する経過措置)

この法律の施行の際現に監査役会設置会社(会社法第2条第5号に規定する公開会社であり、かつ、同条第6号に規定する大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものについては、新法第327条の2の規定は、この法律の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは、適用しない。この場合において、旧法第327条の2に規定する場合における理由の開示については、なお従前の例による。

この改正会社法の施行の際に、上場している大会社で監査役会設置会社で、有価証券報告書を提出している会社は、改正会社法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までに、適用されないものとされています。というのも、このような会社で社会取締役を置いていない場合は、社外取締役を確保する必要があります。しかし、そのためには、一定程度の時間的余裕が必要です。また、この327条の2の規定をただちに適用してしまうと、社外取締役を選任するための臨時株主総会を開催しなければならず、しかも、その臨時株主総会で社外取締役を選任するまでの間は、法令違反の状態であることになるなど、実務に混乱が生ずるおそれがあります。このような経過措置によって、改正法の施行の際に、臨時株主総会を開くことなく、その事業年度の定時株主総会において社外取締役を選任すればよいことになります。

他方で、これらの会社については、改正前の社外取締役を置くことが相当でないことの理由の説明は、改正会社法の施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結の時までは必要とされていますので、注意が必要です。これが経過措置です。

また、改正法の施行後に株式を上場する場合には、改正法の施行日には前記会社に該当していなかった会社が施行後に該当することになったので、前記の経過措置の適用はなく、該当することとなった日において社外取締役の選任が義務づけられることとなるため、あらかじめ社外取締役を選任するなどして対応して必要があります。

 


 

関連条文

主総会以外の機関の設置(326条) 

取締役会等の設置義務等(327条) 

大会社における監査役会の設置義務(328条) 

 
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