新任担当者のための会社法実務講座 第367条 株主による招集の請求 |
Ø 株主による招集の請求(367条) @取締役会設置会社(監査役設置会社及び委員会設置会社を除く。)の株主は、取締役が取締役会設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがあると認めるときは、取締役会の招集を請求することができる。 A前項の規定による請求は、取締役(前条第1項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の目的である事項を示して行わなければならない。 B前条第3項の規定は、第1項の規定による請求があった場合について準用する。 C第1項の規定による請求を行った株主は、当該請求に基づき招集され、又は前項において準用する前条第3項の規定により招集した取締役会に出席し、意見を述べることができる。
取締役会設置会社の株主総会の権限は、取締役会非設置会社の株主総会の権限とは大きく異なります。取締役会非設置会社の株主総会は、会社の組織、運営、管理その他株主機械者に関する一切の事項について決議することができるものです(295条1項)。これに対して、取締役会設置会社の株主総会は、会社法が規定する事項に決議することができる事項が限定されています(295条2項)。このように、取締役会設置会社では、株主が経営事項に関与することを原則として排除して、取締役会が機動的弾力的に経営の基本方針を決定することにより、所有と経営の分離を図っています。取締役会設置会社では、原則として取締役の職務執行の監督を行う監査役を置くこととされています(327条2項)。一方、非公開会社では取締役会が設置されても、所有と経営が未分離な場合が少なくありません。このため、株主自らが取締役の業務執行の監督を行うことが可能であるとして、機関構成を柔軟化することが認められています。それが、監査役のいない取締役会設置会社という機関形態です。取締役の職務執行を全般的に監査する監査専門機関である監査役が存在しないので、株主の利益保護のための代替機関として、取締役の職務執行に係る株主の監督是正権が拡充されました。そのひとつが株主による取締役会招集請求権(367条)です。 ü
取締役会の招集請求権(367条1項) 指名委員会等設置会社以外で監査役設置会社でない会社の株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為もしくはこれらの行為をする恐れがあると認めるときは、取締役会の招集を請求することができます(367条1項)。 ※監査役の招集請求権との違い 株主と監査役の取締役会招集請求権の間には、2点の相違が認められます。 第一に、この請求権発生事由が、株主による取締役の行為の差止請求権の要件(360条1項)に対応するということです。会社法は、監査役について、次のように招集請求事由を拡充しました(382条、383条2項)。すなわち、監査役は、取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、または法令・定款に違反する事実、もしくは著しく不当な事実があると認められるとき、取締役会に報告しなければならず、その場合において、必要があると認めるとき、取締役会の招集を招集することができます。監査専門機関である監査役の取締役会への報告義務については、必ずしも、監査役による取締役の違法行為差止請求権の範囲と連動させる必要はなく、それを拡充することが妥当と考えられ、同じように監査役の取締役会招集請求権の要件も緩和されています。これに対して、株主は、報告義務を有するわけでなく、また、濫用の危険もあり、その取締役会招集請求権の要件は、株主の差止請求権と連動させられているというわけです。 第二に、株主による取締役会の招集請求権の要件としての法令・定款違反の具体例として、目的範囲外の行為が例示されています。また、法令・定款に違反する行為をするおそれがあると認めるときにも、招集請求をすることができます。監査役の招集請求事由には、法令・定款に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、含まれていません。株主による取締役会の招集請求権は、取締役会に違法行為の事実を知らせて、取締役会による適切な監督権限の発動を促すことを目的とするためです。 ü
取締役会の目的事項(367条2項) 株主による取締役会の招集請求は、当該株主が審査対象とすることを求める取締役会の目的である事項を示して、取締役(招集権者を定めた場合は招集権者)に対して請求します(367条2項)。 少数株主による株主総会の招集請求については理由を示すことを求められています(297条1項)が、株主による取締役会招集請求では理由を示す必要はありません。また、取締役により招集請求事由には制限はないのに対して、株主による取締役会招集請求は、監査役による請求と基本的に同様に、取締役の違法行為の存在ないしそのおそれを取締役会に報告し、意見を述べることにより、取締役会の監督権限の発動を促すことを目的とするものです。なお、監査役は招集請求の際に理由も目的である事項も示す必要がありません(383条2項)。監査役は職務として取締役の職務執行を監査し、その一環として取締役会の招集請求があります。これに対して、株主は、自らの利益を守るために、権利として、取締役会の招集請求が認められています。そこで、株主の濫用的ないし不適切な権利行為を防止するため、目的事項を示すことが求められていると考えられます。したがって、株主が招集請求の際に示す目的事項は、抽象的一般的な取締役の違法行為の報告といったものでは不十分であり、ある程度具体的な事項を示さなければなりません。 株主による取締役会の招集請求の方法は、とくに定められていませんが、株主としては、書面または電磁的方法により招集請求をすることが合理的と言えます。 ü
株主による取締役会の招集(367条3項) この招集請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を開催日とする招集通知が発せらない場合は、請求した株主は自ら取締役会を請求することができます(367条3項)。 株主が取締役会を招集する場合にも、368条1項の規定に従って招集通知を発出しなければなりません。原則として、取締役会の日の1週間前までに、各取締役に対して招集通知を発出しなければなりません(368条1項)。取締役全員の同意があるときは、招集手続きを省略できる旨の規定の適用は除外されていません(368条1項)が、すでに一人の取締役が招集請求を拒否しているので、実際にはできないでしょう。 この招集通知には、株主が招集する者であることを明らかにしなければなりません。さらに、当該株主が示した取締役会の目的事項を示す必要があります。実際の招集通知の目的事項の記載は「取締役の違法行為の報告」といった一般的なものとなると言えます。 ü
株主の取締役会への出席と審議方法(367条4項) 株主が取締役会の招集請求をした場合において、株主は、その請求に基づいて招集された取締役会、または、適時に招集されなかったために株主自身が招集した取締役会に出席し、意見を述べることができます(367条4項)。株主が取締役会の招集請求をした場合において、株主は、その請求に基づいて招集された取締役会、または、適時に招集されなかったために株主自身が招集した取締役会の議事録には、それぞれその旨が記載・記録されます(会社法施行規則101条3項)。さらに、株主が意見を述べた時は、その内容の概要についても記載・記録されます(会社法施行規則101条3項)。 株主は、自らが示した取締役会の目的事項に関連して意見を述べることができるにすぎません。株主は、出席し意見を述べるだけで、取締役会の構成員となったわけではないからです。したがって、その議題の審議が終了したときは、取締役会に出席する権利が消滅すると考えられます。
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