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第365条 競業及び 取締役会設置会社との取引の制限 |
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競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条) @取締役会設置会社における第356条の規定の適用については、同条第1項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。 A取締役会設置会社においては、第356条第1項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
【参考】356条「競業及び利益相反取引の制限」 @取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。 一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。 二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。 三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。 A民法第108条の規定は、前項の承認を受けた同項第2号の取引については、適用しない。
取締役の競業取引ならびに取締役と会社間の利益相反取引は356条1項により株主総会の承認を受けなければならないと規定されています。これに対して、とくに、取締役会設置会社では、これらの取引の承認を株主総会ではなく、取締役会の承認で済むとしている特則です。 ü
取締役会の承認(365条1項) ・承認を株主総会から取締役会に移した理由 取締役会設置会社では、取締役会は、会社の業務執行の意思決定機関であるとともに、取締役あるいは執行役の職務の執行を監督する機関でもあります(362条2項、416条1項)。競業取引や利益相反取引の承認を株主総会ではなく取締役会の承認とする理由は、まず第一に、会社の利益を害するおそれが類型的に大きいと認められる競業取引と利益相反取引に対する取締役会の監視機能を適切に発揮させることを図っているからです。第二に、競業取引は今日的には子会社等を通じての事業展開など会社自身の経営政策の一環として行われることが多く、利益相反取引は会社が当事者である取引である点で、業務執行の意思決定としての面があるからです。なお、指名委員会等設置会社では、取締役や執行役の競業取引取締役・執行役と会社との間の利益相反取引の承認が、取締役会の専決事項とされている(416条4項)、上述の第一の理由を重視したためと考えられます。 ・承認手続 競業取引と利益相反取引に対する取締役会の承認決議において、その競業取引を行なおうとする取締役、会社と直接取引を行なおうとする取締役、および間接取引について会社と利益が相反する関係にある取締役は、特別利害関係人に該当し、議決に参加することはできません(309条2項)。ただし、それらの取締役は、取引についての重要事実を取締役会に開示し、あるいは取締役会が意思決定をするために必要な説明をしなければならないから、取締役会には出席しなければならない、質問があれば答えなけれはない。 なお、利益相反取引が同時に会社にとって重要な利益の処分・譲受けや多額の借財に当たる場合もあります。その時、取締役会設置会社では、利益相反取引の承認の他、重要な財産の処分等に関する取締役会決議も必要になってきます。この時、二通りの承認を同時に行おうとするとき、利益相反取引と重要財産の処分等は、取締役会に開示すべき事項や審議内容が同じではないので、注意が必要です。 ・株主全員の合意をもって取締役会決議に代えられるか 取締役と会社間の利益相反取引の効力が問題となった事例で、利益相反取引規制は、会社=株主全員の利益保護のための規制であることから、株主全員の合意があれば、取締役会決議がなくても、取引を有効なものとしてよいとするのが判例(最高裁判決昭和49年9月26日)の立場で、学説も賛成しています。 ü
取締役の報告義務(365条2項) 取締役会の承認を受けていたか否かにかかわらず、競業取引・利益相反取引を行った取締役は、取引後遅滞なく、その取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。この報告をしなければならない取締役は、取引をした取締役は、直接取引の相手方である取締役および間接取引を会社を代表していた取締役です。この報告義務を怠った取締役には過料の制裁が科せられます(976条23号)。 報告義務は、取締役会が、競業取引・利益相反取引が行われた場合の事後的なチェックを行い、取締役に対する責任追及その他の措置を適切に講じことができるようにするために定められたものです。取締役会の承認を受けた競業取引・利益相反取引であれば、実際に行われた取引が承認を受けた範囲内にとどまっているかどうかを明らかにするとともに、その取引が会社にどのような影響を及ぼすものであるかを評価して対策を検討する資料を取締役会に提供することが目的です。他方で、取締役会の承認を受けていなかった競業取引・利益相反取引では、取引の内容や取引に至る経緯などを報告させることにより、取締役に対する責任追及や取引の無効の主張を行うかどうかの判断材料を取締役会に提供することも目的です。報告の対象となる事実の重要性は、このような報告義務の趣旨から判断されることになります。取締役の報告義務違反、このような会社の判断を誤らせ、会社に損害を及ぼしたときは、取締役には損害賠償責任が生じます(423条1項)。 競業取引・利益相反取引の報告義務は、個別的な取引を念頭に置かれているので、各取引が行われた後で遅滞なく報告しなければなりません。また、同種の取引が継続的に行われる場合や包括的な取引の承認の場合には、個々の取引が行われるたびに報告を行う必要はなく、報告はある程度のインターバルで定期的に行えば足りるととされています。 ü 競業取引の規制(356条1項1号、365条1項) @競業取引規制の内容 ・競業避止義務 取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとする時は、その取引についての重要な事実を開示して、承認を受けなければなりません。この規定は、取締役の競業が会社のノウハウ、顧客情報等を奪う形で会社の利益を害する危険が高いので、予防的・形式的に規制を加えたものです。したがって、たとえ競業の要件に当たらなくても、取締役が営業秘密を利用して私利を図る等で会社に現実に損害を生じさせた場合には、取締役の忠実義務違反の責任が生ずるということはあり得るということです。取締役会設置会社の場合には取締役の承認となります(365条1項)が、取締役会設置会社以外の株式会社では株主総会の普通決議による承認ということになります。 なお、監査役は、この規制の対象外です。 ・競業取引規制の内容 競業をなすにつき承認を得なければならない「取締役」には、業務執行に関与する代表取締役のたは代表取締役以外の業務執行取締役会のみならず、すべての取締役が含まれます。 「会社の事業の部類に属する取引」(競業)とは、会社が実際に行っている取引と目的物(商品・役務の種類)及び市場(地域・流通段階等)が競合する取引です。なお、「会社の事業の部類に属する取引」について、法令の通常の用語法によれば、会社の定款所定の事業目的に該当する取引を指す(商法509条1項)ことになります・しかし、定款所定の事業でも、現在会社が全く行っていない事業に属する取引を承認しなければならないとすることはないですし、他方で定款には今だ所定されていないが、会社が進出を企図し市場調査を進めている事業は対象にしなければなりません。また、会社の取り扱っている商品と完全に一致する必要はなく、それと同種あるいは類似の商品を取り扱うことも含まれます。また、「取引」には、販売・仕入の両方を含み、例えば、ある商品の製造・販売を目的とする会社であれば、その原材料を購入する取引も競業となりえます。 「自己または第三者のために取引しようとするとき」とは、取締役が自分自身の名前もしくは第三者の名前で行った取引というのではなく、その行為を行った取締役もしくは第三者がその行為によって利益を受けるということを指します。たとえば、取締役が会社の名前で取引し、その結果得られた利益がその取締役自身または第三者の桃になる場合が、これに当たります。 「第三者」とは、通常、他社の代表取締役を指します。 「重要な事実」とは、取締役会がその競業取引によって会社が損害を受けないかどうかを判断するために必要な事実のことです。単発の取引であれば相手先、目的物、数量、価格、履行期等を指しますが、競業会社の代表取締役に就任する等のため包括的な承認を得る場合であれば、その会社の事業の種類、規模、取引範囲等を開示すべきことになります。 取締役会の承認は、必ずしも個々の取引についてである必要はなく、取引の対象、頻度などを開示した事実から、会社に損害を生じないと判断することが可能な範囲では、包括的に受けることも可能です。取締役会が事後的に追認することも可能ですが、事後の承認については、事前に承認を得るのに事後に承認したような場合には、その行為による善管注意義務違反の責任を問われる可能性が、事前に承認を得た場合に比べて大きくなることは否定できません。追認の可否については取締役の責任問題になるので注意が必要です。 A競業取引における報告義務・説明義務 ・取締役会への報告義務(365条2項) 取締役会設置会社では、競業取引を行った取締役は、遅滞なく、取引について重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。取締役がその取引をするについて取締役会の承認を受けていない場合だけでなく、取締役会の承認を受けていた場合にも、報告義務があります。これは、監督機関としての取締役会及びそれに出席する権利を有する監査役が、実際に為された取引が承認された範囲に属するかどうか、その取締役に忠実義務がないかを判断し、会社に損害を生ずる可能性がある時はそれに対する処置を講ずる機会をあたえるためです。 なお、報告義務違反には過料の制裁があります(976条23号)。 ・開示義務(会社法施行規則128条2項) 競業取引については、事業報告の附属明細書に取締役の兼務の状況を開示しなければなりません(会社法施行規則128条2項)。監査役の重要な監査の対象であり、株主総会での説明義務の範囲に含まれています。 B競業取引規制の効果 ・取締役会の承認の効果(取締役会の承認受けてなされた場合) 取締役会の承認を受けたにもかかわらず競業取引によって会社に損害が生じた場合には、その協業取引をした取締役は当然のこととして、それだけでなく取締役会で承認することに賛成した取締役も、その賛成したことについて善管注意義務違反(会社に損害が生じないと判断するについての善管注意義務違反)があれば、会社に対して損害賠償責任を負うことになります(423条)。取締役は、会社に損害を生じることが取締役に社会通念上要求される注意をもってしても予測することができなかった場合に、はじめて責任を免れることになるります。取締役会の承認が必要であることの意味は、このように承認した取締役が善管注意義務違反による損害賠償責任を負うことにあり、これによって、安易な承認をしないことが期待されています。 もっとも我が国では、競業承認は取締役を系列会社(合弁企業等)に代表取締役として派遣する等の正当な事業目的に基づきなされることが多いので、結果的に会社に損害が生じたからといって、簡単に競業取締役または取締役会において承認を与えた取締役の善管注意義務違反を安易に判断できないところもあります。 ・違反の効果(取締役会承認を受けずになされた場合) 取締役会の承認を受けずになされた競業取引についても、その行為の効力自体は否定されません。取引の効力を否定すると、規制の対象とされなていない相手方が、この規制によって不利益を受けることになり、不都合となるからです。 取締役会の承認なしに競業取引をしたときは、その行為をした取締役は損害賠償責任を負うことになる(423条1項、356条1項1号)ほか、解任請求の対象にもなり得ます。会社法では、会社側の損害額の立証の困難さを排除するため、取引により取締役もしくは執行役または第三者が得た利益の額を会社が蒙った損害の額と推定することとされます(423条2項)。したがって、違反行為をした取締役において、会社の損害がその違反行為と因果関係のないこと、または取締役もしくは第三者が得た利益より少ないことを立証すれば、責任を免れ、または責任を減ずることができ、逆に損害を受けた会社側もその蒙った被害がその利益より大きいことを立証して、それ以上の損害賠償を求めることも可能です。 C競業避止義務に類似する問題 ・会社の機会の奪取 会社が関心を持つはずの新規事業機会等を取締役が自己の事業にしてしまうことが、同人の会社に対する忠実義務違反となることがあり、「会社の機会」の奪取といわれます。取締役がその職務上知り得た外部情報を会社に無断で自己の事業にする場合等が、その典型例です。 問題は、取締役が個人の資格で得た情報等をどこまで会社に提供せねばならないかです。これは、忠実義務よりむしろ取締役の善管注意義務の一環として会社の新規事業の開発等に努める義務がどこまであるかの問題といえますが、会社が上場会社等か閉鎖型か、及びその取締役の社内的立場等により、その義務の程度は異なると解すべきでしょう。 ・退任予定の取締役による従業員の引抜き 退任後に会社と同一または類似の事業を開始することを企図する取締役が、在任中に部下に対し退職して自己の事業に参加するよう勧誘することが、取締役の忠実義務違反となることがあります。問題は忠実義務違反が成立する要件であり、在任中に部下に対し退職勧誘をすれば当然に義務違反になると解する見解がありますが、そうではなく、取締役と当該部下との従来の関係等諸般の事情を考慮の上不当な態様のもののみが義務違反になると解すべきでしょう。 ・退任後の競業禁止特約 取締役の退任後の競業は、原則として自由です。退任後の競業を禁止する取締役・会社間の特約は、取締役の職業選択の自由に関わるので、取締役の社内での地位、営業秘密・得意先維持等の必要性、地域・期間等の制限内容、代償措置等の諸要素を考慮し、必要・相当性が認められる限りにおいて公序良俗に反せず有効と解すべきでしょう。 ü 利益相反取引の規制(356条1項2号、3号、365条1項) @利益相反取引規制の内容 ・利益相反取引回避義務 取締役会設置会社では、取締役は、自己または第三者のために会社と取引をしようとするとき(直接取引)および会社が取締役の債務を保証することその他の取締役以外の者との間において会社とその取締役の利益が相反する取引をしようとする時(間接取引)は、重要な事実を開示して、取締役会の承認を受けなければなりません(365条1項)。取締役会設置会社以外の株式会社では株主総会の普通決議による承認ということになります。 この規定は、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己の田は第三者の利益を図ることを防止する趣旨で設けられたもので、忠実義務がこの規制の根拠になっているので、忠実義務を負担していない監査役に対しては、利益相反取引規制は存在しないと言えます。 ・利益相反取引規制の内容 利益相反取引は、上述のように大まかに言って「直接取引」と「間接取引」の2種類に分けられます。 ●直接取引 直接取引については、取締役会の承認があれば、民法108条で規定されている自己契約または双方代理に当たる場合でも、取引をするでも、取引をすること自体は禁止されません(356条2項)。 この規定は、取締役が自己または第三者の利益を図って会社に損害が生じることを防止するためのものですから、直接取引と言っても、取締役の会社に対する負担のない贈与はもちろん、運送契約・保険契約・預金契約・定価による売買契約の締結など、定型的な取引であって、会社に損害が生じる可能性のない取引は含まれない。つまり事前の承認を得る必要がないと解されています。ただし、定型的で会社に損害を与える取引というのでは明確な基準ではありいません。例えば手形行為が利益相反取引に含まれるか否かで議論が分かれます。ただし、判例及び通説では、手形の振出が原因関係におけるものとは別の新たな債務を負担し、しかも、その債務は、実証責任の過重、抗弁の切断、不渡処分の危険性を伴い、原因債務をよりいっそう厳格な支払義務であることを理由に、手形行為は含まれる(最高裁昭和46年10月13日)としています。 (直接取引の例) 会社の取締役に対する金銭の貸付及び約束手形の振り出し 会社と取締役との間での商品、土地、株式、債権等の財産の売買 会社から取締役への贈与 会社による、取締役の会社に対する債務の免除 ●間接取引 間接取引とは、たとえばA会社の取締役甲がA会社以外の者乙から借り入れをしている場合に、A会社が甲の借入金債務のために、乙と保証契約を締結し、または乙を担保権者とする担保権を設定し(物上保障)、あるいは甲の債務を引き受ける等の行為を言います。これらの取引は、あくまでA会社と乙との間でなされるものであって、甲とA会社との間でなされるわけではありません。それゆう直接取引ではないのです。しかし、甲に有利でA会社に不利であるという点で、直接取引と同じような規制が必要であることは分かると思います。なお、A会社を代表して乙とこの契約をていけつするのが、甲自身か、甲以外のA会社の代表取締役かは問われません。 (間接取引の例) 取締役が第三者に対し負担する債務について会社がする保証、物上保証 取締役が第三者に対し負担する債務について会社がする連帯保証契約 取締役配偶者の債務について個人としてする連帯保証に加え、会社を代表してする連帯保証 取締役が第三者に対し負担する債務の会社による引き受け ※企業グループの中では、取締役が子会社の代表取締役を兼務する例が少なくなく、兼務する取締役は、自分は一体どの会社のために働いているのか、兼務先との関係で利益相反ではないか、ということを常に意識する必要があります。たとえば、子会社の代表取締役を兼務する親会社の取締役が、親会社と兼務先子会社との間で取引を行うような場合です。この場合、利益相反取引に関する規制の適用があるとされます。だたし、兼務先の子会社において他に複数の代表取締役がおり、他の代表取締役が取引する場合など個別の判断が必要な場合もあります。なお、100%子会社親子会社間において取締役を兼務する場合には実質的に利益相反取引に立たないで、利益相反取引に関する規制の適用はないとされています。包括的承認及び追認の可能性、当該取締役の特別利害関係人としての議決権行使の排除等は、競業取引と同様です。なお、株主全員の同意がある場合には、取締役会の承認を要しないという判例があります(最高裁昭和49年9月29日)。 取締役の利益相反取引の承認は、個々の取引に対して承認されるのが原則です。しかし、関連会社間の取引のように反復継続して同種の取引がなされる場合については、取引の種類・数量・金額・期間等を特定して包括的に承認を与えても良いと解されています。株主総会の承認は普通決議となります。決議の際、利益相反取締役は特別利害関係人となります。なお、承認に際しては、取引についての重要な事実の開示・相当の説明等が必要です。 A利益相反取引における報告義務・説明義務 ・取締役会への報告義務(365条2項) 取締役会設置会社では、会社と利益が相反する取引を行った取締役は、遅滞なく、取引について重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。実務上は、包括承認によった場合には、報告も定期的に包括的に行う場合が多いようです。報告の趣旨や内容は、競業取引に関する報告と同様となります。また間接取引について報告義務を負うのは、会社を代表して取引をする代表取締役です。 ・開示義務・株主総会での説明義務等(会社計算規則112条1項) 利益相反取引については、「関連当事者との取引に関する注記は、株式会社と関連当事者との間の取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む。)」(会社計算規則112条1項)とされており、個別注記表に開示しなければなりません。 また、利益相反取引は、株主総会での説明義務の範囲にも含まれます。 なお、旧商法施行規則133条では、監査報告書への記載について特別な扱いがされており、利益相反取引に関しては個別に監査の方法の概要を記載し、もし取締役の義務違反があればその事実に関する記載は各別にされることとされていました。しかし、会社法では当初は、他の義務違反行為とは区別はされていませんでしたが、平成26年の改正により、子会社少数株主保護の観点から、個別注記表等に表示された親会社等との利益相反取引に関し、会社の利益を害さないように留意した事項、当該取引が会社の利益を害さないかどうかについての取締役会の判断及びその理由等を事業報告の内容とし、これらについての意見を監査役会等の監査報告の内容とするものとされています(会社法施行規則129条1項6号)。 B利益相反取引規制の効果 ・取締役会の承認の効果(取締役会の承認受けてなされた場合) 取締役会設置会社において取締役会の承認を受けた取締役の利益相反行為は、有効になります。自己契約または双方代理になる場合でも、民法108条の適用はありません(365条2項)。 取締役会の承認を受けたにもかかわらずその利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、その取引関して任務懈怠のある取締役は、会社に対する損害賠償責任を負うことになります(423条1項)。利益相反取引が取締役会の承認を受けて取引されたが、その取引が忠実義務または善管注意義務に違反するときは、任務懈怠の責任を問われることになるということです。例えば、明らかに会社に不利で取締役に有利な取引が取締役会の承認を得て為された場合には、その取引をした取締役には忠実義務違反(355条)、また取締役会でこの取引の承認に賛成した取締役には善管注意義務違反(330条、民法644条)の責任が問われることになります。つまり、責任を問われる取締役は次のように分類されます。 ア.その取引をした取締役 イ.会社がその取引をることを決定した取締役 ウ.その取締役会の決議に賛成した取締役 利益相反取引は、旧商法では無過失責任とされてきましたが、会社法では過失責任に改められました。しかしながら、この任務懈怠の推定が設けられたことにより、任務怠らなかったことを立証しない限り責任を負うことになります。さらに会社法では、取締役が自己のためにした取引に関しては特則を設けており、自己取引をした取締役の損害賠償責任は、任務懈怠がの取締役の責めに帰することができないじゆうであるものであることをもって免れることはできない(428条1項)とされています。 取締役等の任務懈怠の責任を免除するには、総株主の同意が必要になります(424条)。また、会社法では取締役等の責任の一部免除についても規定が設けられています(425条、426条、427条)。ただし、責任の一部免除等に関する規程は、自己取引関する責任については適用されません(428条2項)。 ・違反の効果(取締役会承認を受けずになされた場合) 取締役会の承認を受けずになされた直接取引については、会社と取締役の間または会社と第三者との間では無効となります。この点で無効とならない競業取引とは異なります。この規定は会社の利益保護のためのものですから、取締役の方から取引の無効を主張することはできません(最高裁昭和48年12月11日)。また、会社が取引の無効を主張できる場合、会社債務の保証人も無効を主張できるのが原則です。これは無効を主張できるのは会社のみで保証人も無効を主張できないとすると、保証人が会社に対し求償を求めた場合の処理が問題になるからです(最高裁平成21年4月17日)。ただし、多くの場合の保証人は事情を知りつつ保証した他の取締役であるので、この場合には信義則上無効を主張できないと解されています(最高裁昭和50年12月25日)。 一方、間接取引の相手方(最高裁昭和43年12月25日)及び会社が取締役を受取人として振り出した約束手形(一種の直接取引)の譲受人という第三者(最高裁昭和46年10月13日)に対しては、会社が無効を主張するには、取引安全の見地から、その相手あるいは第三者が取締役会の承認がないことを知っていることを会社が主張・立証できてはじめて無効を主張することができるものとされています。また、会社から取締役に譲渡された不動産の転得者等の第三者との関係においても適用される(東京地裁平成25年4月15日)とされています。 取締役会の承認を受けずに利益相反取引を行った取締役は、任務を怠ったとして損害賠償責任を負う(423条)ほか、解任請求(854条)の対象となります。損害賠償責任を負うのは、直接取引においては、会社と取引をした相手方である取締役(その者が第三者のためにした場合も含む。)だけでなく、会社を代表して取引をした取締役も含まれます。間接取引においては、会社を代表して取引をした取締役であり、利益を受ける取締役については、会社が保証債務を履行し、またはその提供した担保権を実行されて損害を蒙ったときは、会社は、当全にその取締役に対して求償権を取得します。 C利益相反取引の責任と一般的な任務懈怠責任の関係 取締役の利益相反取引規制違反の責任と、一般の任務懈怠責任とは、どちらも任務懈怠責任である点では法的性質は共通です(423条1項)。ただし、利益相反取引は、会社の通常の取引行為に比べて株式会社の利益を害する可能性がより高いものです。そこで、利益相反取引によって会社に損害が生じた場合には、任務懈怠行為があったものと推定し、この場合の責任追及の対象となった取締役の側で、自らに任務懈怠行為が存在しなかったことの立証責任を負わせることになっています(423条3項)。 なお、利益相反取引のうち、自己のために株式会社と直接に利益相反取引をした取締役については、その利益相反取引性の高さから、その取引を行うことについて過失が存在しないことを理由として責任を免れることができないという無過失責任となっています(428条)。 D利益相反取引回避義務に類似する問題 ・支配株主の利益を図る取引 取締役の利益相反取引と同様に会社の利益が害される危険は、取締役に対して事実上の影響力を有する支配株主(親会社等)と会社の取引(企業グループ内の製品の売買等)にも存在します。会社に少数株主が存在する場合には、取締役は会社に対する忠実義務を免れないから、支配株主の圧力の下に会社に不利な非通例的取引を行った取締役は、会社の損害を賠償する責任を負います(423条1項)。この場合、企業グループ全体の利益のために会社の利益を犠牲にしたという抗弁は認められません。 〔参考〕関連当事者取引 利益相反取引と類似した概念として関連当事者取引があります。金融商品取引法では有価証券報告書において注記で開示が義務付けられており、また上場会社が対象となっているコーポレートガバナンス・コードでは原則1−7において規制し監視を求めています。 関連当事者とは、会社またはその役員と一定の関係を持つもので、その当事者間の取引が会社や株主共同の利益を害するおそれのあるものを規制、監視するというもので、会社法の利益相反取引もこの中に含まれる広い概念です。 ※関連当事者とは、具体的には、主に以下のような関係者を指します。 1.親会社 2.子会社 3.同一の親会社をもつ会社等 4.会社が他の会社の関連会社である場合における「他の会社」ならびにその親会社および子会社
5.関連会社および関連会社の子会社 6.主要株主(10%以上の議決権を保有している株主)およびその近親者(二親等内の親族) 7.役員およびその近親者 8.主要株主およびその近親者、役員およびその近親者が議決権の過半数を所有している会社等およびその子会社 ※関連当事者間の取引に関するコーポレートガバナンス・コードの説明は、別に、こちらを参照願います。
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