新任担当者のための会社法実務講座 第401条 委員の解職等 |
Ø 委員の解職等(401条) @各委員会の委員は、いつでも、取締役会の決議によって解職することができる。 A前条第1項に規定する各委員会の委員の員数(定款で4人以上の員数を定めたときは、その員数)が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した委員は、新たに選定された委員(次項の一時委員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお委員としての権利義務を有する。 B前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時委員の職務を行うべき者を選任することができる。 C裁判所は、前項の一時委員の職務を行うべき者を選任した場合には、指名委員会等設置会社がその者に対して支払う報酬の額を定めることができる。 ü
委員の終任 各委員会の委員と会社との間の関係は委任契約です。したがって、それぞれの当事者は、いつでも契約を解除することができます(民法651条)。したがって、会社が委員を解職できるだけでなく、委員の側もみずから辞職することもできます。委員の地位は取締役の地位を前提としています(400条2項)。したがって、委員の地位を失ってもただちに取締役の地位を失うものではありませんが、取締役の地位を失った場合、自動的に委員の地位も失うことになります。そのため、任期途中であっても、取締役が死亡した場合(民法653条)、破産手続開始の決定を受けた場合(民法653条)、会社法331条1項に定める欠格事由に該当した場合、定款所定の資格要件を失った場合、あるいは取締役を解任された場合は、取締役の地位を失い、同時に委員の地位を失うことになります。 ü
委員の解職(401条1項) 各委員会の委員は、いつでも解職できます(400条1項)。解職するための正当な理由は必要ありません。これは委任契約における自由解除の原則(民法651条)を確認したものです。 ・正当な理由のない解職 なお、取締役、監査役、会計監査人及び執行役の場合も同様に解任が自由にできます(339条1項、403条1項)が、これらの場合には、正当な理由のない解任について損害賠償を認める特別の法的責任が規定されています(339条2項、403条2項)。これに対して、各委員の解職の場合には、そのような規定は設けられていません。 委任契約の原則によれば、当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしてときは、相手方の損害を賠償しなければならない(民法651条2項)とされています。この場合には、解除されたこと自体による損害は含まれず、解除が不利なときになされたことによって生じた特別な損害に限って、この原則により、損害賠償できるというのが通説です。 ・取締役会の決議 各委員会の委員を解職するためには、取締役会の決議が必要です(401条1項)。取締役会の決議をもってしても、委員の解職の権限を執行役に委ねることはできません(416条4項)。のた、その解職に関する権限を取締役に委ねることもできないと解されています。 取締役会の決議は、決議に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数の賛成をもって成立します(369条1項)。解職の対象となっている取締役は特別利害関係を有するため、この決議には参加できないものと解されています。 取締役会で解職の決議が有効に成立しても、それによってただちに解職の効力が生ずるものではありません。解職の決議は、単なる内部的な意思決定にすぎず、あらためて代表執行役が対象となった委員に対して委任契約を解約する旨の意思表示(解約告知)を行うことが必要で、その意思表示の到達を以って解職の効力が生ずるものと解されています。 ü
欠員の場合の取り扱い(401条2〜4項) ・権利義務委員(401条2項) 各委員会の員数が欠けた場合には、ただちに新しい委員を任命すべきなのが原則ですが、様々な事情から、それら時間を要する場合もあります。例えば、残りの取締役では監査委員の兼任禁止規定に抵触してしまう倍などが考えられます。このような場合に備えてあらかじめ補欠の取締役(329条2項)を選任しておけばよいのですが、補欠取締役の選任は任意であるため、選任されていない場合も少なくありません。 そこで、このように欠員が生じた場合には、任期の満了または辞任により退任した委員が、新たに選任された委員が就任するまで、なお委員として権利義務を有することとなっています(401条2項)。この状態の委員をとくに権利義務委員と呼びます。委員の欠員は、任期の満了や辞任のほか、委員を解職されたり、取締役の地位を失ったりすることによっても生じるものですが、権利義務委員となることができるのは、そのうち任期の満了と辞任により委員を退職した者に限られます。委員を解職された者や取締役としての欠格事由に該当する者を引き続き委員の地位に就かせておくのは不合理です。 権利義務委員は、委員としての一切の権限を有しています。したがって、欠員が補充されるまで、委員としての登記を残しておくべきであるので、委員の退任登記はすべきでないと解されています。なお。権利義務委員については、通常の解職手続は適用されません。したがって、権利義務委員に不適切な言動があった場合には、後任の委員を選定するか、裁判所に一時委員の選任を求めることが必要になります(新たな委員が就任すれば、自動的に権利義務を失うことになるので)。 ・一時委員(401条3項) 会社法400条1項に規定する各委員会の委員の員数が欠けた場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申し立てにより、一時委員の職務を行うべき者を選任することができます(401条3項)。利害関係人は、会社、株主、取締役、会計参与、執行役、債権者などの人々が該当します。 一時委員は、取締役であるかについては検討の余地があります。それは、一時委員の選定が必要になる場面としては、その地位にふさわしい取締役が選任されていない事例が想定できます。そのため、裁判所による一時委員の選任対象を取締役に限定するのは望ましいこととはいえません。しかし、他方において、委員の活動は取締役としての活動と密接不可分であるので、一時委員に選任された者が取締役としての権限を持たずに活動することは合理的とは言えません。したがって、取締役の中に一時委員の適任者がいなかった場合には、ます裁判所に一時取締役を選任してもらい(346条2項)、その中から一時委員を選任してもらうことが必要だと考えられています。このような手続が保障される限り、視覚要件等の面で選任可能な取締役が存在する場合でも、裁判所は、必ずしもその者を優先的に一時委員に選任する必要はなく、それまで取締役でなかった者を一時取締役と一時委員に同時に選任することができると解されています。 一時委員の選任の必要性の判断については、ます、委員の欠員が、任期満了またし辞任でないため、権利義務委員によって欠員が補充できない場合が考えられます。また、権利義務委員に引き続き委員の職務を執行させることが適当でない事情(例えば、不在・病気・意欲の欠如・不適切な行為など)が認められる場合にも、必要性があると考えられます。このような事情に加えて、正規に委員を選定して欠員を補充するのにかかる時間や費用を勘案することも関係すると考えられます。 一時委員の選定手続は非訟事件として行われます。会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属し(868条1項)、この裁判に対しては不服の申し立てはできな仕組となっています(874条1項)。また、一時委員の選定がなされると、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、会社の本店の所在地を管轄する登記所に一時委員選任の登記を嘱託することになります(937条1項)。 一時委員と会社との間には委任関係は認められないと解すべきであるから、取締役会の決議によっても、会社は、一時委員を解職することはできません。また、一時委員の報酬も裁判所が決定します(401条4項)。その際、裁判所は、会社と報酬を受け取る者の陳述を聴かなければなりません(870条2項)。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 委員の解職等(401条) 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 執行役の権限(418条) |