新任担当者のための会社法実務講座 第363条取締役会設置会社の取締役の権限 |
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取締役会設置会社の取締役の権限(363条) @次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。 一 代表取締役 二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの A前項各号に掲げる取締役は、3箇月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。
ü 代表取締役 取締役会設置会社では、取締役は業務執行権限を有しないので、取締役会の決定を執行する機関が必要であり、このような機関は、代表取締役と代表取締役以外の業務執行取締役です。 代表取締役は、会社を代表する機関です(349条1項)。取締役会設置会社の業務執行は、代表取締役及び取締役会の決議によって会社の業務を執行する取締役として選定された者が行います(363条1項)。すなわち代表取締役が株主総会または取締役会の決議を執行するほか業務執行権を有する各取締役は、取締役会から委任を受けた事項については、自ら決定し執行します。 業務執行が対外的行為である場合は、代表取締役であれば、会社を代表する行為となります(349条4項、5項)。とくに393条5項では「この権限に制限を加えたとしても善意の第三者に対抗することはできない」とされています。 なお、代表取締役以外の業務執行取締役も、代表取締役のような包括的権限ではないが、一定の範囲で会社を代表する権限を与えられている場合が少なくありません。 ü 代表取締役の選定、就任及び終任 ・代表取締役の選定・就任 取締役会設置会社の場合、取締役会は取締役の中から代表取締役を選定しなければなりません(362条3項)。取締役会設置会社以外の株式会社は株主総会の決議により選任します(349条3項)。定款上、社長等一定の役職の取締役は当然に代表取締役であると定める例が多いのですが、その場合でもその役職にない代表取締役に選定する余地を認めているケースが少なくありません。 代表取締役の就任・退任は登記事項です。氏名・住所が登記されます また、代表取締役の就任・退任は適時開示事項です。一般的には定時株主総会にける取締役選任と同日に選任された取締役により新たに代表取締役が選定されるという手続を踏むため、通期決算発表の際に、予定事項として開示する場合が多い。ただし、それより前に取締役会で内定している場合には、その時点で開示します。また、期中で臨時に代表取締役が退任及び選任された、つまり変更された場合には金商法に基づく李氏報告書を提出しなければなりません。 ・代表取締役の終任 代表取締役が取締役の地位を失うと、当然に代表取締役も終任となります。しかし、取締役の地位を維持しながら代表取締役の職のみを辞任することは可能です。取締役会は、その決議により代表取締役を解職することができます(362条2項3号)。この解職決議により地位が剥奪されれば、当人への告知なしに解職の効力が発生します。 ・代表取締役に欠員が生じた場合の措置(351条) 代表取締役に欠員が生じた場合には、取締役に欠員が生じたばあいと同じ扱いが為され、任期満了またしは辞任による代表取締役はあらたに代表取締役が選定され就任するまで、引き続き代表取締役の権利義務を有し(このことは、取締役の地位を有する場合に限られると考えられます)、必要があれば一時代表取締役を選任することができます。 ü 代表取締役の権限 代表取締役は、会社を代表する権限である代表権を有します。代表権とは、A会社の代表取締役甲が第三者Bとなした行為の効果が、甲自身ではなくA会社に帰属する権限を意味します。この点では、本人Aの代理人甲が第三者Bと為した行為の効果がAに帰属する権限すなわち代理権と差異がないが、代表取締役の権限は、次に述べるように包括的・不可制限的である点で、たんなる代理権と区別されます。代表取締役の権限は、取引の安全のために、このように法定されるものであって、これを定款で変更してもその効力は認められません。したがってまた、取引の相手方としては、代表取締役を相手に取引すれば安全です。代表取締役が誰かは登記を閲覧することによって確認できます。 ・包括的権限(349条4項) 代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為を有します(349条4項)。会社の業務に関する行為とは、業務としてなされる行為であると(絶対的商行為または営業的商行為。商法501条、502条)、業務のために為される行為(附属的商行為。商法503条1項)であるとを問わない。運送業務を営む会社において、運送契約を締結する行為は業務として為される行為であり(商法502条4号)、そのためにトラックを購入し、あるいはその資金を借り入れる行為は業務のために為される行為です(商法503条1項)が、そのいずれもが代表権の範囲内です。また、会社が数種の業務を営み、または複数の営業所を有している時も、代表権は業務の種類ごとまたは営業所ごとに限定されることはありません。さらに会社の業務に関するかどうかは、客観的に判断され、その主観的意図は問われません。したがって、会社の代表取締役の資格で借り入れをすれば、その代表取締役の主観的意図が自分の個人的目的のためであっても、借り入れの効果は会社に帰属します。また、代表取締役は裁判上または裁判外の一切の行為をする権限を有していますから、その資格で、会社のために事業に関して、訴を提起し、第三者と契約を締結し、裁判外の請求をすることもできます。以上のような意味で、代表取締役の権限は包括的であると言います。 ・不可制限的権限(349条5項) 代表取締役の代表権に制限を加えても、この制限を善意の第三者に対抗することができないということです(349条5項)。例えば、一定金額以上の借入れについては取締役会の承認を要するとした場合や又は代表取締役の権限の範囲を特定事項に限定した場合において、代表取締役がそのような制限を超えた取引を行ったときでも、その制約を知らない取引の相手方に対して会社はその取引の無効を主張できない。同様に、代表取締役が定款に違反して代表権限を行使した場合は、取引の安全を確保するため、行為の相手方がそのことを知っている場合を除き、一般的にその行為は会社を拘束することになります。また、代表取締役がその有する権限を濫用して、例えば、自己使用の意図のもとに会社名義で金銭を借入れ、これを自分の利益のために使用した場合にも、客観的にそれが代表取締役の行為と見られる限り、その借入れは会社が行ったものとしての効力を生じることになります。 ・取締役会の決議を欠いた行為の効力 ア.取引行為 A会社の代表取締役甲が、取締役会で決議すべき事項について、その決議を経ないで第三者Bと行為した場合(瑕疵ある決議をした場合も同様)に、その行為の効力がどうなるかについて、判例は、取締役会決議を欠いた重要財産の処分行為について、原則として有効であるが、相手方が決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときは無効であるとしています(最高裁昭和40年9月22日)。この基準によれば、過失(軽過失)のある相手方が保護されない点で、349条5項が適用された場合と結果が異なってきます。 イ.その他の行為 代表取締役が取締役会の決議に寄らないで募集新株の発行・社債の募集のように取引の安全を強く要請されるようなことを行った場合、決議を欠いても無効事由とならないされています。他方で、取締役会の決議なしに株主総会の招集は決議取消事由となります。このように適法な決議によらない代表取締役の行為の効果は区々であるので、一つ一つ別個に考えていかなければなりません。 ・代表権の濫用 代表取締役が、会社の利益のためではなく、自己または第三者の利益のためにその権限を行使することを代表権の濫用と言います。例えば、自己または第三者の借財の返済のために、A社代表取締役甲として、Bから借り入れをする行為等が、これに当たります。この行為の効力については、Bが甲の目的を知りまたは知り得べかりしときは無権代理行為となります(民法107条、最高裁昭和38年9月5日)。代表権に限らず権利の濫用が許されることではないのは当然のことです。それゆえ実際には代表権の制限に関する規定の準用することで、相手方の過失の有無を問題とする必要がないということになります。実際の場面を見てみれば、代表権の濫用は、外形上、行為者と会社の利益が相反しません。利益相反取引(356条)の場合で取締役会の承認がない場合に相手方が悪意でない限り取引の無効を主張できないのですから、この場合に相手方の過失の有無を問題するのはバランスを失するという議論もあります。 ü
業務執行取締役(363条1項2号) 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって業務を執行する取締役として選定された者を業務執行取締役といいます。具体的には、定款において、通常、社長、副社長、専務取締役、常務取締役の名称の役付取締役を置く旨を規定し、会社の業務を担当させています、これが代表的で、代表権を持たない取締役が業務執行取締役です。業務執行取締役は、取締役が部長などの使用人を兼ねる使用人兼務役員とは異なると考えられています。つまり、業務執行取締役は使用人としての立場ではなく、会社の業務を担当する会社の機関であり、使用人兼務取締役は部長の業務を使用人の立場て行う点で違うということです。しかし、実務上は両者実質的な違いはほとんど区別がつきません。 ü 業務執行状況の報告(363条2項) 取締役は3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(363条2項)。取締役会における取締役の職務執行の監督の機能を十分に発揮させるために、各取締役が職務執行の状況について情報を得ていることが必要だからです。そしてまた、監査役は取締役会に出席する権限が与えられているから、この報告は、監査役に対してもなされることになり、監査役の業務監査の充実役立つことになります。なお、この職務の執行状況の報告も、職務執行の一環としての性質をもつものですから、この報告は執行を統括している代表取締役がその責任において、みずから行うか、他の炊き問うな取締役に行わせることができます。 〔参考〕取締役会と代表取締役の関係 株式会社における業務執行について、意思決定権限は取締役が有し、代表取締役は取締役会の決定の執行行為と代表行為を担当します。代表取締役は取締役会とは別個独立の並立的機関であって、したがって、業務執行に関して意思決定の権限は取締役会ら専属し、代表取締役は、定款または取締役会の決議をもって委任された場合かつその範囲内においてのみ決定権を有するに過ぎません。ただし、日常の業務執行の意思決定の権限は委任されていると解されています。 ・取締役会と代表取締役の連係 代表取締役は、取締役として取締役会の構成員です。取締役会の決議をもって、取締役の中から選任されます。代表取締役が取締役会の構成員を兼ねることによって、意思決定とその執行自体との密接な連係が期待されています。 ・取締役会による代表取締役の監督 取締役会の代表取締役に対する監督権限は、取締役会が代表取締役の選任・解任権の保持、行使によって担保されています。取締役会が、この監督権限を十分に果たすためには、取締役会の各メンバーが業務の執行状況を熟知把握していなければなりません。そのために、代表取締役は業務執行の状況を取締役会に報告する義務を負っています。また、各取締役は、取締役会の構成員であることから、他の取締役の業務に対する監視義務を負い、その中に当然代表取締役の監視義務も含まれます。具体的には、代表取締役の業務執行一般について監視し、必要があれば取締役会の招集を請求し、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにします。 〔参考〕取締役会と業務を執行する取締役として選定された取締役の関係 業務執行取締役には、代表取締役のように代表権を有しているわけではないので、業務執行の権限は内部的な会社業務に限られます。 ・取締役会は、業務執行について、代表取締役に対して、細目的事項、重要でない事項と日常の業務についての業務執行の意思決定を委任できますが、業務執行取締役に対しても同様と考えられます。したがって、業務執行取締役の権限は、取締役会の決議またはこれに基づく業務規則等によって定められた範囲において、内部的業務についての決定及び執行をなすこととなります。 ・業務執行取締役は、外部に対する関係を含む事項についての権限を有しません。したがって、計算書類の工事は代表取締役の権限に属し、業務執行取締役の権限には属しません。 ・会社と第三者との間で行われる行為(会社のための対外行為)については、業務執行取締役に代表権がない以上、個別的に代表取締役もしくは取締役会から代理権を授与されない限り、これを行う権限を有しません。 取締役会の監督権限は、代表取締役に対する場合と同様に、業務執行取締役に及ぶ考えられます。
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