新任担当者のための会社法実務講座 第417条 指名委員会等設置会社の取締役会の運営 |
Ø 指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条) @指名委員会等設置会社においては、招集権者の定めがある場合であっても、指名委員会等がその委員の中から選定する者は、取締役会を招集することができる。 A執行役は、前条第1項第1号ニの取締役に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。この場合において、当該請求があった日から5日以内に、当該請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられないときは、当該執行役は、取締役会を招集することができる。 B指名委員会等がその委員の中から選定する者は、遅滞なく、当該指名委員会等の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。 C執行役は、三箇月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。この場合において、執行役は、代理人(他の執行役に限る。)により当該報告をすることができる。 D執行役は、取締役会の要求があったときは、取締役会に出席し、取締役会が求めた事項について説明をしなければならない。 ü
指名委員会等設置会社に特徴的な取締役会の運営 指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社では、取締役会が取締役の中から代表取締役その他業務執行取締役を選定し、業務執行取締役に会社の業務執行を担当させます(362条2項、363条1項)。業務執行取締役は3ヶ月に1回以上、自己の職務執行状況を取締役会に報告させます(363条2項)。これにより取締役会と業務執行取締役の間の連携が図られ、取締役会の業務執行取締役に対する監督が行われています。 これに対して指名委員会等設置会社では、監督と業務執行を分離するモニタリング・モデルという経営組織形態が採用されています。取締役会は経営の基本方針や枠組みを決定し、業務執行の決定は執行役に委ねる(416条、418条)ことを原則として、業務の執行(経営)は執行役が担う(418条)こととなります。つまり、執行役は、業務執行及び取締役会から委任された業務執行に係る決定を行います。執行役は、死取締役とは別個の業務執行機関であり、取締役会により選任・解任されます(402条2項、403条1項)。取締役会は、この執行役の業務執行を監督します。その監督権限の実効性を確保するために、取締役会の内部機関として、指名、報酬、監査の三委員会が設けられています(404条)。そのため、取締役会と三委員会との緊密な連携を確保することや、他の経営組織形態にない執行役を取締役会が監督していくことなどは、指名委員会等設置会社の取締役会の運営の特徴といえます。そこで、指名委員会等設置会社に特有の制度が設けられています。 ü
委員会が選定する委員による取締役会の招集(417条1項) 取締役会は原則として各取締役が招集します(366条1項)が、定款または取締役会において、取締役会を招集する取締役(招集権者)を定めることができ(366条2項)、実務上一般にこの定めが設けられています。このような会社では、招集権者である取締役のみが取締役会を招集することができ、他の取締役には取締役会招集請求権が認められているだけ(366条2項、3項)です。しかし、指名委員会等設置会社の場合には、委員会がその職務を適切に遂行するための特則として、招集権者の定めがある場合であっても、委員会が委員の中から選定する者は、招集権者に取締役会の招集請求をすることなくただちに、取締役会を招集することができることとなっています(417条1項)。これにより委員会と取締役会の緊密な連携が確保され(委員会の職務執行状況の速やかな報告義務の遂行など)ます。 委員会は、この取締役会を招集することができる委員を、一般的に選定することも(例えば委員長をこの委員として選定する)、必要に応じて選定することもできます。前者の場合でも、その選定された委員が個人の裁量により取締役会を招集するのではなく、委員会の職務執行状態の報告等、指針下位の職務執行上取締役会を招集することが必要となる場合に、取締役会を招集するのであり、委員会の決議に基づいて取締役会が招集されるという手続が、法定はされていませんが、社内的には求められることになると考えられます。 各委員会では、具体的にどのようなケースが想定されるかというと、まず指名委員会の場合は、取締役の選任または解任の必要が生じたときに、それに関する議案の内容を決定(404条1項)し、臨時株主総会の招集を決定するための取締役会を招集する(296条2項、298条1項、416条4項)ことが考えられます。たとえ、取締役会で否決されたとしても、指名委員会の委員により招集された取締役会で議案が否決されたことは取締役会議事録に記載され、事後的な責任追及の際の有力な証拠となりえます。また、監査委員会の場合は、執行役の職務執行状況について、監査委員会の報告に基づいて執行役の職務分掌の変更や選解任、さらには代表執行役の選定解職などを行う(416条1項、402条2項、403条1項、420条)ために取締役会を招集することが考えられます。 なお、委員会で選定された委員が招集した取締役会の議事録には、その旨が記載されなければなりません(会社法施行規則101条3項)。 ü
執行役の取締役会の招集請求権(417条2項) 執行役による取締役会招集請求の制度です。業務執行事項のなかで取締役会決議が必要なものについては、その執行前に取締役会で決議を受けておかなくてはなりません。例えば、合併契約等の内容の決定には原則として取締役会が必要で、執行役が取締役会の招集請求をすることになります。執行役や取締役の競業取引または利益相反取引のついての取締役会の承認についても、理解関係執行役のほか、会社の名においてそのような取引をする代表執行役が取締役会の招集を求める場合も考えられます。執行役による職務執行状況の定期報告には、報告省略制度(372条)の適用がないため、取締役会の招集を請求することが必要な場合がでてきます。 招集を請求する相手は、取締役会の招集権者が定められている場合には、その請求権者に招集を請求します。また、招集権者が定められていない場合には、招集請求をする取締役を特定しなければ゛なりません。このため、取締役会において、執行役による取締役会の招集請求を受ける取締役を定めておかなければなりません(416条1項)。執行役は、この取締役に対して、取締役会の目的である事項を示して取締役会の招集を請求します(417条2項)。少数株主による株主総会の招集請求(297条)の場合と異なり、招集の理由を特に示す必要はありません。これは株主による取締役会の招集請求(367条)の場合と同じです。 執行役からの招集の請求があった日から5日以内に、その請求のあった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられなかったときは、招集の請求をした執行役は、自ら取締役会を招集することができます(417条2項後段)。これは、招集権者の定めがあるとき場合なおける取締役による取締役会招集の請求の場合と同じです。なお、このときの取締役会の議事録には、執行役の請求を受けて招集されたものであるときは、その旨を、執行役が招集した場合にはものであるときは、その旨を記載しなければなりません(会社法施行規則101条3項)。 執行役が招集する場合の取締役会の招集通知には417条2項の規定により執行役が招集した旨のほか、その執行役が招集請求を受ける取締役に示した取締役会の目的事項も記載しなければ成なないと考えられています。 なお、執行役は取締役会の構成員ではなく、取締役会の要求がない限り、取締役会に出席することはできません。執行役が招集を請求しまたは招集した取締役会ににおいても、株主による取締役会の招集請求の場合のような特別規定(367条4項)がないため、同じです。監督と業務執行の分離という趣旨から、取締役会が要求した場合に限り、執行役は取締役会への出席と報告の義務を負います。 ü
委員会の職務執行状況の報告(417条3項) 委員会がその委員の中から選定する者は、遅滞なく、委員会の職務の執行状況を取締役会に報告しなければなりません(417条3項)。報告が必要となるときに、報告すべき委員が選定され、その選定された委員が報告しますが、委員長が一般的に報告者として選定されている場合は、委員長が報告義務を履行することになります。 委員会の職務執行状況の報告により、委員会と取締役会の連携が図られ、取締役会の執行役等の監督を効果的な行うことが期待されていますが、この報告義務には委員会の職務執行状況を取締役会が監督する機能も認められます。会社法では、報告義務について規定するだけで、執行役の場合のような説明義務までは規定していませんが、委員会の委員は取締役会の構成員として、当然に他の取締役の質問には誠実に説明する義務があると考えられます。 ü
執行役の職務執行状況の報告(417条4項) 執行役は、3ヶ月に1回以上、自己の職務執行状況を取締役会に報告しなければなりません。これは指名委員会等設置会社でない取締役会設置会社の業務執行取締役の定期報告(363条)と同じ趣旨の制度です。指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社の場合と異なり、指名委員会等設置会社の場合は明示的に、執行役は他の執行役の代理人としてこの定期報告義務を履行することができると規定されています。業務執行取締役は取締役会出席義務がありますが、執行役には一般的な取締役会出席義務がありません。このため、執行役を統括する代表執行役がまとめて報告することが効率的であると共に、執行役の円滑な業務執行に資するとして、代理報告が認められ規定化されている。取締役会設置会社における業務執行取締役の定期報告と同様に、執行役の定期報告についても取締役会への報告の省略は認められていません(372条2項、3項)。執行役の定期報告は取締役会において現実に報告されなければなりません。このため、指名委員会等設置会社においても、取締役会は少なくとも3ヶ月に1回は開催されなければならないことになります。 ü
執行役の説明義務(417条5項) 執行役は、取締役会からの要求があったときは、取締役会に出席し、取締役会が求めた事項について説明しなければなりません(417条5項)。指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社の業務執行取締役は、取締役として当然に、取締役会に出席し、他の取締役が求めた事項について説明しなければなりません。これに対して、執行役は取締役とは別個の業務執行機関です。当然には、取締役会出席して、散り島利益の質問に対して説明する義務を負うわけではありません。したがって、取締役会の執行役に対する監督機能の一環として、取締役会の構成員でない執行役に対して取締役会の要求に応じて出席し説明することが義務付けられています。
関連条文 第1款.委員の選定、執行役の選任等 第2款.指名委員会等の権限等 指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条) 第3款.指名委員会等の運営 第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 |