新任担当者のための会社法実務講座
第400条 委員の選定等
 

 

Ø 委員の選定等(400条)

@指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の各委員会(以下この条、次条及び第911条第3項第23号ロにおいて単に「各委員会」という。)は、委員3人以上で組織する。

A各委員会の委員は、取締役の中から、取締役会の決議によって選定する。

B各委員会の委員の過半数は、社外取締役でなければならない。

C監査委員会の委員(以下「監査委員」という。)は、指名委員会等設置会社若しくはその子会社の執行役若しくは業務執行取締役又は指名委員会等設置会社の子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)若しくは支配人その他の使用人を兼ねることができない。

 

ü 指名等委員会設置会社の取締役の選任(329条

委員は取締役でなければなりません。まずは、その取締役の選任から。取締役の選任は株主総会の普通決議、つまり議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で定足数を3分の1以上に定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、その出席した株主の議決権の過半数(定款で、それを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)の賛成で成立しますが、定款の定めによっても、その定足数を、議決権を行使することができる株主の議決権数の3分の1未満と定めることはできません(341条)。

2人以上の取締役を同じ株主総会で選任する場合、定款に別段の定めがない限り、各株主は、会社に対して累積投票により取締役を選任すべきことを請求することができます(342条)。ただし、実務上はほとんどの会社が定款に累積投票によらない旨を定めて、それを排除しています。なお、累積投票の場合、最多数を得た者から順次取締役に選任されますが、同数を得た者がいることによって選任する取締役の数を上回る場合には、同数を得た取締役のどちらを選任するかは、累積投票によらず株主総会の決議により選出します(会社法施行規則97条4項)。

※株懇モデルの定款

(取締役の選任)

第19条 取締役は、株主総会において選任する。

2 取締役の選任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う。

3 取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする。

〔参考〕定時株主総会における取締役選任議案について、どのような手続で選任するか、株主総会参考書類における議案の説明について会社法施行規則73条、74条に規定があります。それに関する説明はこちらに。

株主総会で選任する取締役に関する議案の内容を決定する権限は指名委員会が有しています(404条1項)。

指名等委員会設置会社では、取締役3人以上で組織する各委員会の委員の過半数は、社外取締役でなければならない(400条3項)ので、少なくとも社外取締役を2人以上選任しなければなりません。

指名等委員会設置会社の取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります(332条6項)。

ü 取締役の就任

会社と選任された取締役との関係は330条に規定されている通り委任の関係となります。従って、委任に関する民法の規定(民法643条〜656条)に従って、選任された者が取締役に就任するのは、会社とその人の間で委任契約が締結された時からとなります。つまり、株主総会で選任されたことが取締役の就任となるわけではないということです。しかし、実務上は、株主総会終了時に就任承諾書の提出を受けることになりますが、株主総会での選任決議を条件として、事前に就任承諾書の提出を受けるとてる会社が大部分で、その場合は、委任契約が株主総会の選任決議をもって発効するということになります。

ü 委員の選定

各委員会は3名以上の委員により構成されます(400条1項)。会社法は、合議制の会議の最低員数を3名で統一している(取締役会の最低員数331条、監査役会335)のにならって、委員会も同様となっています。1名では会議とは呼べず、3名では意見が割れる危険性がありますが、3名になれば多角的な意見が期待できるということからです。

この3名というのは、法定の最低員数ですから、定款で最低員数を引き上げることは可能です。また3名以上であれば定款で員数の上限を設けることもできます。委員会ごとに異なる定款の定めを設けることも可能です。

各委員会の委員が法律または定款に定めた員数を欠くこととなった場合に、その選任手続を怠った取締役等は100万以下の過料に処せられることになります(976条2項)。

ü 委員の資格

・取締役であること(400条2項)

委員会の委員は、取締役の中から、取締役会の決議によって選ばれます(400条2項)。取締役以外の第三者から選任されることは許されず、委員が取締役の地位を失った場合には、同時に委員としての地位も失います。これは、モニタリング・モデルの下では、取締役会自体が業務執行の監視・監督を担うものとされ、委員会は、そうした取締役会の機能を強化する仕組みとして位置付けられていることによるものです。このように委員会が取締役会の内部組織として位置付けられることから、委員会によって選定された委員は、招集権者の定めがある場合であっても、取締役会を招集することができます(417条1項)。また、委員会によって選定された委員は、遅滞なく、委員会の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(400条3項)。

委員の地位と取締役の地位が不可分一体のものとされているため、会社法上、委員の任期に関する規定はとくに設けられておらず、取締役の任期と連動する形になっています。すなわち、指名委員会等設置会社における取締役の任期は、定款で短縮されない限り、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会終結の時までされているので、委員の任期もこれと一致することになります。

なお、指名委員会等設置会社の取締役は、使用人兼務はできない(331条)3項ので、各委員会の委員は使用人を兼ねることはできません。

・社外取締役(400条3項)

各委員会の委員の過半数は社外取締役でなければなりません(400条3項)。ただし、指名委員会及び報酬委員会の委員のうち社外取締役以外の者は、執行役を兼ねることができます(402条4項)。また、各委員会の委員以外の取締役については、その一定数を社外取締役とすべき義務はなく、執行役との兼務も自由です。これは、取締役会や各委員会において、社内外の取締役と執行役との間で円滑なコミュニケーションが図られたほうが取締役会の監督機能を高めることにつながるとの考えに立脚したものです。

このようなルールの下では、委員会を最低人数である3名の取締役で構成したとしても2名の社外取締役は必要になりますが、委員の兼務は認められているので、最低2名の社外取締役がいれば指名委員会等設置会社を作ることができると言えます。モニタリング・モデルを徹底するならば、取締役会の過半数を社外取締役にすべきなのかもしれませんが、社外取締役の適任者を見つけにくい現状で必要員数を引き上げると、制度の利用が制限されることから、指名委員会や報酬委員会の決定を取締役会で覆せない仕組みとすることで、社外取締役の影響力を高める工夫をとっているわけです。

社外取締役とは、株式会社の取締役であって、その会社または子会社の業務執行取締役(363条1項各号に掲げる取締役及び業務を執行した取締役)もしくは執行役その他の使用人でなく、かつ、過去に会社または子会社の業務執行取締役、執行役または使用人となったことがない者を言います。ただし、これらの制限は10年間に限られています。他方において、親会社の取締役、執行役または使用人や、その2親等以内の親族も社外取締役になれないものとされています(2条15号)。

各委員会の委員の過半数を社外取締役にした趣旨は、@業務執行者の介入を排して独立した監視・監督ができること、A取締役の地位へのこだわりが少ないことから業務執行者からの反動をおそれることなく厳しい対応がとりやすいこと、B日々の業務執行の中で生ずるさまざまな利益相反を中立的な立場から是正しやすいことなどに求められています。

・監査委員の兼任禁止(400条4項)

監査委員会の委員、つまり監査委員は、指名委員会等設置会社の執行役もしくは業務執行取締役または子会社の会計参与もとくは支配人その他の使用人を兼ねることはできません(400条4項)。この兼任の禁止の趣旨は取締役の職務の執行を監視すべき地位にある監査委員が、取締役を兼ねたり、取締役の指揮命令の下で業務執行を行うべき使用人を兼ねたりすれば、取締役の影響力を受けて監査が歪んでしまうおそれがあると考えられるからです。

監査委員による監査の対象はあくまでも執行役等(執行役、取締役及び会計参与)の職務の執行(404条2項)であるから、監査委員が兼任することによって弊害が生ずる使用人とは、職務の遂行につき執行役等の指揮命令を受ける立場にある者を意味することになります。したがって、雇用契約に基づいて会社に従属するものは、対外的代理権を有する使用人であると、その他の使用人であるとを問わず、兼務することはできません。

一方、委任契約に基づき自己の裁量の下で事務を処理するもの、原則として使用人には含まれないと解されています。ただし、実際には取締役の指揮命令に服する場合もありえます。この点で、会社の顧問弁護士が監査役を兼任することができるかで争われた裁判例が参考になると思われます。裁判所は、「法律を自己の責任において処理する」ところの顧問弁護士は使用人には該当しないと判示しています(神戸地裁判決昭和61年3月24日)。なお、最高裁判所は、弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件で会社から委任を受けてその訴訟代理人となることまでを禁止するものではないと判示しています(最高位判決昭和61年2月18日)。

監査対象期間の途中まで執行役等であったものが監査委員に選任された場合(いわゆる横滑り監査委員の場合)には、未就任期間中の執行役等としての行為を自分自身で監査することになるため兼任禁止の趣旨に反するおそれがあります。監査役の場合の判例では会社の取締役または使用人を監査役に選任することを禁止しているわけではなく、監査役の任期と監査対象期間の一致を要求しているわけではないので、横滑り監査役は兼任禁止規定に抵触しないと判示しています(最高裁判決昭和62年4月21日)。会社法では、監査委員が同時に執行役等の中から選任することを禁止していないにすぎず、すでに執行役等の地位を辞任してので、たとえ監査対象期間中に執行役等として行為した時期があったとしても、監査の違法性を害するものではないと考えられます。

 

 

関連条文

第1款.委員の選定、執行役の選任等

   委員の選定等(400条)

  委員の解職等(401条)  

  執行役の選任等(402条)  

  執行役の解任(403条)  

第2款.指名委員会等の権限等

  指名委員会等の権限等(404条)  

  監査委員会による調査(405条)     

  取締役会への報告義務(406条)  

  監査委員会の執行役等の行為の差止め(407条)  

  指名委員会等設置会社の執行役又は取締役との訴えにおける会社の代表等(408条)  

  報酬委員会による報酬の決定の方法等(409条)

第3款.指名委員会等の運営 

  招集権者(410条)  

  招集手続等(411条)  

  指名委員会等の決議(412条)  

  議事録(413条)  

  指名委員会等への報告の省略(414条)  

第4款.指名委員会等設置会社の取締役の権限等 

  指名委員会等設置会社の取締役の権限(415条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の権限(416条)   

  指名委員会等設置会社の取締役会の運営(417条)   

  執行役の権限(418条)  

  執行役の監査委員に対する報告義務(419条)   

  代表執行役(420条)   

  表見代表執行役(421条)   

  株主による執行役の行為の差止め(422条)   

 
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