新任担当者のための会社法実務講座
第366条 招集権者
 

 

Ø 招集権者(366条)

@取締役会は、各取締役が招集する。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集する。

A前項ただし書に規定する場合には、同項ただし書の規定により定められた取締役(以下この章において「招集権者」という。)以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して、取締役会の招集を請求することができる。

B前項の規定による請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。

 

会社法は、取締役会を株式会社の必要機関としていません。理論にこだわると、取締役会と取締役の会議は区別することができます。取締役会は会社の意思決定機関として法的に定義され、その権限を具体的に行使するため、会議体としての取締役会が一定の手続きにより招集されることになります。取締役全員の意見の交換と討議を通じて、取締役の総力を結集して業務執行の意思決定に当たらされるとともに、取締役の職務執行の監督の実効性を確保するためのものとして取締役が設置されている。そういう前提で、取締役会の招集手続や運営に関する規定を解釈するのが適切ではないかと考えられます。

例えば、取締役会の構成を見れば、すべての取締役で組織されるものです(362条1項)。このほか、監査役に取締役会出席義務を課されています。監査役は取締役会の構成員ではなく、定足数の算定の基礎とはならず、議決権を行使することもできない。取締役は、これらの者以外の出席も認めることができます。

ü 招集権者(366条1項)

取締役会は、会議を権限を行使するものです。そこでは、取締役会を招集する権限を有する者が、適法な招集手続により、会議を招集する必要があります。取締役会の招集権者が招集した取締役会および366条3項にしたがって招集権者以外の取締役が招集した取締役、その他会社法により招集が認められた者により招集された取締役会以外の取締役の集会は、法的には取締役会と認められません。そのような集会で決められた事項は、取締役会決議としての効力が認められません。無効なのです。したがって、招集権者により適法な手続きにより招集されることが、取締役会を成立させるための要件と言えるのです。

取締役会は、各取締役が招集権を有します(366条1項)。代表取締役だけでなく他の業務執行取締役あるいは社外取締役でも、つまり取締役であれば、誰でも取締役会を招集できるということです。

ü 定款による招集権者の特定(366条1項但し書き)

定款または取締役会の決議で招集権者を定めたときは、その定められた招集権者が取締役会を招集します(366条1項但し書き)。これは、招集権を有する各取締役が、それぞれに招集すると、同一の議題について矛盾した決議がされたり、また他の取締役が招集するだろうと考えて誰も招集をしなかったりして、適切に取締役会の招集が為されないようなことが起こらないように、誰かにマネジメントを一任しようとしたためと考えられます。実務上は、定款で招集権者を定めているのが通例であり、その場合の定款の規定例は次のとおりです。

※株懇モデルの定款

(取締役会の招集権者および議長)

第22条 取締役会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役会長か、これを招集し、議長となる。

定款で指定される招集権者は、経営を取り巻く環境を迅速かつて的確に把握するという観点から、経営トップが(代表取締役、社長、会長など)選定されるのが一般的です。

招集権者は、取締役の職務権限として、取締役会招集権限を有するもので、取締役会招集する必要がある場合には、適切にその権限を行使しなければならず、それを怠ったときには、取締役としての任務懈怠責任を負います。

・招集権者の権限

招集権者の定めは、特定の取締役に対して、取締役会という会議体を日時と場所を特定して開催することを決定し、それを通知する権限を付与されるというものです。招集権者が当然に取締役会となるわけではありません。

招集権者は、取締役会において、特定事項を審議する必要があると認められるからこそ、取締役会を招集するのであり、招集権者には議題提案権が認められます。しかし、招集権者は、自ら招集した特定の取締役会の目的事項を限定する権限を有しているわけではありません(298条1項)。

・招集権者の員数

定款または取締役会で定める取締役会の招集権者の員数について、特別の制限はありません。複数の取締役を招集権者として定めることもできないわけではありません。しかし、実務上は、1人の取締役が定められているのが一般的です。

以下では、招集権者を定めた場合に想定されるイレギュラーな場合です。

取締役が任期満了により改選になる場合

定款で招集権者を定めた場合、その招集権者である取締役が任期満了となる定時株主総会に関し、その後に開催される取締役会の招集権者は、誰になるのでしょうか。これについては、取締役全員改選後の取締役会の招集については招集権者の定めはなく、原則に戻り、各取締役が招集権を有するということになります。その場合であっても、取締役会長が招集権者となっている場合には、適時に、その会長が招集通知を出して、取締役候補者にも、事前に通知しておくことで足りるとされています。なお、取締役及び監査役全員の同意がある場合、招集手続をとらなくても取締役会を開催できる(368条2項)ので、実務上は、事前通知の際に取締役候補者を含めて取締役及び監査役の全員に同意を得ることにより、招集手続が省略されたものとして取り扱うのが無難と言えます。

・招集権者である取締役に欠員または事故がある場合

ü 招集権者の順位

定款で招集権者を定めている場合、併せて招集権者の順位を定めている場合は少なく、欠員または事故がある場合は、あらかじめ定めた順序に従う旨を定め、その決定は取締役会において行われるとしているのが通例です。その場合の定款の規定例は次のとおりです。

※株懇モデルの定款

(取締役会の招集権者および議長)

第22条 取締役会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役会長か、これを招集し、議長となる。

2.取締役会長に欠員または事故があるときは、取締役社長が、取締役社長に事故があるときは、取締役会においてあらかじめ定められた順序に従い、他の取締役が取締役会を招集し、議長となる。

このような定款の規定のしたがって、順位を取締役会で定めているわけですが、その方法としては、具体的に氏名を特定できるように順位を定めて、取締役の改選等によりその順位に変動が生じる場合には、その都度取締役会で決定するという方法と、取締役の地位等に基づき、ある程度の幅を持たせて取締役会で決定する方法とがあります。また、その決めた順序を取締役会規則の中で定めるという形にしている例が少なくありません。

※招集権者の順位を定める取締役会規則の規定例

(招集権者)

第○条 取締役会は取締役会長が招集氏し、取締役会長に欠員または事故があるときは、取締役社長が、取締役社長に事故があるときは、次の順序による。ただし、同順位の者が複数選任されている場合は、その就任の順による。

@副社長

A専務

B常務

Cその他の取締役

※定款で、あらかじめ定めた順番に従うと定めて、取締役会規則等で具体的に順番を定めていない場合には、各取締役が招集権を有することになります。

〔参考〕監査役による招集

監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければなりません(383条1項)。この場合において、必要と認めるときは、取締役(招集権者を定めている場合は招集権者の場合は招集権者)に招集を請求することができます(383条2項)。さらに、招集が遅れる場合には、監査役は自ら取締役会を招集することもできます(383条3項)。

ü 招集権者への招集の請求(366条2項)

招集権者を定めている場合でも、他の取締役は招集権者に対して、会議の目的事項を示して取締役会の招集を請求することができます(366条2項)。

招集の請求を受けた招集権者が招集を行う場合、他の取締役から示された目的事項を明らかにする旨は会社法では定められていません(そもそも招集手続において目的事項の開示まで求められていません)。最も、明らかにしないことを肯定する理由がない限り、目的事項を示して招集手続を行なうべきとされています。

招集請求が為された場合、招集権者である取締役は、合理的な理由がないにもかかわらず、この請求を放置して請求手続をとらないときは、任務懈怠として責任を負うことになります(423条1項)。

この招集請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を開催日とする招集通知が発せらない場合は、請求をした取締役が自ら取締役会を招集することができます(366条3項)。

※招集の請求する場合の要件の加重または緩和

383条2項により取締役会の請求権者でない取締役は招集の請求をする場合の要件について、定款または取締役会規則で、厳しくしたり緩和することはできません。例えば、招集の請求をする時に目的である事項を示すことになっていますが、それ以上に議案や請求理由まで要求することはできない、と考えられています。これは、法が取締役に付与した権限を会社の内部規範で制限することになるんらでス。また、逆に要件を緩和して目的を示さなくても請求できるようにするのも、383条の規定に反すると考えられています。これは、実際に会議の目的を示さないで取締役会の招集を請求されても、招集権者は、招集の要否を判断できないからです。

招集権者への招集の請求は次のように行われます。

・請求方法

招集の請求の方法については、条文上で明文の定めがないので、口頭でも足りると考えられていますが、書面または電磁的方法による請求が一般的です。定款または取締役会決議において、書面または電磁的方法による等の請求の方法について細かく定めることができます。実務上、取締役会に関する事項は、定款規定に基づく取締役会規則において定められているのが一般的です。例えば、定款において「取締役会に関する事項は、法令または定款のほか、取締役会において定める取締役会規則による」と定め、取締役会規則で、定款の一般的な授権を基礎にして、招集請求の方法についても定められる。この定めは、事務処理上合理的なものでなければならず、取締役会の招集請求権の要件を加重して、その招集請求権を不当に制約することは許されません。

このような特別の定めがないときは、取締役は、適宜の方法により、取締役会の目的事項を示して、招集権者に対して、取締役会の招集を請求することができます。口頭による請求も許されますが、事後的処理にも配慮して、書面または電磁的方法により請求することが合理的と言えます。

・取締役会の目的である事項

招集権者以外の取締役が、招集権者に対して取締役会の招集を請求する場合、取締役会の目的である事項を示して請求しなければならない(366条2項)。これにより、複数の取締役から招集された場合においても、同一議題についての請求であれば、請求権者は、1回だけ取締役会を招集すればよい。さらに、招集権者が取締役会を適時に招集しないときは、請求した取締役は議題を特定して取締役会を招集することになります。取締役会の目的事項を示すことなく、一般的に取締役会の招集請求をすることは、招集権者を定めた趣旨には適合しないと言えます。

「取締役会の目的である事項」は、取締役会の「会議の目的事項」と同じ意味であり、取締役会の議題を意味します。取締役会の議題には、決議事項と報告事項があり、ここでの目的事項はーには両方が含まれます。取締役は、取締役会の専決事項のほか、広く、会社の業務執行事項や取締役会の監督権限に関連する事項を目的とするために、取締役会の招集を請求することができます。目的である事項は議題なので、議案である必要はない。例えば、代表取締役の選定の場合は「代表取締役選定の件」が取締役会の目的として示せばよいので、代表取締役候補者として特定の取締役の氏名をあげて議案を示す必要はないと言うことです。

※理由の付記

少数株主による株主総会の招集請求に際しては、株主総会の目的である事項とともに理由を示さなければなりません(297条1項)。取締役による取締役会の招集請求については、このような規定はないので、理由を必要はなく、取締役会の目的である事項を示すだけで足りる、考えられています。

ü 請求者による招集(366条3項)

招集権者以外の取締役が、招集権者に対して、取締役会の招集を請求した場合において、その請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発出されない場合、その請求した取締役は、取締役会を招集することができます(366条3項)。「5日以内」ととくに規定されているのは、原則として取締役会の日の1週間前までに招集通知を発出しなければならないことを前提に(368条1項)、招集権者が招集しない場合に、請求した取締役が、請求をした日から2週間以内を取締役会の日とする取締役会を請求することを可能にするためです。「5日以内」、「2週間以内の日」は、民法140条の初日不算入の規定に従い、取締役が取締役会の招集請求をした日の翌日から起算します。

・取締役会の招集通知

取締役会の招集請求をした取締役が、自ら取締役会を招集する場合でも、招集権者がなす場合と同様の招集手続に従って、取締役会を招集しなければなりませせん(368条1項)。会社法は原則として各取締役に取締役会の招集権を認めていますが、招集権者の定めは事務処理の便宜のための措置であり、招集権者が適切に取締役会の招集権限を行使しないときは、原則にもどるということです。招集請求をした取締役は、招集権者が招集する場合と同じく、取締役会の招集通知を発出することができると解されます。

この場合の招集通知には366条3項の規定に基づいて取締役が招集するものである旨、および当該取締役が招集権者に示した取締役会の目的事項を示すべきと解することが合理的と言えます。

関連条文

取締役会の権限等(362条) 

取締役会設置会社の取締役の権限(363条) 

取締役会設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(364条)

競業及び取締役会設置会社との取引等の制限(365条) 

株主による招集の請求(367条) 

招集手続(368条) 

取締役会の決議(369条) 

取締役会の決議の省略(370条) 

議事録等(371条) 

取締役会への報告の省略(372条)

特別取締役による取締役会の決議(373条) 


 
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