新任担当者のための会社法実務講座 第381条 監査役の権限 |
Ø 監査役の権限(381条) @監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。 A監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。 B監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。 C前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。 ü 監査役制度 株式会社において、取締役という機関は共通していますが、監査役という制度については、例えば、日本企業がアメリカの機関投資家とのミーティングの際に、ガバナンスについての議論で監査役のことを理解してもらうのに苦労したという話をよく聞きます。一方、ドイツの大会社には監査役会がありますが、日本の監査役とは全く性質のことなるものになっています。このように、日本の監査役制度というのはグローバルに普遍性のある制度ではないのです。少し長くなりますが、それを経緯をまじえて少し説明していきたいと思います。 @旧商法 明治維新により日本の資本主義経済や近代的な法制度がつくられました。株式会社法を含めた商法典も、1884年4月、外務省嘱託であったドイツの法学者で経済学者でもあったヘルマン・ロエスレルによって起草されました。これが旧商法と呼ばれるものです。しかし、帝国議会に諮られると、商工業者からの猛反発をうけ、結局、起草しなおされ1893年に漸く成立したのが現行の商法典です。しかし、株式会社に関係する部分は、旧商法の内容が引き継がれました。この旧商法には監査役が規定されていました。 この旧商法では株主総会と取締役会を常設とし、任意の監査役会という三つの機関で、株主総会は株主たちを代表する機関として取締役と監査役会員選任し、取締役が管理(マネジメント)を、監査役会がその監視を分担するというものでした。 このうち監査役会については、ロエスレルがドイツ人であることから、ドイツの監査役会に倣ったものと思われるかもしれません。ドイツの監査役会は、いわゆる二層制の機関構成といわれるもので、株主総会が監査役会を選任し、さらに監査役会が取締役会を選任、監督するもので、当時のドイツの会社では、監査役会は、監督機関というよりも、むしろ銀行をはじめとする大株主の代表として取締役会の選解任権を握り、取締役会をコントロールする傾向が強かったと言います。監査役会は実質的には業務執行機関だったようです。ロエスレルは、このような監査役会の経営への干渉に批判的だったといいます。彼は、監査役会という名前はドイツからもってきましたが、その内容はイギリスの合資株式会社の会計監査役や会計監査にプラスして業務監査権を与えるフランスの制度に近いものだったといえます。彼は、株主総会、取締役会、監査役会を国家の統治機構のように三権分立に譬えていたと考えられます。ロエスレルは、「監査役会は業務の執行をすべきものではなく、取締役たちの業務執行を、法律及び定款、また株主及び債権者の利益の観点から監視しなければならない。違法または会社に損害を生じさせる業務執行を阻むべき確乎とした機能と権限とを与えられた特別の機関」としました。これは、イギリスやアメリカのモニタリング・ボードという、取締役会が業務執行者を監督する制度ともドイツの監査役会ともことなる独特で複雑な制度で、これをベースに日本の株式会社のガバナンス機構が作られたといえます。なお、先ほど触れたイギリスの会計監査役は会計監査を専門的に行う、現在の日本の制度では外部会計監査人に近いものと言えます。 A1950年商法改正によるアメリカ法の影響 第二次世界大戦後の1950年、連合国による占領政策のひとつとして商法改正が、アメリカの主導で進められました。その趣旨は、取締役会の継受、代表取締役の創設、監査役の廃止でした。これはアメリカ的な取締役会の導入が図られたということに異論の余地はありません。 とくに監査役の廃止については、英米法では取締役会が業務監査を行い、さらに職業的専門家である会計監査人が会計監査を行うのが通例で、業務監査はあくまでも取締役会の内部で自治的に行われるべきというものでした。その考えに従って商法改正作業が進められ、従来の監査役は廃止ということになり、その代わりに会計監査機関として会計監査役を創設することが企てられました。その後の国会審議で、会計監査役の名称を監査役に戻したことから、表面的には、監査役は廃止さなかったように見えることになりました。従って、このときに監査役は会計監査のみを行うものとなりました。しかし、その一方で、取締役会が果たして業務監査を内部で行えるようなものに変わっていたのか。それが、この後、監査役が再び業務監査を担うことになったり、監査役会を設置するようになるという手直しが加えられ、日本の独特の制度が出来上がっていくことになります。 B1974年商法改正による監査役制度の強化 この改正を契機となっのは、1965年の山陽特殊製鋼事件をはじめとした粉飾決算による倒産の発生です。このとき監査役は株主総会で粉飾決算の計算書類を適正・妥当と報告しでおり、監査制度への強い批判が起こったことからです。これはまた、1950年の商法改正で、取締役会に期待された内部監査が、その期待を裏切って、機能していなかったことが明らかになり、取締役会の内部監査に加える形で監査役の業務監査の復活が図られたということです。具体的には、この改正で、株式会社を規模に応じて大中小の三種類にわけて、中会社では会計監査人には会計監査の権限しか与えられていなかったのに、新たに業務監査権が加えられました。また大会社では、監査役に業務監査権が与えられるとともに、会計監査人による会計監査を義務付けられました。そして、すべての会社で監査役の任期は2年に延長され代表取締役からの独立性を高められました。この後、監査役制度強化の商法改正が断続的に行われました。1981年の商法改正では、ロッキード事件などの大型疑獄事件で会社資金不正支出という不祥事が明るみに出たことなどから、監査役の報酬や監査費用の独立性、監査役の取締役会招集権、取締役の取締役会への報告義務など、その他大会社においては監査役の複数名選任と常勤監査役制度の創設等が図られました。 ü 業務監査と会計監査 監査役監査の対象となるのは、取締役の職務の執行です。取締役の職務の執行とは、取締役が取締役としての地位に基づいて行うすべての行為を意味し、業務の執行に限られるものではありません。すなわち、取締役の職務は、@業務ないし業務執行の決定、A業務の執行、B他の取締役の職務執行の監督とされていますが、監査役の監査は、そのすべての行為を対象とします。そして、監査役の監査権限は会計に関する範囲に限られないので、これらの取締役の職務執行の監査は、その会計的側面に限られず、業務監査などのあらゆる側面に及ぶことになります。 監査役・監査役会の職務とその権限は、業務監査と会計監査に大別できます。業務監査は、取締役(会計参与設置会社にあっては取締役及び会計参与)の職務執行を監査することです(381条1項)。ただし、公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く)では、定款に定めることにより、監査役の監査の範囲を取締役会が株主総会に提出しようとする会計に関する議案、書類その他の法務省令で定めるものを調査し、その調査の結果を株主総会に報告することに限定することができるとされています(389条1項)。この監査役の監査範囲の限定は、業務監査を行わず会計監査のみに限定したことになります。従って、会計監査というのは、上述の内容で、具体的に何を行うかについては389条2〜6項に記されていて、逆説的に参照することになります。なお、会計監査人設置会社の監査役は会計監査人の選任等に関与する権限も有しています(340条)。 〔参考〕会社法制定前の商法の時代の監査役の監査範囲 会社法以前の監査役の監査範囲は、会社の規模によって段階的に分けられてしました。小会社の監査役の職務は会計監査に限定され(従って、これに該当していた会社は、会社法の現在では、定款に監査範囲を限定する規定を置いています。)、中会社では業務監査権が加えられました。また大会社では、会計監査人による会計監査を義務付けられることに伴い、会計監査人の監督監査が加わりました。 ・業務監査─違法性監査と妥当性監査 取締役は、委任の規定に従い(330条)、善良な管理者の注意をもって、法令および定款ならびに株主総会の決議を遵守し、株式会社のために忠実にその職務を行わなければなりません(355条)。したがって、監査役の監査も、まず取締役がこのように善管注意義務をもって法令・定款および株主総会決議を遵守するとともに、会社のために忠実にその職務を遂行しているかどうかを対象とすることになります。しかし、監査役による監査は、取締役の職務執行が適法であるかを監査することに限定されるか(違法性監査)、それとも違法性監査に加えて、経営効率の観点からの妥当性についても含むものであるか(妥当性監査)については、議論が分かれています。学説上は、違法性監査が原則という考え方が有力と言えます。 しかし、実際上は、監査役の監査活動は、日常的な種々の情報収集活動から始まるわけですが、この場面では、その対象となる範囲を違法性に限ることは不可能です。他方で、取締役の違法行為などに関する報告(382条)の場面では、著しく不当な事実または事項も含めて、違法性の観点からに限ると報告の範囲が限られてしまうことになります。また、監査役の監査報告の場面では、主として違法性の観点からの報告内容を記載・記録するのですが、しかし内部統制システムに関する不相当意見(会社法施行規則129条1項)や敵対的買収防衛策に関する意見(会社法施行規則129条1項)など違法性に限られない事項も存在します。それに加えて、監査役の権限が妥当性にも及ぶとすれば、他方でそれが監査の義務となり、その不作為が監査役の任務懈怠につながることにかります。したがって、監査役の監査の範囲は個々の権限行使こどに判断せざるをえず、またそれで十分であると考えられます。 ・会計監査 監査役は取締役の職務執行を監査するのですが、それは会社の監査を通じても行われます(会計監査)。取締役の違法な職務執行は、その徴憑が会計面に表われることも少なくないからです。会計監査も、会社の業務執行に伴って常時行われますが、会社法はとくに、期末決算後に監査役は期末決算後に監査役は計算書類およびその附属明細書を監査し(436条)、その監査報告を作成しなければなりません(381条、会社計算規則150条)。 会計監査人設置会社では、会計の専門家である会計監査人が第1次的に会計監査を担当します。この場合、監査役は会計監査の職務を行いますが、ここではすでに専門家である会計監査人による会計監査が行われるので、監査役は会計監査人の監査を前提として会計監査を行います。監査役は会計監査人の監査報告の内容を調査し、その監査の方法または結果を相当であるかないかを監査することになります(会社計算規則155条)。 ・監査役の職務執行の方法 監査役が複数いる場合でも、各監査役はそれぞれ独立して監査を行います。これを独任制といいます。監査役間の協議により、共同して監査を行うことまたは監査役間で職務の分担を行なうことは可能ですが、会社との関係では、各監査役が取締役の職務執行全般にわたる監査義務を負います。したがって、監査職務の分担があっても、特定の監査役が担当する監査を怠った時は、他の監査役も任務懈怠責任を負う可能性があります(423条)。 ü 業務監査の個別の職務・権限 監査役設置会社の監査役による業務監査と取締役及び取締役会による職務執行の監督との違いは、後者が業務執行の妥当性にの妥当性まで及ぶのに対して、監査役の監査権限は原則として業務執行の適法性(法令・定款違反)の監査に限られて、限定された問題についてのみ、相当でない事項または著しく不当な事項を指摘するにとどまるものです。 監査役が違反の有無を監査すべき法令として次のようなものがあげられます。 ・株主・会社債権者の利益の保護を目的とする具体的規定(156条、356条1項、365条) ・取締役の善管注意義務・忠実義務を定める一般的な規定(330条、355条) ・公益の保護を目的とする規定(独占禁止法、労働関係諸法規等) 監査役の具体的権限(義務)は、次の3点になります。 a)調査権限 ア.報告請求・業務財産調査権 取締役の職務執行等を調査する権限です。この権利は、いつでも、従って権限濫用にならない限りは、時期・方法に限定なしに認められます。会社の帳簿・書類については、その閲覧・謄写が認められ、また、本店、支店、工場、倉庫等に赴いて現実に財産の状況を調査することが出来ます。 ・監査役はいつでも、取締役・会計参与・使用人に対して事業の報告を求め、または会社の業務・財産の状況を調査することができる(381条2項)。 ・監査役設置会社の取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役に報告することが義務付けられている(357条1項)。 ・取締役会設置会社の監査役には、取締役会への出席義務があり(383条1項)、これは業務財産調査権の一部とみることもできる。 ※情報の収集・監査の環境の整備義務 ・監査役は、その職務を適切に遂行するため、会社・子会社の取締役・会計参与・使用人等と意思疎通を図り、情報の収集および監査の整備に努め、必要に応じ、他の監査役との意思疎通及び情報の交換に務めなければならない(371条1項、会社法施行規則105条2項)。 ・取締役・取締役会は、監査役の職務の執行のための必要な体制の整備に留意しなければならない(会社法施行規則105条2項)。 ・いわゆる内部統制の体制の整備についての取締役会の決定・取締役会の決議の内容または体制の運用状況が相当でないと認めるときは、監査役は、監査報告にその旨及びその理由を記載しなければならない(会社法施行規則129条1項5号)。 イ.子会社調査権 監査役は、その職務を行うために必要な場合は、子会社に対し事業の報告を求め、または子会社の業務・財産の状況を調査することができます(381条3項)。子会社利用した粉飾決算。例えば、個会社に対して架空売上を計上する、すなわち、実際には子会社に対して製品を売却していないにもかかわらず売却したように仮装して、子会社から製品の受領証の交付を受ける等して、親会社の債権を水増しするようなこと。のような粉飾決算を発見するためには、子会社の財産状況の調査が必要です。また、親会社が子会社の支配・管理のみを目的とする持株会社である場合には、実際の事業を行うのは子会社なので、そこからの情報は不可欠です。また、完全子会社の取締役の責任追及の訴えで会社を代表するのは監査役にあります(386条1項)。 ・監査役はいつでも、取締役・会計参与・使用人に対して事業の報告を求め、または会社の業務・財産の状況を調査することができる(381条2項)。 ※子会社は、調査が権限濫用である等正当な理由があるときには、その報告・調査を拒むことができます(381条4項)。 b)是正権限 ア.違法行為の阻止 ・監査役設置会社の監査役は、取締役会に出席し、必要があると認められるときは意見を述べる義務がある(383条1項)。 監査役は取締役会の構成員ではなく、議決権を認められているわけではないので、たとえ取締役会て意見を述べることができたとしても、そこで無視されれば違法な決議等が行われることを直接ぼうしすることはできません。しかし、取締役会に出席していれば、そのような決議が行われたことを、その場で知り得るから、早期に取締役の違法行為の差止請求権の行使(後述)を行使するなどの措置を講ずることができるからです。 ・取締役が不正の行為をし、もしくはその行為をするおそれがあると認められるとき、または、法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役あるいは取締役会に報告することを要する(382条)。 この報告に基づいて取締役会において、その業務執行の監督権による適切な措置を講ずることが期待されているわけです。なお、取締役会が開催されなければ、この報告をすることができないので、監査役に対して、この報告をする必要がある場合に、取締役会の招集を請求する、または自ら取締役会を招集する権利を認められています(367条)。 ・取締役の法令・定款に違反する行為により会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、監査役は、その行為の差止めを当該取締役に対し請求することができる(385条1項)。 この請求権は、通常は仮処分申請を裁判所に申し立てることによって行使されます。取締役の違法行為の差止請求権は株主にも認められています(360条)が、監査役の差止請求権を株主のそれと比べると、下の3点に違いがあります。 @)株主にとっては取締役の違法行為等の差止めは権利であって義務ではないのに対して、監査役にとっては必要であるときは、行使することが権利であるとともに義務でもあり、それを怠れば任務懈怠の責を負わされることになります。 A)行為差止めの仮処分について株主の場合は担保を立てさせられる(民事保障法14条)のに対して、監査役の場合はその必要がありません(385条2項)。 イ.会社・取締役間の訴訟 監査役は、会社が取締役(取締役であった者を含む)に対しまたは取締役が会社に対して訴えを提起する場合に、その訴えについて会社を代表します(386条1項)。このような会社・取締役間の訴えにおいても会社を代表する者を一般原則通り代表取締役とすると、訴訟の相手方である取締役がその代表取締役である場合はもちろん、それ以外の取締役でも、適切な訴訟追行がされないおそれがあるので、取締役からの独立性が保障されている監査役が会社を代表することになっています。 会社の取締役の責任を追及する訴訟として、株主からは代表訴訟を提起することができますが、その前提としての、会社に対して訴えの提起を請求することが必要で、この請求を株主から受ける会社の代表は監査役です(386条2項)。しかし、監査役としては、このような請求がなされた場合に限らず、取締役の責任を追及する訴訟を提起する必要があると判断したときは、会社を代表してその訴訟を提起することができます。しかも、監査役は、その訴訟を提起する必要がある場合に、それを怠れば、任務懈怠の責任を負わされる可能性背あります。 ウ.取締役の責任の一部免除等への同意 次にあげる場合に監査役の同意(監査役が二人以上いる場合には、各監査役の同意)が必要になります。 @)取締役の会社に対する責任または特定責任に関する完全子会社等の取締役の責任を一部免除する議案を株主総会に提出する場合(425条3項) A)取締役・取締役会の決定により取締役の会社に対する責任の一部免除ができる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合なら゛に当該定款に基づく責任免除につき取締役の同意を得る場合および責任免除議案を取締役会に提出する場合(426条2項) B)非業務執行取締役の会社に対する責任につき責任限定契約を締結できる旨の定款変更議案を株主総会に提出する場合(427条) オ.各種の訴え・申立て 監査役は、会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条2項)及び株主総会決議取消の訴え(831条1項)を提起することができ、また特別生産の申立て(511条1項)および特別清算開始の調査命令の申立てをすることができます。 c)報告権限 ア.監査報告書の作成 監査役は、監査の結果を株主等に報告しなければなりません(381条1項)。そのため監査役は、事業年度こどに監査報告書を作成し、それは株主・会社債権者・親会社役員等の閲覧等に供されることになります。業務監査事項に係る監査報告は、取締役が作成する事業報告及びその附属明細書を受領した際に作成すべき監査報告の内容をなすものが多い。底には、次のことが記載され、株主総会において、株主が求めた事項について説明しなければなりません(314条)。 @)業務監査の方法・内容(会社法施行規則129条1項1号) A)事業報告・その附属明細書が法令・定款に従い会社の状況を正しく示しているかについての意見(同2号) B)取締役の職務の遂行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があったときはその事実(同3号) C)監査のため必要な調査ができなかったときはその旨およびその理由(同4号) D)大会社における内部統制の整備についての取締役の決定目取締役会の決議の内容またはその運用状況が相当でないと認めるときはその旨およびその理由(同5号) イ.株主総会提出議案・書類の調査・報告 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査し、法令・定款に違反しまたは著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を報告することを要する(384条)。 監査役の総会に対する意見の報告は議案または書類が法令・定款に違反し、または著しく不当な場合にのみ、すればよいと考えられます。この点は監査役の監査報告書の記載とは違っています。監査報告書では適法な場合もその旨の記載が要求されますから、また、報告は書面によっても、口頭によっても、どちらでもよく、監査役が数人の場合は、各自が意見を報告する必要がありますが、各自の意見が同じのときは、そのうちの一人が連名で報告することもできます。 監査役は、取締役会に出席し、意見を陳述する権利を認められています(383条)から、総会提出議案・書類が取締役会の議題になれば、そこで調査をして、法令・定款に違反し、または著しく不当な総会議案が提出されることを阻止する機会が与えられていることになりますが、監査役の意見が無視されて、そのような議案・書類が総会に提出されようとするときは、監査役は総会で意見を述べることになります。 監査役は、いわゆる独任制の機関であって、複数の監査役がいる場合にも各自が単独でその権限を行使することができます。業務執行に関する妥当性の判断と異なり、違法・適法に関する判断は、監査役の多数決で決着をつけるべき問題ではないからです。 ü 監査役の義務と責任 ・監査役と会社の関係 会社と監査役との関係は、取締役の場合と同様に委任に関する規定に従います(330条)。従って、監査役は、その職務を遂行するにつき善管注意義務を負います(民法644条)。監査役は業務執行を行わないので、取締役のような会社との利害対立に関する細かい規定は設けられてはいませんが、しかしそれは、予防的・形式的な規制がないというだけであって、例えば、監査役が職務上知り得た会社の営業秘密を利用して私利をはかる等の行為により会社に現実に損害を生じさせた場合には、善管注意義務の責任を免れ得ないでしょう。 ・監査役の会社に対する責任 監査役は任務懈怠による責任を負います。会社に対して、連帯して、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負います(430条)。それらの者の内部関係においては、その任務懈怠の軽重に応じて負担部分が決められます。監査役と取締役との連帯責任が認められた例として、山陽特殊鋼事件があります。この事件では、取締役が粉飾決算をして違法配当議案を作成して総会に提出し、監査役が総会に提出される計算書類の調査について果たすべき注意義務を尽くさず、違法配当議案が適正妥当である旨の監査結果を総会で報告し、そのために、違法配当議案が原案通り承認されて、会社に損害を与えたというものです(神戸地裁姫路支部判決昭和41年4月11日)。 監査役会設置会社では、監査役会の決議に参加した監査役で議事録に異議をとどめない監査役は、決議に賛成したと推定されることになります(393条4項)。しかし、取締役の場合とは異なり、監査役会において決議に賛成しても任務懈怠が推定されることはないので、決議賛成監査役についても、その決議時の任務懈怠の有無は個々に問題とされます。 ・監査役の第三者に対する責任 監査役がその職務を行う際に悪意または重大な過失がある場合は、その監査役は第三者に対しても連帯して損害賠償の責任を負います(429条1項。430条)。 監査役が、監査報告に記載しまたは記録すべき重要な事項について虚偽の記載(不記載)をした場合には、その行為(懈怠)をすることに関して注意を怠らなかったことを証明しない限り、第三者に対して損害賠償をする責任を負います(429条2項3号、430条)。 〔参考〕監査役、会計監査人、内部監査のいわゆる三様監査 参考として監査役・監査委員・監査等委員(以下、まとめて「監査役」)監査、会計監査人監査、内部監査部門による内部監査のいわゆる三様監査について少し説明しておきます。三様監査については、同じ監査を担う役割があっても、その相違を理解した上で、相互の効果的な連携を図るという目的があります。 A)三様監査の各役割 ア.監査役・会計監査人・内部監査部門 三様監査を担う主体のうち、監査役と会計監査人は、会社法上の機関です。すなわち、監査役は、取締役の職務執行を監査する権限を有し(381条1項)、会計監査人は、会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査します(396条1項)。その上で、監査役も会計監査人も、事業年度ごとに監査報告を作成し、株主に通知しなければなりません(381条1項、396条1項)。 監査役は、会社と委任関係にある会社法上の役員です(330条、329条1項)。会計監査人は、会社法上の役員ではないものの、監査役と同様に、会社と委任関係にあります(330条)。委任関係の場合は、委任者に対して善管注意義務を負うことになる(民法644条)ことから、法的には、監査役と会計監査人は、会社に対して善管注意義務を負う会社機関と位置付けられます。従って、監査役と会計監査人は、その職務の任務懈怠によって会社に損害が生じれば、会社に対して損害賠償支払いの責任を負います(423条1項)。会社が監査役や会計監査人に対する責任追及を行わなければ、株主代表訴訟の対象となります(847条1項、3項)。 なお、会計監査人は、公認会計士の資格を有する会計の専門家であるのに対して、監査役は特段の資格要件が法定化されているわけではありません。 他方、内部監査は、法的に位置付けられた法定監査ではありません。会社組織の中で、専任の内部監査担当者がいる会社のほか、経理・財務部門等との兼務となっている会社もあります。もっとも、上場している会社では、金商法上の財務報告に係る内部統制の有効性を評価した上で、内部統制報告書に記載する必要(金商法24条の4の4第1項)から、実務を行う内部監査部門に専任の担当者を配属している会社が多くなっています。 イ.監査役監査と内部監査の違い 三様監査の対象は、会社の各執行部門であることから、監査対象部門が三様監査の違いを認識した上で、監査を受けることが出発点です。三様監査の中では、会計監査人監査は、会計に特化した監査であり、純粋外部の職業専門家によるものとの認識は得られやすいと考えられます。他方で、監査役監査と内部監査は、各部門にとってその違いを十分に理解しているとは言い難い印象です。同じ社内の人間による不祥事防止のための監査であろう程度の認識が一般的のように思われます。その結果として、監査役監査と内部監査への対応負荷が大きい場合や、重複しているとの認識があると、監査対象部門は形式的な対応となり、監査の実効性が十分に上がらない可能性が高くなります。 監査役監査と内部監査の違いの第一は、監査役制度が会社法に規定されていることから監査役監査は法定監査であるのに対して、内部監査は法令上の規定はないことです。従って、会社内の組織の名称(監査部、内部監査室等)から社内での位置付け(社長直轄、総務部等と並列)など、各社によりさまざまです。また、内部監査が法令上の規定がないということは、監査業務の方法や手続きも各社が社内的に決定すればよいこととなります。 第二の違いは、監査役の監査対象は取締役の職務執行を監査すること(381条)に対して、内部監査の対象は、従業員全般というのが通常の実務です。内部監査部門は、取締役の指揮・命令に服することになるので、指揮・命令権を持つ監督者に対して直接監査することは、物理的にあり得ても、現実的には考えにくいと言えます。他方、監査役は、株主総会で取締役とは別に選任され(329条1項)、法的に執行部門から独立していることから、監査役監査の対象が取締役となり得ます。従って、取締役が違法行為や不正行為等により会社に著しい損害を及ぼすことがないか、言い換えれば、取締役が会社に対して善管注意義務を果たしているか、監査を通じて確認することとなります。 もっとも、取締役の違法行為等は、取締役自らに限らず、部下への下命や、部下達の違法行為等を是正しないで見て見ぬふりをする不作為も含まれるので、監査役監査では、各部門の執行役員以下からの報告聴取や重要会議・重要書類の閲覧等を通じて、取締役の善管注意義務違反の有無を監査することになります。 第三の違いは、内部監査は組織監査であるのに対して、監査役監査は、監査役間で相互に意見交換をするものの、最終的には他の監査役の意見に左右されないで意見表明ができる独任制となっていることです(390条2項)。独任制は、各監査役の独立性を担保したもので、取締役には法定されていない特異の権限です。 B)三様監査の中で監査役の果たすべき役割 ア.監査役と会計監査人との連携 監査役は、必ずしも会計に知見があるとは限りません。しかし、監査役は最終的に、会計監査人監査の相当性を判断した上で、期末の監査役(会)監査報告に反映し、株主に提出する義務があります。このためには、監査役と会計監査人との具体的な連携は不可欠です。 期初においては、相互の監査計画を説明し、当該事業年度において重点的に監査を行う必要がある項目を確認しあうことが大切です。必要に応じて、監査役と会計監査人が同行して棚卸立会やシステム監査を実施することもあり得ます。また、期初の段階で、会計監査人から取締役や執行役員との面談・ヒアリングの要望があった場合には、監査役が積極的に調整することが考えられます。純粋外部者である会計監査人は、社内情報にアクセスする機会が少ないため、会計監査人にとって会計監査上必要と考えるヒアリング等については、監査役としてそのような場を設定することも大事な役割です。 監査役は、会計監査人が取締役の不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見したときには、報告を受けたり、報告を請求したりする権限があります(397条1項、2項)。期末には、会計監査人の会計監査報告の内容の通知を受ける権限もあります(会社計算規則130条)。しかし、重大な事実に限らず、不正の恐れや懸念があるような事実についても会計監査人が発見した場合には、監査役は期中の段階から会計監査人から報告を受ける関係を構築しておくべきです。また、監査役からも、業務監査を通じて気になった点があれば会計監査人に説明し、会計監査の点から確認してもらうこともあり得ます。このためには、監査役と会計監査人が定例的に監査の実施状況の報告と意見交換を行うこと、とりわけ、会計監査人と経理・財務部門で意見の相違があった点などについては、監査役として状況を把握しておくことが重要です。 監査役は、会計監査人から不正会計や法令・定款違反の重大な事実の報告を受けた場合には、監査役会等の場で十分に審議・協議した上で、必要に応じて独自に調査したり、取締役に対して必要な対応を促したりするなどの措置を講ずる必要があります。 なお、監査役は会計監査人の報酬同意権があり(399条)、かつ公開会社の場合は、事業報告に報酬同意理由を開示しなければなりません(会社法施行規則126条2号)。従って、監査役は、執行部門が作成する報酬案に対して、会計監査人に対する評価を踏まえて、その妥当性について合理的な判断を行う必要があります。監査役の実務としては、会計監査人からの要望と経理・財務部門の意見の双方を聴取した上で、法的に執行部門から独立した立場で同意の有無を判断することになります。 イ.会計監査人と内部監査部門との連携 三様監査は、本来、等距離で相互に連携を図っていく性格のものですが、会計監査人が通常接するのは経理・財務部門であり、独立した組織の内部監査部門との接点は必ずしも深くありません。内部監査部門が、金商法上の財務報告に係る内部統制の評価実務を行っている場合には、会計監査人・内部監査部門双方にとって、評価の視点からもお互いの意思疎通は重要です。 しかし、内部監査は法定監査でないことから、会計監査人は、監査役に対する場合と異なり、内部監査部門に対する報告義務は存在しません。従って、監査役は、意識的に両者の接点を持たせる役割があります。具体的には、会計監査人が監査役に対して会計監査の実施状況を報告する場所に内部監査部門の担当者が同席し、一緒に意見交換に加わるようにしたり、内部監査部門による内部統制システムの構築・運用状況の評価を会計監査人に説明したりする場があってよいと思われます。監査役として、内部監査部門による評価を会計監査人に説明したり、三者が一堂に会して、意見交換を行ったりすることも有益です。 ウ.監査役と内部監査部門との連携 社内では監査役監査と内部監査との差異が十分に理解されない可能性があることから、期初の段階で監査役は内部監査担当者との打ち合わせを通じて、相互に重複のない監査実務を行うようにすることが必要です。例えば、監査対象部門に対する監査日程が近接している場合は、ある程度の間隔をあけること、監査の方法も内部監査部門が網羅的なチェックリストを利用している場合には、監査役監査では世間で問題となっている不祥事や前年の監査で指摘した事項の改善状況等、重点を絞った監査を行うことが考えられます。 同じ社内の監査ということで、監査役スタッフと内部監査スタッフが兼務している会社が見られるように、効率的監査を実施するために、監査役またはそのスタッフが内部監査部門と行動を共にして監査することも否定されるわけではありません。しかし、このような場合も、監査役監査は、法的に取締役の職務執行を監査する役割があるとの視点を常に念頭に置くべきです。すなわち、監査を通じて事件・事故を発見した場合にも、その原因が内部統制システムの不備による取締役の善管注意義務違反に起因したものか否かを判断する視点を持っておくべきです。
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