新任担当者のための会社法実務講座 第394条 監査役会の議事録 |
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議事録(394条) @監査役会設置会社は、監査役会の日から10年間、前条第2項の議事録をその本店に備え置かなければならない。 A監査役会設置会社の株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、次に掲げる請求をすることができる。 一 前項の議事録が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求 二 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求 B前項の規定は、監査役会設置会社の債権者が役員の責任を追及するため必要があるとき及び親会社社員がその権利を行使するため必要があるときについて準用する。 C裁判所は、第2項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の請求に係る閲覧又は謄写をすることにより、当該監査役会設置会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、第2項の許可をすることができない。 ü
監査役会議事録の作成(393条2項) 監査役会の議事については、法務省令で定めるところに従い、議事録を作成し、監査役が署名または記名押印しなければなりません(393条2項)。また、議事録が電磁的記録をもって作成されている場合は、署名または記名押印に代えて、電子署名が求められます(393条3項)。 監査役会の議事録は法律関係の明確化のために作成されるものにすぎず、したがって、記載洩れまたは事実と異なる記載があった場合、それにより決議に影響があるわけではないと考えられます。しかし、決議に参加した監査役が議事論に異議をとどめなかった場合、決議に賛成したと推定されます(393条4項)。これは異議が記されていない議事録に署名をしたことにより賛成の推定がされるからである言います。 議事録に記載すべき内容は次のとおりです、(会社法施行規則109条3項) ・実際に開催した場合 @)監査役会が開催された日時及び場所 A)議事の経過の要領及び結果 議事の経過とは、開会、提案、協議、報告などの審議内容、表決方法、閉会など取締役会の経過全般を指し、議事論には、議事の進行過程、発言内容と発言者の主要なものを記載すれば足り、速記録のように逐一内容を記載する必要はありません。 また決議の結果については、一義的に明確になるように完結に記載します。例えば、全員一致の場合は「出席取締役全員異議なく承認可決された」、また全員一致でない場合は「出席取締役の賛成多数で可決された」と記載するのが一般的です。ただし反対者がいる場合には、反対・棄権した取締役の氏名を明記することとなります。 B)監査役会への報告事項(357条、375条、397条) C)監査役会に出席した取締役役、会計参与、会計監査人の名称 D)議長が存する場合には、当該議長の氏名 E)395条による報告監査役会への報告を要しないものとされた場合には次の事項 a)監査役会への報告を要しないものとされた事項の内容 b)監査役会への報告を要しないものとされた日 c)議事録の作成に係る職務を行った監査役の氏名 ※上記以外にには次の事項の記載も望ましいとされています。 a)出席した監査役の氏名 議事録は出席者が判明すれば足りるので、欠席者に関する記載は必須ではないとされています。 b)取締役の総数等 c)閉会時間 d)作成年月日 ü 監査役会議事録の備置(394条1項) 監査役会議事録は、監査役会の日から10日間本店に備え置かなければなりません(371条1項)。監査役会の報告の省略により作成される議事録も、備置きについては通常の監査役会議事録と同様に扱います。10年の期間は、株主総会や取締役会の議事録に合わせて(318条2項、371条1項)、また、役員等の責任の時効等に配慮して、定められています。10年の始期は、監査役会の日です。 備え置きは、議事録を保存することとは異なります。備え置きは閲覧等を前提とし、裁判所の閲覧等の許可がなされたときに、適切にこれに応ずることができるような状態に置くことを意味します。監査役会の議事録等は、備置期間経過後当然に廃棄されるわけではありませんが、この10年の備置期間経過後は、394条2項以下の規定に基づく株主等の閲覧等請求はできないとする下級審の裁判例があります。 会社法は、監査役会の議事録の備え置きを会社の義務として規定しています。会社は、これを受けて、具体的な義務者を定めなければなりません。これは、業務執行の一環としての職務であるため、取締役会において、取締役の中から定められることとなる。代表取締役ないし業務担当取締役を議事録の備置・閲覧等の職務を行うものとして定められていると備え置きの義務者は異なります。 ü
監査役会議事録の閲覧謄写(394条2項、3項、4項) 株主は、その権利を行使するために必要があるときは、会社の営業時間内であればいつでも、監査役会の閲覧または謄写を請求することができます。ただし、裁判所の許可を得ることが必要です(394条2項)。株主総会の議事録の閲覧には、このような制限がないのに、監査役会の議事録は裁判所の許可が必要になるのでしょうか。それは、株主総会は決議事項が限定されていて、株主総会自体がある程度公開の場でもある(招集通知や株主総会参考書類は公開されます)ので、その議事の内容・結果が公になっても、会社に不利益をもたらすことはありません。これに対して、監査役会では重要な情報が決議され、公開されれば会社に不利益となるような企業の秘密にわたる事項が議題とされることも少なくありません。したがって、そのような取締役会の議事録を株主等に無条件に閲覧謄写を認めてしまうと、会社は企業秘密の漏洩、権利濫用的な閲覧謄写を懸念して、議事録の記載内容をあたりさわりないものにして、閲覧謄写しても意味のないものにしてしまう可能性があります。そこで一方では閲覧謄写請求の要件を厳格にし、会社の上記懸念を解くとともに、記載内容の維持を期待したからです。 会社債権者が、役員の責任を追及するために必要がある時も、これに同じです(394条3項)。 親会社社員も、親会社(例えば持ち株会社)の役員等の責任を追及するため、あるいは子会社の役員等の特定責任等を追及するためには、重要な子会社の経営状況を調査する必要があり得るので、裁判所許可を得て閲覧謄写請求をすることが出来ます。これに対して、裁判所は閲覧謄写により会社またはその親会社・子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは、許可を与えることができません(371条4項)。 許可の裁判は非訟事件であり、裁判所が許可したにもかかわらず、正当な理由がないのに閲覧等を拒んだときは、過料の制裁が科せられます(976条4項)。
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