新任担当者のための会社法実務講座
第386条 監査役設置会社と取締役
との間の訴えにおける会社の代表
 

 

Ø 監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(386条)

@第349条第4項、第353条及び第364条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合には、当該各号の訴えについては、監査役が監査役設置会社を代表する。

一 監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合

二 株式交換等完全親会社(第849条第2項第1号に規定する株式交換等完全親会社をいう。次項第3号において同じ。)である監査役設置会社がその株式交換等完全子会社(第847条の2第1項に規定する株式交換等完全子会社をいう。次項第3号において同じ。)の取締役、執行役(執行役であった者を含む。以下この条において同じ。)又は清算人(清算人であった者を含む。以下この条において同じ。)の責任(第847条の2第1項各号に掲げる行為の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じたものに限る。)を追及する訴えを提起する場合

三 最終完全親会社等(第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等をいう。次項第4号において同じ。)である監査役設置会社がその完全子会社等(同条第2項第2号に規定する完全子会社等をいい、同条第3項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。次項第4号において同じ。)である株式会社の取締役、執行役又は清算人に対して特定責任追及の訴え(同条第1項に規定する特定責任追及の訴えをいう。)を提起する場合。

A第349条第4項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査役が監査役設置会社を代表する。

一 監査役設置会社が第847条第1項、第847条の2第1項若しくは第3項(同条第4項及び第5項において準用する場合を含む。)又は第847条の3第1項の規定による請求(取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合

二 監査役設置会社が第849条第4項の訴訟告知(取締役の責任を追及する訴えに係るものに限る。)並びに第850条第2項の規定による通知及び催告(取締役の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関するものに限る。)を受ける場合

三 株式交換等完全親会社である監査役設置会社が第847条第1項の規定による請求(前項第2号に規定する訴えの提起の請求に限る。)をする場合又は第849条第6項の規定による通知(その株式交換等完全子会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

四 最終完全親会社等である監査役設置会社が第847条第1項の規定による請求(前項第3号に規定する特定責任追及の訴えの提起の請求に限る。)をする場合又は第849条第7項の規定による通知(その完全子会社等である株式会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

 

監査役は、会社が取締役(取締役であった者を含む)に対しまたは取締役が会社に対して訴えを提起する場合に、その訴えについて会社を代表します(386条1項)。また、会社の取締役の責任を追及する訴訟として、株主からは代表訴訟を提起することができますが、その前提としての、会社に対して訴えの提起を請求することが必要で、この請求を株主から受ける会社の代表は監査役です(386条2項)。しかし、監査役としては、このような請求がなされた場合に限らず、取締役の責任を追及する訴訟を提起する必要があると判断したときは、会社を代表してその訴訟を提起することができます。しかも、監査役は、その訴訟を提起する必要がある場合に、それを怠れば、任務懈怠の責任を負わされる可能性があります。

この趣旨は、会社と取締役との間の訴訟は、両者の利害対立が鮮明に現われますが、代表取締役を会社代表としてしまうと、相手の取締役との仲間意識から会社の利益が十分に確保されないおそれがあるので、代表取締役が当該訴訟の当事者であるか否かにかかわらず、中立的な監査役に会社を代表させて、会社の利益が害されることを防止する点にあります(最高裁判決平成5年3月30日、平成9年12月16日)。しかし、いったん会社と取締役との間に訴訟が提起されることになった以上は、通常両者の利害対立は決定的になり、会社として公正な訴訟行為がなされないおそれはそれほど大きいものではないと考えられます。むしろ、監査役を代表とすることは、訴訟における会社代表権の前提として、会社と取締役との間に法的紛争がある場合に、会社が取締役を被告として訴えを提起すべきかどうかについての判断及び訴訟追行に関する種々の判断を、監査役が専権的に行う点にあると考えられます。

ü 会社と取締役との間の訴訟における会社代表権(386条1項)

・会社と取締役との間の訴訟における会社代表者

会社と取締役との間の訴訟では、349条4項の規定にかかわらず、当然には代表取締役は会社代表権を有しません。会社と取締役間の訴訟では、両者の利害が対立するにもかかわらず、代表取締役の仲間意識から、馴れ合い訴訟により会社の利益が害される危険性があり、これを防止するために、中立的立場にある他の者に訴訟における会社代表権を行使させることが認められています。353条では、株主総会が会社代表者を定めることができるとしているので、株主総会が決議をした場合にのみ、代表取締役の代表権が失われます。また、取締役会設置会社では、株主総会が353条による会社代表者の決議をしない場合に、取締役会において会社代表者を定めることができます。

これに対して、監査役設置会社では、353条の規定に関わらず、当然に監査役が会社を代表するものとなります(386条1項)。監査役は、取締役の職務の執行を監査する機関であり、取締役からは独立した立場で、会社の利益のために公正な訴訟追行が期待できるからです。この場合には、監査役は会社・取締役間の訴訟に関し、会社の業務を執行することになります。

・監査役が会社を代表すべき訴訟の範囲

訴訟の対象物の範囲

ここで定められている会社と取締役との間の訴訟というのは、@会社が取締役を相手として提訴する場合と、A取締役が会社を相手として提訴する場合の、すべての訴訟を含みます。株主代表訴訟の対象となる取締役の責任の範囲については争いがありますが、@の場合には、取締役の地位に基づく法律関係に関するもの(例えば、取締役の会社に対する責任(423条1項)など)と、個人としての地位に基づく法律関係(例えば、会社と取締役間の取引など)を含む。また、Aの場合にも、取締役の地位に基づく訴訟(株主総会決議取消の訴え(831条)など)と、個人としての地位に基づく訴訟(会社と取締役間の取引など)を含む。

取締役の範囲

ここで定められている対象となる取締役は、代表取締役等の業務執行取締役(363条1項)のみならず、それ以外のすべての取締役を含むことになります。この趣旨は、取締役間の仲間意識から生ずる馴れ合い訴訟の危険性を防止する点にあるからです。また、取締役職務執行代行者(352条1項)および仮取締役(346条2項)については、対象となると考えられます。

さらに、現役の取締役だけでなく、かつて取締役であったものも含まれることが明文で規定されています(386条1項括弧書)。

・監査役の代表行為

会社と取締役との間の訴訟に関する監査役の会社代表権は、訴えの提起から訴訟の終了までのすべての訴訟手続における行為に及びます。したがって、訴訟の提起の決定、訴訟の提起、訴訟の追行、訴えの取下げ、和解、上訴等のすべての権限が、監査役に専属的に帰属します。監査役は、これらの権限を会社の利益のために適正に行使しなければならず、不適切な権限の行使・不行使については、任務懈怠による責任を負担します(423条1項)。

監査役が複数いる場合でも、各監査役は独立して会社の代表権を行使します。しかし、監査権限の行使とは異なり、ここでいう業務執行権の行使については、複数の者によって矛盾する権限行使が為されることは好ましいとは言えません。したがって、定款、監査役(会)規則あるいは監査役の協議または監査役会決議により、会社代表権を行使する者を定めるということは実務では考えられるでしょう。現行法では、これについて明文の規定はありません。

ü その他の会社代表権(386条2項)

・株主による提訴請求

株主による取締役の責任追及のための提訴請求を受領する権限は監査役にある(386条2項)。取締役に対して会社が責任追及の訴訟を提起するか否かの決定権限が、監査役にあることを前提として、株主が提訴請求をする場合にも、会社を代表してこれを受領する権限も、監査役にあるということです。したがって、株主は提訴請求を監査役宛てにしなければならないので、代表取締役宛に提訴請求をしても、株主代表訴訟の提訴要件(847条3項)を満たすことにならないとして、株主代表訴訟は不適法として却下されることになります。もっとも、株主が誤って代表取締役宛に提訴請求をした場合には、代表取締役はこの請求を監査役に回付すべきであり、株主代表訴訟が提起されても会社が取締役の責任追及の訴えを提起せずに60日を経過したときは、提訴請求の瑕疵は治癒されて、株主代表訴訟は却下できないと考えられます(大阪高裁判決平成18年6月9日)。

・株主代表訴訟の訴訟告知

株主が代表訴訟を提訴した時は、遅滞なく株式会社に対して訴訟告知をしなければなりません(849条3項)。この訴訟告知の受領権限は監査役にあります(386条2項)。会社を代表して株主から提訴請求を受け(386条2項)、提訴しないことを決定する(847条3項)のは監査役であり、その結果として株主代表訴訟が提起された場合には、監査役が会社として訴訟に参加するか否かを判断する必要がある(849条1項)から、株主代表訴訟に関する訴訟告知を受領する権限も、監査役に付与されています。

・株主代表訴訟における和解の通知・催告

会社法は、取締役等の責任を追及する訴訟において株式会社が和解の当事者でない場合には、株式会社が承諾しない限り、和解調書などの効力(民事訴訟法267条)を適用しないと規定されています(850条1項)。そして、このための会社の承諾手続として、850条2項は、裁判所が和解の内容を会社に通知し、かつ異義があるときは2週間以内に異議を述べるように催告しなければならない旨を、また850条3項は会社がその期間内に書面で異義を述べない限り通知された内容の和解を承諾したものとみなす旨を規定しています。そこで、386条2項2号では、この和解の通知・催告を受ける権限も監査役にあることを定めています。監査役は、会社と取締役の間の訴訟のみならず、株主代表訴訟においても、会社か有する権利を処分することとなる和解について、その承諾の可否を決定する権限を有しているものと解されています。

 

関連条文

監査役の権限(381条) 

取締役への報告義務(382条) 

取締役会への出席義務(383条) 

株主総会に対する報告義務(384条) 

監査役による取締役の行為の差止め(385条) 

監査役の報酬等(387条) 

費用等の請求(388条) 

定款の定めによる監査範囲の限定(389条) 

監査役会の権限等(390条) 

招集権者(391条) 

招集手続(392条) 

監査役会の決議(393条) 

議事録(394条) 

監査役会への報告の省略(395条) 

 

 
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