新任担当者のための会社法実務講座 第329条 役員の選任 |
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選任(329条) @役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第371条第4項及び第394条第3項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。 A監査等委員会設置会社においては、前項の規定による取締役の選任は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別してしなければならない。 B第1項の決議をする場合には、法務省令で定めるところにより、役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この項において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。
株式会社の所有と経営を車の両輪のようにして成り立っています。役員とは、その経営を担うもので、その経営を誰に任せるかによって、実際に株式会社の経営は大きく左右されます。ここでは会社法実務について述べていますので、実務面として、会社法のベースになっている役員の原則的なものと実情について簡単に述べておこうと思います。 ü
役員とは何か 会社法では役員を取締役、会計参与及び監査役をいう(329条1項)、としか言っていません。その意義については説明していません。同じ法律でも法人税法では、役員は経営に従事しているかどうかで判断され、会社法にはない「みなし役員」として税法上の経費判断を行っています。 ここでは、株式会社の経営を担っているものとして、3つの視点から役員の意義と機能、つまり役員に求められているものについて考えてみます。 @会社の視点 会社の視点から導き出される役員像は、全社的な意思決定や業務執行、監督等を担う会社組織のリーダーという姿です。多くの社員を擁する組織の舵取りを担う経営者としての役割で、そこに期待されているのは経営パフォーマンス最大化や持続的な成長です。 A株主の視点 株主から見れば、役員とは、会社の所有者である株主からの委任を受けて経営に当たる代理人です。企業価値を高め、株主と利益をともにする代理人としての役割で、そこに期待されているのは株主との利害の共有です。 B役員個人の視点 役員個人としては、高度な知識・能力・経験を要求され、日本ではそうではないかもしれませんが、海外の企業では人材獲得競争の対象となる。アメリカ企業のOfficerは経営の専門家として、優秀な経営者は業界を超えて引っ張りだこである一方で、業績があがらなければ解雇されます。 ü
日本の役員の特徴 一般的な原則としての役員像を見てみましたが、では日本の企業の中で役員とはどうなっているのかを簡単に見たいと思います。 @日本的経営と役員 ある時期の日本の高い経済成長をつくりだした日本的経営と呼ばれるものの大きな特徴は、企業組織が一体となって一つの方向に突き進んでいく、というもので組織内では終身雇用制のもとで社員は人生の大半を過ごし、中で横並びの競争をしていました。 役員も従業員も同じ企業の構成員同士であり、いずれも会社全体をよくしていこうという意識を共有している。役員が強いリーダーシップを発揮するというよりは、従業員からのボトムアップと社内関係者の調整のうえで物事が決まり進められていく。従業員のキャリアの連続性の先にあるのが終身雇用制のゴール、最高到達点としての役員というポジションが位置付けられ、従業員の誰もが役員になる可能性を持っていると意識させることで従業員の頑張りと組織の一体感が支えられていました。その結果、役員と従業員の間にあえて明確な線を引き、従業員のそれとは非連続的なスキル・経験を求めたり、従業員とは異次元の格段に高い報酬を払うということは日本企業の経営には馴染まない。これは役員も含めて人材流動性が低い状態をつくりだし、各企業における個別性・独自性を強め、組織内部で同じ背景を共有していることを前提とするハイコンテキストな企業文化を作り出していきました。結局、外部からは見えない暗黙的な常識・ルールが各企業の中で発達していきました。これが一時期の日本企業の成長を支えたのですが、その高い成長の後で、日本経済は構造的な長期不況に陥ります。 A日本企業の役員選任の手順 会社法では役員選任は株主総会の決議による(329条1項)と規定されていますが、実際には、どのような手順で役員の候補者が会社から株主総会に提案されるのかは、会社法を呼んでいるだけでは分かりません。上述の日本企業の役員の姿をみると、役員の原則で見た3つの視点のうち、株主の視点と役員個人の視点が欠けているのが分かります。それが例えば、株主、とくに海外の機関投資家の立場からは原則にのっとっていないように映るわけです。そこで、ある程度企業の実態を概括しておくことは、株主対策、あるいはコーポレートガバナンスの点からも必要になってきている。そのような知識があった上で会社法を読んでいく必要があると思います。 簡単に概観しますと、上場会社の半分以上しめる監査役会設置会社の場合、その多くの企業において、経営トップを含む取締役候補者の人選は、定時株主総会の選任議案の承認等といった形で取締役会決議事項にはなっているものの、取締役会における審議は形式的なものにとどまることも少なくなく、伝統的に、社長などの現在の経営トップが、役員候補者の人選を実質的に掌握している。つまり、社長が社内の従業員の中から候補者を選別し、それを形式的に取締役会が承認している。 このような実態について、役員候補者の選抜のプロセスが透明性を欠いている、あるいは、経営トップを含めた役員候補者の実質的な決定権が現在の経営トップの専権となっていることで、例えば、業績が低迷している局面手も経営トップを含む役員交代が行われないといった非効率を生んでいるのではないか、という指摘が近年なされています。とくに海外の機関投資家や議決権行使助言会社といったところから声がでていて、金融商品取引所や政府関係においても、それが企業の「稼ぐ力の強化」を阻んでいるのではないかとして、コーポレートガバナンス・コードにおいて役員選任の透明化や選任基準の公開を進める動機となっていると言えます。 〔参考〕海外主要国の役員の選任やガバナンス @イギリス イギリスと日本の取締役に関する法制上の共通点は機関構造として単層式の取締役会構造をとっていて、両国とも株主総会が取締役を直接任用します。イギリス。日本とみに取締役は経営執行と監督の両方を担う存在ですが、イギリスでは業務執行取締役と業務監督を行う取締役の役割を明確に区分することが求められています。イギリスの取締役会は監督機関であり、上場会社の場合は取締役会議長を除く過半数を独立取締役で構成することが求められています。監督を行う取締役は基本的に独立取締役である必要があり、業務執行取締役の監督の実務を司る指名・報酬の各委員会の構成委員は独立取締役中心に構成することが求められています。さらに業務執行を行う最高経営責任者(MD)と取締役会議長は兼務できず、アメリカなどに比べても、監督と執行の分離が徹底しています。 イギリスの会社法では業務執行取締役の任期は定められていませんが、ガバナンス・コードで上場会社についすては3年、FTSE350(ロンドン証券取引所に上場する企業の時価総額上位350社)の大企業については1年間の任期とされています。報酬契約については、年次で更新され、条件は毎年見直されます。 上場会社は取締役会の中に指名委員会を設置することを求められており、その過半数が独立の非業務執行取締役から構成されなければならないとされています。また、指名委員会は委員会に課せられた役割と権限についての文書を備えることが求められています。指名委員会は単に取締役の選任案を策定するにとどまらず、対象となる取締役に求められる能力、スキル、経験等を評価し、適切な役割と権限を設定することまで求められているなど、相当に強い権限が認められています。したがって、指名委員会のその活動について、年次報告書に年間の具体的な活動とその活動ポリシーについて開示することも求められています。 Aフランス フランスでは法制度上、上場会社の場合は日本同様に単層式の取締役会構造あるいはドイツ型の2層構造を任意で採用できます。しかし、フランス企業の大半は単層式を採用し、2層式は一部の外国企業のみが採用するに止まっています。単層式の場合、取締役会は主に経営執行を監督する機関として機能しています。この場合、独立取締役が取締役会の過半数を占める必要があります。また、フランスでは「株主構成に近い取締役の構成」を重要視する傾向があります。とくに女性の登用については数値で目標値が定められているなど、取締役会のダイバーシティの維持に留意しているのが特徴的です。取締役会の業務執行取締役の人数は明確に規定されて這いませんが、単層式の取締役会を作用する場合に、取締役会に所属する業務執行取締役は最高経営責任者(CEO)だけであることが多く、アメリカに近いと言えます。取締役の報酬は取締役会の諮問機関である各種委員会で検討・起案されますが、これらの各種の委員会は、あくまでも諮問機関として取締役会への答申を行い、最終的な意思決定は取締役会で行うべきものとされています。また、上場会社の取締役の定年制を規定しているのも、フランスの大きな特色です。 上場会社の業務執行取締役は任用された時点で、会社との雇用契約を解除しなければならないとされています。フランスの上場会社の任用期間は最大4年で、年次報告書は取締役の任用開始日と終了日を開示することが求められています。 フランスの上場会社もイギリスと同様に、取締役会の中に指名委員会を設置することが求められています。上昇会社の指名委員会は、その過半数が独立の非業務執行取締役から構成されなければなりません。指名委員会の大きな特徴は、将来にわたる取締役の候補者計画策定を含めて、取締役についての検討と指名を行うことであり、株主から求められる取締役会の適正な多様性の維持、より適切な取締役の指名をする意味で中長期的なコミットメントが求められていると言えます。加えて、適切な後継者計画のため、報酬委員会と密接に情報連携することも求められています。 Bドイツ フランスのところで少し踏ましたが、ドイツでは取締役会と監査役会の2層構造になっていて、日本の指名委員会等設置会社のモデルになっているとも言われています。ドイツの特徴は、経営執行に携わる取締役が監査役会のメンバーになることができないことで、監査役は株主から直接任用されます。また、共同決定法に見られる従業員の経営監督業務への参画は、日本にはないドイツ制度の大きな特徴です、また、取締役の任用・解任は監査役会の専権事項であり、取締役会の権限で取締役を選任・解任することはできません。ドイツの監査役会は、これまで見てきたイギリスやフランスの非業務執行取締役が一つの機関を構成しているものだと考えると分かり易いかもしれません。 ドイツでは、上場会社の業務執行取締役は、監査役会が監査役会内に設置した指名委員会の提案をもとに任命します。取締役の任用期間は最長で5年であり、再任は可能です。企業が従業員を取締役に任命した場合は、雇用契約を継続したまま任用することが多いです。さらに、取締役の解任も監査役会が行いますが、従業員取締役が解任された場合、同時に従業員として解雇するには重大な事由の証明が必要になるため、通常は会社を解雇されることはありません。指名委員会は取締役候補者の提案に加え、将来のサクセッションプランについても監査役会に提案することになっており、フランスと同様、コーポレートガバナンスの一環としてサクセッションプランが取り組まれています。 Cアメリカ アメリカの場合は州ごとに根拠法が異なるので、一様ではないのですが、上場会社の本社の60%以上がデラウェア州に登記上の本社を置いているので、デラウェア州をアメリカ全体に一般化して見ていきたいと思います。 アメリカでは、イギリスや日本と同様に単層式の取締役会構造が採用されており、株主総会が取締役を任用する形となっています。しかし、日本とは異なり、アメリカでは取締役会は純粋に経営の監督機関になっています。事業執行に関しては専門職経営者としてのオフィサーを任用し、執行と監督が分離する形を採用しています。しかしオフィサーのトップである最高経営責任者(CEO)が、取締役会議長(Chairman)を兼務している場合も多く、執行のトップによる監督機関の支配として、しばしば議論にのぼり、近年、その分離問題が注目されていると言います。オフィサーは従業員として雇用契約を残したまま任用され、日本の執行役員制度の参考にもされていると言われていますが、株主から見れば一般に日本の執行役員制度は株主代表訴訟の当事者になることができない点でアメリカのオフィサーとは違います。 アメリカの取締役の任期は上場会社では通常1年であり、株主総会の過半数の投票をもって任用(再任)されます。一方、オフィサーの任用については定款で定めることになっていますが、5〜6年が最も多いとされています。アメリカではCEOが途中で辞任、もしくは解任されることは珍しくありませんが、定款や任用契約で任期途中の解任の場合の諸条件を定めている場合が多いため、フランスのように訴訟になることはありません。また、アメリカでは、CEOの解任を大株主の側から取締役会に働きかけることもしばしば見られます。 ニューヨーク証券取引所の上場会社規則は上場会社に対するコーポレートガバナンスについて規定していますが、アメリカの上場会社が設置している指名委員会は独立取締役から構成される組織で、取締役及びオフィサー候補者の要件定義、選定、評価、株主総会に対する提案の作成が主な任務となっています。また、アメリカの指名委員会が他の国と異なる点は、独立取締役から構成される小委員会に業務の一部を再委託できることです。 一つの事例として、実際の中堅企業(M社としましょう)CEO選任プロセスを簡単に見ていくと、このようなことが行われています。M社では1年前にプロジェクトをターとさせます。エグゼクティブ・サーチ・コンサルティング最初はエグゼクティブ・アセスメント、その会社の各々の評価を行うプロジェクト、その役員が外部、例えば同業他社に比べてどのような水準にあるのかというベンチマークすることから始まります。次いで次期CEOの人物像の設計、つまりどのような人材要素を求めるのかを固める。それに2〜3ヶ月。取締役会で定義された人物要件は幅広い経験と能力で、具体的には、業界に関する専門知識、業界における権力構造の正しい理解、グローバルに活躍するリーダーシップの専門性、株式市場における様々な経験、戦略的なビジョンと優れたオペレーション能力、ということだった。それに次いで9人リストアップされた内部候補者に対して徹底的なアセスメントと併行して外部人材を探す。半年前には、その候補者達にアセスメントのフィードバックとアドバイス、そのレポートを受けて取締役会(指名委員会)と候補者を絞る。指名委員会は、その絞った最終候補者との少人数ミーティングと面接を繰り返す。その数ヶ月で最終的に次期CEOを決定する。そういうプロセスでした。 ü
コーポレートガバナンス・コードでの役員選任・解任についての項目 公開会社が実際に役員を選任及び解任する際のプロセスについて、会社法は形式的な手続きを規定しているだけですが、実質的な内容については、コーポレートガバナンス・コードが踏み込んだ内容の原則を示しています。ただし、コーポレートガバナンス・コードは法律ではなく、従って、規定内容に一言一句従わなければならないものではなくて、その原則の趣旨を理解した上で、自社の実状に応じたやり方を自身で考えるというものです。 該当する原則を以下にあげておきます。なお、これらの原則に関する説明は別のところで行なっているので、興味のある方はリンクで参照して下さい。 【原則3−1.情報開示の充実】 上場会社は、法令に基づく開示を適切に行なうことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。 (C)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
【原則4−3.取締役会の役割・責務(3)】 取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行なうことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績などの評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。 【補充原則4−3@】 取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明度の高い手続に従い、適切に実行すべきである。 【原則4−9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】 独立社外取締役は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。 【補充原則4−10@】 上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の指名・報酬等に係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべきである。 【原則4−11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】 取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成させるべきである。 【補充原則4−11@】 取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。 取締役、監査役、会計参与等の役員は株主総会の決議によって選任します(1項)。つまり、役員の各人にとって、自らの地位の正統性は株主総会で選任されたことによってのみ根拠づけられるのです。 ü
取締役の選任 以下の説明は、便宜上、取締役の選任として進めますが、監査役や会計参与の場合は、取締役に準ずると思って下さい。取締役の選任は株主総会の普通決議、つまり議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で定足数を3分の1以上に定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、その出席した株主の議決権の過半数(定款で、それを上回る割合を定めた場合は、その割合以上)の賛成で成立しますが、定款の定めによっても、その定足数を、議決権を行使することができる株主の議決権数の3分の1未満と定めることはできません(341条)。 2人以上の取締役を同じ株主総会で選任する場合、定款に別段の定めがない限り、各株主は、会社に対して累積投票により取締役を選任すべきことを請求することができます(342条)。ただし、実務上はほとんどの会社が定款に累積投票によらない旨を定めて、それを排除しています。なお、累積投票の場合、最多数を得た者から順次取締役に選任されますが、同数を得た者がいることによって選任する取締役の数を上回る場合には、同数を得た取締役のどちらを選任するかは、累積投票によらず株主総会の決議により選出します(会社法施行規則97条4項)。 ※株懇モデルの定款 (取締役の選任) 第19条 取締役は、株主総会において選任する。 2 取締役の選任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもって行う。 3 取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする。 〔参考〕定時株主総会における取締役選任議案について、どのような手続で選任するか、株主総会参考書類における議案の説明について会社法施行規則73条、74条に規定があります。それに関する説明はこちらに。 ・取締役候補者の決定 取締役が株主総会で選任されるためには、その選任が株主総会の議題(会議の目的)とされ、具体的な候補者が議案として提案されなければなりません。すなわち株主総会招集について取締役会設置会社の場合には取締役会が決議しますが、その際に会議の目的事項も決議の内容に含まれます(298条、会社法施行規則63条)。なお、指名委員会等設置会社では、指名委員会が取締役の選任に関する議案の内容を決定します(404条1項)。 取締役の候補者を決定する際には、資格要件を充たす者を選ばなければならず、かつ兼任規制に抵触しないようにしなければなりません(331条)。 ※実質的な取締役候補者の選定 会社法では、取締役の選任の形式的なプロセスが決められていますが、株式会社の経営にとって有能な経営者を選任することは、会社の存亡を左右しかねない重要事項です。したがって、実際に、株主総会における取締役選任議案の審議に際しても、会社法に則った適正な手続がなされているだけでなく、候補者が経営者に適した人材なのか、それを会社はどのように選別したのかということの詳しい説明を求められるようになりました。株主総会参考書類にも、会社法で定められた記載事項に加えて、そのような実質的な内容として、取締役選任の方針や候補者選定のプロセスや選任基準を記載する会社も増えてきています。 ü
取締役の就任 会社と選任された取締役との関係は330条に規定されている通り委任の関係となります。従って、委任に関する民法の規定(民法643条〜656条)に従って、選任された者が取締役に就任するのは、会社とその人の間で委任契約が締結された時からとなります。つまり、株主総会で選任されたことが取締役の就任となるわけではないということです。しかし、実務上は、株主総会終了時に就任承諾書の提出を受けることになりますが、株主総会での選任決議を条件として、事前に就任承諾書の提出を受けるとてる会社が大部分で、その場合は、委任契約が株主総会の選任決議をもって発効するということになります。 ※取締役就任の登記 役員等を選任した場合には、会社はその者が就任したから2週間以内に、本店所在地において登記をしなければなりません(911条)。新任者が就任したときは、その変更の登記にあたる(915条1項)からです。なお、社外取締役である場合及び責任限定契約を結んでいる時はその旨を登記しなければなりません。 登記の申請には、株主総会の議事録や就任承諾書を添付します。なお、登記を怠った場合には、過料による制裁の対象となります(976条1項)。 ü 監査役の選任 監査役の選任手続きは、取締役の場合とほとんど同じで、原則として株主総会での決議によります。ただし、監査役の選任決議の際には、取締役の選任で認められていた累積投票が認められていない点が違います(342条)。監査役の選任手続において取締役の場合と違うのは次の点です。 ・選任議案に関する監査役の同意権(343条1項、3項) 取締役は、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役(監査役が二人以上ある場合にはその過半数、監査役会設置会社である場合には監査役会)の同意を得なければなりません。言い換えれば、監査役・監査役会は、取締役が株主総会に提出する監査役選任議案に関しての拒否権を有していることになります。監査役の地位を強化するための一方策として定められているものです。 この同意を欠いたまま株主総会で決議した場合には、総会決議の取消事由になります(東京地裁平成24年9月11日)。 ・選任議題・議案に関する監査役の提案権(343条2項) 監査役(監査役が二人以上ある場合にはその過半数、監査役会設置会社である場合には監査役会)は、取締役に対し、監査役の選任を株主総会の目的とするよう請求することができまい。監査役の候補者を特定して、取締役に対しその選任議案を株主総会に請求することもできます。すなわち、監査役・監査役会は、監査役の選任に関し、取締役の意向に対する拒否権を有するだけでなく、積極的イニシアティブもとれる仕組みになっているというわけです。 ・株主総会における意見陳述権(345条) 監査役は、株主総会において、監査役の選任について意見を述べることができます。他の監査役の選任について、また自分が再任されないことについて意見を述べることができます。監査役は、取締役が株主総会に提出する議案・書類に違法または著しく不当な事項があるときは総会に意見を報告する義務がありますが、345条の意見陳述権は違法または著しく不当な場合に限らす、たんに適当かどうかについても認められます。監査役が総会で意見を求めたのにその機会を与えなかった場合には、決議取消の事由になります。このように監査役に株主総会における意見陳述権を保障することにより、監査役の選任議案に対する取締役会の決定に監査役の意向がよりよく反映すること期待しているというわけです。 ü 取締役に欠員が生じた場合の措置(346条) 取締役が欠けた場合または法令もしくは定款で定めた員数が欠けた場合には、原則として会社は臨時株主総会を開催して後任者を選任することになります。しかし臨時株主総会の開催は、株主の多い会社では日数や費用、手間が多大なものとなります。そこで、任期が満了または辞任により退任した取締役は、新たに選任された役員が就任するまでの間、なお取締役としての権利義務を有するものとされています(346条1項)。この場合でも、利害関係者は必要がある場合には、裁判所に一時的に取締役の職務を行うべき者(いわゆる一時取締役)の選任を申し立てることが出来ます(346条2項)。しかし、実務上は、退任者の残任期間が半年以上ある時は裁判所が選任しないこともありますし、裁判所が選ぶのですから、弁護士のような法律家のケースが多くて、それが経営者として適任者なのかは難しいところといえます。なお、欠員時における選任を怠った場合には100万円以下の過料の制裁が課せられます(937条1項2号イ)。 ü
補欠の役員の予選(3項) 辞任・死亡等により取締役や監査役に欠員が生じた場合または法令・定款で定められている最低限の員数を欠くことになる時に備え、株主総会において補欠の役員を選任することができます(329条3項)。補欠役員の選任は、一種の停止条件付の取締役選任ということなので、上述の規制が適用されます。なお、補欠役員の選任決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがない限り、その選任した株主総会直後の定時株主総会の開始のときまでです(会社法施行規則96条3項)。だし、株主総会の決議によってその期間を短縮することは可能です。 なお、補欠の役員を選任する場合には。次に掲げる事項も併せて決定しなれければなりません(会社法施行規則96条2項)。 ア.当該候補者が補欠の会社役員である旨 イ.当該候補者を補欠の社外取締役として選任する場合は、その旨 ウ.当該候補者を1人または2人以上の特定の会社役員の補欠として選任するときは、その旨及びこのT社の会社役員の指名 エ.同一の取締役(2人以上の補欠として選任された場合にあっては、当該2人以上の取締役)につき2人以上の補欠の取締役を選任するときは、当該補欠の会社役員相互間の優先順位 オ.補欠の取締役について、その就任前にその選任の取り消しを行うための手続
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