新任担当者のための会社法実務講座
第395条 監査役会への報告の省略
 

  

Ø 監査役会への報告の省略(395条)

取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が監査役の全員に対して監査役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を監査役会へ報告することを要しない。

 

取締役、会計参与、監査役または監査役会に報告すべき事項を監査役の全員に対して通知したときは、当該事項を監査役会へ報告することを要しない(395条)。これは、取締役、監査役または会計監査人が、監査役会に報告すべき事項について、監査役全員にその報告すべき事項を通知したときは、当該事項を監査役会に報告しなくてもいいというものです。これは、監査役会運営の簡素化、弾力化のために、旧商法にはなかったことを、会社法制定に際して新設された事項です。

株主総会の決議事項に係る書面決議や報告事項の省略については320条で規定され、取締役会の書面決議(決議の省略)とともに(370条)、報告事項の省略(372条)が規定されているのに対して、監査役会については、決議の省略は認められず、報告の省略だけが認められています。

監査役会への報告との関連において、取締役や会計監査人には、監査役会の招集権や招集の請求権は認められていないため、緊急時に臨時の報告をするために、この報告の省略が設けられたという経緯があるそうです。

ü 監査役の同意

・株主総会への報告の省略

監株主総会については、事実上、株主全員に対して、その報告が通知されたことをもって、ただちに報告の省略が認められたわけではなく、決議の省略の場合と同様に、株主の全員が書面等により、報告の省略について同意することが求められています。@取締役が、A株主全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合に、B当該事項を株主総会に報告することを要しないということについて、株主の全員が、書面または電磁的記録により同意の意思表示をした時に限り、C当該事項が株主総会への報告があったものとみなされます(320条)。株主総会の報告事項については、株主総会を開催してそこで報告し、株主がそれに対して質問することが予定されており、株主の同意には、株主総会における質問権や質疑討論の機会を放棄するという意味があるからです。

・監査役会への報告の省略

監査役会への報告の省略については、監査役全員の同意を要するという旨の規定はありません。監査役全員に対して、監査役会に報告すべき事項の通知をしたという事実により、監査役会に対する報告を省略することが認められています。株主総会への報告の省略の場合(320条)とは異なり、監査役会への報告の省略について、当該事項の監査役会への報告があったものとなす旨の規定は設けられていません。監査役会への報告の省略が為される場合に、監査役が監査役会で当該報告事項について審議する必要があると認めるときは、監査役は職責として監査役会の招集を請求することができます。それゆえ、株主総会における株主の場合とは異なり、監査役の同意を得る必要はとくに必要ない。また、同じ理由から、取締役や会計監査人のいずれについても、株主総会の場合と異なり、定款による承認が必要でないことはもちろん、監査役の全員が省略に同意するこも必要なく、監査役会への報告の省略が認められています。

ü 報告事項

取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれがある事実があることを発見したときは、ただちに監査役会に報告しなければなりません(357条)。その後、監査役会ないし監査役が、適切に対応することが期待されるのですが、とりわけ、個々の監査役が有する取締役の違法行為の差し止め請求権の行使などの実行手段などが制度としてあります(385条)。この場合、あえて監査役会の開催を待つ必要はなく、すべての監査役にその旨を通知することにより、監査役が適切に対応することが期待されていると考えられます。

会計監査人は、その職務を行うに際して、取締役の職務執行に関して不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発見した時は、遅滞なく、監査役会に報告しなければなりません(375条、397条)。これらの場合、監査役会の招集を求めることなく、すべての監査役に報告することが認められています。監査役会を開催する必要がある場合、個々の監査役が、適宜、監査役会を招集することになります(391条)。

ü 議事録

取締役会決議の省略(書面決議)の場合は、同意の意思表示を記載・記録した書面等(同意書面)が、本店に備え置かれ、株主等の閲覧等に供せられるとともに、書面決議の議事録も別途作成され(会社法施行規則101条4項)、本店において備え置かれ、株主等の閲覧等に供せられます(371条)。これに対して、取締役会への報告の省略の場合と同じように監査役会への報告の省略の場合は、報告を受けるべき監査役の同意は要求されておらず、決議の省略の場合のような同意書面はありません。したがって、監査役会に報告されるべき事項について、報告に代わる措置がとられたことを明らかにすることが強く求められます。そこで、会社法施行規則109条4項で、監査役会への報告を要しないとされた場合においても、議事録を作成するものとして、@監査役会への報告を要しないものとされた事柄の内容、A監査役会への報告を要しないものとされた日、及びB議事録の作成に係る職務を行った監査役等の氏名を内容とすると規定されています。この場合の議事録には監査役の署名等がなされません。したがって、会社法393条に定められた議事録ではないということもできます。この場合、議事録作成に係る職務を行った監査役の氏名が記載されます。

 

 

関連条文

   監査役の権限(381条) 

取締役への報告義務(382条) 

取締役会への出席義務(383条) 

株主総会に対する報告義務(384条) 

監査役による取締役の行為の差止め(385条) 

監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表(386条) 

監査役の報酬等(387条) 

費用等の請求(388条) 

定款の定めによる監査範囲の限定(389条) 

監査役会の権限等(390条) 

招集権者(391条) 

招集手続(392条) 

監査役会の決議(393条) 

議事録(394条) 

 

 
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